赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

令和の米不足は農水官僚の怠慢

2024-09-07 10:41:05 | 政治見解
令和の米不足は農水官僚の怠慢


令和の米不足

8月末から深刻な米不足がつづいています。8月上旬、あるスーパーで米を買おうとしたら、埼玉県産の1銘柄(新米)で、それも数袋しか置いてなくて、5kg・2600円で購入しました。かなりの割高感がありました。

その後、報道なので米不足が言われるようになってスーパーなどに行ったときは米のコーナーを見ていましたが、いつも在庫はありませんでした。米が不足している状況で報道が「米が手に入らない」と煽れば、余計に米を買いたくなるのは人間の心理かもしれません。

9月に入って、米を買おうとうちの奥方さまが走り回っておりましたが、昨日(9月6日)に5軒目のスーパーで千葉県産の新米を見つけ、5kg・3000円で購入しました。この値段なら今年の春の時点で、安い米なら10kgの値段ですから、かなりの高騰だと思います。


米不足の原因は何か

2023年(令和5年)は、米には「異常」な年でした。記録的な夏の暑さによる高温障害、米どころの水不足が起きて、高温障害による品質低下と、それによる精米歩留りの悪化によって、「隠れた米の不作の年」であったと指摘されています。すでに、昨年秋の時点で本2024年(令和6年)の米不足は予見されていたと思われます。

これに加えて。米は価格維持を目的に、減反による需給調整が行われています。2023年(令和5年)産、水稲の作付面積(は134万4,000ha(前年産に比べ1万1,000ha減少)であり、もともとの作付けからして、10万トン近く収穫量を下げる計画となっていたことが分かります。この減反政策は、平成15年くらいから平成28年までの間の減少幅は年間で8万トン、平成29年以降は年間10万トン程度の減少で推移しています。

減反による需給調整は、2023年(令和5年)の不作によって、農水官僚の「見込み違い」を発覚させました。かれらの思考形態は「正常性バイアス」=「直面する可能性のあるリスクや危険を過小評価し、事態が悪化しないという楽観的な見方」に陥っていたのです。後述する備蓄米の放出でも同じ思考をしています。


1993年の米不足

1993年(平成5年)の記録的冷夏は、米不足を深刻化させました。冷害のために稲の記録的な生育不良から、同年後半から翌1994年(平成6年)前半にわたって食糧市場が混乱し、米不足の騒動が長期化しました。

1993年(平成5年)の米需要量は1,000万トンでしたが、収穫量は783万トンになる事態となり、政府備蓄米の23万トンを総て放出しても、需要と供給の差で約200万トン不足する状態で、細川内閣は9月、タイ王国・中国・アメリカ合衆国から合計259万トンの米の緊急輸入を行うと発表しました。従前の「米は一粒たりとも入れない」という禁輸方針は脆くも崩れ去った瞬間です。


余談ですが、当時の米不足は今でも覚えています。帰路の地下鉄の中で、10kgの米袋(国産?)を担いで、これ見よがしに通路を歩いている人も見かけて吹き出した記憶がありますが、たしかに国産米は手に入らず、細長いタイ米を食べていた記憶があります。

なお、1993年(平成5年)の記録的冷夏の原因は、20世紀最大級ともいわれる1991年(平成3年)6月のフィリピン・ピナトゥボ山(ピナツボ山)の噴火が原因で発生したと考えられています。夏の気温は平年より2度から3度以上も下回っていました。


政府備蓄米

政府備蓄米は、凶作や不作時の流通安定のために日本国政府が食料備蓄として保存しているものです。農林水産省は2020年(令和2年)3月の会見で、「米は政府備蓄米が約100万トン、JAや卸売業者等が保有する民間在庫が約280万トンあり、これを合わせて需要量の6.2カ月分、約190日分になる」と公表しています。

ただし、政府備蓄米はあくまで凶作や不作の際の安定した流通への備えであり、家の食料安全保障を主目的としているものではない(2010年の日本の食糧自給率における米の割合は24%ほどである)としています。したがって、大規模な災害において備蓄米は放出される事がありますが、「これは非常食とは性質が異なるものであり災害時の緊急の食料については各自治体や各家庭での備蓄を推奨する」というのが農水省の見解です。

備蓄米の維持管理には“結構なお金”がかかります。農林水産省の資料(2021年決算額)によりますと、「保管などにかかる経費は年間約113億円。また、農家から米を買って、5年が経過したら飼料用として売ります。買い上げる価格より安く売るため、損が出ます。この売買損益約377億円を含めると、合計で年間約490億円かかることになります。これは税金から支出されていて、490億円をかけて備蓄しておくべきかどうかなどは、過去に議論されてきました。」

過去に備蓄米を供給した例は、2003年(平成15年)には米の不作が原因で一部供給されました。2011年(平成23年)に東日本大震災が発生した際には米がなくなり、4万トン程度が放出されました。そして2016年(平成28年)に熊本地震が発生した際にも放出されました。お金はかかりますが、有事の際のセーフティーネットという位置づけになっています。


令和の米不足、農水官僚は国民のことよりも法令を優先させる

現在、“米が品薄”となる中、大阪府の吉村洋文知事は「ひっ迫しているのであれば米を眠らせておく必要はない」として、国に備蓄米の放出を求めました。

一方、坂本哲志農林水産大臣は放出に慎重な姿勢を見せています。その理由は、「米は民間流通が基本で、政府が備蓄米をどっと出してしまうと、需要供給や価格に大きな影響が出ることが懸念されるから」というものです。

しかも、食糧法第2条で『政府は米穀の供給が不足する事態に備えた備蓄の機動的な運営を図るものとする』とする一方、食糧法第3条では『「米穀の備蓄」とは米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備え…』となっていて、法令上の要件は、「供給が不足」と「生産量の減少」にあり、令和の米不足はで、「生産量が不足していないため、“当てはまらない”」との見解にあるようです。

国民の困窮よりも、法令の方が大事な官僚の思考形態には困ったものです。もっと国民のことを考えてもらいたいものです。

なお、大凶作などで民間在庫が著しく低下する見通しとなれば、農水省は部会を開き、その市場の状況などに合わせて最終的に農水大臣が放出を決定するという方針も決まっています。有事の際は2~3日で供給ができるようです。


農水省だけでなく、日本の行政は、いったん決まった政策を状況が変わってもなかなか修正しない――これは官僚特有の『無謬性』にもとづくものですが、この陳腐な発想を一刻も早く捨て去り。複雑かつ困難な社会課題に適時的確に対応できる、より機動的で柔軟な対応を切に望みます。そのためには、行政の国民の側に立っての思考が必要なのはいうまでもありません。

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