1971年のドル=ショック以来、米ドルは一貫して下落している。
2011.10月には、1ドル=75円まで下落した。
ところが安倍政権誕生の直前の2012.11月から、ドルは高騰しはじめ、昨年末の2015.12月末時点で、120円にまで上昇した。
ここ3年間のドル高傾向はまだ続くのだろうか。
ここ3年間のドル高傾向は、ドル=ショック以来の50年近くのドル安傾向の中で、例外的な期間に過ぎないのではなかろうか。
ちまたでは今年2016年もドル高傾向が続くといわれているが、その背景の一つとなっているアメリカ経済の好況感ははたして本物だろうか。
しかし、アメリカ経済が好調なのは、金融などの非製造業に限られている。
逆にアメリカの製造業は、ドル高のために輸出が伸びず、低迷が続いている。
アメリカの金融業界はドル高の今こそ、ドル高を利用した海外投資を有利に行うことができる。
例えば、ドル高円安の中で、アメリカ企業は日本企業の株や証券などを安く手に入れることができる。
1ドルで75円の買い物しかできなかったことと、同じ1ドルで120円の買い物ができることを比べれば、ドル高による恩恵は絶大である。
しかしこのことは円買い需要を生む。それはつまり円高(ドル安)要因である。
金融業などのアメリカの非製造業が好況に推移している中で、ドル高の影響のためアメリカの製造業は低迷している。
そのためアメリカ製品は海外で売れず、輸出も落ち込んでいる。
アメリカの製造業の業績は悪化している。
このためアメリカの貿易赤字はさらに膨らんでいる。
輸出よりも輸入が多いのであるから、円買い需要が増大し、これも円高(ドル安)要因になる。
日本もここ数年、貿易赤字が続いているが、主な輸入品である原油価格の下落を受け、輸入額そのものは減少している。つまり貿易赤字が縮小している。
これはドル買い需要が落ち込み、ドル高要因が減少するということである。(原油はドルでしか買えないから)。
つまりここでもドル高要因は抑制され、逆に円高(ドル安)要因が増大する。
原油安の要因は主にアメリカのシェールオイルなどの供給過剰にあり、この傾向は当面続きそうである。
さらにイランに対する経済制裁が解除され、イラン原油の供給が加わり、原油安の要因にもなる。
このような実体経済を見てみると、ドル安要因が多く目につく。
しかしアメリカはどうもこれでは困るようである。
そこで昨年末に決定したのが、アメリカの利上げである。
アメリカが金利を上げれば、その金利を求めて世界中の資金がアメリカに集まる。これはドル買い需要が増大することであり、ドル高要因になる。
さらに、アメリカが金融縮小に向かう中で、日本やヨーロッパは金融緩和を続けている。
この金融政策の違いが続けば、ドルは自然と高くなる。
リーマン・ショックによる金融危機以後、めちゃくちゃにばらまかれ一旦は下落したドルだが、アメリカが金融緩和を止め、その代わりに日本とヨーロッパが金融緩和を行うようになれば、供給過剰な通貨が下落するのは自然な道理だ。
このことは、円安・ユーロ安の要因になり、その反面のドル高の要因になる。
しかしこれは不自然で人為的な為替操作である。
こういうことは長くは続かないだろう。
しかし短期では成り立つかもしれない。
アメリカの製造業はこの50年近く一貫して低迷を続けている。このような国の通貨は下落する。
しかしそれを防ぐために、アメリカは人為的な手を打っている。
実体経済の強化ではなく、金融操作によって。
この猫だましによって今しばらくはドル高が維持されるだろう。
しかしそれが長期的に可能かというと疑問である。
少なくとも1ドル=120円というのは高すぎる。110~100円が妥当ではなかろうか。
さらに今年は、TPPが批准されるかどうかの年である。
ドル高の中でのTPP批准が実現すれば、アメリカはいったいどういう行動にでてくるだろう。
ISD条項によって、アメリカの企業が日本政府を訴えることができるようになる。
訴えられたら最後、判断を下すのは実質的にアメリカの配下にある世界銀行の下部組織だから、ほぼ日本の負けは確実である。
ドル高の中でアメリカ金融機関による日本企業の買収が進められ、日本はますますアメリカ金融資本の強い圧力のもとに置かれるかもしれない。
そういう時期にドル高なのは、アメリカにとって非常に都合の良いことである。
アメリカの実体経済の脆弱性、特にアメリカ製造業の弱さを見てみれば、今この時期にアメリカが利上げをする必要はない。
それどころか今回の利上げはアメリカが国内の製造業を見捨てたも同じだ。
昨年末にアメリカが約10年ぶりの利上げをしたことは、ドル高の今、
さらなるドル高を演出し、
その資金で外国企業を一気に買収し、
その過程で起こる訴訟に対して、TPPのISD条項を使って、訴訟の勝利を勝ち取るためかもしれない。
アメリカは資金的にも、法的にも、TPP締結国に対して有利に立つことができるわけだ。
何が起こるか分からない、気をつけなければならない1年になりそうだ。
今年の選挙はよくよく考えなければならない。ゲームは終盤にさしかかっている。