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お気楽ビジネス・モード

ビジネスライフを楽しくする知恵や方法を紹介する

伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』祥伝社文庫

2009-05-15 00:36:10 | 文学・小説
陽気でおもしろい小説だ。しめっぽさがない。
けれどどこかで聞いたようなストーリーだなあとよく考えたら、『オーシャンズ11』である。あのシリーズの4人組版なのだ。
登場人物はみんな個性的で魅力的。
毒にも薬にもならない話だが、自閉症やいじめ、記憶と時間の話題が散りばめられていて、なんかただの強盗の話だけでもないような気にもなる。
この小説が売れ続ける理由もなんとなくわかる。

ロバート・C・ヒギンス『新版 ファイナンシャル・マネジメント』ダイヤモンド社

2009-05-11 23:28:41 | 財務・会計
この本を評価できるほどファイナンスの知識があるわけではないが、学者による入門書というより実務家による「チャート式」のような感じの本である。理論が展開されるよりも、実際のケースに応用する際には何に留意すべきかについて詳しく書かれている。この本を読んでいるときは本当にわかったような気持ちになる。

ファイナンスは、事業・企業の現在価値を求めることが基本である。

事業・企業価値=Σ(p期間のFCF/(1+WACC)のP乗)

この式でフリーキャッシュフローをもとめ(分子部分)、リターンとリスクが織り込まれたWACCで割り引く(分母部分)。

この分子部分の説明では、第7章の「DCF法」がとてもわかりやすい。キャッシュフローの算定方法やNPV法、IRR法の説明はこの本が一番よい。
実際のWACCの計算は第8章の「投資の意思決定におけるリスク分析」が参考になる。余計なことは考えずにこうすればよいというような書き方ではあるが。

実務で財務などに携わっていない者にとってファイナンスは本当に難しいと思う。

入門者には『ざっくりわかるファイナンス』→『道具としてのファイナンス』→『MBAファイナンス』→『ファイナンシャル・マネジメント』→『コーポレート・ファイナンス』という順序で本を読むのがよいと思う。

しかし、覚えても数ヶ月でファイナンスの知識は忘れてしまっている。
その度に上の順序で本を読んで思い出すことにしている。というよりいつも『ざっくりわかるファイナンス』のレベルで止まっているようにも思う。

ファイナンス音痴の悩みは深い。

伊藤元重『はじめての経済学(上)』日経文庫

2009-05-10 13:55:57 | 経営戦略
大学の新入生が読む本だが、入門書はなんでも勉強になる。本当にわかっている人でないとよい入門書は書けないと思う。
この本は数式が一切ない経済学入門というコンセプトで書かれており、数式が嫌いな人にはよいかもしれない。
経済のトピックから経済理論を説明する展開だが、GDPの基本的な考え方などは企業の経済活動を考える上であたらめて勉強になる。
後半ではジョン・ナッシュのナッシュ均衡の理論などゲーム理論で経済行動を理解する方法なども書かれている。
アダム・スミス、マルクス、ケインズ、ハイエクという経済思想の流れから、マクロ・ミクロ経済学の解説など多岐に渡るテーマを対象にしているわりには本が薄すぎて、表面的な記述にしかならないのは入門書の限界か。

松林 博文『クリエイティブ・シンキング』ダイヤモンド社

2009-05-08 00:39:49 | 思考法・表現法
著者自身が言っていたが、わざわざ買って読むような本ではない。概論というより、ツールのガイドブックという感じだ。
この本の前半ではロジカル・シンキングは分析に、クリエイティブ・シンキングは創造的な発想に役立つことを説明している。後半ではブレーンストーミング、マインド・マップなどクリエイティブ・シンキングに分類されるの20のツールが紹介されている。

意識的なプレッシャーが思考を活性化させる例として、イワシの例え話がおもしろい。
昔の漁師は捕ったイワシをできるだけ新鮮に持ち帰るために水槽にイワシの天敵のヒラメを入れたという。水槽にイワシだけ入っているとだれて次々と死ぬが、ヒラメが入っているといつ襲われるかという緊張感を保って長い間生きたらしい。
程よく安定したルーチンワークなどは創造的な思考を殺してしまう元なのだ。

伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』新潮文庫

2009-05-06 19:46:09 | 文学・小説
とても不思議な小説だ。世の中で何が大事で何が大事でないかもよくわからない。
題名になっている「オーデュボンの祈り」とは何か。
『アメリカの鳥類』という画集を描いたジェームズ・オーデュボンの祈りがこの小説のテーマのようでもある。人類によって絶滅に追い込まれる旅行鳩の運命について、ただ祈るだけしかできないのが、「オーデュボンの祈り」のようだ。この小説で人類が絶命に追い込む生物やモノの不条理を訴えかけたかったとも思えない。

鎖国をした離島に、欠けている大切なものは何か。それは同時に情報があふれる都会で気づかない大切なものでもあることを描きたかったのか。
でもこの小説にテーマがあるのかどうかもよくわからない。
作者はこれまでにないジャンルの面白い小説を書きたかっただけなのかもしれない。
確かに面白い小説ではある。
犯人捜しのミステリー的な要素も強い小説なので、また読みたくなるかはわからないが。

ジェイ B.バーニー『企業戦略論(中)』ダイヤモンド社

2009-05-03 15:28:57 | 経営戦略
リアルオプションとは、工場設備、流通ネットワーク、または技術といった実物資産に設定されるオプションである。例えば、ある企業が新規に工場を建設する際、その企業はその新工場を操業する機会を得るだけでなく、将来いつの時点かでその工場を拡張する権利をも得るのである。・・・・ある特定の投資が最終的に価値を有するかどうかが非常に不確実である場合、戦略的柔軟性を最大化する統治選択を考慮することが重要になってくる。
(p.34)

ファイナンスのオプションを戦略的意思決定に持ち込んだのが、リアルオプションだが、数量化することが目的ではない。不確実性が高い選択のなかで、意思決定の柔軟性とその成功の可能性を見える形にするために数量化するのだろう。
柔軟性のタイプには、遅延、成長、縮小、閉鎖・再開、放棄、拡張などのオプションがある。

中巻では「リアルオプション」が中心概念だが、第10章の「暗黙的談合」も面白い。

バーニーは競争戦略も戦略の一つに上げているが、ジョイント・ベンチャー、ライセンス協定、流通協定、供給協定とならんで、「談合」(明示的談合・これは違法と暗黙的談合)を取り上げて、その経済的価値や裏切りのパターンも解説している。
価格を軸に行われるベルトラン型裏切り、供給量を軸に行われるクールノー型裏切りにかかわらず、談合関係の裏切りは企業のパフォーマンスを低下させる「競争を強化する力」を解き放つことになる。(p.244)
そのため、「こちらは裏切らないよ」というシグナルを相手に送る投資行動として、4つを上げている。

・可愛い子犬作戦(puppy-dog ploy)  非攻撃的な立場を維持する 
・太った猫効果(fat-cat effect) 競合相手が脅威に感じないような投資行動をとる
・勝者の強気戦略(top-dog strategy) もし攻撃的な行動に出ると報復を受けると脅す
・飢えた狼(lean-and-hungry look) 攻撃的で戦略的投資を行う能力を保持し、相手のインセンティブを減少させる 

バーニーの戦略論の魅力は、企業戦略を業界構造、競合関係、財務、人的資源、組織など企業の内外を取り巻く環境全体から導く方法だろう。VRIO、リアルオプションなどのフレームワークという分析概念の枠組みだけでなく、現象を数量的に捉えることもいろんな場面で応用できそうだ。

ただ数量化の過程で意図をもって条件設定するときはきわめてあいまいな要素が入り込むのも現実だろう。

川島蓉子『ビームス戦略』PHP研究所

2009-05-03 15:27:44 | 経営戦略
セレクトショップのことをあまり知らないので、南馬越和義というカリスマバイヤーがどういう人かも知らなかった。ユナイテッドアローズとビームスとの関係もこの本で初めて知った。
ビームスはアパレル・流通業界のセレクトショップという印象だったが、今やライフスタイル自体を提案する会社になっていることがわかる。
アパレルのマーケット区分を年齢やテイストではなく、流行に気づくタイミングで区分し、「サイバー」「イノベーター」「オピニオン」「マス」「ディスカウンター」と呼ぶと、ビームスは「オピニオン」を中心に、「マス」の一部をターゲットにしているらしい。


ルディー和子『ウォルマート「儲け」のしくみ』あさ出版

2009-05-02 19:49:52 | 経営戦略
サム・ウォルトンが創設したウォルマートの出店戦略は今も変わっていないらしい。
(1)競合相手のいない田舎町に出店する
(2)利益よりも客数の確保
(3)広告費をかけずに上手にPRをする
(4)クリティカル・マス早期達成を目指す

その天才サム・ウォルトンは1992年に亡くなっている。しかし、ウォルマートはその後の成長がめざましかった。1990年1525店舗が2002年には4414店舗になり、売り上げは258億ドルから2198億ドルにもなっている。
この成功要因の一つは消費動向を捉えるITへの投資である。データウェアハウスと呼ばれるデータベースは国防総省並みの容量らしい。
サム・ウォルトンの自伝を読むとサムはITへの投資をためらっていたが、それでも通信衛星打ち上げを了承している。サム亡き後、ITへの投資に反対する者はいなかったのかもしれない。

もう一つが物流システムだろう。ハブ・アンド・スポーク、クロス・ドッキング方式などいかに商品切れを無くし、在庫を減らすかを考えて、テクノロジーの進化とともにシステムを発展させている。
これらはサム・ウォルトンを引き継いだCEOデビッド・グラスの功績が大きいらしい。この本でもデビッド・グラスは『中興の祖』と位置づけられている。

これほど大きくなったウォルマートだが、従業員を掌握するのにも力を入れている。
この本では4つの従業員掌握術が紹介されている。
(1)従業員を大切にしているという精神を形で見せる 
     → 従業員をアソシエートと呼び、年次報告書などで一番大事だと強調する
(2)会社の利益や売り上げに貢献すれば昇進のチャンスがある
     → パートタイマーから店長への登用など日本のスーパーも模倣している
(3)会社が成功して株価が上がれば自分の金銭的な成功につながる
     → 給与を抑え、ストックオプションを与えている
(4)共同体の雰囲気をつくる
     → お祭り騒ぎやイベントで熱狂させる

ディスカウントストアから、会員制クラブ、スーパーセンターなど業態の変化にあわせてウォルマートは成長してきた。
しかし、エンロン事件後、ストックオプションに頼る報酬制も問題視され、EDLPを支える低コスト・低価格販売も途上国の労働コストの上昇で低価格のPB商品の生産が危うくなっている。

国際戦略については、ドイツで失敗し、その教訓をイギリスとカナダで生かして成功した。アジアへは日本だけでなく、韓国、中国にも進出している。ドイツでの失敗はサプライヤーの把握、現地安売店との熾烈な価格競争、労働組合対策などであった。

西友の「KY=価格(K)、安い(Y)で行こう」は、日本版EDLP(EveryDay, LowPrice)戦略なのだろう。
アメリカでの発展と異なり、すでに成熟市場である先進国日本でウォルマートが成功するにはいくつものハードルがあるように思う。

島田陽介『なぜウォルマートは日本で成功しないのか?』カナリア書房

2009-05-02 19:45:31 | 経営戦略
ウォルマートに限らず、外国から日本に進出する流通業は、ほとんど撤退を余儀なくされている。なぜ外国流通業の日本進出は、「失敗」続きになるのかについて、ウォルマートを題材に著者なりの解説をしている。
多くの人々その理由を日本の流通の特殊性というが、著者の視点はちょっと違う。
ウォルマートがアメリカで成功した要因がそのまま日本にあてはまらないのに、同じ方法で成功すると思って進出するからだ。ウォルマートがアメリカで成功したのは、アメリカの消費者の生活スタイルにあった商品の提供を行ってきたからなのだ。アメリカの人口密度や気候、競合他社の参入状況も日本とは異なるし、日本の消費者と生活スタイルも異なる。ウォルマートの成功はアメリカ人の生活スタイルにあったアソートメント(品揃え)を徹底した結果であるので、日本では同じ法則が通用するとは限らない。

これまで日本の流通業者の多くがアメリカの流通業に学ぶために渡米した。しかし今や「学ぶべきもの」、「学んではいけないもの」があるという。
例えば、セブンイレブンがアメリカで失敗し、日本のセブンイレブンが逆買収したのはなぜか。1万点以上もある店舗の品揃えや商品の補充を本部主導でなく、各店舗主導型のデマント・チェーンを実行しているからだそうだ。

「すでにある」マーケットをねらうのではなく、「マーケットを新たにつくる」のが重要だとう。
アメリカにアメリカで新たな業態が生まれ、日本でコピーしては失敗する事例も多い。
アメリカに学ぶべきこと、学んではいけないこと、これは流通業界だけでなく、他の業界でも同じ事がいえるかもしれない。