古い本だが、昔読んだ本の中に故小此木啓吾氏の
『幻想からの脱出・・・現代ナルシシズム社会の中で』(講談社ゼミナール選書)
がある。
これは昭和56年(1981)に書かれた本である。
まだ教育改革が始まる前である。
教育改革が始まってから、日本の教育は生徒に対して
『夢を追いかけなさい』とばかり言っている。
あるいは
『自分を大切にしなさい』
『オンリーワンの自分になりなさい』
そういうことばかり言っている。
個性化教育が始まってからこの傾向は加速した。
ところが小此木啓吾氏はこの本の中で次のように言っている。
『人生は、断念の術さえしっかり身につけていれば結構楽しいものだ。ところが断念することのできない人間は一生苦しまなければならない。』(P182)
『精神発達を考える上でも、子どもの時に断念することをいかにうまく身につけるかどうかが大事なことになってきます。健康な精神発達がとげられるかどうかはそれにかかっていると言っても過言ではないでしょう。』(P183)
『われわれ(精神科医)のところへお見えになる患者さんというのは、断念ができないために悩みをたくさん抱えているわけだけれども、最終的には、断念をどうやって身につけ直すか、ということが基本的な仕事になっているわけです。』(P186)
『フロイトはそれについて、精神分析は人間を幸福にするためにあるものではなくて、むしろ断念とそれに伴う苦痛、悲しみとかいうものを人間にとって仕方がないものとして体験できるようにすることを目標としていると言っているのです』(P186)
『夢を追いかけなさい』と言う前に、
『あきらめなさい』『がまんしなさい』という訓練ができていないと、
そこから精神的な病理が発生する。
教育改革以来の、自由にのびのびの個性化教育は、このことを無視して、さまざまな子どもの病理を発生させていると言えないだろうか。
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