alternativemedicine

Studies about acupuncture and moxibustion and Massage.

心経と小腸経と乳房

2012-04-02 | 女性と中医学
 現代中医学の理論は入り口としては、よく出来ていると思う。しかし、最近の中国における標準化、および現代中医学を盲信して古典を読まれない中医師の先生方には、ちょっと?!と思うことが多い。はっきり言って、人間的にも傲慢で謙虚さに欠ける方が多いと感じている。わたしが中国伝統医学にほれこんだのは、それとは全く逆の動機なので、本当にガッカリさせられることが多い。

 例えば、学問的に、女性の乳房に関する中医学理論はどうなっているのだろう?わたしの知識では、金元四大家の朱丹渓(しゅたんけい)の学説が標準だと思う。朱丹渓は、「乳房は足陽明胃経に所属し、乳頭は足厥陰肝経に所属する(乳房,陽明胃所経、乳頭,厥陰肝所属)」と論じ、この学説は、1680年の明代、『鍼灸大成』の乳中穴に関する記載でも転載されているし、現代中医学の秦伯未先生の著作にも明快に書かれている。

 確かに、生理前に肝欝気滞から乳房脹痛となる場合は、これは太衝など肝経のツボを用いたほうが良いし、乳汁分泌不全症(乳少)の場合、庫房や乳根にSSPで刺激する療法も症例報告されている。現代中医学の乳房は胃経で、乳頭は肝経という理論はよく出来ているように見える。

 しかし、いっぽうで、乳汁分泌不全症(乳少)には、『鍼灸大成』などで、小腸経の少沢天宗、あるいは心包の募穴の「ダン中」といったツボが用いられている。

 中医学古典の唐代、孫思ばく著『千金翼方』では、「婦人無乳法 初針兩手小指外側近爪甲深一分」と書かれている。これは明らかに、手太陽小腸経の井穴、少沢だろう。

 中医学古典の隋時代の巣元方(そうげんぽう)著『諸病源候論』では、「女性の手太陽小腸経と手少陰心経の経絡は、下では月経血、上では乳汁と関係している(婦人手太陽、少陰之脈,下為月水,上為乳汁)」と明快に何度も書かれている。

 わたしの中の整理の仕方は、「経絡としては、足陽明胃経が気戸・庫房・乳中・乳根と流れている」、「臓腑としては、乳汁の原料は、『血』であり、肝は血を蔵し、心は血を推動するという関連がある」、「肝の気の疏泄が失調すると、乳頭は肝に属しており、乳房脹痛となる」、「心経と小腸経は胸部で乳房と関係しており、心経や小腸経の問題があると乳房のトラブルとなる。小腸経の少沢や天宗が乳房の治療に使われ、心包の募穴であるダン中や、心包の兪穴・厥陰兪と同じ高さの膏肓に灸などが使われる」と整理している。

 つまり、経絡弁証の立場から言えば、乳房と関連するのは、胃経・心経・小腸経・肝経となる。治療穴は、乳根や足三里、ダン中や厥陰兪・膏肓、太衝などが代表となる。

 わたしの実感としては、少沢や天宗を乳房疾患に使うのは「経験穴」といえばおしまいだが、『諸病源候論』の理論のほうがしっくり来る。経験的に、血虚の女性は、生理不順で乳房も小さいことが多い。下焦の肝血と上焦の心血と関連しているように思う。上焦の心血は胸部の乳汁の原料になっていると考えている。それなら、「ダン中」や「天宗」「少沢」などで胸部の経絡の詰まりをとったり、心経・小腸経の気を強くすることで乳汁分泌不全症の治療ができるのも納得できる。

 ただ、自分の中では、「胸部の気滞」と「心血虚(心の気血虚)」がうまく整理されていない。乳房部の疾患の経験はあまり無いから。

 考えてみれば、中医学の歴史の中でも、女性の疾患、特に乳房部の疾患の経験は文化的に少なかったのではないか? 本来なら、女性鍼灸師が増えてきた今こそ、こういった弁証の部分を整理して欲しいのだが。

※こういった事を考えたのは薬膳を勉強した際に、『アズキ(赤小豆)』を研究したとき。「赤小豆」は「麻黄連ぎょう赤小豆湯」という漢方処方に配合される生薬でもある。アズキは日本では催乳効果と利尿効果があるとされている。また、コイをアズキで炊いたスープ「鯉魚赤小豆湯」は利尿作用で有名であるが、催乳にも用いられている。これも赤小豆が赤色で心経と小腸経に帰経するということと関係しているように思う。こういった傍証から、古代人は心経と小腸経と乳房の関係を知っていたはずだけど、明確な文献による証拠が見つからない・・・

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