赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

①『超限戦』とは何か――中国の戦争指南書 コラム(483)

2022-11-22 00:00:00 | 政治見解



コラム(483):
①『超限戦』とは何か――中国の戦争指南書


これまでの国際社会の対立構造は、第二次大戦後の冷戦という「資本主義 vs 共産主義のイデオロギーの戦い」、そして、20世紀末から21世紀初頭にかけての「キリスト教 vs イスラム教の文明の対決」の時代だと言っても過言ではないと思います。

これからは当面、「専制国家 vs 民主主義国家の対決」に向かうことになると推測されるのですが、それまでの西欧文明を基軸とした国際関係のルールが全く通用しなくなると思われるのです。その理由は、『21世紀の対立構造は、専制国家 vs 民主主義国家』で述べた通りです。

そのことは、1999年に出版された中国軍の戦略書『超限戦』で明らかにされていると思います。著者の一人は、中国の軍人で、国防大学の教授にもなった喬良という人物で、世界各国で翻訳され、ヒットしましたが、内容を一言で言うと「戦争にルールはない」ということです。すなわち、前線も、後方もなく、金融戦、情報戦、法律戦、そしてサイバー戦争、ひいては生物兵器まで使うのは当然で、「目的を達成するためには手段を択ばない」ということを明確に述べています。

当初、この本が出たときアメリカ側はあまり注目しませんでした。なぜなら、この本には最初から最後まで「リンリ」という観念が一つも入っていなかったからです。人類の戦争の歴史において、どんな野蛮な戦争でも一定のルールはあったのですが、この本にはそれがない。倫理観・道徳観ゼロの本だったからです。

しかし、アメリカは2001年の9.11テロで、この『超限戦』が現実のものとなりつつあると感じて、これを教科書にして勉強するようになりました。本来なら、この本、中国の手の内を明かしてしまう内容ですので秘密にすべきだったはずなのですが、中国人特有の功名心で発表したようです。ここが中国人の欠点かもしれません。

さて、『超限戦』の解説は、作家の一田和樹さんの書評を全面引用させていただこうと思います。



2001 年のアメリカ同時多発テロを予言した新しい戦争の指南書

本書はおよそ 20 年前の 1999 年に刊行され、2001 年のアメリカ同時多発テロを予言した書物として注目された。しかしこの本がすごいのは予言が当たったことではなく、世界に先駆けて新しい戦争と社会のあり方を描き出したことにある。刊行の 15 年後、ロシアの軍事ドクトリンでも新しい戦争の概念が提示され、欧米はこれをハイブリッド戦と呼ぶようになった。現在、世界を席巻している新しい戦争が超限戦なのである。

「あらゆるものが手段となり、あらゆるところに情報が伝わり、あらゆるところが戦場になりうる。すべての兵器と技術が組み合わされ、戦争と非戦争、軍事と非軍事という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られるのだ」という文章が端的に示しているように、超限戦とは戦争のために、軍事、経済、文化などすべてを統合的に利用することである。2016 年のアメリカ大統領選やスペインのカタルーニャ独立騒動へのロシアの介入も超限戦なのだ。宣戦布告を行っていた軍事主体の戦争は、もはや過去のものとなった。

あらゆるものが兵器となり、あらゆる場所が戦場となるため、その戦果によって国の盛衰が決まる。EUやNATOはすでに超限戦(彼らの言葉ではハイブリッド戦)に対抗するための組織を作り、戦いを始めている。

本書では豊富な史的考察と先人の戦略論の整理を行い、現在(本書の書かれた 1999 年当時)に至るまでに起きた変化を分析し、第Ⅰ部の新戦争論で戦争そのものの変化について論じ、第Ⅱ部の新戦法論では戦いの指針を示している。

核兵器の登場より前の人類は、より高い殺傷能力を持つ兵器を求めていた。しかし核兵器の登場によって敵を 100 回でも 1,000 回でも殺せるほどの殺傷能力を手に入れ、「恐怖の均衡」が生まれ、殺傷能力の向上にブレーキがかかった。同時に世界人権宣言を始めとする人権への配慮、生態系への配慮が加わり、兵器の慈悲化が始まった。被害を抑える方向に進化が変化したのだ。精密殺傷(正確な命中度)兵器と非殺人兵器が現れ、その結果湾岸戦争の1カ月にわたる空爆の民間人被害者はたった千人に留まったという。

変わったのはそれだけではない。戦争の目的、戦争の場所、戦争の主体(兵士)、戦争の手段と方式、あらゆるものが変化した。現代の戦争は軍事だけではなく、貿易戦、金融戦、新テロ戦、生態戦(気象兵器、環境破壊兵器など)、メディア戦、ハッカー戦、資源戦、経済援助戦、文化戦などあらゆる領域に広がった。そして国家対国家だけでなく、国家対テロ組織といったさまざまな組み合わせで戦争が可能となる。

その結果、どうなったか……著者ははっきりと「軍事的脅威はすでに国家の安全に影響を及ぼす主因ではなくなった」と断じている。言葉を換えれば非軍事戦争の重要性が増大しているのである。アメリカは非軍事戦争の対処が遅れており、この点で脆弱だと本書は指摘する。日本はアメリカよりも脆弱だろう。

著者が非軍事戦争の例に挙げたのはヘッジ・ファンドで世界特に東南アジアの金融に破壊をもたらしたジョージ・ソロス、テロでアメリカに打撃を与えたビン・ラディン、メデジン・カルテルを築いた麻薬王エスコバー、テロで日本を脅かした麻原彰晃、ハッキングで大きな被害をもたらしたケビン・ミトニックである。アメリカの『国防報告』にも主要な脅威として、テロや経済的脅威、麻薬取引、国際犯罪を挙げるようになったという。

本書が書かれた時代にはなかったが、フェイクニュースを中心とするネット世論操作はまさに超限戦だ。こうしたルール無視、無責任な相手には国境も法律も関係ない。全ての国が国境を越えた安全保障を考えるようになっている。


【続く】


  お問い合わせ先 akaminekaz@gmail.com【コピペしてください】
  FBは https://www.facebook.com/akaminekaz
 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 米中首脳会談⑥――台湾問題の行... | トップ | ②:日本は『超限戦』に敗北し... »
最新の画像もっと見る

政治見解」カテゴリの最新記事