京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

世界の感染症データ: 石弘之 『感染症の世界史』より

2020年06月20日 | 環境と健康

石弘之『感染症の世界史』角川ソフィア文庫、2019

 

 石弘之氏 (1940生)は東大卒業後、朝日新聞編集委員、東京農業大学教授、東京大学大学院教授、ザンビア特命全権大使などを歴任した環境問題研究家である。庵主は90年代に文部科学省の生物多様性プロジェクトで同氏を知った。石氏は、一見、書斎派の学者のような印象だったが、フィールドワークもさかんに行っておられたようである。本書の「あとがき」では、感染症の罹患歴として「マラリア四回、コレラ、デング熱、アメーバー赤痢、ダニ発疹熱各一回、原因不明の高熱と下痢数回....」と書いている。

この書は、人類の感染症の歴史を読み易くまとめたものであるが、感染症に関する様々なデータが登場する。それ故に一種のデータブックとしての価値があると思える。以下、興味あるデータ記載をランダムに拾いだして紹介する。

 

1) デング出血熱の感染者は世界で毎年5000万〜1億人、発症する患者は50万人、死者は2万人。

2) マラリアの感染者は年間3-5億人、100-150万人が死亡。その9割が5歳以下の幼児。

3) 人に病気を起こす病原体は1415種、そのうち細菌が538種、ウィルス217種、菌類307種、原虫66種、寄生虫287種。うち60%が動物を媒介して人間に感染する。さらに、うち175種が、この半世紀に出現した新興感染症(エマージング感染症)である。

4) 人と家畜で共有する病原菌は、犬と65種、牛と55種(天然痘ウィルス、結核菌、ジフテリア菌など)、豚と42種(百日咳、E型肝炎ウィルスなど)。

5) 時代ごとに感染症の主流は交代した。13世紀はハンセン病、14、15世紀はペスト、16世紀は梅毒、17~18世紀は天然痘、19世紀はコレラと結核、20世紀はインフルエンザがそれぞれ全世界的に流行った。21世紀前半の最近になって、Sars系統の新型コロナウィルスがCovid-19のパンデミックを起こしている。

6) 地球は微生物で満ちており、年間200万トンの細菌、ウィルス、5500万トンの菌類の胞子が霧雨のごとく降り注いでいる。これが人の健康(たとえばアレルギー症)に影響している可能性が多いにある。

7) 人体の常在菌の種類は舌に7947種、喉に4154種、耳の中に2354種、大腸に3万3000種もいる。口中には100億個、皮膚には1兆個以上の常在菌がいる。ヘソのゴマの常在菌は2368種である。この中には深海の熱水噴孔にいる極限環境微生物に似た細菌もいる(ヘソの孔は極限環境?)。人の常在菌の総重量は1.5Kgもあるそうだ。

8) HIV(AIDS)感染者は累計で7500万人、累積死者数は3000万人、年間の新規感染者数は230万人、エイズ関連死者数は100万人。世界人口の0.8%が感染者か患者である(日本は0.1%). 

9) 成人T細胞白血病(ATL)の感染者は日本全国で108万人。年間約1000人がこれで死亡する。

10) 2009年メキシコ発のブタインフルエンザ(H1N1亜型)の流行では199カ国で感染者は推定100万人、死者は1万8000人であった。日本では死者は203人だった。別の統計では、死者12万〜20万人で、関連死も含めると40万人という説もある。

11) 2001~03年のトリインフルエンザ(H5N1亜型)では、感染者630人で死者は374人であった。死亡率6割という強毒性のものであった。疫学者が再度の蔓延を考えると怖くて寝れないという最凶のインフルエンザウィルスである。

 

これらの統計データーをみると、人類のほとんどが、いずれかに罹患しているか、何らかのリスクに曝されているかと思える。まさに『ヒトは病原菌の満ちあふれた大海に漂う小舟の乗組員にすぎない』

 

 

 

 

 

 


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