田舎の倉庫

Plala Broach から移植しました。

後味の悪さ~熊谷達也著「いつかX橋で」

2012年09月19日 | 読書三昧

終戦前後の混乱期、杜の都仙台を舞台に苦悩しながらも懸命に生きた若者群像を直木賞作家の熊谷氏が丁寧に描いています。小説新潮2007年12月号~08年8月号に連載された397頁の大作です。

物語~昭和20年7月10日未明から始まった米軍機による絨緞爆撃は、仙台市中心部を焼け野原に変えた。この空襲によって、主人公の裕輔は母と妹を失った。二人の遺体を火葬場へ運び荼毘に付したが、その時、母とはぐれ、遺体が運び込まれてはいないかと探しに来た美少女と出会う・・・

家屋の焼失12,000戸、死者2,755人を出した仙台空襲の惨状や戦後の混乱期を懸命に生きる人々をこれほどリアルに描いた小説を知りません。こうした戦争の犠牲の上に、現代のわが国があることを忘れてはいけないと思いました。

ただ、主人公と親交を結ぶ特攻帰りの若者が、ヤクザの道に踏み込み(主人公を巻き込んで)惨めな死を迎えるラストは、救いがありません。何とも後味の悪い小説でした。