寺田寅彦 『科学歳時記』角川ソフィア文庫 2020
昭和七年 (1932)の寅彦の随筆「烏瓜の花と蛾」を読んで驚いた。後の太平洋戦争における東京大空襲の予言が正確になされているからだ。
「昭和七年の東京市民は、米露の爆撃機に襲われたときにいかなる処置をとるべきかを真剣に論究しなければならない」と述べ、その対策として市民の5分の一が消火防衛隊となって、活躍する必要があるとしている。そして「何ヶ月か何年かないしは何十年の後に、一度は敵国の飛行機が夏の夕暮れ烏瓜の花に集まる蛾のように、一時に飛んで来る日があるかもしれない」という予言をしている。
この年、第一次上海事変が勃発し、満州国建国、五・一五事件がおこり、ヨーロッパではドイツとソ連がポーランドを分割した。戦争の足音は、たしかに遠くの方で聞こえてはいたが、東京が空爆されるという状況は考え難い。寺田寅彦の恐るべき慧眼であったと言える。寺彦の先生であった夏目漱石は小説『三四郎』の中で、広田先生の口を通じて「日本は滅びるね」と予言していた。日露戦争で勝利して日本人が舞い上がっていた頃の話しである。漱石の影響があったからかもしれない。
追記:角川ソフィア文庫 2020版の解説は竹内薫による。それには「一部の物理学者たちは、感染症の高度な数学を駆使して、専門家委員会などより、もっと正確に感染者を予測できるといる。しかし、寺田寅彦の言うように実際はそう簡単にはいかない」と書いている。同感である。
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