赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

アメリカの病理が示唆するもの  コラム(338)

2020-10-23 22:02:39 | 政治見解



コラム(338):アメリカの病理が示唆するもの


文明の実験場、アメリカの行方

11月3日に行われるアメリカ大統領選挙、その行方に全世界が熱い関心を寄せています。それは、アメリカと友好関係にある国だけでなく、何かとアメリカと対立する諸国の人びとでさえアメリカの大統領選挙には関心を抱かざるを得ない状況になっています。

そのことは大統領選挙を単に政治的、経済的な意味合いで見ているのではなく、アメリカという国が、国内のあらゆる矛盾や人種偏見などの人類的な課題をどのように収れんさせていくのか、あるいは、より一層激しい分断が進み国家としての存続が可能なのか、人類の行く末と照らし合わせて見ているからにほかなりません。

もともとアメリカはヨーロッパからの移民を基礎として、無数の異邦人を「共和政体を支持すること」のみを約束させて受け入れた国です。そのためアメリカは、いかなる宗教・慣習・文化や言語も押し付けることなく、いろいろな国の伝統をもつ人びとで構成されてきた国家です。いわば、人類にとってあらゆる障壁を取り払った壮大な実験場であり、その成否が今後の人類が一つにまとまることができるか否かの命運を握っているからこそ無関心ではいられないのです。


政治的な激しい対立が示唆するもの

現在のアメリカは三つの大病――政治的イデオロギーの対立、人種差別、そして新型コロナウイルスによる人間相互間の分断――を患っています。まるで、人類が抱える大きな苦悩のすべてがアメリカに集約したかのような様相を呈しています。

第一の病である、政治的イデオロギーの対立は、言うまでもなく大統領選挙に顕著にあらわれています。

長年培われてきたアメリカの政治決定過程は、政党政治から切り離し超党派で処理するという強力な動機がありました。つまり、あらゆる政治的対立は超党派のコンセンサスに転換させることが求められたのです。したがって、大統領選挙もあらゆる階層のあらゆる人々の共感を得ることなしには成り立たず、常に中庸を得た行動が要請され、利害と主義の違いを共通の信条に昇華させることに成功しなければ勝利を得ることはできませんでした。

トランプ大統領は、既得権益を守りたいエスタブリッシュメントを解体してアメリカを原点に戻そうとする変革運動を行ったため、既得権益側にしてみれば承服しがたいものがあり、彼らは配下のメディアを総動員して徹底抗戦をはかっています。トランプ対反トランプの壮絶な戦いの原因はここにあります。

したがって、世界中の人びとの目にも奇異に映る罵詈雑言だらけの大統領選挙は、本来のアメリカ大統領選挙とは大きくかけ離れたものであることは確かです。しかし、同時に、現状の泥仕合が伝統的なアメリカの政治手法とは真逆であることを見せつけることで、理想的な民主主義とは何か、善なる政治とは何かをことさら際立たせていることも事実です。善なるものと反するものを見て、はじめて善なるものに意味がわかってくるわけです。

世界の人びとには、トランプ大統領と反トランプ陣営の壮絶な戦いに目が向いてしまいますが、その戦いの奥には、反面教師として、政治とは社会的な新しい共通の目標の下にすべての人が協調していくことが重要であるという命題を認識していくことの方が重要であると思います。 


人種差別の根源にあるもの

アメリカの最大の病理である人種差別の問題は、アメリカの建国精神とは真逆のものです【※1】。

【※1】「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」――トーマス・ジェファーソン起草の独立宣言――

全米を覆う深刻な人種差別問題は、その奥に、ユダヤ教やキリスト教の系譜に存在する「選民思想」に色濃く影響されています。その延長線上に白人の間では有色人種を人間とみなさない考え方が出来上がってきたわけです。

筆者は学生時代、京都大学教授だった会田雄次氏の『アーロン収容所』という本を読んでショックをうけたことがあります。本の中で、英軍の捕虜になった会田氏が「英軍は、なぜ日本軍捕虜に家畜同様の食物を与えて平然としていられるのか。女性兵士は、なぜ捕虜の面前で全裸のまま平然としていられるのか」という疑問から、「白人は日本人を含む有色人種を人間として見ていない」という結論を導き出したからです。

どうやら、この感覚は今でも白人間では常識の範疇にあると思います。したがって、人種差別をなくすには政治制度をいくらいじったり罰則を定めても意味はなく、根本的には人間としての倫理観や人類全体の根の部分にある人間観、宗教観を変えない限り解決はできないと考えるべきです。(なお、宗教観の問題は根本問題なので別の機会に論じます。)


新型コロナウイルスが教えてくれること

新型コロナウイルスの問題について、当ブログでは「集合想念が憎悪、不安、不信、不満、恐怖心などの、ガティブな想念で満たされていると、その想いの波動が共鳴して様々な社会不安や戦争、ひいては大規模な自然災害を引き寄せることになる」と述べたことがあります。このことからアメリカでコロナ禍が収束しないのも、ネガティブな想念で全土が覆われ深刻な政治的対立と人種差別による憎悪感情の拡大が原因で、新型コロナウイルスをますます勢いづけているように感じられます。

新型コロナウイルスが人類に与えた最大の衝撃は、人と人との接触ができないことにあります。人びとは行動の自由を制限された上、ソーシャル・ディスタンスを求められたことで他の人との物理的な距離だけでなく、精神的な距離もとらざるをえなくなりました。

人は一人で生きていくことはできません。他の人との関わり合いの中で、家庭や会社、組織、地域社会であれ、さまざまなコミュニティの中でそれぞれの葛藤がありながらも、互いに協力し助け合うからこそ、生存する意味、活力を、希望を見出しているのです。コロナ騒動は私たちに「人が社会的存在」であることを改めて認識させたわけです。

つまり、新型コロナウイルスがアメリカ人のみならず、全人類に突き付けた命題は、一刻も早く無用な論争、不安を煽って恐怖の社会を構築するのではなく、お互いの立場を理解尊重し、個人の利益追求よりも社会全体の幸福のために何を共同し、協力して築き上げる大切さを教えてくれているように感じられます。コロナ禍にあってそのことに気づいた人は、最大の幸福感の享受者かもしれません。



人類が一つになろうとしはじめた今、文明の実験場であるアメリカで起きている三つ病理をよく観察することが、人類のこれからの生き方やコミュニティのあり方が見えてくるのではないでしょうか。

アメリカで起きていることを表面的にしか見ないメディアの見解に染まることなく、どうすれば人びとが調和し、それぞれの国が協調して地球全体を大調和に導けるのかを考えるヒントがそこにあると理解していくことが重要ではないかと考えます。



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