昨日の快晴も一日天下で、今日は晴れたり曇ったりのはっきりしない
お天気になってしまいました。ただ、湿度が低いのが救いです。
読者に深い感銘を与えずにおかない藤沢周平氏の小説は、どこに
その礎があったのか、読者ならどなたにも興味あるテーマです。
この本は、毎日新聞山形支局長だった粕谷昭二氏が、山形県鶴岡市
出身の作家、藤沢周平氏の郷里の史実、情景、方言、人間関係、食習
慣などを、同氏の分身”小菅留治”(藤沢氏の本名)が郷里にあって生き
つづけていたからに相違ないと、関係者や作品ゆかりの地を訪ね歩い
て得た記録です。
この記録は、三つの部分から構成されています。
1.旧知の人たちー12人へのインタビュー
2.作家の土壌ー父母、家庭、薫陶を得た人々
3.描かれた庄内ー作品に描かれたもよりの地を訪ねる
これら多方面からの探索を通して、藤沢文学の普遍のテーマである市井
の庶民や下級武士のすがすがしい生き方、つましくも堅実に生き、権力
におもねることのない清々しい姿は、気候が温和で比較的豊かであり、
人情に厚く、中央の権力に迎合せずに来た庄内地方の風土が育んだ人々
の生活と暮らしがもとになっているといいます。
また、直木賞受賞作「暗殺の年輪」の舞台となった海坂(うなさか)藩は、
山形県鶴岡市の庄内藩を模していますが、その一節に、次のような描写
があります。
・城は町の真ん中を貫いて流れる五間川の両岸にあって、美しい五層の
天守閣が町の四方から眺められる・・・。
ここに描かれた「五間川」は、鶴岡市を南北に流れる「内川」であることを
「描かれた庄内」で紹介しています。
この本は、作家藤沢周平の実像に迫り、その作品の真髄を理解する上で
またとない参考書であるとともに、藤沢ファン必携の書と言えましょう。