京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

新興感染症としてのコロナ禍

2021年05月22日 | 環境と健康

 

  ジャレド・ダイアモンドは『銃・病原菌・鉄』(草思社文庫:倉骨彰訳)の第11章「家畜がくれた死の贈り物」において、人類が感染症の災厄を被るようになった背景をわかり易く解説してくれている。まとめると四つある。

1) 狩猟採集時代は分散・移動して暮らしていた人類が農耕時代になって、密集して集落や都市にすみはじめたためである。集団中に一人でも感染者がでると、たちまち病気はひろまる構造になった。

2 )家畜やペットなど多様な動物を生活圏に密着して飼育し始めたので、それらが保有する様々な病原微生物が感染症を引き起こした。

3 )交通交易が飛躍的に発達し、短時間で感染が地域にも世界にも広がるようになった。

4) 自然の乱開発によって、いままで未接触の生物や微生物に出会うようになり、それらが新興感染症を引き起こすようになった

 ここでは、ダイアモンドは述べていないが、「ガイアの復讐」という考え方もある。生物界ではある種の個体群が、環境の容量以上に増えると捕食者も増えて人口増加にフィードバックがかかり、減少に転ずる。ところが、ヒトには幸か不幸か捕食者は存在しない。地球の生態系のバランスを維持するためには、ガイアはこれの役割を眼にみえない様々な微生物に託した。地に満ち過ぎし物共を懲らしめよ!

新型コロナ禍を含めた人類感染症は、地球環境レベルでフィードバックが働いている状態と言えるのではないか?言わば「ガイアの復讐」ではないか?これについては後日、詳しく述べる。

 

追記1)

SR・ケラート、EO・ウィルソン編 『バイオフィリアをめぐって』 (荒木正純ら訳)、法政大学出版会

2009)の第11章ドリアン・サガン、リン・マーギュリス著「神、ガイア、バイオフィーリア」は読む価値がある。彼らが言うにはガイア理論では人類の出現は、何億年も前に地球上に出現した藍藻のごときものであるという。そうするとカタストロフィーが起こり行き着くところに行く。一方で生物多様性が飽和して地球では人類のようなならず物は存在が許されずに、フィードバックがかかりその増殖は劇的に抑えられるという考えもある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナウィルスのモニター指標としてのC02(炭酸ガス)濃度の測定

2021年05月21日 | 環境と健康

 

Covid-19の原因となる新型コロナウイルス (Sars-Cov-2)は、感染者の呼気における飛沫あるいはエアゾル粒子として放出される。人の呼気中の炭酸ガス (CO2)濃度は体積比で4%、40,000ppmである。標準大気のCO2は415ppmである。Cliif Mass (https://cliffmass.blogspot.com/2021/04/is-outside-air-covid-safe-are-masks.html) は、シアトルの人が沢山いる公園でCO2を測定し、これが400ppmであることを確かめた。近所の人の混んだスーパーマーケットでは830ppmであった。MassはCO2濃度が測定位置における人の呼気濃度を反映していると考え、屋外での新型コロナウイルスの感染リスクは、ほとんどなくマスクは必要ないと述べている。

 呼気中の大きい粒子径の飛沫は直ちに地面に落下するが、エアゾルは空中をゾル雲としてただようようだ。エアゾルはCO2ガスのように直ちに拡散するわけでないので、人混みの多い屋外ではMassの主張するように単純に考えることはできない。局所的CO2濃度が局所的ウィルス濃度を必ずしも反映しているとは限らないからである。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バイオフィリア (Biophilia)とバイオフォビア (Biophobia)

2021年05月18日 | 環境と健康

 

 ヒトの脳は人類史においてホモ・ハビリスの時代から石器時代後期のホモ・サピエンスに至る約200万年の間に現在の形と機能に進化してきた。人々は狩猟採集民として群れを作り、自然環境に適応してくらして来た。自然の全てのシグナルは意味を持っており、生死を分ける重要な情報であった。それを感知できるかどうかは人類集団の繁栄か消滅に直結していた。今でも野生動物は、遺伝的に組み込まれたこの感受性をフルに発揮して生活している。一方、ヒトは言語によって学習した内容を子孫に伝承する能力を獲得した。言語による伝承という文化(学校)を発明した集団だけが困難な時代(氷河期)を乗り越えることができたとも言える。

 自然のシグナルの中で生存に通ずるものは心地よいものとして、ヒトの脳の中に保存されている。すなわち、これがバイオフィリア(例えば花やミツバチ)である。一方、死滅につながる物の残存シグナルはバイオフォビア(例えばヘビや毒蜘蛛)である。高度な都市化した生活を営む人類は、文化におけるメタファーを通じて原始時代の感性を呼びおこしているのである。バイオフィリアとバイオフォビアの葛藤が現代社会における精神疾患の原因の根源かもしれない。バイオフィリアの起源は生存のための環境適応といえるが、もう一つは共生である。人は周囲に花壇を作り美しい花卉を育て、イヌを飼って心を交流させる。ウィルソンは現代人の家の庭は西洋庭園であれ日本庭園であれ原型は、人類が発祥したサバンナだという。文化の中にもレリック(遺存形質)が反映されているというのだ。

しかし同じ花を見ても感動する人としない人がいる。バイオフィリアも個人的な特性がある。一方、ウィルソンの子供時代のように毒蛇を手づかみできる人もおれば、小ヘビを見ただけで金縛りになる人もいる。バイオフォビアの程度も人によって違う。

ウィルソンはここでも生物多様性の重要性を強調している。これもバイオフィリアとバイオフォビアの二つのモーションで見なければならないことになる。一つはよく言われるバイオフィリア的な有益性であり、別の面はそれが持つ潜在的なリスクである。例えば熱帯の生物多様性は、デング熱、マラリア、トリパノゾーム、フィラリア、黄熱病、アメーバー赤痢、エボラ等多様な生き物が媒介する感染症を誘発する。バイオフォビアは生物多様性を不潔=病気と見なすのである。

参考書は人間の自然に対するメンタルな特性についての哲学書であるが、生物学の書でもある。特に社会性昆虫であるアリの行動生態については興味深く叙述されている。とりわけハキリアリ(Atta cephlalotes)の紹介はさすがにウィルソンの専門だけあって圧巻である。英語の原書は極めて読みにくいが、訳書は狩野により分かりやすく翻訳されている。

 

参考図書

エドワード・ウィルソン 『バイオフィリア』(狩野秀之訳)平凡社 1994

SR・ケラート、EO・ウィルソン編 『バイオフィリアをめぐって』 (荒木正純ら訳) 法政大学出版会

2009。

追記1)2021/05/24

クモ恐怖症候群 (アラクノフォビア)についてはP.ヒルヤード著『クモ・ウオッチング』(新海栄一ら訳 平凡社 1995)で詳しく解説されている。これを治療するにはクモにとことん馴れさせるために、患者にしこたまクモの標本を見せるらしい。コウモリ恐怖症候群 (バツドフォビア)については『バイオフィリアをめぐって』でエリザベス・アトウッド・ローレンスが詳しく述べている。感染症のキャリアーとしての忌避ではなく、その特異な形態や生態に由来するとしている。

追記2)2021/06/14

ユダヤーキリスト教は本質的にバイオフォビアの思想である。それは旧約聖書の冒頭アダムとイブをそそのかすヘビに象徴されている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ダンゴムシ(団子虫)

2021年05月18日 | ミニ里山記録

 

団子虫忘れかねつる苛めかな  楽蜂

 

 オカダンゴムシのオスがメスに取り付いている。

ダンゴムシは、エビやカニと同じ甲殻類の分類群である等脚目(Isopoda)。オカダンゴムシはヨーロッパ原産で、コシビロダンゴムシは在来種である。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

キンバイ(金蠅)

2021年05月15日 | ミニ里山記録

蠅いとふ身を古郷に昼寝哉  蕪村

 

 

キンバイ(Lucilia caesar)と思える。

   一般にギンバエ(銀蝿)と言うが、これはハエ目クロバエ科の昆虫のうち、体が緑・青・赤などの金属光沢をもつハエの総称で、ニクバエ、キンバエなど金属光沢があるハエの俗称である。体は青緑ないし黄緑色で強い金属光沢を帯び、頭部は濃赤褐色、複眼後方は銀色。汚物・動物の死体などに集まり、成虫は感染症を媒介することがある。金属光沢の理由は強い日光を反射するためであろう。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

生物多様性と人の健康

2021年05月11日 | 環境と健康

ロブ・ダン著『家は生態系』(今西康子訳)白揚社 2021

 都市部では生物多様性は「不潔」という雰囲気でとらえらえているが、実は人の健康維持に寄与していると、この著者は主張する。

本書によると、家庭には、その特殊な環境に対応する意外な生物がいる。例えば給湯器にはテルムス・スコトダクタスと呼ばれる好熱性細菌が住み着いている。テルムス属の細菌は高温の間欠泉や温泉にいる特殊な細菌である(おそらく冷蔵庫にも極地に生息する低温性の細菌や微生物が住み込んでいるはずである)。また、バスルームのシャワーヘッドには抗酸菌(マイコバクテリュウム・NMT)がバイオフィルムを形成しており、そこで水道に含まれる栄養をトラップしている。そのバイオフィルムには原生微生物が棲みこみで一種の隔離フィールドとなっている。水道水だから無菌というのは間違いで、ここに生息する非結核性抗酸菌には感染症(とくに免疫不全の人、肺疾患のある人)を引き起こすものがいるので、注意が必要である。

 現代病といわれる喘息、アレルギー、アトピー、炎症性腸疾患は、地理的な特色があり、皮肉な事に「清潔」な地域でインフラがととのった場所で多い。その原因は、ある種の病原菌に暴露する事でなく、そもそも暴露せずにいる事が原因だとしている。生態学者のイルツカ・ハンスキはその原因を生物多様性の欠如とした。著者によると自宅の裏庭の植物の種類が多いと、皮膚細菌の多様性が増加しアレルギーのリスクが低いそうである。そのときキーになる微生物は、ガンマプロテオバクテリアであるとしている。

 他に興味深い話しとして新生児感染症の話しで黄色ブドウ状球菌(スタフィロコッカス・アウレウス)に善玉菌(善玉看護士の鼻孔にいる)と悪玉菌(悪玉看護士の鼻孔にいる)の2種がいるという下りである。バクテリアが皮膚に定着するのに消費型競争と干渉形競争があるという話しは興味深い。さらにパン職人の掌にはそれぞれ固有の微生物相(ラクトバチラス属、サッカロマイセス属)をもっており、そのパターンにしたがって作るパンの風味が違っているというものである。ほんまかいな?

これらの話しが、すべて信頼される学説なのかどうかは、それぞれ検証が必要だが、アレアレといいながらも楽しく読める一冊ではある。

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミツバチの飛行速度はヒトに換算するとジェット機並!

2021年05月08日 | ミニ里山記録

 

 トーマス・シーリー (1952~)はコーネル大学神経行動学の教授である。分蜂群がどのように巣を選ぶかといったメカニズムに集合知のようなものがあることを発見した。シーリーの著『野生ミツバチの知られざる生活』(青土社)によると、ミツバチの巡航速度は時速約30kMだそうだ。ミツバチ成虫 (体長1.5cm)とヒト(身長1.5m)を比較して、これをヒトの速度に換算するとなんと時速は約3000kmになる。これは航空自衛隊のF-15戦闘機のそれに匹敵する。ミツバチは3kmを6分で飛行するが、3kmはヒト換算で300kmである。京都を起点とするとこれは、静岡県島田市付近である。彼らは自分の大きさを考えると、恐るべき長距離を短時間で移動していることになる。

 シーリーによると、セイヨウミツバチの野外巣の最適環境は、南向き、高さ5M、入り口(12.5cm2)、底部巣口、容積40L、巣板付属といったところである。巣の形や湿度、隙間の有無はあまり入巣には影響していない。彼はさらに1871例の尻振りダンスを解析し、えさ場の距離を計測し分布をまとめている。コーネル大学の「アーノットの森」では、えさ場は再頻度0.7Km、中央値1.7Km、平均距離2.3km、最大距離は10.9kmであった。平均距離は時期によって2-5kmの間で変化した。ニホンミツバチを用いて同様の研究が佐々木らによって玉川大学構内で行われた(1993)。その結果、ニホンミツバチはセイヨウミツバチに比較して近い(2km以内)えさ場を利用しているようである。ただ、これらのデーターは資源の様態によって当然変化する事を忘れてはならない。

 シーリーは距離や方角だけでなく野外コロニーの巣を発見する方法も開発した。ある地点にエサ(砂糖水)を置き、ミツバチを誘因する。それにマークを付けて、飛んで来る直線方向(ビーライン)にえさ場を移動し、再度、ミツバチを誘因する。マークの付いた個体がえさ場に通う時間を計算しておおよその巣の位置を特定した。

シーリーは最後に「ダーウイン主義的養蜂のすすめ」を提唱している。理想とする養蜂とはミツバチをできるだけ、その自然の生き方に干渉せずに飼育するというものである。具体的には1)環境に遺伝的適応したコロニーを飼育すること。ニホンミツバチの場合は、例えば東北地方のコロニーを西日本に輸送して飼うなどは、遺伝的攪乱の可能性がある。2)適度な密度で飼育することも肝要なことである。高密度飼育は盗蜂や他巣入りを誘導する。また病気の感染が一気に広がるリスクが高い。3)巣の容積は40L以下に抑えるべきである。大きな巣は、自然分蜂を妨げ、ダニなどの感染爆発を引き起こしやすい。また資源の局所的枯渇を引き起こす。4)多様な資源の下に、ミツバチを飼育する必要がある。資源の多い場所でのコロニーは病気になりにくい。などなど....。ミツバチを飼って単純に「エコ」だと思うのは間違。

 

参考図書

佐々木正己 『ニホンミツバチー北限のApis cerana』海游舎 1999

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミツバチヘギイタダニとアカリンダリ

2021年05月06日 | ミニ里山記録

 

 

  セイヨウミツバチ (Apis mellifera)に寄生するミツバチヘギイタダニ (Varroa destructor)の被害が世界でひろがったのは、20世紀の初めといわれている。このダニは、本来トウヨウミツバチ (Apis cerana)に寄生していたが、セイヨウミツバチを使う養蜂の拡大によって感染した。 ヘギイタダニが感染したコロニーを無闇に流通させたことも拡散に預かった。このダニは栄養寄生するだけでなく、チジレバネウィルスを媒介してミツバチを殺す。トーマス・シーリーは、その著『野生ミツバチの知られざる生活』において、1990年代にアメリカの一部の地区では、ダニのせいでそれまで見られたミツバチの姿がすっかり見れなくなったと述べている。野生コロニーを調査すると、ミツバチヘギイタダニが確認された。ただその数は飼育個体群よりも少なく、野外ではなんらかの防御のシステムがあるのではないかと述べている。

一方、日本ではこの数年ニホンミツバチ (Apis cerana japonica)に外来のアカリンダリ (Acarapis woodi)が寄生し、これが広範囲にひろがり、個体群の減少をもたらしている(拙ブログ:https://blog.goo.ne.jp/apisceran/e/edc1a5e4d8a0c788f1dd2e4ef73c5d2e)。アカリンダニは本来はヨーロッパのセイヨウミツバチの寄生ダニだったのが、トウヨミツバチの一亜種であるニホンミツバチに寄生したものである。ようするに西洋と東洋でダニの交換をおこなったようなものである。コロナ禍と同様に生物界では本来あり得ぬ人類による交通交易がそれぞれのパンデミックを引き起こしているのだ。アカリンダリに感染するとKウイング(羽根)、徘徊が起こり、冬ー春にかけてコロニーが死滅する確率が高い。メントールなどを巣に入れて予防する。

 

参考図書・文献

トーマス・シーリー著 『野生ミツバチの知られざる生活』青土社 2021

前田太郎ら『ミツバチに寄生するアカリンダニ 分類,生態から対策まで—』日本応用動物昆虫学会誌59 巻 第 3 号: 109–126 (2015) :この総説はアカリンダニに関する圧巻の著である。詳しく知りたい人は必読。安易なニホンミツバチのコロニーの国内移動がこのダニの感染拡大を広める可能性を指摘している。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニホンミツバチ分蜂

2021年05月01日 | ミニ里山記録

待箱に比較的小さなニホンミツバチのコロニーの分蜂群が入った。これから強勢なものに成長するかどうか期待したい。

いままで育ててきたコロニーは数回分蜂したようである。巣内の撮影の度に、ハチの数が増えたり減ったりしているが、まだ新たな王台が見える。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする