alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

新しいマイクロシステム

2012-10-23 | 女性と中医学
これは、2012年10月22日月曜日に学院のサークルでお話しした内容の再録です。

 先ほど、デモンストレーションで手太陽小腸経の少沢で腰の痛みをとるという「根結療法」を紹介しました。これは、『霊枢・根結篇』の理論に基づいています。わたしは基本的に中医学を専門にしていますが、特に『霊枢』の刺法を研究しています。経絡弁証や五刺・九刺・十二刺などです。根結療法もその一つです。
 わたしは学校で、服を脱がずに、できるだけ早く治療するという必要性から、できるだけ早い治療を目指してきました。数年前は奇経八脈の八脈交会穴を中心に使い、次は十二井穴を用いた根結療法が中心になりました。さらに中国式の耳鍼と中国式の手鍼を中心に組み合わせました。昨年から卒業生の冨田先生に教わったYNSA(山元式新頭鍼)をさらに組み合わせました。YNSAはいままで使ってきたマイクロシステムと切れ味と完成度が違います。YNSAと比較した中国式の耳鍼と手鍼の完成度に不満を持って、フランス式の耳鍼の研究をはじめました。ジョゼフ・ヘルムズラファエル・ノジェBeate Strittmatterなどの耳鍼の文献をこの夏は翻訳しながら研究していました。

 そのような時に以下のニュースを読みました。「アメリカ国防総省がNIHのNCCAMと急性痛のワークショップを開いた(『ザ・ジャーナル・オブ・コンプリメンタリー・オルタナティブ・メディスン』September 28, 2012)

 これはリチャード・ニムソウが開発した「バトルフィールド・アキュパンクチャー(戦場鍼)」です。リチャード・ニムソウはアメリカン・アカデミー・オブ・メディカル・アキュパンクチャー(AAMA)の出している『メディカル・アキュパンクチャー』の編集長で元アメリカ空軍の軍医です。

 リチャード・ニムソウの「バトルフィールド・アキュパンクチャー」を研究して、驚きました。彼は、できるだけ早い20分程度の治療を目指して、フランス式耳鍼と韓国式手鍼(高麗手指鍼)を組み合わせた独自のシステムを開発していたからです。また、ジョゼフ・ヘルムズから学んだ中国式頭皮針も幻肢痛の治療に取り入れていましたし、『メディカル・アキュパンクチャー』ではYNSAが何度も取り上げられ、ニムソウ氏は山元敏勝先生を尊敬しているようです。
 これは驚きました。わたし自身がYNSAと耳鍼と手鍼を組み合わせたマイクロシステムの組み合わせたクイック治療について『中医臨床』で書いたばかりだったからです。

 リチャード・ニムソウの論文を読んでいくと、さまざまなことがわかりました。まず、ニムソウ氏はフランスのポール・ノジェの耳鍼を学び、ジョゼフ・ヘルムズやラファエル・ノジェの友人であること。ジョゼフ・ヘルムズの鍼灸コースで学び、軍の鍼クリニックで働いている際に、フランスでDavid Almniという神経科医にASPという耳鍼用鍼を神経学に基づいた臨床応用をニムソウ氏は学びました。
 2001年、フランスから帰国直後にテリー・オルセン医師に誘われ、韓国人でカルフォルニア大学アーバイン校で研究していた趙長熙(Zang Hee Cho)教授に紹介されました。趙教授はfMRIを用いて鍼の研究を行い、『ニューズウィーク』で取り上げられ、大きな話題になっていた方です。ここで趙教授が「真の鍼と偽の鍼の違いは、fMRIでは視床と帯状回で判別できる」という情報をニムソウ氏に伝えます。ニムソウ氏はさっそくフランス式の耳鍼の視床と帯状回にASPを使ったところ、強い鎮痛効果を得たそうです。これにオメガ2やゼロポイント、神門を組み合わせて、「バトルフィールド・アキュパンクチャー」として発表し、さらにゴールドASPとシルバーやステンレスのASPを組み合わせて、イオン差で刺激を強めたアップデイト版の耳鍼や韓国の高麗手指鍼をレーザー鍼と組み合わせた「ニムソウのラピッドアキュパンクチャーテクニック」を開発しています。

 ここで、「真の鍼と偽の鍼の違いは帯状回で判別できる」という情報を読んで、わたしは驚きました。3ヶ月前の2012年7月に『プロス・ワン』という雑誌の「fMRIによる鍼刺激の特徴:システマティックレビューとメタアナリシス」という論文にまさに「真の鍼と偽の鍼の違いは、中部帯状回で記述される(Differences between verum and sham acupuncture were noted in brain response in middle cingulate)」という記述があったからです。趙長熙(Zang Hee Cho)教授は1998年に「経絡経穴の特異性を発見した」と騒がれ、後に論文を撤回していますが、この帯状回に関しては、正しかったようです。

【鍼はプラセボか?】
 西洋医学では、ここ数年、「鍼はプラセボか?」という議論が盛り上がっていました。『日経サイエンス』のような一般科学雑誌にも片頭痛の鍼はプラセボかという議論が載っていたので、よく覚えています。
 これはイギリス最初の代替医療の大学教授になったエツアート・エルンストが2009年に『代替医療のトリック』でそのような議論を行った影響が大きいです。また、ドイツの大規模試験で、真鍼と偽鍼はいずれも対照群と比較して顕著に改善したものの、真鍼と偽鍼の違いがなかったことに由来しています。
 ただ、全日本鍼灸学会など日本の学界が批判しているように、欧米のEBMの鍼灸研究はプラセボや選穴に問題がありすぎです。例えば、ブライアン・バーマンさんという学者の腰痛での配穴は、確か腎兪・大腸兪・委中・腰陽関、膝痛の配穴は膝眼、足三里、陰陵泉、陽陵泉と太溪、懸鍾などです。これは日本の鍼灸師から見ると、これで鍼の効果を判定されると非常に不満があります。プラセボだけの問題ではないです。

【ウエスタン・アキュパンクチャー】
 わたしは学問をやっている以上、一応、西洋医学にも目を配っていた程度なので、あまり西洋医学に詳しくないです。しかし、「バトルフィールドアキュパンクチャー」には衝撃を受けました。
 ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルのアキュパンクチャー・イン・メディシンの編集長のブライアン・ホワイトさんによれば、現代の西洋医学鍼灸、ウエスタン・アキュパンクチャーはトリガーポイント鍼や脊髄分節による鍼、あるいはエレクトロ・アキュパンクチャーです。

 基礎理論では、最近読んだ、カナダのクイーン大学のローレンス・リヨンさんの論文が面白かったです。
Neurophysiological Basis of Acupuncture-induced Analgesia—An Updated Review

 特に驚きだったのは、朝鮮民主主義人民共和国の金鳳漢(キム・ボンハン)のボンハン学説が完全に復活していたことです。わたしは自由神経終末、ポリモーダル受容器で習ってきたので、半信半疑ですが、現在、論文を4本ほど読んで、新しいボンハン学説について、理解しようと努めています。





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