京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

人類とウイルスとの共生の証拠?

2022年03月19日 | 環境と健康

 

フランク・ライアン  『ウイルスと共生する世界』〈多田典子、福岡伸一訳)日本実業出版社

ウイルスが宿主に寄生するだけでなく、共生関係をもって共存する例がこの本で紹介されている。その一つが、ヒト内因性プロウイルスのエンベロープ遺伝子envが胎盤形成に必須という事実である。現在これはシンシチンー1タンパク質をコードしている。この蛋白はトロホブラストと呼ばれるヒト胎盤の境界面で発現する。1億5000万年以上前に、胎盤を獲得するために卵生の祖先によるウイルスからシンシチンの取り込みが必須だったようだとされている。しかし逆の仮説も考えらえる。シンシチン遺伝子が切り出されてレトロウイルス遺伝子に取り込まれたとも。

植物ー真菌ーウイルスの共生によって宿主の植物が耐熱性を獲得する例も面白い(p266).。細菌やアーキアとウイルスとの相互作用は、何十億年にもわたって生態系で重要な役割を果たしてきた可能性がある。

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キケロ「老年について」を読む

2022年03月03日 | 評論

 

キケロ著 大西英夫訳 「老年について」(講談社学術文庫2019) 

 

「無謀は華やぐ青年の特性、智謀は春秋を重ねし老人の特性」という名言で有名なキケロの著である。

 キケロ自身は登場せず、主に大カトー(84歳)が語るが、それとスキピオーとラエリウスとの対話の形式を取っている。古代ギリシャ人と現代人とでは平均寿命が違うので、老人といっても、今の老人よりもかなり若かったと思えるが、当時の哲学者や知識人はけっこう長命だったようだ。

 カトーの訓話には様々な偉人のエピソードが入混じ、いささか退屈であるが、要は「老人になったから衰えたのではなくて、そもそもそれ以前からの心構えや生き様が悪かったからだ」としている。「学問研究や仕事に常に孜々として携わって生きる者には、老年がいつ忍びよったか分からない」とも述べている。これは、当時のギリシャ人にとっても稀に幸せな環境(人生)の人だけの話だろうね。また、死は苦しみではなく、労苦に満ちたこの世を離れ、先だって黄泉の国に行った懐かしい人々にあえる至福の時であると述べている。これは母親が亡くなったときに、浄土宗のお坊さんがお通夜で話していたのと全く同じ話なので驚いた。老人がこの世を去るのは木の実が熟すれば自然に落下するのと同じだとも言っている。

 訳者の大西氏が後書きで詳しい解説をしている。ただ、そこには大カトーが自然(Nature)との結びつきを大事にしている話(15章16章17章)の考察が抜けている。ここでは青々と茂る牧場と並木、大地の稔、ブドウの栽培、農耕、ミツバチの群れなどの記述がある。老年になり書斎にとじこもり思念をこらしているだけではだめで、自然とのふれあいが大事だといっているのだ。これは現代人にも心すべき忠告といえる。

養生訓めいた話は出てこないが、老年とは何かを考える必読本である。

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『くらしのアナキズム』(松村圭一著)について

2022年03月02日 | 評論

 この著は混迷する文明社会を考察する一助となる。一番考えされられたのは、多数決=民主主義という考えは誤りだという指摘だ。これは少数者をコミュニティから排除してしまうからとしている。単純多数決ではなく、少数意見でも自分が無視されたと思わせない社会の例として、南スーダンのダサネッチという部族の生活を挙げている。しかし、はたして文明社会でそんなやりかたが通用するのだろうか?高知県窪川町の原発誘致問題などが日本での例として取り上げられているが、あまり納得できる話ではなかった。

 たしかに未開部族社会には本能的(innate)とも思えるコミュニケーションの方法があるようだ。今西錦司(人類学者・サル学の開祖)はその著「ダーウィン論」(中公新書479)で、未開部族民が以心伝心でもって共同作業における分業をおこなうと述べている(p105)。ポナペ島の島民は、誰の命令や打合わせもないのに、各自適切な作業をばらばらに行って立派な小屋を建てたそうである。この部族社会の労働における平等な分業体制が、少数者を排除しない民主主義を成立させているのかもしれない。しかし、これは文明の発達した開発諸国では適用できる話ではない。それに代わるのは、スイス型の直接民主主義と無制限討論方式しかないが、これはすごく時間のかかるものだ(下村湖人「次郎物語:後編」のテーマだったような気がする)。よほど気の長い民族でないと無理っぽいし、クダクダ議論しているうち、プーチンみたいな気の短いらんぼう者にたちまちやられてしまうだろう。

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