「勝負谷橋」名前は橋が設置された場所の小字地名「勝負谷」に由来すると考えられます。そこで地名としての「勝負谷」について考えてみます。
「民俗と地名・民俗地名語彙辞典(上)」(三一書房)
【ショウブ、ショープ】
地すべりの災害の起りうる土地に住んでいる人々は、水が最大の誘因である場合が多いのだから、水の管理をきちんとすればいいわけである。その水路管理の場所をショウブ(菖蒲)とかショウズ(ショーズ)という。
昔は浄化の意味もあったのか、水路に菖蒲を野生させていたので、水路または水汲み場をショープといった。
〔小川豊『地名と風土』二巻〕
ショープは水路のこと。菖蒲谷、勝負谷と宛てた地名は多し。菖蒲はショーズやシズと同根で「細流」を意味する地名。
植物の葛潜も、そういう環境の名によっている〔『日本地名学』Ⅱ〕。
菖蒲の地名は、北海道以外の全国に多い。
菖蒲、菖蒲池(沼、沢、日、追、作、野、根、尾、越、峠)、勝負谷(平)、勝生、勝部、勝風、庄部、庄府、庄布
シ 川、生部、正部、正部谷(日、家)、相婦、小分谷、醤油谷価 〔『日本の地名』〕。
勝負、菖蒲などは「ショウブ」地名であり表記として勝負、菖蒲、勝部・昭府・庄斑などなどで表記されています。
そしてこの「ショウブ」地名は北海道や離島などを除いた列島各地にみられるそう珍しくない地名です。
新日本地名索引全三巻・別巻地名レッドデーターブック(アッポク社)
国立科学博物館 金井弘夫(植物科学研究部部長) 編
国土地理院1/25,000地形図から全地名38万余件の読みと漢字 ・位置を収録したわが国最大級の地図地名資料。自然科学・博物学・文学・統計等の広い分野で活用されている。博物学全般にわたる基礎資料としても有効。
大変な労作です。「落合」「相生」地名の分布を調べたことがありますが、国土地理院の地図を広げて虫眼鏡片手に定規でなぞって拾い出したことがあります。
それから比べれば格段に効率がよく便利なものです。
新日本地名検索・五十音編から「ショウブ」地名を抽出しカウントしたのが下記の表です。
国土地理院1/25,000の地図上に200ヶ所「ショウブ」地名があります。
下菖蒲(山形・佐賀)、下正部(長野)、下正夫(徳島)、下菖蒲庭(福島)などの地名があります。
このように○○ショウブを抽出すればもっと多くの「ショウブ」地名が存在すると思われます。
即ち「ショウブ」地名は、それほど珍しくないことが分かりました。
更に縮尺の大きな地図であればもっと多い「ショウブ」がカウントされるかもしれません。
また、時代を遡った場合はどうなるのか興味のあるところです。
「勝負谷橋」で名前の由来で参考にした「小字地名」を全国に拡大すればかなりの数の「ショウブ」地名を採集することができるはずです。
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