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京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

戦争と疫病

2020年05月31日 | 環境と健康

(インカ帝国の滅亡)

 

 戦争と疫病という、人類の歴史の始めからつきまとっている事柄について、歴史家のウィリアム・マクニールは興味ある二つの類似を指摘している(参考文献)。

  戦士達が使う武器の改良が、病原菌にとっては突然変異にあたる。前者では、武器のイノベーションによる軍事的な優勢によって敵を一挙に制圧でき、地理的な空間が開かれ新たな帝国が成立する。後者では、突然変異によって微生物と宿主との平衡が破れ、瞬く間に集団に感染が広がり、エピデミックからパンデミックに発展する。

それだけでなく、組織化された装備の整った軍隊が、そうでない集団と接触すると、遭遇戦の段階から相手を圧倒し、その前衛に打撃を与えるが、それは恐怖となって後衛に伝播して、しばしば全体の崩壊がおこる。同じように疫病の無慈悲な感染力と致死率は、市民に得体の知れない恐怖を生み出し、都市封鎖といった無条件降伏を採らざるを得ない。

 戦争も疫病もそれ自体が生起した死者の数よりも、恐怖がもたらす社会的な混乱によって生じた犠牲者の方が多いことがある。このような外敵(敵国やウィルス)に対して自衛することのできない社会や国家は、やがて独立性と安定性失い滅亡するのが歴史の常である。

COVID-19は、まさにこの点について、いま各国に試練を与えている。今のところ欧米の方が東洋よりもガタついておりかなり危うい。

 

参考図書

ウィリアム・マクニール『戦争の世界史ー技術と軍隊と社会』刀水社、2002

 

 

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感染症はヒトの遺伝子を進化させる: マラリアと鎌状赤血球の関係

2020年05月26日 | 環境と健康

 ヘモグロビンは赤血球の中に含まれる酸素を運ぶヘム蛋白質である。ヒト成人のヘモグロビンにはαとβの2種類がある。β鎖のヘモグロビンの6番目のグルタミン酸が、バリンに置き換わったものはヘモグロビンSといわれる。これは第11染色体に存在する遺伝子の変化による。ある部位のコドンの真中のチミン(T)がアデニン(A)に変わったために生ずる。

 この突然変異は鎌状赤血球貧血症という遺伝子病を引き起こす。ホモ接合型の人は大抵、成人前に死亡する。一方、ヘテロの人は低酸素条件でのみ発症するので、普通の日常生活は営むことができる。こういった遺伝子を持つ人は、ほとんどが黒人である。これの頻度の高い地域はアフリカ、地中海沿岸、中近東それにインド北部である(下図b)。この分布はマラリアの分布域とほぼ一致する(上図a)。

(参考図書より引用転載)

 鎌状赤血球のヘテロの遺伝子保因者は、正常状態では60%が正常赤血球、40%が鎌状赤血球の状態である。マラリア原虫は人体では赤血球内で増殖する。マラリア原虫に感染すると赤血球のpHが低下し、ボーア効果により赤血球の鎌状化が進む。

マラリア感染初期ではマラリア原虫が感染し、鎌状化した赤血球は脾臓で優先的に除去される。また感染後期では鎌状化した赤血球によりマラリア原虫は機械的に壊される。ようするに、鎌状赤血球は体内におけるマラリア原虫キラーである。これによりヘテロ保因者は、マラリアに対し耐性を発揮する。

 鎌状赤血球遺伝子は本来は生存に不適な突然変異として淘汰されるべきものであったが、マラリア感染症に耐性であるという利得があり、集団の中にある頻度で広まっている。

人類におけるコロナウィルスの感染の歴史が、いつからかは不明であるが、遺伝子レベルでのトレードオフが起こっている可能性はある。

 

参考図書

N.マックリーン 『ヘモグロビン』(山上健次郎訳)朝倉書店、1981

 

 

 

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ファクターXの解明: 風邪を引いた人は新型コロナに罹りにくい?

2020年05月24日 | 環境と健康

 日本では中国や欧米に比べてゆるい規制しかしてないのに、新型コロナ感染症(COVID-19)の感染者、重症者、死亡者いづれも圧倒的に少ない。PCR検査数が少ないので、感染者数が見かけのものだというのは分かるが、それを考慮しても、いまのところ被害は予想外に小さい。

日本の最近での年間死亡者数は約130万人である。その原因の1位は悪性新生物(約37万人)、2位は心疾患(約20万)、そして3位は肺炎(約11万)である。肺炎の原因は様々であるが、多くは細菌あるいはウィルス感染によるものである。現時点でCOVID-19による肺炎の死者は825人である。今冬のインフルンザの激減や、年寄が病院に近づかなくなったことによる普通の肺炎患者の減少は、COVID-19による死者数を十分にトレードオフしていると思える。

 

 山中伸哉京大教授は橋下徹氏との対談で、日本で感染者や死亡者の少ない現象の原因をファクターXと称している (文春オンライン、 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200520-00037919-bunshun-life)。これを究明することが、COVID-19の対策になる可能性があるそうだ。ファクターXについては、BCG説、体質説、衛生習慣説、対応政策説などがあるが、どれも説得力に欠けている。

 

最近、これにヒントを与えてくれる注目すべき論文が、分子生物科学のCell誌に投稿(査読中)されたので紹介する。

Alba Grifoni et al. (2020)  Targets of T cell responses to SARS-CoV-2 coronavirus in humans with COVID-19 disease and unexposed individuals. Cell 11420, DOI (https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.015) 

 この論文は、風邪 (common cold)を引いたことのある人はCOVID-19に一度も罹患していなくても、血液中にSARS-CoV-2に対する免疫活性を持っていると報告している。サンプルとして2年以上前に普通タイプのコロナウィルスの風邪に罹った人の血液が用いられている。そのほぼ半数が、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質を認識するCD4-T細胞を持っていたそうだ。これは、COVID-19において、どうして多くの人が軽症ですみ、一部の人が重症化するのかを説明するのに都合の良い仮説である。COVID-19で罹患してもウィルスに対する免疫ができないという考えを否定すると述べている。

 もし、この著者らの仮説(風邪を引くと新型コロナウィルスに免疫を持つ)が正しければ、昔、流行した風邪のあるタイプのコロナウィルスによって日本人の多くがSARS-CoV-2に対する免疫を獲得している可能性がある。これがファクターXかもしれない。

(Mail on lineに論文の解説あり。https://www.dailymail.co.uk/news/article-8335169/People-suffered-COLD-past-protected-against-COVID-19.html)

 

追記1)(2020/05/26)

COVID-19でSARS-CoV-2に感染した人の多くは、まずIgG抗体が出来てIgM抗体の生成が少ない。普通は、まずIgM抗体ができてからIgG抗体ができるクラススイッチが起こるのに、そのようになっていない。児玉龍彦東大教授は、SARS-Xウィルス(仮定)が日本を含めた東アジア沿岸部に流行ったことがあり、その免疫が残っている可能性を主張している(https://www.youtube.com/watch?v=8crwEQN_DbA)。

 

追記2) (2020/06/22)

BCGは結核菌のみならず、様々な細菌、真菌、ウイルスに対して防御効果を付与することが以前から気付かれていた(オフターゲット効果)。

 

 

 

 

 

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日本における感染症の歴史

2020年05月21日 | 環境と健康

 文献上の最古の記録は日本書紀に崇神五年(三世紀後半)「国内に疾病多くして、民死亡(まか)れる者有りて、且大半ぎなおとす」とある。朝鮮と交流があったので、大陸から持ち込まれた感染症で、おそらく天然痘(疱瘡)か麻疹だったのではないか。この頃、奈良盆地南部には纒向など人口の密集した集落が形成されていた。疾病を鎮める三輪山の大神神社では、4月1日に鎮花祭が行われ、製薬業者が薬を奉納する。また薬草であるスイカズラとユリ根も供される。

奈良時代の平城京では夏場に腸管系の疾患が多発し、官吏の死亡月を調べると、やはり7月が最も多かった。続日本紀には「京にけがらわしい臭いがする」という意味の記録がある。中世のヨーロッパでも瘴気が病気の原因であると考えられていた。天平九年に九州から天然痘が伝播し、奈良の都で広まった。これを鎮めようと、国分寺や大仏が造られた。

貞観年間(859-877年)に平安京で天然痘、麻疹、インフルンザがまた大陸からやってきた。これらの災厄の除去を祈ってはじまったのが祇園祭である。祇園八坂神社の除疫神はインド由来の牛頭天王である。牛は天然痘ウィルスの宿主であることと、関係があるかもしれない。山鉾が始まったのは15世紀の南北朝時代とされている。

江戸時代にも天然痘と麻疹がはやった。二つとも全身感染をおこすが、子供の頃に罹ると軽くてすむが、大人になって感染すると重症になるケースがある。「疱瘡は美面定め、麻疹は命定め」と言って麻疹の方が致死率は高かった。

 秀吉の頃に梅毒が入り込み、当時の男性の3分の2、女性の3分の1が罹患していたと言われる。江戸時代になって、幕府の鎖国政策は外からの感染症をある程度ふせいだが、1822年頃、コレラが長崎から入って全国に蔓延した。さらに、1858年ペリー艦隊の乗組員の一人にコレラ患者がいて、長崎に寄港したときにここでコレラが発生し、江戸に飛び火した。この時、多数の日本人が亡くなった。この幕末のエピデミックは、「開国が感染症を引き入れる」とする考えを醸成し攘夷思想が高まる一因となった。緒方洪庵は「事に望んで賤丈夫になるなかれ」と治療にあたる弟子に指示した。

大正時代のスペイン風邪では、当時の日本内地で45万人、外地で74万人もの人が犠牲になった。それは3波にわたって襲来し、第一波は1918年5−7月、第二波は同年10ー翌年5月で最も猛威をふるい死者は26万、第三波は翌年1819年12-翌年5月で死者は18.7万人であった。このときのインフルエンザは1年で終わらず、性質を変えながら流行を繰り返した。与謝野晶子は「感冒の床から」という文章で、当時晶子の家には12人の子供がいたが、全員が次々と感染したと書いている。このとき行政の対応が後手後手であることを非難し、「盗人をみて縄をなう」日本人の便宜主義を批判した。

明治、大正、昭和(戦後10年ぐらいまで)の主な感染症は結核であった。日本ではこれは国民病と呼ばれていた。結核菌は病原微生物として感染力の強いほうである。病巣は肺が主であるが、腎臓や背髄などに病巣をつくるケースもある。新規発祥は減っているが、現在でも鑑別が必要な呼吸器感染症となっている。最近の罹患率は西日本、特に関西が多い。カラオケボックスのような狭い換気の悪い場所で感染しやすいのはCOVID-19と同じである。

追記(2020/06/07)

ウィリアム・マクニールの著「疫病と世界史」には、日本の古代・中世における感染史が、次のように比較的詳しく述べられている。ちょっと極端な考察のように思えるが......

『日本は島国で大陸と分離されていたこと、稲作農耕が拡大定着するまでは、人口密度が小さかったことなどから、6世紀までは大したエピデミックはなかった。しかし、飛鳥時代の552年に仏教伝来の目的で来た大陸からの使節が、天然痘を持ち込んだ。この疫病は13世紀に及ぶまで何度も流行を繰り返した。平安時代の大同三年には、人口が半減するほどの疫病(マクニールの推測ではペスト)が蔓延した。13世紀になって天然痘や麻疹はやっと小児病として定着した。このように日本の古代・中世では、ほぼ約600年にわたって、感染症は繰り返し日本の人口に深い傷を与え、列島の経済的文化的な発展を根底から阻害していた

 

 

 

参考図書

井上栄 『感染症の時代』講談社、2000

赤江雄一、高橋宣也編 『感染る』慶応義塾大学出版界、 2019

磯田道史 「感染症の日本史」文春新書 1279 (2020)

 

 

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感染の歴史は繰り返す:ソニア・シャー 『感染源』 読解

2020年05月18日 | 環境と健康

ソニア・シャー『感染源』—防御不能のパンデミックを追う(上原ゆうこ訳)原書房、2017

 

 社会が大きなリスクに曝されたときに人々は過去の書物から教訓を学ぼうとする。2011年の福島原発事故ではメアリー・マイシオの「チェルノブイリの森」が未来のフクシマを予想する必見の書となった。

今回のコロナ禍においては、文学ではカミユの「ペスト」、ドキュメントではアルフッド・クロスビーの「史上最悪のインフルエンザ:忘れられたパンデミック」、歴史記述ではウィリアム・マクニールの「疫病と世界史」があげられる。そして疫学分野では揚書、シャーの「感染源」が必読の書といえる。

これには、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックで、現在起こっている全ての事態が述べられている。原著は2016年出版のものだから、無論、過去におこった感染症に関する記述であるが、そのままCOVID-19で再現されている。今回のブログでは、これを読解してゆきたい。

 

 序章ー第3章

 経済発展によって感染症は消滅するという考えがある。このポスト感染症時代という希望を無慈悲に打ち砕いたのは1980年代に出現したHIVである。HIVの外にウエストナイルウィルス、SARS、エボラ、インフルエンザウィルスが発生した。さらに薬剤耐性の結核、マラリア、コレラなどが、以前に発生したことのない場所や集団でブレイクした。感染症は貧困国だけでなく、最も進んだ都市やその郊外でも発生した。

それは北緯30-60度から南緯30-40度の帯状のゾーンに出現した(庵主注:COVID-19の感染帯とまったく同じ)。いまや病原微生物は感染症だけでなく、ガンや精神病さえも未知の微生物のしわざかも知れないとさえ思われている。疫学者の90%がパンデミックが迫りくると予想しており、10億人が罹患し、最大1億5000万人が死亡する可能性を危惧している。

中国では経済成長に伴って人々は豊かになり、世界の贅沢品を買いあさった。それに飽きると今度はグルメに金を使いはじめた。中国の食文化である「野味料理」の需要が増え、密猟者や貿易商人が金になる野生動物を乱獲し、これを売りまくった(庵主注:中国では貧富の格差が広がっているのでこのような贅沢ができる階級は一部であろうが、それでも多い)。

2003年危うくパンデミックになりかけたSARSのウィルスは中国広州のウエットマーケット(海鮮市場)で発生した。ここでは露天商人が、野生の動物を売っていた。ヘビ、カメ、コウモリなどが野味料理として調理されて中国人に食べられた。中国政府はウエットマーケットを取り締まったが、非合法に野生動物を取り扱う闇商売がはびこった。それだけ需要があったからである。狭い檻の中に入れられた動物が排尿、排便していた。ここではキクガシラコウモリとハクビシンとヒトが濃厚接触しており、SARSウィルスが種間伝播する環境となっていた(COVID-19ウィルスの感染経路はキクガシラコウモリーセンザンコウーヒトの可能性がある)

注:J,チュ(日経サイエンス2020/7月号p35)によると、中国政府は2月24日、研究と医療用、展示目的を除く野生動物の消費・売買を恒久的に禁止すると発表した。2017年に作成された中国工程院の統計によると、この措置でなんと760億ドル(約8兆1000億円)規模の産業が消え、およそ1400万人が失職するという。もしこれが本当だとすると、中国ではおそるべき野生動物の乱獲が行われていたことになる。

 

 コレラ菌はカイアシ類に共生する温和なビブリオ属の細菌である。このビブリオ菌はカイアシの作るキチンの90%を餌にして分解してくれる。18世紀半ばに東インド会社がシコンドルボル(マングローブの群生地帯)を開拓した。ここにはカイアシ類が豊富おり、ビブリオとヒトの接触が始まった。そのうちヒトに感染するビブリオが発生し、おまけにこれが毒素を生産する能力を獲得した。これにより1817年、シコンドルホンにコレラがブレイクアウトした。

19世紀の半ば頃、アイルランドのジャガイモ疫病で、85万人もの難民がニューヨークに上陸した。彼らの大部分がマンハッタンの密集した貧民窟に住んだ。1849年になって、郵便船の乗客にコレラが発生し、それがたちまち市内に広まった。コレラ菌が地下水に入り込み、井戸から感染したのである。現在のマンハッタンの衛生環境は改善されているが、世界の多くの都市(特にアフリカやアジア)では19世紀のマンハッタンの姿そのままである。その状況は家畜にも適応できる。家畜もどうしようもないスラム環境で飼育されており、世界のブタとニワトリ、ウシの大半が工場式畜産工場で”非動物的”な扱いを受けた上にされている。

 いずれの感染菌のアウトブレイクもヒトと動物との密接接触が必要とする事は、ヒトの病原菌の起源が1万年前の農耕と牧畜の黎明期からであったことを示唆している。ウシから麻疹、結核と百日咳をもらい、アヒルからインフルエンザをもらった。

 1990年代に武力紛争がギニアでおこり森林破壊が起こった。ある種のコウモリは手つかずの森よりもこういった攪乱した森で増殖した。コウモリは何百万匹ものコロニーを形成し、なかには35年以上も生きる種類もいる。彼らは鳥のように骨が中空で、他の哺乳動物のような骨髄がなく、特殊な微生物相を体内に備えている。彼らは飛んであちこちに微生物を伝播する。中には渡りをして一度に何千キロも移動する。(庵主注:この性質はヒトと似ているところがある。高密度、大規模移動、特殊な微生物相という点で)。

ギニアの森林が伐採されたために、コウモリとヒトとの間にそれまでと違った交叉が生じた。猟師はコウモリを狩り、解体処理のときにその微生物を浴びた。コウモリは人の集落付近で糞を落とし、果物を汚染した。

(ダスティン・ホフマン主演の映画「アウトブレイク」の中でアフリカの呪術師の次の言葉が印象的であった。”本来人が近づくべきでない場所で、樹木を切り倒したために。目を覚ました神々が怒って罰として病気を与えたのだ”)

エボラウィルスはコウモリを起源としている。このエピデミックは2014年にはじまり、ギニアの森でアウトブレイクした。エボラは1990年代から2000年代にかけてゴリラやチンパンジーにも打撃を与えその個体数を三分の一にした。

マレーシアでは規模の拡大した養豚場にコウモリが飛来し糞を落とした。その中にニッパウィルスが存在し、それがブタに感染し、さらにヒトに感染した。ヒトの感染者の40%以上がこれで死亡した。北アメリカでは鳥の多様性が減少して蚊が増加し、これが運ぶウエストナイルウィルスが1999年にニューヨーク市で蔓延した。

 

 感染症の発生・拡大には、人による環境破壊がどこかで関わっている。動物の微生物がヒト病原菌に変わるためには、種間で高い密度にして長期の接触が必要である。それゆえに、何百万年も共存してきた旧世界の動物由来の病原菌の方が、新世界由来のものよりもずっと多い。そして、ヒトの病原菌のうち非常の多くのものが他の霊長類に由来している(HIVはチンパンジー由来である)。

 

第四章(過密)

 病原菌の毒性が高まると、罹患者はたちまち病気(不活動性)になったり死亡するので、病原菌にとって次の感染機会を失い不利である。それ故に、毒性の非常に強い系統は、それほど毒性が強くないのものに淘汰されて絶える可能性が強い。すなわち、進化論的にいって病原菌やウィルスの毒性は抑制されていくはずである。自然生態系ではヒトでも他の動物でも、本来はそのようなメカニズムによって、集団内の感染は鎮火し、病原菌は単なる寄生者となり宿主との間に共生関係がなりたつはずである。

 それが、新興感染症ではエピデミックとなりパンデミックとなり、しかも毒性がちょっとも弱まらないのは、人口の密度が高すぎるからである。感染者が倒れようと死のうと、ウィルスにはいくらでも宿主が周りにいるので、増殖力(毒性)の強いウィルスの方が拡大するのに有利なのである。

(注1:スエーデンでは、「集団免疫」戦略をとって緩い社会規制でCOVID-19に対処しようとしている。当然、ここでの感染者数は近隣諸国に比べて多い。しかし、上で述べた理屈によって罹患者の死亡率 (12%)も高い。この国では、おそらくウィルスの毒性は外の国よりも強化されているのでないだろうか?)。

 

 毎年、季節性インフルエンザは世界で50万人もの人々の命を奪っている。それと同じぐらいの感染力があり、死亡率がわずかに高い新型インフルエンザであれば何百万もの人を倒すことができる。

疫学者が考えると眠れないほど恐ろしいのは、高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型である。これの死亡率はSARS-CoV-2の比でなく罹患者の50%-60%である。1918年のスペイン風邪パンデミックの再来となることは確実である。

鳥インフルエンザについても家禽(ニワトリ)の群れの大きさと密度がその出現の背景にある。ニワトリの密度が低いと、伝染は2-3週間のうちに自然と終息する。しかし、中国で見られるように養鶏場の数が増え規模が拡大するにつれて、感染が終わらずに広まるようになる。この国では2008年にはニワトリは1970年の20倍も出荷されている。ニワトリと野生の鳥の間での接触が増え、インフルエンザウィルスが種間伝播し、アウトブレークして高病原性鳥インフルエンザの出現頻度を高めた。

ソニア・シャーはH5N1インフルエンザがアウトブレークしている時期、中国広州の江村にある家禽市場を訪れ驚くべき光景を目撃した。ここでは家禽産業の労働者は高病原性インフルエンザウイルスに感染した鳥を、簡単な長靴とエプロンのみの格好をして、素手でマスクもなしに取り扱っていた。アメリカではエボラと闘うために使用する防御服を着用して作業するのに。

H5N1が生ずるのには鳥だけではなくブタも関与していた可能性がある。ブタはウィルスの混合容器である。トリーブターヒトの混在する地域が新しいモンスターウィルス誕生の地となるのである。

1918年のパンデミックのインフルエンザウィルスはどうやらブタの中に100年間も潜伏しており、2009年に新型インフルエンザとして再生したようである。

(庵主注2:まことに、旧約聖書の創世記で「産めよ、増えよ、地に満ちよ」と神に啓示を受けたときから、人類の感染症は宿命であったようだ)。

 

第五章(腐敗)

 防疫のための正当な目的や手段は、どんなときでも露骨に利潤を得ようとする資本とそれに結託する政治家のために、しばしば妨害された。その歴史的エピソードが第5章でいくつか語られている。

1823年にニューヨーク市でコレラが発生した。医師たちは市長に公的な警報を出すように求めたのに、市長も衛生局もそれを完全に否定した。その他にも政府や行政による感染症拡大の発表押さえ込みの実例が、ゴマンと紹介されている(注:武漢におけるCOVID-19の発生初期に、それを知らせた李文亮が当局に弾圧された事件として、歴史は再現されている)。

 民間の利益集団の圧力で、病原体との戦いが変節したのは政府だけでなくWHOにも起こっている。1980年代から1990年代にかけて、国連のシステムに懐疑的な国が支援金をしぼりはじめた。予算の不足を埋める為に、WHOは民間の企業から資金を調達した。しかし、これはひも付きとなって、その活動が顕著に歪められ、公衆衛生の諸活動と指導力が弱まった (注:WHOの活動が企業の利害によって決められていると批判したのは、前の事務局長であるマーガレット・チャンであった。彼女は中国代表であったが、いまやその中国が20億ドルといった膨大な資金をWHOに注ぎ込み、ここでの支配力を高めようとしている)。

 

第六章(非難)

 コレラなどの感染症の患者が発生すると、その地域では理不尽な「憎しみのパンデミック」が暴発することが多い。社会的ストレスの時期には、侵入者を前にして結束を強め、手を携えて協力すべきであるのに、現実には道徳と習俗の容赦のない堕落がまき起こった。その結果、エピデミックの最中に、「責任がある」とみなされた集団がスケープゴートにされた。19世紀には医師や病院さえも、民衆により襲われ、通りすがりの旅人や移民も攻撃の目標とされた。暴徒により罪もない人々が虐殺されたことさえあった(注:欧米では中国人のみならず、それ以外の東洋人もコロナ禍の元凶とみなされ路上で暴行をうけたなどと報道がある)。鹿さえもライム病の原因という濡れ衣をきて(実際はげっ歯類が感染源)、駆逐されたことがあった。

戦争や天災とは異なりパンデミックを引き起こす病原体は人々の信頼関係を破壊し、不信をばら撒くようになる。身体を破壊するのと同じ位、確実に社会の連携を断ち切るのである。

 

 

第七章 (治療)

 コレラの死亡率は未治療の場合は50%である。嘔吐と下痢で失われる体液を補充するために生理食塩水を補給すると、それは1%に低下した。単純で明解なこの治療法は、ヒポクラテス医学に染まっていた当時の医者に受け入れらえる事はなかった。当時はコレラ感染の原因は瘴気(悪臭のするガス)とされ、それを取り除く事が大事とされていた。飲料水によってそれが生ずる事実が知られていても頑迷に瘴気説にしがみついていた。これが粉砕されるのは、19世紀後半に登場する細菌説を待たなければならなかった。1870年にルイ・パスツールがカイコ微粒子病の原因の微生物を発見し、1876年にはロベルト・コッホが炭疽菌を発見した。1884年にはコッホはコレラ菌の発見を発表して、皆をあっと言わせた。

ヒポクラテス医学とは、正反対のところに現在の還元主義医学がある。還元主義者であるソニア・シャーは、自分に感染したMRSAを治療するために、あらゆる可能性のある療法を試みた。しかしいずれもうまくいかなかった。彼女は半分あきらめて、手当をせず傷を放置しておいた。そうするとMRSAの潰瘍は自然に収縮し、いつのまにか消えてなくなった。「おそらく内的要因や外的要因の間に何らかのヒポクラテス的な相互作用が働いたのだろう」述べている(注:還元主義者の著者が近代医学によって助けてもらえずにヒポクラテス医学のような状況で助かったのは皮肉な話しだ)。

 

第八章(海の逆襲)

気候変動が海洋を変化させて感染微生物の動態を変えることがある。地球温暖化によって気温が上昇すると、ヒトに病気をもたらす生物、とりわけコウモリ、蚊、ダニなどの分布域が拡大する。ある種のコウモリは通常よりも高い標高に移動し、北アメリカでは越冬域を北上させている。

 

第九章(パンデミックの原理)

生命が発生して以来、38億年にわたって単細胞の微生物が地球を支配していた。それに比べると多細胞生物は7億年前に出てきた新参者で、哺乳動物は約1億5000年前に生まれた。

免疫システムは病原体が体内に侵入するのを防ぐのに役立つたが完全なものではない。ヒトと微生物との軍拡競争は「鏡の国のアリス」に出てくる赤の女王のエピソードのようで、全速力で走っても同じ場所にとどまっている。

 「いいかねアリス、この国では同じ場所にとどまるためには、全速力で走らなくちゃいけないのよ。先に進むためには、それよりもっと早く走らなくちゃいけないの」。鏡の国でアリスの前にあらわれた赤の女王は、こう言ってアリスの手を取り猛然と走り始める。ルイス・キャロル作の童話『鏡の国のアリス』に描かれた有名なシーンである。このエピソードを、生物は絶えず環境変化にさらされ、適応進化を続けているという仮説の説明に使ったのはリー・ヴァン・ヴェーレン(Leigh M. Van Valen、1935年 - 2010年)である。ヴェーレンは、特に生物どうしの共進化に注目した。同じ場所に棲息している生物種の間には、被食・捕食関係や、競争関係など、さまざまな相互作用がある。このような相互作用系では、敵対的な共進化が起きるだろう。例えば、被食者が捕食に対する防衛能力を高めるように進化すれば、捕食者側ではより攻撃能力を高めるように進化するだろう。このような共進化レースでは、同じ適応度を維持するためには、敵対する相手に対して絶えず適応し続けなければならないだろう。そこで彼はこのアイデアに、「赤の女王仮説」という魅力的な名前をつけた。この関係は寄生者と宿主の間の恒常的な軍拡競争にもあてはめることができる。一般に寄生者はその寿命の短さにより、より速く進化する。そのような寄生者の進化は、宿主に対する攻撃方法の多様化を招く。このような場合、有性生殖による組み替えで常に遺伝子を混ぜ合わせ短期間で集団の遺伝的多様性を増加させ続けることは、寄生者の大規模な侵略を止める効果を果たすと考えられる。ようするに生物にセックス(性)があるのは寄生者(病原菌)に対抗する仕組みである。 

 

昔のパンデミックの痕跡はヒトの遺伝子を分析すると分かる。人々は食の文化(香辛料を使う)によって免疫の強化を行った。インドのカースト制は各地方の感染症を防御する社会的ディスタンスをとるシステムとして発達した。病原体の多様性が大き地域ほど民族の多様度が大きい。病原体への関心が強い集団ほど、自己が属する民族への好意度が大きい。病原体への免疫獲得の優位性が世界史における征服者としての必要条件である(注:現代の中国人はひょっとするとそうかもしれない)

 

第十章(次の伝染病を監視する)

パンデミックを完全に防ぐためにできるだけ早く。感染者を探すモニターシステムを構築する必要がある。それには既存のWHOの組織を強化して利用するべきだが、これには不備なところがいくつもある。要件を満たす機関の監視能力をまとめて機能的なプログラムを設計する必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

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プラセボ効果とは何か :書評「僕は偽薬を売ることにした」

2020年05月17日 | 環境と健康

水口直樹 『僕は偽薬を売ることにした』図書刊行会 2019

  世にプラセボ(プラシーボ)効果というものがある。本物の薬の替わりに偽薬を飲んでも病人の症状が回復する現象である。ケースによっては本物の薬を飲ませたのと同じぐらいの効果がある。どうしてそんな事がおこるのか、庵主は前から不思議に思っていた。上掲の書は、これに半分くらいは答えてくれているので紹介する。著者の水口直樹氏は1986年生まれ。京大大学院薬学科修士課程修了後、製菓会社に就職し研究開発に携わる。2014年にプラセボのための偽薬製造会社を設立したユニークな人物である。

 

ラテン語のPlaceboは「人を喜ばす」という意味だそうだ。一般的には偽薬効果をさすが、偽手術の効果なども含むようになった。さらに、治療的環境や医療者の働きかけに患者が反応した結果としてのプラセボ反応がある。

プラセボの興味深い実証例がいくつもあげられているが、興味あるのは、1957年に報告された新薬クレビオゼンの話しである。この新薬の評価が新聞記事で変わるにしたがって、それを読む患者の症状が変化したというのである。さらに驚くべきは、偽薬であることをあらかじめ知らしめた患者に投与しても、治癒効果が認められたというのである(オープンラベルプラセボという)。もっともこの場合は、試験後に適切な加療がなされるという告知が心理的な効果を生んだ可能性がある。

最も印象的なエピソードは第二次大戦中のアメリカ軍の戦時病院でのエピソードである。そこでは、鎮痛剤のモルヒネが払底していた。しかたなしに、軍医は負傷兵に生理食塩水をモルヒネと言って注射した。これは苦肉の策であったが、多くの苦しんでいた負傷兵に沈痛効果をもたらした。

新薬や加療効果の検定には、このプラセボが常に問題になるので、二重盲検法による臨床研究がなされている。一般的に、医薬品の開発者はプラセボ効果を過小評価する傾向がある。

 

 著者はプラセボ効果の創発においては要素論的な方法科学によっては証明不能としている。さらに、患者が虚数要素を含む複素数的存在とする哲学が展開されている。心(虚)身(実)二元論の延長であろうが、読者がこの部分をすっきり理解するのはなかなか難しい。

第4章「健康観のアップデート」では、医学界の与える健康基準や我々自身の健康観は間違っている事を明確に示してくれている。自分に備わった能力や感性を信じる事、自分という存在に対する信頼の度合いを高めることが重要としている。そして医療はそれぞれの人の個別性を重視する看護や介護こそが重要だとしている。先ほど述べたクレビオセンの患者のエピソードは、自己よりも他者による評価に依存しすぎた悪しき例であろう。

 病気は「気」からと言うように、人の身体の生理的状況は脳が営む精神活動の影響を受ける。プラセボはその逆で「善い気」が関わっている。西洋医学はモノを対象にするが、このような「気」が関与する現象は、東洋医学の分野である。悪い「気」と、善い「気」を選別するのは人の生きるという意志の力である。プラセボとは意志の力のある主体者の表現といってもよいのではないか。

 

 

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新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染経路について

2020年05月15日 | 環境と健康

 Covid-19ウィルスの感染経路として接触感染、飛沫感染、エアロゾル感染、空気感染、塵埃感染などがあると言われている。それぞれの実態に応じて予防の方法が変わってくる。

 接触感染は手あるいは物に付着したウィルスが、口、鼻、眼を経て感染するケースである。それ以外は、感染者の口から放出されたウィルスが空中を漂って、なんらかの形態で他の人の口、鼻、眼から吸入・吸着されて感染する場合である。ただ、解説者によって飛沫、エアゾルの定義がまちまちで紛らわしい。

 大西淳子氏(医学ジャーナリスト)によるとWHOの定義では、5μm以上の粒子を飛沫、それ以下を飛沫核として区別しているそうである。(https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/ 091100031/021300653/?P=2)。WHOは飛沫も飛沫核もエアロゾルと認識しているとのこと。もっとも、WHOの定義が世界中で用いられているかと言えばそうでもない。欧州の論文の一部は飛沫を吸引性飛沫(直径10~100µm)と吸入性飛沫(直径10 µm未満)に分け、「前者が気道上部の粘膜に付着して発生する感染を飛沫感染、後者が呼吸により気道に入るために生じる感染をエアロゾル感染(飛沫核感染とも呼ぶ)」としているそうだ。

ただ、咳やくしゃみとともに放出される大きな粒子は、短い距離しか飛ばず、短時間で床に落ちるが、小さくなった粒子は長時間空気中に留まり続け、部屋中に広がって空気感染を引き起こすという点に関しては世界で認識は一致している(これはあたりまえである)。

 

 実際は感染者の咳やくしゃみ、呼気から出る粒子の大きさは、大きいものから小さいものまで連続している。これらの空中での分布と時間的な変化を環境制御下で調べる必要がある。

感染者を環境制御室に入れて、フィルター着きのウィルス捕集器でトラップして空間分布を調査する。そうすれば、排出粒子の大きさによって、どれだけの割合でウィルスが分布するかが分かり、SARS-CoV-2に対する防御の術もより明確になるだろう。

例えば感染者がライブハウスモードで発声したときのウィルス粒子の大きさと空間分布はいかなるものであろうか?声を出さずに静かに座り込んでいる場合は?

 報じられている多発する院内感染は、ウィルス防御に根本的な抜け穴がある気がする。一部で言われているような、ウィルスサイズでの粒子の放出があれば、N95マスクでも駄目で、もっと厳密な防護が必要となる。そのため上記の実験研究が至急、要求される。

 

 

(山本達男編『SARS-ゲノム、感染、そして対策-』日本医書センター、2003より引用転載。これはSARS感染者のウィルス発生源とキャリアー動物を表している)

 

追記 1) (2020/05/26)

中国の軍事科学アカデミーのGuoらは、COVID-19感染者を収容した火神山医院(武漢)でエアロゾル感染を調べるために、院内で採取した空気などからSARS-Co-Vを検査している。

Guo et al., Aerosol and surface distribution of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 in hospital wards, Wuhan, China, 2020, Emerging Infectious Diseases (2020), doi:10.3201/eid2607.200885

(yahooニュース参照 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200425-00217614-hbolz-soci&p=3)

追記2)東京台東区の永寿総合病院では214名が感染し、そのうち43名が死亡した。

追記 3)日経メディカル (2020/08/08)

「空気感染」を誤解していませんか?:国立病院機構仙台医療センターの西村秀一氏に聞く

(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/t344/202008/566635.html?n_cid=nbpnmo_mled)https://blog.goo.ne.jp/jiyuu-sen

Covid-19における接触感染、飛沫感染、空気感染などの意味するところの混乱が依然として続いている。上記の記事は、患者の呼気からの粒子径とウィルス濃度の関係、物理化学的様態などはっきりさせた研究データーがないから、みんな勝手な憶測で議論していると、述べていサンドラる。

 

追記4)(2022/03/04) サンドラ・ヘンペルの「医学探偵ジョン・スノウ」はパンデミックを考える良書である。

  コレラの感染経路を初めて明らかにしたジョン・スノウは「大流行を終息させるには、この病気がどのように広まるかを知ることだ」と述べている。

コレラ菌は淡水や海水に浮遊しているプランクトンと共生しており、温度上昇でプランクトンがふえるとさらにコレラ菌も増える。毒性も強くなるといわれる。地球環境がパンデミックに関係している。

コレラの治療は抗生物質は効かず、適切な生理食塩水療法でほとんどが回復する。COVID-19も意外と我々の手の届くところにあるのかもしれない(温かい玉子酒とか?)

 

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「覚悟」の上でのミツバチの特攻行動

2020年05月15日 | ミニ里山記録

 庭でニホンミツバチを飼っていると、秋のはじめ頃になって、キイロスズメバチ、コガタスズメバチ、オオスズメバチなどがやって来る。巣箱を襲って、最も被害を与えるのはオオスズメバチである。オオスズメバチはスズメバチ科の最大種で.日本全土に広く分布しており、その攻撃は集団的である。最初は1匹が飛来し、しばらくすると数匹となり,ついには10~20匹が巣箱に群がる。

加害の特徴としては,口器の大きな歯大顎で相手を次々とかみ殺し,コロニーの抵抗が弱まると、最終的には巣の中へ侵入して、幼虫,蛹を補食して自分の巣に運ぶ。占拠した巣箱には1-2匹の見張りを残していることが多い。

 スズメバチが来ると、巣口を固めたニホンミツバチの集団は体を一斉に振動させ、「シャー」という威嚇音を発する。これでニホンミツバチへの攻撃を少なくしている。この他にも、ニホンミツバチがスズメバチの攻撃を防衛する方法の一つとして、蜂球による熱殺戦法がよく知られている(写真1,2)。飛翔筋の発熱により内部温度は47度C以上になると言われている。

 

    

(ニホンミツバチの蜂球)               (蜂球のサーモグラフ。内部は47度C以上になっている)

 

 スズメバチの襲撃で、ミツバチは巣口付近で恐れおののいた様子で出たり入ったりしているが、突如一匹がスズメバチに飛びかかる。それを合図に周りの他のミツバチも集団で飛びついて蜂玉を作るのである。この特攻蜂には、それまで知られていなかった新種のRNAウイルスが感染していることを東京大学大学院理学研究科(生物)の久保教授らが発表した(2004年)。巣内に閉じこもっている臆病蜂には、そのウィルスは感染してないとした。また、このウィルスはミツバチの脳でのみ発現しているので、これが攻撃行動を引き起こしているのだとして、カクゴ(覚悟)ウィルスと名づけた。

当時の画期的な発見であったが、後になって、ミツバチの巣全体にカクゴウイルスの感染が広がっているケースも見つかり、これがミツバチの攻撃性を決めているのかどうかは疑問視されている。 

 

参考論文

T. Fujiyuki, H. Takeuchi, M.Ono, S.Ohka, T.Sasaki, A.Nomoto, T.Kubo (2004) Novel Insect Picorna-Like Virus Identified in the Brains of Aggressive Worker Honeybees. J. Virology 78, 1093-1100.

 

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爆死するシロアリ:動物世界で老人は無用の長物か?

2020年05月13日 | ミニ里山記録

  生殖能力をうしなって働きのない個体は生物集団の中では無用の長物どころか、食いぶちを減らすだけの有害因子でさえある。たいていの生物集団は一定の個体数を維持するために、カツカツの食糧で頑張っているのに、食うだけ食ってブラブラしている個体には居てほしくない。

生物的には役立たずの老人を大事にせよと、ありがたく教えてくれたのは、中国の儒教であった。儒教でなくても、「亀の甲より歳の功」とかいって老人は人々に尊敬されていた。何故なら、昔の老人は経験と知識と知恵を蓄積していたので、有益なアドバイザーとして後輩に利益をもたらしたからである。しかし今の老人は違う。たいていの老人は日進月歩の技術についていけず、スマホも碌に使いこなせず孫にまで馬鹿にされている。

まだ、それでもバアさんの方はよい。お盆の帰省ラッシュのテレビ放映を見ていると、子供は大抵「田舎のおばあちゃんの所にいく」という。「おじいちゃの所に行く」と言っているのは聞いたためしがない。おばあちゃんは今や生殖能はないにしても、孫の家族の手助けをすることによりクラスターに貢献できる。一方、おじいちゃは、ウロウロするだけで役立たない。技術、進歩に追いつけない只のデクの坊である。今やじいさん連中は居場所がなく、大変な世の中になっている。

こんな悲しい老人男子に降り掛かった災難が新型コロナウィルスである。こいつに老齢者が感染すると重症化し死亡する率が高い。おまけに不公平なことに、死亡率は男性の方が女性よりも1.6倍も高い。このウィルスは自然がつかわした高齢人口の調節ウィルスなんだろうか?

 

  人間社会の老人は例外を除いてあまり使い道がないが、昆虫の中にはそれに壮絶な役割を持たせて、集団を維持しようとする連中がいる。

 

図:シロアリ (Neocapritermes taracua)は爆発して、敵に害を与える背嚢を持つようになる(矢印)。黄頭のシロアリは兵士。参考論文より引用転載。

 

  戦争ではどこの国でも20歳前後の若者が兵隊に徴用される。一方、昆虫の中には老齢個体を特攻隊員にしたてて自爆攻撃させるものがいる。フランス領ギアナの熱帯林に生息するシロアリの一種Neocapritermes taracusは齢がすすむと、有毒な青い液体の入った背嚢が形成される(図)。そしてシロアリがコロニーを守る為に外敵と戦うときに、この嚢が敵に向かって破裂するのだ。年長の働きアリたちは、このような自殺的な利他行動でコロニーに貢献しているのである。年取った働きアリの大アゴは、ぼろぼろにすり減って、採餌や幼虫の世話には役立たないので、特攻攻撃はせめてものお役立ちとなるわけだ。

 このような自己破壊的な行動はミツバチなどの真社会性昆虫の不妊働き蜂階級でよく観察される。ミツバチは羽化後の時間に応じて労働分化がおこり、若齢のハチは巣内で働くが、老齢バチはリスクの高い外勤をするようになる。さらにエイジが進んでハチが老化すると、若いハチに巣口の外に押し出される。加齢臭がするのか、体表のワックの組成が変化するためであろう。

もっともアリやハチの労働階級は全てメスなので、若齢な個体にとってはすべて姉にあたる。年寄のオールドミスのアリやハチが自己犠牲の行動を示すのである。オスは交尾が終わると死んでしまう。邪魔になるので、巣にいる時間はほとんどない。

 

文献

Zoe Cormier「Termites explode to defend their colonies-Older workers use chemical reaction to increase toxicity of 'explosive backpacks」Nature doi:10.1038/2012.11074

(https://www.nature.com/news/termites-explode-to-defend-their-colonies-1.11074)

 

追記(2020/12/16)

   深沢七郎の短編「楢山節考」は棄老の風習を描いている。アメリカの作家ジャック・ロンドンの掌編にも、インディアンの老人が雪山に捨てられ狼に喰われる話を綴った「生命の掟」がある。実際、日本や世界で棄老があったのかどうか?そういった研究はあるのか?

 

 

 

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感染症の起源と歴史

2020年05月12日 | 環境と健康

 今世紀に入ってコロナウィルスによる世界的な感染症の拡大は3度目である。2003年SARS(重症性急性呼吸症候群)、2012年MERS(中東呼吸器症候群)と2019年COVID-19(新型コロナウィルス感染症)である。この他に2009年にはブタ由来のインフルエンザウィルス(H1N1)によるパンデミックがあった。

COVID-19の収束はいまだ見通せないが、感染症の歴史を振り返り、なぜ繰り返しこれが人類を襲うのか、それにいかに対処してきたのかを知るのは大切なことだ。

 現在の採集民族は他の霊長類集団と同様の感染症に苦しんでいるが、それ以外の人類の主要な感染症の起源は、農耕が開始されてからの新規なものが圧倒的に多い。麻疹、風疹と百日咳などのウィルスの生存が持続可能なためには、数十万のまとまった人口が必要で、これは農耕文明によって初めて可能になったのである。農耕により大規模な人間と家畜の世代の交代が生じた。家畜は野生の動物と頻繁に接近して、病原菌の移動の効率的な媒介者となった。ジフテリア、インフルエンザA、はしか、おたふくかぜ、百日咳、ロタウイルス、天然痘、結核などが、家畜から人に伝達された。一方、B型肝炎、ペスト、チフスが類人猿とげっ歯類から人に伝播した。

 ヒト病原体のほとんどは旧世界で発生したものである。これは旧世界の方が圧倒的に生物多様性が大きかったためである。それはヨーロッパが新世界を征服するのを容易にした。ヨーロッパの植民地化に抵抗する先住民は、剣や弾丸によるよりも新たに導入された旧世界の感染症で亡くなった。一方、旧世界のヨーロッパ人には、黄熱病とマラリアが到着するまでは比較的安全な環境であることがわかっている。

 

 動物由来感染症(ズーノーシス)では、動物からヒトに直接あるは間接に微生物が感染する。ヒトの病原体は約1400種も同定されており、このうち動物由来感染症の病原菌は半分以上の870種を占めている。さらに新興感染症の175種の病原菌の3/4が動物由来である。これらの病原菌と宿主(ヒト)との間には軍拡競争が続いている。感受性の高い宿主は減少・消耗するか、あるいは免疫能が進化して、発症率が低下していき延びる。場合によっては宿主の体内に病原菌を保持するキャリアーとなることもある。

Wolfeら(2007)は感染の段階で、ズーノーシスを次の5つに分類分けをしている。

Stage1 動物間においてのみ伝播サイクルがある。

Stage2 動物間において伝播サイクルがあり、ヒトにも感染する(狂犬病、日本脳炎、炭疽病)。

Stage3 動物からヒトに感染し、ヒトからヒトへの感染はまれ(エボラ、マールブルグ)

Stage4 動物からヒトに感染し、アウトブレーク(頻発感染)する(デング熱、COVID-19)

Stage5ヒトの間でのみアウトブレークする(エイズ、天然痘、麻疹)

 

              

(参考論文より引用転載)

人類の歴史で繰り返し襲った凶暴な感染症はペストである。これの病原菌はグラム陰性桿菌のYersinia pestisである。北里柴三郎が発見した。病原体を持つノミの咬傷によって感染し、リンパ球を初発の感染部位としする腺ペストを発症する。リンパ節は膨張しやがて、肝臓などの臓器で菌が繁殖する。死亡率は30-50%と高い。血液を通じて全身に菌が繁殖すると皮膚の出血斑を伴うので黒死病と呼ばれた。また頻度は少ないが肺ペストがあり、空気感染する。

 

 COVID-19の消長に関して、今後、梅雨や高温多湿の真夏に向かってどのように推移するのか関心がよせられている。地球温暖化は気温、湿度、降水量などを変化させる。これら気候要因は感染症の流行に影響を及ぼす。たとえば温暖化によって媒介蚊の生息域が拡大し、マラリアやデング熱の流行地域が広がっていることが問題になっている。デング熱は熱帯・亜熱帯性の発熱性の感染病であるが、ネッタイシマカやヒトスジシマカが媒介する。2014年に東京代々木公園で、蚊に刺された人が感染して大騒ぎになった。

 

温暖化によって健康被害を受ける可能性がある集団を脆弱人口というが、この割合が大きい社会のリスクは大きくなる。脆弱人口は都市部の高齢者、貧困層、慢性疾患者、幼児や密集住居者などである。温暖化と都市部の大気汚染によって循環器系疾患によって総体として住民に免疫力の低下が起こる。これは武漢やニューヨークでの爆発感染の背景の一つと考えらる。

 

 人間の感染症はほとんど動物起源であり、人は新しい病原体に攻撃され続けている。それ故に、こういった病原体を監視するための継続的な取り組みが必要である。これは、将来我々を脅かすかもしれない動物の病原体をすばやく検知し、それが世界的に広がる前に制御するのが目的である。

 監視は、動物ハンター、野生動物の解体業者、獣医師、取引に従事する労働者、動物園の労働者など、野生動物に高いレベルで曝露している人々に焦点を当てる。そのような人々は動物ウイルスに感染している可能性があるので、長期にわたって監視し、接触している他の人々まで追跡することができるシステムを構築するべきである。今回、SARS-Co-2が発生したとされる武漢の海鮮市場のような人々もそういったモニターの対象としなければならない。地域的モニターに限らず、世界的ネットワークのものでなければならない。これはWHOが担うべき役割である。この組織が特定の国や組織に政治的に利用されない本来の中立の姿にもどり、今後のパンデミックに備えてほしい。

 

 

参考文献

Nathan D. Wolfe, Claire Panosian Dunavan & Jared Diamond Origins of major human infectious diseases, Nature 447, 279-283, 2007

追記 (2020/03/09)

コロナウィルスは約1万年前に誕生した。人類の農耕文明が始まったころである。コロナウィルスンL63は1200年頃(鎌倉時代)、229Eは江戸時代、OC43は1900年頃(明治時代)に誕生した。人口の増加と新規コロナウィルスの進化は関連している可能性がある。

追記(2022/03/13)

天然痘は4000年ほど前にラクダと暮らしていたエジプト人を起源とする説がある。アフリカのげっ歯類に寄生した天然痘の祖先ウイルスがラクダに入り、それが進化してさらに人に感染した。コーディー・キャッディーの説である。

 

 

 

 

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病気の定義について

2020年05月11日 | 環境と健康

新型コロナウィルス感染症 (COVID-19)のウイルス保持者の80%ほどは、自覚症状がないか軽症ですむ。自覚症状のない不顕感染者は、はたして「病人」といえるのかどうか。

COVID-19の治療現場の報告によると、まったく自覚症状のないPCR陽性感染者の胸部CTをとると、肺がスリガラス状に映る肺炎にかかっているケースがあったそうだ。その患者は安静治療だけで回復した。このケースの人は、PCR検査も受けずCTも取らないでおれば、自分がSARS-CoV-2に感染したことさえ認識せずすごしていたであろう。あるいは、ちょっと身体がだるかったので「風邪でも引いたか」位ですんだいたのではないか。こういった例は、COVID-19が蔓延する前から普通にある話しだ。

この人はPCRを受けるまでは何の不都合もなく元気にくらしている。ところが、現在、日本ではPCR検査でSARS-CoV-2が陽性と出た時から、その人は指定伝染病COVID-19に罹った「病人」として扱われている。しかし、医療崩壊寸前の医者にとって、こんなピンピンした人が入院されては困る。しかし、念のためにとおもって取ったCTで肺炎をみつけた途端に、これは立派な病人でベッドに固定しないと駄目だとなる。ようするに情報と状況によって病気判定が変わってしまう。

 

まず人の病気をその原因からカテゴリーに分けると次の様になる。

A1)外的要因による生理機能のかく乱。

 外的要因としては物理的、化学的、生物的、栄養(食事)的、社会的環境がある。社会的環境には精神的(メンタル)なものを含む。中毒症状は化学物質による事が多い。放射線も急性および晩発性の障害を引きこす物理的環境要因である。感染症は細菌、ウィルス、原虫などが体内に侵入して病気を起こす。

A2)老化にともなう身体機能の不全。

 心筋梗塞、消化器不全、骨粗そう症、認知症などである。老眼や難聴も一種の老化病である。

A3)悪性新生物(悪性腫瘍)による身体機能の破綻。

 ガン細胞の転移と増殖による。良性腫瘍は経過観察ですむが、悪性腫瘍は処理が必要となる。

A4)遺伝子欠質による生理的機能の低下ないし欠落。

 パーキンソン病、ハンチントン病やフェニルケトン症などがある。マラリア抵抗性の鎌状赤血球遺伝子は貧血症を起こす。

  これらの原因による病気の症状は千差万別であるが、多くは熱や痛み、咳、嘔吐、下痢、悪寒などを伴う。これらは、病気に対する防御作用であって、病気そのそのものではない。たとえば、発熱は体内の病原微生物の増殖を防止するための生理応答である。火事に例えると、大元の災害(病気)は火事(ウィルスの増殖)であって、消火活動の水(体温の上昇)ではない。火事が大きければ放水量が多いように、病気も猖獗を極める状態では発熱も高くなる。

SARS-Co-2ウィルスは、ヒトにとって生物的環境A1)であるが、感染からエピデミックまでのプロセスには生態的仕組みがある。このウィルスはA2-4)の条件下で相乗的に病状を悪化させる傾向がある。

 

感染症の確定に関しては以下の4つのカテゴリーの状態を考える事ができる。

C1) 病原菌(ウィルス)に感染せず、症状もない。

C2) 病原菌(ウィルス)に感染しているが、症状はない。

C3) 病原菌(ウィルス)に感染しており、症状がある。

C4) 病原菌(ウィルス)に感染してないのに、症状がある。

感染症の病気としての確定は便宜的な事が多く、それほど単純ではない。神戸大学医学部の岩田健太郎氏は、どのように医者が病を規定するかによって変わると述べている。C3)がCOVID-19の感染確定=病気とされるが、「感染している」を検査するPCRは、大抵「症状がある」の後でなされる。4日ぐらいの微熱 (37.5度)が続かないと、厚生省の検査の基準に合格しない(最近やっと方針を変えたようだが)。COVID-19に認定してもらうのも大変なのだ。

 

一般的に人の病気は医療とのかかわり合いで4つに分類される。

 B1)医者がかかわらなくても自然治癒する病気。

 B2 )医者がかかわることによってはじめて治癒する病気。

 B3)医者がかかわってもかかわらなくても治癒しない病気。

 B4)医者がかかわると治癒しない病気。

普通は1)~3)までがよく記載されているが、4)はあえて庵主が付け加えたカテゴリーである。日本ではCOVID-19の感染者(PCR陽性者)について、B1)が80%ぐらい、B2)が16%、B3)が4%と計算される。ただ、市中感染者でPCR未受験者が多数いるので、実際はB1)が90%台で、B2)、3)はこの値よりづつと少ないはずだ。

B4)は本来ウィルスフリーの人がPCR擬陽性で間違って入院させられ、不運な事に院内感染したあげく死亡するという仮想的な例である。これは、調べようがないので統計には出てこないが、絶対ありえない事ではない。

 

 

 

 

参考図書(書評)

岩田健太郎『感染症は実存しない』インターナショナル新書 052, 集英社

 岩田健太郎さんは2月に横浜港のクルーズ船「ダイアモンド・プリンセス号」に乗り込み、ずさんな防疫内情を告発した人である。この書は病気というものの多くは、医者(医師会)が恣意的な基準をもうけて作った操作概念にすぎないとしている。その例として、潜伏結核(世界人口の1/3)はいままでは病気としては認めていなかったのに、アメリカではこれを病気として根絶しようとしていることをあげている。ところが途中で筆者に混乱がおこり物の実在論になってしまい、話が迷走し始める。哲学のマッハ主義に陥り頭が混乱している。池田清彦氏のような構造生物主義者の影響を受けたせいである。惜しい話しだ。

 病気、たとえば結核を「もの」ではなく「こと」と考えるべきであるというのが筆者の主張である。しかし、そうではなく、結核は結核菌という「もの」によって支配された「こと」であると言うべきである。この「こと」は結核菌の保持者によって多様なので、病気の判定が難しいというだけの話しである。身体に「もの」が存在するだけで病気とするのか「こと」が起こってから病気とするかは、医者の恣意的な判断によらざるを得ないというだけの話しだ。要するに医学(厚労省)はいまだいいかげんだという事である。

COVID-19の場合は「もの」(ウィルス)の存在(PCP陽性)によって病気として隔離される。これは本人の生命維持のためと感染防止の為である。AIDSの場合はHIV保持者だからといって、隔離されることはない。そうすると差別になる。

 

 

 

 

 

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人類の社会的な集団の適正サイズは150人

2020年05月10日 | 文化

 人類において感染症のエピデミックやパンデミックがおき始めたのは、おそらく人々が集落を形成した以来のことと思える。それでは、本来、人はどれほどのサイズの集団でくらしていたのだろか?

 英国ハーバード大学の人類学者Robin Ian MacDonald Dunbar(ダンバー)教授は、各種の霊長類の大脳新皮質 (neocortex)の大きさがその種における群れのサイズと相関することを発見した(論文1)。大脳新皮質は、群れの増大に伴う情報処理量の飛躍的な増加に対応して、大きくなってきたものと考えられたのである。それまでは、大脳新皮質の進化は生態的問題の解決能に関連していると考えられていた。

 

Dr Robin Ian MacDonald Dunbar

この関係式から計算されたヒト(人)の群れサイズは、約150人ぐらいとされた。ダンバーはまた、クリスマスカードの交換に基づいた西洋社会における平均的なソシアルユニットは、やはり150人ほどだとしている(論文2)。

 ユヴアル・ノア・ハラリはその大著『サピエンス全史』において、噂話によってまとまっている集団の自然なサイズの上限を150人としている。この「魔法の数」を越えると、メンバーはお互いに人を親密に知る事も、それらの人について効果的に噂話をすることもないと述べている。この限界を越えるために、人類は神話という虚構が必要だったというのがハラリのご自慢な説である。

 縄文時代の三内丸山遺跡で約5500年前に集落が形成されはじめた頃、住居の数は40-50棟で人口は約200人ぐらいだったそうだ。これもDunbarの150人仮説に近い。

このサイズが、感染症の抵抗性に関して最適なのかは、今後の研究が必要である。

 

論文と参考図書 

1) RIM Dunbar:Neocortex size as a constraint on group size in primates. 3ournal of Human Evolution ( 1992) 20,469-493.

2) RA Hill and RIM Dunbar: Social Network size in humans. Human Nature (2003)14, 53–72.

亀田達也 『モラルの起源』岩波新書 1654 岩波書店 2017

 

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 新型コロナウィルス症(COVID-19)とインフルエンザのトレードオフ

2020年05月10日 | 環境と健康

 最近、血圧の薬をもらいに近所の医院に行くと、待ち合い室はガラガラで患者がいない。コロナ騒ぎの前までは、結構混み合っていた。どこの医院でも外来の数が減っているそうだ。院内でのCOVID-19感染を恐れた市民が敬遠しているのと、不要の外出が減って事故など少なくなったせいである。他に、COVID-19の対策として、<マスク-手洗い-うがい>を人々が励行して、インフルエンザの患者が減ったことや、感染防止のために日頃の健康状態と免疫を高めるようにという勧告も影響しているのであろう。要するに、新型コロナウィルスが日本人、特に老人に「活」を入れたのだ。

日経メディカル(https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202003/ 564922. html)の報道によると、病院の53.4%で外来患者が減り経営にも大打撃を受けているそうである。とくに影響を受けているのは小児科、整形外科と消化器内科である。呼吸器内科でさえも少し減少している。患者が減っている理由を医師に尋ねたアンケートの中に、「いままでは不要不急の受診ばかりではなかったか」(50歳代病院勤務医整形外科)というのがあって笑ってしまったが、実際そのとおりだと思う。老齢者の中には病院通いが日常習慣になり、飲みもしない薬をもらってきては気休めにしている人が多い。

 季節性インフルエンザに罹る人の数は年により違うが1000万〜1500万人である。2019年中に、それが原因で亡くなったのは約3000人、間接死も含めると約1万人とされている。ところで、2019年12月から2020年3月にかけての季節性インフルエンザは、いつもとパターンが異なっていた。12月中は例年よりもインフルエンザの罹患者は多く、まれにみる大流行になるのではないかと危惧されていた。しかし幸いな事に、1月中旬になってから急にその数が減り始め、結局、例年の三分の一ほどにとどまった(下図)。

(ニッセイ基礎研究所公開の資料を引用・転載)

その理由として、暖冬説やワクチン有効説が言われている。ただ、12月も暖冬だったし、インフルエンザワクチンは効かないというのが定説になっているので、これらの説は間違っている。今年のワクチンが、たまたま効いたのなら12月の異常流行は説明できない。やはり、1月になって武漢肺炎のニュースに対応して市民がマスクや手洗いなどの衛生行動を取ったことが影響したものだと思える。1月中はまだ中国からの旅行客が街にあふれていた。

 今冬におけるインフルエンザの罹患者が減少した分、それによる死者の減数分は計算上では10000 x 2/3 =約6700人となる。今日現在、COVID-19による日本での死者は609人である。人数の比較(差し引き計算)をすると、この期間中に感染症で亡くなった人がかなり減った事になる。まだこれからCOVID-19の死者は増えるので、こういったプラスのトレードオフが今後も成立しているかどうかは分からないが、直近の日ごと感染者数の状況ではそうなりそうである。

 医者や無用の薬に頼らない「自立した健康」を、市民がこれからも目指せばさらに「病気」(神戸大学医学部教授の岩田健太郎さんによると、これは医者と患者によって作られる「共作概念」のようである)も、それによる死亡も減ると期待できる。COVID-19が真の健康とは何かを考え直す契機となれば良い。

 

参考図書

岩田健太郎『感染症は実存しない』インターナショナル新書 052, 集英社

 

追記(2020/05/14)

日本で1月以降にインフルエンザの流行が押さえられた原因として中国からのSARS-CoV-2ウィルスが観光客を媒介に入り込んだためとする論文が出ている。インフルエンザとコロナウィルスが競合したためであるとしている。

Y.Kamikubo, A.Takahashi, 『Paranamics of SAES=Co-2 by herd immunity any antibody-depenndent』(2020)

https://www.cambridge.org/engage/coe/article-details/5ead2b518d7bf7001951c5a5

 

追記 (2021/06/04)

あらゆる病原性ウイルスが競合し合うというのは都合の良い考え方で、あるウイルスが感染すると他のウイルスも共感染する事が多いと言われている。

D.プライド 『ヒトバイローム』ーあなたの中にいる380兆個のウイルスー

日経サイエンス 2021/07号 p46

 

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PCR陽性率の1週間リズム(weekly rhythm)の謎 ?

2020年05月07日 | 環境と健康

(厚労省ホームページより転載)

 

 上の図は、厚労省(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」)が、5月4日に発表した全国でのPCRの検査数とSARS-CoV-2ウィルスの陽性率を表したものである。陽性率に関して7日間隔の周期でリズムがみられる。厳密にはデーターを周期解析にかける必要があるが、ピークは日曜日ごとにみられ、目視的に1週間の周期性は明らかである。

検査実施数(棒グラフ)も日曜日が少ないが、これは検査場が休みになるので当然である。しかし、陽性率が日曜に限って、他の日より高くなる理由はなんだろうか?

 

次のような可能性を考えてみた。

1)サンプリングの問題

 土日は感染リスクの高い人の申し込みが多く、結果として陽性率が高くなる可能性が考えられる。しかし、役所では実際に検体を採取・PCRするのは月曜以降である。日曜分実施されたPCRの申し込みは数日前の週日期間と思える。日曜日には空港での検疫サンプルの割合が増えるが、微々たるものである。

2)検査システムの問題

 日曜日は週日とは違った検査場で実施されるので、検査感度が違いそれが反映された可能性がある。しかし、厚生省の発表では日曜は民間も含めて試験数は減るが、一様に減らしており、検査場の偏りはない。

3)集計方法の問題

 集計結果が検査当日ではなく、遅れて集計された日の分として登録されている問題がある(これは是正すべき問題点としてニュースで取り上げられている)。日曜日の検査数が少なめになるのはそれで分かるが、陽性率がその日だけ上がるは理解できない。

要するに、いずれの仮説でもすっきりとした説明ができない。奇々怪々? 誰か分かる人がいれば教えていただきたい

 

 日曜日のピークを無視して、PCR陽性率の推移を上のグラフでザックリみると、2月18-3月2日までは2%程度、3月3日ー24日3.5%、25日ー4月9日は上昇トレンドで3.5%から12%、以降4月10日ー4月29日は下降トレンドで12%から4%となっている。いずれの期間においても陽性率は日曜がピークになっている。大阪府におけるPCR陽性率の日時変化にも同様の傾向がみられる(http://www.covid19-yamanaka.com/cont3/16.html)。

 吉村大阪府知事は<大阪モデル>において、検査陽性率が7%未満が1週間続くことを自粛解除の用件の一つにしている。PCR陽性率は、実効再生産数を計算する根拠ともなるので重要な指標である。ただ、PCR陽性率はリスクが”濃縮”されたサンプルを取り扱っているので、実際の市中感染率とは乖離していることを認識しておく必要がある。本来はランダムサンプルで行うべきものである。後者は当然、前者より少なく、おそらく一桁〜二桁小さいものと思える。PCR被検査者のリスク”濃縮率”が時間や地域によって一定であれば、PCR陽性率は市中感染率のある程度の目安になるであろうが、基準が時と場所によって変わり、その保証がないのが問題がある。これに関して厚労省や専門委員会の公式の表明はない。

疫学の専門家が何らかの仮説を出すべきだが、多分データーが不足しており出せないのであろう。この段階ではPCR検査だけでなく抗体検査も必要になってくるが、抗体検査のデータはほとんどない(完全治癒者の身体にはウィルスはすでにいないのでPCRしても意味がなく、抗体検査で罹患履歴を調べるしかない)。

 

追記

抗体ができると身体から病原菌やウィルスが消滅するケースと、そのどこかに存在するケースがある。たとえばB型肝炎ウィルスは抗体が出現すると排除・治癒されるが、C型肝炎ウィルスの場合は抗体陽性のときにも存在する。抗体ができてもウィルスが表面のタンパク質を変化させて抗体と結合するのを避けるためである。SARS-CoV-2も症状が回復しているのにPCR陽性の患者がいるのはこういった可能性がある(宮地勇人 『感染症の科学』東京大学出版会、2004)

 

追記 (05/13)

東京都は検査数と陽性率を週単位で報告していたようである。東京都の検査結果が日曜日分にまとめて、その日分として計上されていた可能性がある。東京は陽性率が他府県に比べた高い時期があったので、ピークを形成した可能性が考えられる。現在では東京都のPCR検査はDailyになったそうだ。

 

 

 

 

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厚生省のホームページを見て驚く

2020年05月01日 | 環境と健康

本日 (5月1日)厚生省のCOVID-19関連のホームページを閲覧した。感染予防法について、つぎのような勧告(お願い)が列記されている。

1)外出を控える事、2)部屋の換気をして「三密」を避ける事、3)咳エチケットや手洗いをする事の三つである。マスクは、咳エチケットの際のティシューやハンカチとともに、感染者が飛沫をとばさないために使えとある。これでは、ハンカチがあればマスクはいらないということになる。すなわち、依然として単独の勧告項目としてあげらえてない

いまや全世界でマスク着用が感染防止のために叫ばれているのに驚きの頑迷さである。

厚生省がマスク着用を忌避するのは、これを支配している日本医師会がWHOと深くかかわっているためではないかと思う。前からマスク不要論を展開するWHOに対する一種の忖度である。官僚はどこでも、担当部署の平時の業務には精通しており機能的に動くが、出会ったことのない課題には、想像力も独創性もないので、事大主義でやらざるを得ない。

その他の理由としては、マスク着用を勧告すると、依然として手にいれにくいマスクの製造や供給を指導できない政府の無能ぶりが、ますます露になるためかもしれない。

 このブログで何度も主張してきたように、マスクは感染予防の切り札である。市販のマスクによっても感染者の咳の飛沫は十分の一になる。対面する人がマスクをしていると、吸引も十分の一。両者がマスクをかけていると、吸引量は百分の一になるはずだ。N95マスクを都市部の全ての住民に罰則付きで着用させれば、日本のコロナ感染は1ヶ月で収まる。たしかに不便かもしれないが、コロナ禍でいつまでも経済が止まり、社会が長期にわたってガタガタになっているよりましであろう。

いまや日本の都市部で歩行者はほぼ100%がマスクをしている。総理大臣でさえもマスクをして国会答弁している。WHOや厚生省を無視して自分の感染リストを減らそうとする知恵がある。

 それにしても政府の無為無策にはあきれかえる。考えついた事は、一世帯に布マスク2枚配布とは!日経新聞によると、マスクの買い取り費用が90億円で配布費用が466億円だそうだ。合計556億円!こんな事に予算を使うぐらいなら、至急、マスク工場の補強・製造にあてればよいのにと思う。野党も、くだらない揚げ足取りばかりせずに、もっと有効な対案を出しなさい。

GDPで世界3位の先進工業国のくせに、街ではマスク、消毒用のエタノール(エチルアルコール)、体温計など、いつまでたっても手に入らない。今日のテレビ報道では、人口当りのPCR検査数は低開発諸国レベル。いつも悪口をいっている近隣諸国の方が、感染防止もうまく合理的にやっている。劣化しているのは、為政者だけではない。しばらく我慢すれば良いのに、パチンコ屋に列をなす市民の姿。一体この国はどうなっているのだ?

 

追記2(2020/06/08)

WHOはついに、一般市民が布製を含むマスクの着用を推薦するように、各国政府に求めた。感染拡大を効果的に進めるための改定としている。人が密集した環境という条件付きながら、感染や症状の有無を問わず対象を拡大した(2020/06/07京都新聞朝刊7面)。やはり相当、頭が悪く判断力が無い集団である。この指針にしたがって、厚生省も新型コロナウィルスのHPを改変するはずだ。

 

 

 

 

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