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柳澤協二『亡国の集団的自衛権』集英社新書

2015-10-27 22:11:02 | 政治

この本で日本の軍事のあり方、抑止力、周辺諸国との歴史認識問題などの疑問が氷解した。
著者は自衛隊に入庁し、防衛庁の中枢でイラク派遣にも関わっている。イラクで誰も殺さなかったことを誇りに思っている。イラクで自衛隊の犠牲者を出す覚悟はなかったとも書いている。ひ弱な防衛庁幹部ともいえる。
戦わずして勝つ。本当の意味がわかったように思う。
抑止力には、報復的抑止力(やられたらやりかえす本土破壊よる抑止)、拒否的抑止力(これ以上は攻めさせないという局地戦争を想定する抑止)という考え方がある。
日本の抑止力を考える上で、米軍との同盟、米軍基地の存在、自衛隊の役割はどうあるべきかを考える必要がある。
防衛庁OBでも尊敬できる人はいるんだ。本当は自衛隊や軍隊の隊員が尊敬される、そんな国にしないといけない。70年間戦争をしなかった日本はそんな国になる資格がある。そう思った。

安田浩一『ヘイトスピーチ』文春新書

2015-10-22 23:42:20 | 政治
世の中には理解できないことが多い。
ヘイトスピーチという人種、民族差別の表現行動がどうして堂々と行われるようになったのかもそのひとつ。
この本を読むとおぼろ気ながら、その構造がわかる。
ネットの普及で不確かな情報を信じてしまうこと(在日特権など)、テレビで報道される衝撃的な事件を排外主義と結びつけてとらえる(拉致と北朝鮮、サッカーW杯での日韓対決と韓国、ISの日本人殺害とイスラム教徒)、不安や恐怖あるいは不満のはけ口として手っ取り早い行為であることなど。
差別する側に悪いことをしているという自覚がないのもこの問題の深刻なところ。
I have black friends.という差別主義者特有の言い回しがアメリカにもあるという。友達がいることで差別が無効化されるわけではない。
政治家や評論家の発言もヘイトスピーチを暗に後押ししているようだ。
安部首相はヘイトスピーチを繰り返す宮司の出版に推薦文を寄せ、竹田恒泰氏はテレビで「在特会のおかげで通名の在日特権があきらかになった」と発言する。謝罪も訂正もされない。
現在の法律では、刑法などの犯罪として捕まらない限り許される。
日本のヘイトスピーチは国連の人種差別撤廃委員会からも法整備などの勧告を受けている。
だが、今国会で審議されていた法案は採択見送りらしい。
法の対象があいまいで、憲法の表現の自由に抵触するということらしい。
こんなこと法律で取り締まるのは間違っているとも思うが、法的規制がないと暴走する世の中になってしまっているのも事実だ。

有田芳生『ヘイトスピーチとたたかう!』岩波書店

2015-10-21 08:43:37 | 政治

在特会のヘイトスピーチに対抗する勢力はカウンター勢力と呼ばれているらしい。
「レイシストをしばき隊」はツイッターで呼びかけて集まった有志。在特会の「お散歩」と呼ばれる無許可のいやがらせデモを体を張って阻止する。在特会とのいざこざで、ともに逮捕されたこともある。「プラカ隊」と呼ばれるプラカードを掲げる集団もいる。「お知らせ隊」は界隈にデモを知らせる部隊。ほかにも「ダンマク隊」という横断幕を掲げる部隊もある。
カウンター勢力への賛否はある。しかし、現実に在特会のデモのために新大久保で3割売り上げが減ったという商店主もいる。鶴橋では14歳の少女が「朝鮮人を虐殺したい」とスピーチするまでエスカレートした。この少女は在特会の会長の娘だったらしい。在特会の二世被害問題もあるのだろう。
いまだに法規制されないヘイトスピーチを野放しにしないために、カウンター勢力は在特会がやっているのと同じ方法で対抗するという集団だ。必要悪とみなすべきかどうかはわからない。だが、法を犯さないかぎり許容されるべきだろう。在特会のヘイトスピーチがなくなれば消える社会現象とも言える。
有田氏は国会議員としてヘイトスピーチ対策に取り組んでおり、この本は2011年から2013年までの記録になっている。民主党は先の国会にヘイトスピーチ禁止法案を提出した。しかし憲法の表現の自由との抵触が危惧され、継続審議になっている。
この本では、ドイツ、イギリス、オーストラリア、カナダなどのヘイトスピーチ禁止法も紹介されている。ドイツはナチズムによるユダヤ人迫害への反省、カナダとオーストラリアは多文化主義のもとでマイノリティの保護が必要という事情があった。イギリスも人種差別禁止を早くから取り組み、表現の自由も保護しながら法律での規制を行っている。移民の増加のもとでネオナチズムなど新右翼の台頭という世界的な事情も背景にある。
アメリカは表現の自由との問題で一旦各州で成立させた法案を廃止させた。しかしヘイトクラム法があり、人種差別を厳しく罰している。
日本は国連の人種差別撤廃委員会からもヘイトスピーチ規制の勧告を受けている。
表現の自由は大事だが、何らかの法整備が必要だろう。

柳澤協二『自衛隊の転機』NHK出版新書

2015-10-20 08:13:40 | 政治

NHKの日曜討論で元防衛官僚なのに安保法案に反対している人がいることを知った。
柳澤協二氏はテレビに映るだけで存在感がある。
この本で安保法案に反対する理由について、柳澤氏は語っている。
防衛官僚だったときには、キャリアの仕事は政策を決めること、それを実行するのは自衛隊員、騒音などで被害を被るのは基地の住民、という役割分担があると決めてかかっていた。自衛隊員や住民の立場になって考えることは組織人として自分の仕事でないと思考停止していたという。引退してわがことのように考えて今は発言しているとのこと。
元陸軍幕僚の冨澤氏、元国連PKO幹部の伊勢崎氏とともに鋭い問題点をこの本で提示している。
しかし、憲法をどう変えるか、PKOの派遣をどうするかで、この三人の見解は異なる。
柳澤氏はあえてどうすべきかは言わない。
それは優柔不断というより、自分の発言の重さを自覚しているからかもしれない。国を守ることも四つの目の国民の義務にすべき、憲法で自衛隊を位置付けるべき、軍法を設置すべきという一方で、一滴の血も流さなかった自衛隊のブランドを守るべきとも言う。日本は世界で今は何もしなくていいいとも。
国民一人一人が自分のこととして考えてほしいと思っているようだ。

選挙

2012-12-13 22:25:53 | 政治
また自民党の政権になるのか。
逆戻りといえば逆戻りだが、自民党の右側の勢力と維新の会が組むと軍事面では右翼的な政権になるかもしれない。

民主党には期待をしていたが、日本で政権党になれば、自民党のやっていたことをそこそこやらなければ仕方がないことを民主党政権が示してくれた。
きれいごとの限界を示してくれたことはムダではなかった。
業界団体との癒着を切った功績は評価したい。

ときどき政権は別の党になるほうがいいのだ。

小沢一郎の作戦は今回不発か。選挙を手玉に取るすごい人なんだけどなあ。
嘉田さんを担ぐのはよかったけれど、担いだ人の知名度不足なのかもしれない。

TPPが争点になるんじゃなかったのかなあ。
原発とエネルギー政策、北朝鮮、中国などの対外政策の陰にかすんでいる。

北朝鮮の一発は安倍さんを打ち上げ花火みたいに元気づけた。

で、自民党が圧勝するが、消費税は民主党の主張どおり。

TPPはのろのろ。原発は存続。
4年間はそんなふうに過ぎていくだろう。






猪瀬直樹『道路の決着』文春文庫

2009-08-23 23:33:10 | 政治
この本の途中で道路公団民営化推進員会が遅々として進まないところが続くが、そこをがまんして最後まで読み進まないとホントの面白さがわからない。
そういう意味では巻末の田原総一朗との対談を先に読んだ方がよいかもしれない。

道路公団民営化とは何だったのか。それは失敗だったのか成功だったのか。
もともとの目的をどこに置くかで評価が変わるようだ。

民営化推進の過程で明らかになった犯罪や酷い事実がいくつかある。まず、道路公団の管制談合。これは猪瀬直樹に名誉毀損されたと言って委員会を欠席していた副総裁の逮捕にまで発展した。それからハイウエイカード偽造の隠蔽、ファミリー企業の特権階級的な報酬や待遇、道路公団から関連企業への天下りの常態化。

道路建設はその無計画な建設キロ数や借金の膨大さも問題なのだが、コスト高をチェックする体制はおろか、それを守ろうとする体制ができあがっているところが問題なのである。これは大きな理由としては、日本の労働人口約6000万人のうち約200万人が道路関連の仕事に携わっている構造が時代の変化についていっていないことが背景にある。雇用のための雇用を生んでいるしくみがあるのだ。
その次には自民党の集票構造として「土建国家ニッポン」が今もなお続いていること。そして、道路公団とファミリー企業の談合によって利権が維持され、チェック体制もないことに集約されるだろう。

猪瀬直樹が、どうして道路公団の借金に税金投入するのに反対だったのかよくわかった。こういう構造を残して、税金投入して高速道路を無料化しても問題の解決にならないからだ。有料のためのシステム関連会社は減るだろうが、利権の構造は引き続き国土交通省と関連会社・特殊法人などで維持されるだろう。

竹中平蔵の『構造改革日誌』は経済と国会・内閣を中心とした政治の視点から面白かったが、猪瀬直樹のこの本は「道路建設」という利権が絡む複雑なシステムを解き明かすミステリーのような面白さがある。

それでは民営化は失敗だったかどうか。

道路建設を今後も約9300km続けるお墨付きを与えたという点では、政治に利用される可能性を残したので失敗といえるかもしれない。
しかし、長期間になるが税金投入なしに借金を返す道筋をつけたこと、高速料金の値下げにつながったことでは成功といえるだろう。

猪瀬直樹が民営化推進議論の途中から、権力の権化になったとか、変質したとか言われているようだが、そういう解釈もこの本を読んで分かるような気がする。
猪瀬直樹の最大の功績は、表の委員だけでなく、裏のフィクサーにもなったことなのだ。病的なまでに道路公団の闇の部分を追求したことや劇場としてのテレビの巧妙な利用。委員の役割を踏み外してまでも、この案を成し遂げるために小泉首相はじめ政治家とも様々な方法を画策した。この事を変質または権力の権化と呼ぶか、マキャベリストと呼ぶか難しいところだ。しかしそれが、管制談合などを暴くことになったのは事実だ。

道路問題は山崎養世の言うように鉄道問題とも郵政問題とも異なっている。もっと複雑に利権が絡まっている。民営化推進委員にJR関係者を入れて、その委員が途中でボイコットしたのもJRとの競合対立が背景にある。高速道路値下げにJRは運輸競合企業として反対するのだ。

猪瀬直樹は国土交通大臣でもなく、首相の諮問委員会の委員という枠内で最善を尽くしたとも言えるのではないか。

菅直人が高速道路無料化を主張する場面が何度か出てくる。しかし、日本の利権構造の解決や税金の使い方の最善策というより、票集めの感がぬぐえない。

古参幹部が実質支配する自民党に未来はないことはわかるが、果たして民主党に骨のある政治家がいるかどうかも疑問ではある。

山崎養世『道路問題を解く』ダイヤモンド社

2009-08-22 20:14:23 | 政治
この本を読んで誤解していたことが2つ解けた。

一つは山崎氏は必ずしも民主党の政策に全面的に賛成ではないということ。「ガソリン値下げ隊」のような長期的視点に立たない大衆迎合政策には反対なのだ。ガソリン税は道路対策や環境対策に使う上でも必要だと考えている。
もう一つは高速道路無料化と言っても、今でさえ混雑している首都圏や京阪神の高速道路を無料化すべきではないと主張していること。そこでの高速料金収入の約6000億円で全国の道路保守やそれに必要な人件費を賄うことができると考えていること。

この本は道路に関する欧米の状況や日本の歴史をわかりやすく解説し、問題点と処方箋を示している。そればかりでなく、道路に象徴される古いしくみを変えることが日本経済を再び復活させる道だと信じているようだ。

高速道路無料化の政策を打ち出す論理はこうだ。

・日本は過疎が進む地方と過密化が進む都市部で経済格差が生まれている。
・これにはこれまで作られた道路の不便さも影響している
・高速道路の65%はほとんど利用されておらず、その理由は高い高速料金とインターチェンジが欧米に比べて長い距離でしか設けられていないので、一般道との交通網整備に不備があるためだ。
・もともと高速道路はつくった道路の借金を償還すれば無料にする予定だった。しかし、田中角栄が首相のときに経済発展優先のためにプール制という新たな制度を作った。これは集めた高速料金を新たな道路建設に使えることにしたために、道路を作る借金が延々と続き、高速料金無料化が出来ないしくみになっている。
・自民党、国土交通省、道路公団は道路建設に関わる企業と地方にお金が循環するしくみを作り上げた。道路をつくるために、道路公団が借金をして高い金利負担をすることになっている。それを高速料金のほかにガソリン税などの税金で補うので国民の負担はよけいに重くなっている。ガソリン税と高速料金というのは高速道路利用者には二重の負担になっている。
・道路公団民営化によっては道路問題は解決しない。道路は国鉄とは違う。鉄道輸送は客車や乗務員、駅と駅員などをサービス提供側が整備しないと成り立たない。それで料金を取らないといけない。そういう会社を民営化して、私鉄との競争により効率化を図るのは当然だ。しかし、道路輸送は提供側は道路を整備するだけで、自動車はサービスを受ける側が用意する。道路輸送での私道との競争もない。これを分割民営化して、肝心の借金は別会社に継承させるのは企業の飛ばしと同じで問題の解決にはならない。
・今回の民営化によって、姉妹企業や天下りはむしろ水ぶくれしている。
・道路問題の解決の方法は借金をすべて国が引き受け、国債のような安い金利のものによって償還してしまうことだ。それによって都市部以外の高速道路は無料化できる。国土交通省の計画では2050年に無料にするといっているが、今無料にして借金の負担を減らすほうが金利も軽くなり、経済も活性化する。
・インターチェンジを整備して国道などとの接続を増やせば、国道、高速道路どちらの渋滞も緩和できる。とくにインターチェンジ周辺の地方の街を整備することができる。
・これらにより人、もの、金の流れが変わり、経済が活性化する。とくに地方はヨーロッパのようにそれぞれの文化が発展する可能性がある。

田中角栄に仕えていた官僚も「角栄さんが生きていたら、経済発展のために高速道路は無料化するだろう」と言っているらしい。

論旨は明快でわかりやすい。政策的にも無理がないように思う。

しかし、実際にはデメリットもあるだろう。無料化のためのロードマップもはっきりとは示されていないので、道路関係の2万人の雇用問題や鉄道輸送や航空輸送などへの経済的な影響にも不安はある。CO2排出問題も渋滞緩和により減少すると言っているが、交通量が増えるとその逆になる可能性のほうが高いだろう。

これらのことを楯に抵抗する勢力は想像以上なのだろう。

日本で三番目に高い有料道路と言われていた滋賀県の「湖西道路」が無料になった。滋賀県と大津市が借金を引き受けて買い取ったためだ。これにより併走する国道の渋滞は減った。しかし、湖西道路は通勤時間帯や夏休みなどは渋滞するようになった。とくに整備されていない北の終点から南への渋滞が生まれた。国道沿いの店は無料化により、客が少なくなったと言っている。

科学問題の仮説と違い、社会問題の仮説は実験に時間がかかるし、やり直しが利かない。結果について、立場が異なれば、評価も異なる。

高速道路無料化で損をするのは、道路公団と建設関係者とこれまでの仕組みで集票できない自民党だろう。では得をするのが誰なのかよくわからない。高速道路利用者、輸送業者、インターチェンジ付近の店舗くらいだろうか。

中谷巌『資本主義はなぜ自壊したのか―「日本」再生への提言』集英社

2009-03-16 01:20:09 | 政治
この本のタイトルは社会主義者が書いたかと思うほどすごいが、読んでみて著者の並々ならぬ危機意識を感じる。

2年前に出版された竹中平蔵氏の『構造改革日誌』は、政治のど真ん中にいた人物が書いたドキュメンタリーであり、経済学的にも政治学的にも面白かった。

しかし、中谷氏はこの本でその構造改革の内容を疑い、その基盤となっている近代経済学の新自由主義をも疑う。
著者が竹中氏の師匠的存在であり、竹中氏の前から経済財政諮問会議のメンバーであったことから、『転向』の書であることを告白せざるえないのだと思う。それほど、中谷氏はサブプライム問題以降に顕在化した金融危機、派遣切りやネットカフェ難民を産んでいる日本の状況に対して危機感をもっているようだ。郵政民営化など個別の政策が良いか悪いかなどは全く出てこないが、何をめざして構造改革をやっていたのかを根源的に問うている。

構造改革とは小泉内閣が始めた政策というより中曽根内閣あたりから具体化した小さな政府論や規制緩和などの政策である。アメリカではレーガン大統領、イギリスではサッチャー首相の時代からの政策であり、その経済学的な基盤は新自由主義思想である。

この本のテーマはその新自由主義的な資本主義が世界的規模に拡大して、果たして人々は幸せになったのだろうか、いや不幸になったのではないかという疑問である。

自らの提言した政策や信じた理論を根源的に問い直すというのは、真摯な態度とも思えるが、あまりにも無責任な態度ではないかと批判する人もいるだろう。

中谷氏はアメリカの中産階級が自由で豊かだった頃にハーバード大学に留学し、最も良い時代のアメリカを見て、ノーベル賞級の学者の薫陶を受けた。そして自ら「アメリカかぶれ」になったという。

「かぶれる」ということは、客観的に見る目、批判する力を失うということであ るが、絶対によいと信じているので学習効率はよかった、と書いている。

中谷氏の信じた近代経済学は、人間が合理的に行動することを前提とし、また純粋な条件での「完全競争」に近づくことを理想としている。

完全競争の条件は4つの条件が同時に満たされている状態のことをいう。

・経済主体の多数性=十分な売り手・買い手がいて、独占・寡占状態でない
・財の同質性=同じモノやサービスが同じ価格で取引される
・情報の完全性=マーケットの参加者が同じ情報を共有している
・企業の参入・退出の自由性=新規参入の規制がなく、いつでも競争から離脱できる

これはあくまで現実にはない理想型だが、理想に近づくほどマーケットメカニズムが適切に働くと考えられている。

そして、IT革命の進展によりこの4条件が現実に成立するようになったと新自由主義者は主張した。

しかし、IT革命が進展しても情報の完全性などからはほど遠く、株取引でも情報通のなかで相場がつくられ、一般人が参加する頃にはトレンドは違う方向に向かっているのが現実だ。

この新自由主義思想が蔓延し、グローバル資本主義は世界規模に拡大した。

グローバル資本主義の欠陥について著者は3点をあげる

(1)世界金融経済の大きな不安定要因となる
(2)格差拡大機能を内包し、健全な中流階級の消失という二極化現象を産む
(3)地球環境汚染を加速させる

(1)について
 資本主義がローカル経済主流で、政府が福祉などに介入していた時代はまだよかったが、物だけでなく情報や金融商品などが瞬時に世界をめぐるグローバル経済の時代になると、資本主義はモンスターのように暴走する。サブプライム問題はもともと家の所有が無理な低所得者にローンを組み、その高いリスク(それゆえリターンも高い)を分からない形で低いリスクの証券と組み合わせ、世界にばらまくことがシステムとして可能だったために起きた問題である。

(2)について
 一国内でなら階級格差は労使間の調整などで、経済格差を最小限に縮める作用が働く。しかしグローバル資本主義になると先進国の資本は後進国の安い労働力を求めて移動する。国内でもその安い労働力との競争の影響で派遣労働などが常態化し、賃金格差は拡大する。

(3)について
 もともと自然を征服するという思想を背景に資本主義は成長した。それで環境を破壊するという側面をもっているが、国内だと反対勢力などによる政府へのコントロールが働く。だが、グローバルに拡大すると先進国の政府へのコントロールが効かなくなり、後進国に環境汚染をばらまく結果となる。それが食品汚染への遠因ともなっている。

中谷氏はアメリカかぶれを反省するあまりか、縄文時代から遡って日本文化のよさを強調する。日本での解決の糸口を古代から脈々と続く地域の共同体の信頼や自然との調和思想に求める。
またアメリカやヨーロッパの歴史に遡り、アメリカの資本主義の成長を思想的に支えるキリスト教思想を批判する。自然を支配する一神教であるキリスト教思想の実現過程とアメリカの成長とが一致しているように描く。

中谷氏が経済学ばかりでなく、世界と日本の歴史や思想に造形が深いのはよく分かる。けれど、日本の戦国時代はどうだったのかとか、アメリカ資本主義の成長はキリスト教思想の実現というより科学への絶対視の側面もあるのではないかと、つっこみも入れたくなる。

また、中谷氏は理想の国家政策としてとしてキューバの医療やブータンの環境との調和、北欧の福祉などを上げる。これらは個別的には説得力があるし、幸福感のあり方を考えさせる。

しかし、ここまで根源的にこれまでの自分の思想や提言を問うわりには、それに対する具体的な提言が少ない気がする。
政策として上げられているのは、消費税を福祉目的税に変えて25%くらいまで引き上げ、格差是正のため40万円ほどの定額還付とセットにするということくらいだ。
あとは地方分権だが、この税制改革ほどは詳しく述べられていない。

本の帯にあるように、これは「懺悔の書」であるので、今回は懺悔部分が中心で、提言には続編があるのかもしれない。

この本が話題の書であるには違いないが、中谷氏自身がこの本で書いているように、この本を読むのは経済的、時間的にも恵まれた階層なのだろう。
ネットカフェ難民は読まないだろうし、読んでも意味がない。

この本を読んで、どれだけの人が「ネットカフェ難民」や「派遣労働」などと正規労働者の労働対価の格差を、「問題である」と思うのか、あるいは「許容すべき差別である」と思うのか。

日本の未来像は、国民が「格差」の根源や「幸福」のあり方について、どう考えるかにかかっているとも言える。



ビル・ゲイツやバフェットにも憧れる者としてはほんとに難しい問いである。


麻生太郎 『とてつもない日本』 新潮新書

2008-10-03 00:02:04 | 政治
麻生太郎のマンガ好きは本物のようだ。いろんな話題でマンガが出て来る。ジダンも「キャップテン翼」を読んでサッカーに興味を持ったとか、日本史の勉強に小林よしのりがよいとか。
歴史観や外交についてはおおざっぱだが、靖国の脱宗教法人化だけは具体的だ。宗教法人としての靖国神社は遺族も減って経営が苦しいらしい。それを宗教色をなくして国が援助するという案。
ついつい小泉純一郎との比較をしてしまうが、麻生政権が小泉政権より長く続くことは考えにくい。
「自称おたくの皆さん」はこの本は読まないだろう。