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吉田公平『伝習録 陽明学の神髄』タチバナ教養文庫

2010-08-16 23:03:10 | 哲学・宗教
王陽明の言いたいことがやっとわかってきた。
この本は王陽明の『伝習録』現代日本語版である。
ほんとうに凡人でもよく理解できるように訳してある。

著者は解説の最初でこう書いている。
「王陽明が繰り返し述べているのはただ一つのことである。性善説、つまり人間の本質は本来完全であるから根源的に悪の世界からすでに救われているという確信に根ざした、自力による自己実現・自己救済に他ならない。これを基本的視覚に据えてこそ、はじめて『伝習録』の一つ一つの語録の主旨が明白になると言っても過言ではない」

意識とは具体的な客体なしにははたらくものではない。・・・意識を誠のままにしようと思ったならば、意識がはたらきかけている具体的な対象に即して主客関係を正しくし、意識が誠のままにはたらくのを妨げている欲望を昇華して、本来の天理の発現にゆだねたならば、良知はこのような主客関係においては、さまたげられることもないので、本来の自己を発揮することができる。
p.39

解説では、こう書かれている。
王陽明は朱子学の格物論の物を、外在する客観物が内在する理法と誤解しているが、主体者と他者との社会関係を正しくすることが格物と理解した。そのため、格物を「主客関係を正しくする」としている。正しくする主体が良知・明徳である。良知=主体の客体に対する働きかけが「意」。はたらきかけが主客関係(物)を生む。この意に良知が発現してその完全さを実現することが「誠意」。格物・致知・誠意はひとつのことなのである。

主体の客体への働きかけを「感」、客体が自らの本質を主体に顕現することを「応」という。主客関係の緊張とはこの感応のこと。

また、弟子が「私は書類整理や訴訟処理がとても煩雑困難なので、学問しようにもできません」と言ったら、王陽明はこう言ったそうだ。

役人としての仕事を遂行する中で学問をしなさい。それでこそ主客関係を正しくするということなのです。・・・被疑者の態度が横柄だからと言って怒ってはいけないし、彼らの陳述が如才ないからと言って喜んでもいけない。・・あなた自身がいささかでも平衡を失って他人の是非を抑圧しないことが、主客関係を正して良知を発揮することです。実践の場を離れて学問するというのでは現実逃避です」p.88

良知についても、王陽明の言葉からなんとなくわかる。

良知=是非
良知とは、正しいことは正しい、正しくないことは正しくないと判断する主体者のことに他ならない。・・・それをうまくやれるかはその人いかんによる。
P.252

七情(喜怒哀懼愛悪欲)を善か悪かと決めつけることはできない。しかし執着することがあってはいけない。七情が執着するとそれを欲という。それが良知を蔽うのである。良知がそれに気づけば蔽いはなくなり、本来の姿を回復する。p.256

素質の優れた人なら、本源に視点を据えて、人心の本体はもともと微塵の汚染もない明澄なものである、もともと「未発の中」であることをストレートに覚醒する。その次の素質の人は、習心がどうしても身についてしまうから本体は蔽われてしまう。そのためにとりあえず意念の場で着実に善を実現し悪を排除させるのである。その努力が成果を生み、汚染物がすっかり除去されると本体はもとどおりすっかり明澄になる。P.315

子どもが先生や年長者を畏敬することをわきまえることなども、子どもの良知がそうするのである。進んでお辞儀して尊敬の念を表すのも、子どもが主客関係を正しくして、良知を発揮したことなのである。P.338

中国の思想は今ひとつよくわからない。
これは西洋思想でも似ているが用語の定義が人によって違うからだろう。
いや用語=概念の理解の仕方によって思想を発展させていると言ってもいいかもしれない。孔子の人間の本性を巡る孟子の性善説も、陸象山、王陽明へと発展しているのだろう。

王陽明が当時の朱子学に対して、本を読んで賢くなるのが人生の目的ではなく、また仏教のように山にこもって悟りをひらくのではなく、現実の世界の中で人間が本来持っている善の世界を実現しようとしたことはよくわかる。それが権威主義批判になり敵をつくったことも王陽明にすれば仕方がないことだったのだろう。
この思想と三島由紀夫の割腹自殺との関係についてはよくわからないが。いろんな読み方ができる思想なのかもしれない。

幕末の志士に影響を与えたのは王陽明のこういう言葉だろう。

きみが本当に聖人になってやるぞという志があるなら、良知はすっかり発現するのである。それ以外の考えが良知にまといついているようでは、ぜひとも聖人になってやるぞという志ではないのだ。p.189

安岡正篤『王陽明』PHP文庫

2010-08-16 22:01:37 | 哲学・宗教
王陽明という人はホントに波瀾万丈な人生だったことがわかる。

頭はよかったのに公務員試験で2度も落とされ、やっと公務員になったのに、時の政治を批判して左遷され、命まで狙われる。もともと病弱なのに辺境の地でよけいに悪化し、やっと戻って来れたと思ったら、今度は反乱の鎮圧に行かされる。それを平定し、褒美が与えられるかと思ったら、有力な家臣は危険だと逆に命を狙われる。

それでもこの人の人徳で、行くところ行くところで人々から尊敬される。それはこの人が職業や身分に分け隔てなく人々と接し、学校を作り、講義をして各地で貴重な存在になったからだ。馬に乗って反乱を平定する公務員というのは、今の自衛隊の幹部のようなものなのだろうか。

王陽明が50歳になるときに有名な「致良知」の説を提唱する。

「良知」という言葉は人間の優れた知能知覚という意味ではなく、「良」はア・プリオリ(先天的)という意味で、「知」は実に意義深い知能=良知良能の意味。
天地万物を究明しようと思えば、まず我のうちにかえって自性を徹見せねばならない。われわれの意識の深層は無限の過去に連なり、未来に通ずる。
「致」とは極めるという意味。
つまり、「致良知」とはもともと自分がもっている天然自然の働きを極めること、ということなのだろうか。

いまひとつこの本では王陽明の思想そのものはよくわからなかった。

この著者の交友関係は政治家とか警視総監とかなんだか怪しい。

幕末の志士に陽明学が影響を与えたらしいが、今の政治家はどう読んでいるのだろうか。

小倉昌男『経営学』日経BP社

2010-08-14 20:18:50 | マネジメント・ガバナンス
1年前にノートを取りながら読んで、感想を書こうと思っていたら、忘れていた。

この本がそのまま経営学のケースに使えるすばらしい本。

小倉氏の経営哲学とヤマト運輸成長への影響を拾ってみる。

○過去の成功体験は、時代が変わり、新しい仕事を始めるときには妨げとなる。

宅急便への参入の際に、小倉氏はこれまでの常識を見直した。
優良な得意先を断ってまで、物流の仕組みを変えた。 
多数の小包がどこにでも配送できるように、ベース → センター → デポのハブ・アンド・スポークのしくみを宅急便の流通システムでつくった。
  

○よい循環を起こす出発点は「よく働くこと」

SD(セールスドライバー)を導入した。
「サービスが先、利益は後」と配送車に書いて、社員の自覚を促した。
ネットワークを拡大し、徐々に社員を増やした。

○経営とは自分の頭で考えるもの

それまで郵便局が独占していた市場がビジネスになるということを考えた。
市場の捉え方、営業所の必要数などをフェルミ推定で考えた。
ex.宅急便に必要な営業所の数の目標を警察署の数にした。

○儲からないから止めてしまうのは情けない。儲からないものを儲かるようにするのが起業化魂。経営のロマン。

それまで採算が取れないと言われていた小口荷物の輸送の宅急便を採算が取れる事業にした。
新しいサービス、スキー宅急便、ゴルフ宅急便、クール多急便などを考案した。


○組織をフラット化し社内のコミュニケーションをよくれば、経営のスピードも速くなる。

SDの採用、事務と労務の一本化を実行した。

○上司の目は頼りにならない。下からの評価と横からの評価。項目は実績でなく人柄。


リーダーには、ビジョンをつくる力、ビジネスモデルを構築する力、具体的な目標に落とし込む力、組織を作り上げる力が必要と言われるが、小倉氏はそのどれもが優れている。

ビジョン:郵便局だけの独占事業であったゆうパックの市場に宅急便というあらたなビジネスを生む。福祉事業で障害者に一人前の給与を支払う。

ビジネスモデルの構築:宅急便で採算が取れる事業になるかを、ハブ・アンド・スポークシステムや営業所の数、太平洋側の主要都市から拡大するなどの施策としてつくった。

目標に落とし込む: ダントツ三カ年計画などの目標を掲げ、実行した。

組織を作り上げる: 全員経営の考え方で、ブルーカラーとホワイトカラーの一本化や労働組合を見方につけることなど、それまでの常識を変えて組織をつくりあげた。

何度も読み返したい日本のすばらしい経営者の本であり、小倉氏自身による貴重な経営書である。

西浦裕二『企業再生プロフェッショナル』日本経済新聞出版社

2010-08-13 21:41:34 | 経営戦略
企業再生について、物語形式で書かれているので、とても面白い。
舞台は『ハゲタカ』より小さい会社で、外資ファンドも出てこない。それが『ハゲタカ』よりむしろリアルな感じもする。
粉飾決算、ターンアラウンド・マネジャーによる企業再生の実行、と思いきやまたも粉飾決算で民事再生の道へと。
ストーリーも工夫されていて一気に読んでしまった。
小説仕立てであることだけでなく、ところどころに解説が挟まれていて初心者にはわかりやすい。

例えば「経営不振企業の特徴」。
①見栄っ張り症候群。立派なオフィス、派手な社員旅行など。
②青い鳥症候群。自分のビジネスよりもっと魅力的なビジネスがあると信じて投資する。
③ゆでガエル症候群。昔の栄光に浸ってそこから出て行こうとしない。
④いつも他人のせい症候群。社長は部下が悪い、部下は社長が悪いという。

「コンサルティングの手法」。
「問題点の定義→原因の分析→仮説の構築→仮説の検証・修正→コスト・ベネフィット分析→インプリメンテーション・プランの作成」はコンサルティング会社でよく使われる手法。

また、この会社が、個人の売上業績をボーナスに極端に連動させる報酬制度をとったことが、法人営業部門の架空の売上計上の原因になったこともよくありそうな例で参考になった。

読みやすい本なので、ターンアラウンドを全く知らない身にはとても参考になったが、会社更生法のケースではどうなのかとか、もっと詳しく知るには専門書を読む必要がありそうだ。

Kara Mister

2010-08-12 23:57:16 | 芸術・音楽
韓国のアイドルグループKaraが日本デビューした。

Misterという曲を2,3日前にローソンの店内で流れているのを聴いて、韓国のグループだとは思わなかった。
おそらく今年日本で一番流行る曲になるのではないだろうか、と思う。

朝鮮半島をめぐる問題は複雑だ。今話題なのは、在特会という団体が朝鮮学校に対して右翼まがいの抗議行動を行い、ネットで放映して支持者を増やしていることだ。

大阪府の橋下知事も朝鮮学校の授業料無償化に反対するようだ。

在特会や橋下知事の行為は「北」に対する批判なので、「南」のKaraとは何の関係もない。

しかし、日本と韓国の関係も根のところではどうなのだろう。
先日の調査では、日本の人々が最も多く思い浮かべる韓国人はペ・ヨンジュンで、韓国の人々が最も多く思い浮かべる日本人は伊藤博文だという。

日韓ワールドカップで友好関係が発展するかと思ったが、歴史を修正するのはなかなか難しいようだ。

朝鮮王朝の遺物返還をめぐって、菅総理は自虐的な歴史理解と批判されている。

日本人の韓国に対する見方を変えるのは、政治よりサッカーや音楽でもう一度古代のように文化融合するほうが重要なのかもしれない。

小倉昌夫『経営はロマンだ!』日経ビジネス文庫

2010-08-12 23:46:10 | マネジメント・ガバナンス
1年くらい前に読んだ。
とても面白い本である。日経新聞に連載されていた私の履歴書のをまとめたもの。

ヤマト運輸は小倉氏の父親が起こした会社だが、ここまで大きくしたのは小倉昌夫氏の力だ。
東大時代にマックス・ウェーバーに感銘を受けた話や静岡での駆け出し時代に短刀をもった社員にひるんだ話なども面白い。一番ためになったのは、引退してから障碍者が働ける職場をつくるために共同作業所などで経営指南をするところだ。

「利益とは目的ではなく、収入から経費を引いた結果である。宅急便もそうだった。一生懸命いい仕事をしてその結果、ご褒美として利益が出る。利益が出ることで事業が長続きする。利益の確保は事業を永続させるための手段である。目的と手段を取り違えてはいけない」
とまず福祉関係者に教えるそうだ。福祉の世界では利益など考えたことがない人も多いらしい。
小倉氏は障碍者を最低賃金以下で働かせているのを「搾取だ」と批判する。
顧客が望むサービスを考え、儲かるしくみをつくることは、どの世界でも共通との認識がある。

ヤマト運輸は郵便局が小包を業務独占することに果敢と挑んだ。今で言うとNTTに挑むソフトバンクの孫さんのようなものだろう。
「宅急便」や「クール宅急便」には起業家の魂がこもっているのかもしれない。

ハーバード・ビジネス・レビュー『業績評価マネジメント』ダイヤモンド社

2010-08-11 22:51:20 | 人材マネジメント
この本の最後にBSCの考案者キャプラン&ノートンの1996年の論文がある。
キャプラン&ノートンは予想を超えてBSCが多くの企業で採用され、長期戦略と短期的な行動をいかに関連づけるかという作業化が進んだ成果から、どのように業績評価に落とし込むかの方法をこの論文で説明している。

BSCは顧客、ビジネスプロセス、学習と成長の3つの視点によって伝統的な財務指標を補うものとして位置づけられている。
BSCによって新しい4つのマネジメントプロセスを導入できる。

①ビジョンの明確化
②コミュニケーションとの関連づけ
③経営計画
④フィードバックと学習

この論文の時点でBSCを採用した企業の使い方は次の6つにまとめられる。

①戦略を明確化し、リニューアルする。
⑤企業全体に戦略を伝達する
⑥事業ユニットや個人の目標を戦略と連携させる。
⑦戦略目標を長期目標や年間予算と関連づける
⑧戦略プログラムを確定させ、連携させる
⑨戦略についての学習を促し、戦略を改善するために定期的な業績検証を行う

この論文から15年経って、日本では国立大学でBSCを導入し、成功しているところも現れている。
これはキャプラン&ノートン想定の範囲だとは思うが。

海保博之他『心理学研究法』日本放送出版協会

2010-08-10 19:04:59 | 心理学
心理学の研究法では

①仮説を立てる
②仮説を実験的に検証する
③実験結果によって仮説を評価する
④研究成果を公開する

というプロセスがある。

心理学が科学として成立するためにもこの過程は重要だろう。
理論の信頼性を証明するためには、同じ条件での実験で同じ結果が出ないといけないのだ。

心理学の研究法で、この20年くらいの間に変わったことは、認知心理学の発展とコンピュータ技術の進歩と普及、それらに伴う研究方法の変化だろうか。
おそらく心理学をより「科学的」に成立させるために研究者が認知心理学の研究方法を進化させたのだろう。
これは臨床心理学の発展とベクトルが逆のような気もするが、臨床心理学にも認知行動療法などの進展があるので逆ともいえないかもしれない。

また、環境心理学の発展とアクションリサーチの研究方法も新たな変化だろう。
これは従来の仮説-検証というサイクルとは異なるし、実験者が行動に介入するところもこれで科学といえるのかよく理解できない。

あと研究倫理に対する世論の意識も変化している。一頃流行った監獄実験ももう出来ないようだし、動物実験に対する批判も強くなっている。

ビジネスでは「仮説思考」などが話題になるが、ビジネスにおける「仮説-検証」と心理学研究法の違いは、データの精度の違いだろう。それにビジネスでは判断のタイミングが、仮説の正否より重要なときもある。厳密な「仮説-検証」をどこまで追求するのかもそのときの状況による。

ビジネスでは実験結果を公開する必要もないし、誰かが追実験を行うにはあまりにも条件が違うことがあるだろう。

研究とビジネスはやはり似て非なるところがあるように思う。

ダニエル・ゴールドマン『EQ こころの知能指数』講談社+α文庫

2010-08-10 18:33:16 | 心理学
人間には二種類の脳(大脳辺縁系と大脳新皮質または扁桃核と前頭前野)、二種類の知性(考える知性と感じる知性)があり、人生をうまく生きられるかどうかは、両方の知性のバランスで決まる(p.64)という考え方は、実感としてよくわかる。
けれど自分の日常生活を振り返ると、人を見るとき、無意識に考える知性としてのIQ的な側面を重視しがちだと思う。感じる知性としてのEQは意識していないと本当に相手の行動や自分の行動を理解できないだろう。

EQの定義は、(1)自分自身の情動を知る (2)感情を制御する (3)自分を動機づける (4)他人の感情を認識する (5)人間関係をうまく処理する という知能のこと (p.85~87) 。これらの知能は生理学的には大脳辺縁系や扁桃核の働きが重要になっている。
この本を読んでから、人を見るときに脳の周辺を見るのではなく、「この人の頭の中心部は今どうなっているんだろう」という眼で気持ちや感情との関係で見るようになった。


EQ(こころの知能指数:Emotional Intelligence Quotient)が提唱された背景は、IQ(知能指数:Intelligence Quotient)が偏重される社会への批判だということはよくわかる。
ただ、IQを測る知能検査はもともと、児童や成人に知的発達の遅れの問題がないかどうかを調べるためのものであり、IQはその測定のために便利な表記法として編み出されたものだった(大学時代、一応心理学専攻でした)。それが健常者に普及して学習指導などに応用されるようになってから、社会的にIQという尺度で人間の資質を比較できるかのようなおかしな価値観が根付いてしまったのだと思う。

訳者あとがきにも触れられている以上にいまやEQテストが大学生の就職指導や企業人事で広く使われている。こういう現象をどう理解してよいのかわからない。EQを数値化して他人と比べることは社会の価値観として正しいことなのだろうか。EQがIQと同じように人間の資質を比較できるかのようなおかしな尺度として根付かないようにすべきだと思う。

EQは意識的に変えることが可能だと著者は言っている。とくに発達過程においてのほうが変容しやすいのはよくわかる。

大人になってから、感情のコントロールをどのように行うのかは難しい課題だ。
怒りを抑えることも難しいが、自分を鼓舞することも難しい。

生理学的には、脳の中核あたりは下等動物の方が比重が大きい。
人間は野性から離れていくにつれて、脳の外側が発達してきた。脳の中核は野性的なものが残っているのだ。しかし、この野性的な部分がないと喜怒哀楽も動機づけられることもない。

知性と野性のバランスは難しい。
スタートレックのミスター・スポックの悩みはよくわかる。

長谷川洋三『カルロス・ゴーンが語る「5つの革命』講談社

2010-08-05 23:52:59 | 経営戦略
カルロス・ゴーンがCOOとして日産に来たとき、日産には2兆1000億円の借入があり、前年度連結決算で140億円の赤字を出していた。
それをルノーから30名程度の役員と管理職を連れてきて、日産の600人の社員と面接して優秀な人材を発掘し、クロスファンクショナルチーム(CFT)で日産リバイバルプラン(NRP)を作成する。NRPでは、3年間で20%のコスト削減、3工場を閉鎖して工場稼働率を53%から82%に上げるなどの目標を掲げ、社員にコミットメント(目標の達成)を求めた。

ゴーンが再生のために行ったことは実に単純だ。
コストを徹底的に削減し、コアではない事業はすべて売って、その資金をコア事業に投入する。
その結果、初年度からの黒字、NRPの前倒し達成などみるみるスモールヒットを重ねて、ついに再生させた。

ゴーンは最後のインタビューで5つの変化を述べている。

①『弱み』が変わり「利益志向」になった
②顧客中心の考えになった
③CFTによって横断的な活動領域が全社に広がった。
④従業員が危機感を持つようになった
⑤中期計画の重要性がわかるようになった

ゴーンは「外国人だから改革なのか、外国人なのにできた改革か?」と問われてこう言っている。

「外国人だったことはマイナス。日本語がわからないから。しかし日産にはアウトサイダーによる改革が必要だった。今から思えばグローバルな経営の経験のある外部の日本人がよかったかもしれない」

しかし日本人が受けたゴーン・ショックは大きかったと思う。
鉄鋼業界の再編を促し、ソニーも外国人社長を据えるようになった。

この本を読んで、ゴーンはただの黒船ではなく、改革のための文化的な障壁を理解し、緻密に計画を練ったことがわかる。優秀なCFTをつくる土壌が日産に残っていたことも再生の大きな要因だろう。
ゴーンの生い立ちからくるグローバルな視野、ミシュラン、ルノーでの経験がこのリーダーを生んだことも成功要因だろう。

ゴーンの日産再生にはいろいろな教訓が詰まっている