京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

サバクトビバッタの大発生 : なんでも小さなクラスター段階で押さえる事が大切!

2020年04月26日 | 環境問題

アフリカ東部を中心にサバクトビバッタ(Schistocerca gregaria)が大量に発生し猛威を振るっている。熱帯収束帯と呼ばれるゾーンにはバッタの大群が発生しやすいが、今回はバッタパンデミックとなってアフリカからアジアに拡大しつつある。過去70年で最悪の被害を与えているそうだ。日本では対岸の火事のように思っていたが、新型コロナウィルス症(COVID-19) とのダブルパンチで、おそろしい食料危機の可能性がある。

 

空から見た白い雲のようなサバクトビバッタの大群飛(参考文献より転載)

 

 大規模な飛蝗の記録は昔からある。旧約聖書の『出エジプト記』には「バッタはエジプトの全地に上がり、地上のすべての面を覆い、木も畑の青物など緑のものは何も残さなかった」と記されている。紀元前125年には、北アフリカのローマ植民地で、飛蝗のために約80万もの人々が餓死したという記録が残っている。

パールバックの小説「大地」にも中国の飛蝗の話しがでてくる。「ある日、南の空に小さな雲が見えだした。はじめは地平線に小さく霞のように見えた。風に吹かれる雲のようにあちこと動くのではなく、じっととまっていたのだが、やがてそれが扇形にひろがりはじめた」という下りがある。

ベ・エス・ソツノフの書にやはりサバクバッタの甚大な被害の記録がある。この群れは小さいものでも全重量が1万トン以上に達する。巨大なバッタの大群は、数百、数千平方キロメートルにひろがることがある。ある博物学者が紅海を横断しているバッタを観察し、この大群の占める面積は、約5800平方キロメートルにおよび、その数は概算で25京匹、総受量はなんと4400万トンになった。

 サバクトビバッタは単独で生活しているときは、孤独相(solitary phase)の形態を示し、一方群れで生活するときは群棲相(gregarious phase)を示す。体色や行動が、それぞれはっきりと違っている。群棲相のものは集団を形成し、広範囲に移動する。これらは見た目で全然違うので、昔は別種のバッタと考えられていた。しかし、イギリスの昆虫学者ボリス・ウヴァロフ (1912)がこれらは同種のものであり、生育環境の違いで相変異することを発見した。視覚ではなくアンテナを通じた接触刺激が、バッタのホルモンバランスを変えて相変異をおこすようだ。最近では、遺伝子レベルでのバッタの相変異の研究も進んでいる。(Nature Communication 5, Art.Num. 2957, 2014)。日本にはサバクトビバッタは生息せず、かわりに孤独相のトノサマバッタがいる。

群飛するバッタの一群は1000億匹にもおよぶので、これを絶滅させるのは不可能である。捕食者は主として鳥だが、焼け石に水。大群はいずれ周りの食料を食い尽くして消滅するが、一部のバッタが孤独相になって生き残る。これがもとになって、環境が変わるとまた集団になって群翔を繰り返す。

結局、サバクバッタの大群形成を防止するには、孤独相の小集団が群棲相集団になりかける段階で、殺虫剤を散布するなどして撲滅するほかない。そのためには広いエリアーのモニターが必要になるが、その後の被害を考えるとたいしたコストではない。

これは感染症の拡大を防止するのに、小さなクラスター段階で閉じ込めてパンデミックを防ぐのと同じ原理である。

 

参考文献

C.B. ウィリアムズ『昆虫の渡り』(長澤純夫訳)築地書館株式会社、 1986

ベ・エス・ソツノフ 『生物たちの超能力』東京図書、 1973

 

追記(2020/06/03)

サバクトビバッタはヒマラヤを越えることはできないが、輸送用のコンテナに付着して西に移動している。ウィルスと同様にグローバルな拡大を起こしているらしい。下手したら日本もバッタ感染が起こる可能性があり、これの検疫が必要かもしれない。

 

 


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