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花崎正晴『コーポレート・ガバナンス』岩波新書

2014-12-28 22:12:47 | マネジメント・ガバナンス
コーポレート・ガバナンスとは、一般的には企業経営の非効率性を排除して、企業価値を高めるメカニズムを指し、企業統治と訳されたりする。
コーポレート・ガバナンスの原点は、エージェンシー・コストの発生を抑制することによって、経営者が株主に対してその投資に見合った適正な収益を還元する制度的な仕組みを整えることにある。
という定義から、この本ではアメリカのコーポレート・ガバナンス、日本企業のガバナンス、銀行のガバナンス、アジア企業のガバナンスなどを実証的に分析していく。
いま日本はアメリカ型のコーポレート・ガバナンスをモデルにしているが、西欧、アジア、日本の企業のガバナンスの構造は歴史的に異なっている。
株主利益を考える場合に日本は系列銀行、系列企業による株の所有により、外部株主によるガバナンスが働きにくくなっている。
アジアと西欧は家族企業による株の所有の企業が多いという共通点はあるが、外部株主に対して西欧企業は配当を大きくして、情報の非対称を補っている。

最近大学のガバナンスが問題になっている。
この本を読んで、コーポレート・ガバナンスと大学のガバナンスは次元の違いがあると思った。
企業のステークホルダーを株主だけでなく、顧客や取引先、従業員とした場合、企業のガバナンスは外部と内部の情報の非対称をどう埋めて、経営効率化を図るかのテーマである。
それに対して大学のガバナンスは組織内部で経営の意志が教授会という従業員の意向に優先して決定権を持つかという問題である。
そもそも統治の構造がないところでの問題なのだ。
では大学のステークホルダーに対して、利益を優先するためには何が必要なのだろうか。
そもそも収益を目的にしていない大学にとって、利益ではなく何を優先すべきなのかが問題になるのだろう。

最後にこの本の著者はCSRやSRIの問題に触れたうえで、コーポレート・ガバナンスにおいても「企業とは何か」が問題になると書いている。
では大学のガバナンスを考える上で、大学とは何か。その大学にとってステークホルダーは誰なのか。
出資者がいないので企業のようにエージェンシー・コストという考え方は成立しないだろう。私立大学にとって出資者は寄付者となるが、リターンを求めている寄付者はいない
では誰の利益を優先すべきか。
学生、学資負担者、教職員、卒業生というステークホルダーの利益だろう。
大学が継続し発展することをステークホルダーは望んでいる。
経営者はその思いを託されている。社会的に不名誉なことをすれば責任をとらないといけない。
経営者は緊張感をもって経営をしなければならない。
そのために理事会、監事、評議員会という組織を義務づけている。
今問題になっている学長と教授会の責任と権限というのはあくまで内部問題である。
学長も教授会も外部のステークホルダーの利益を意識した行動が求められるのだ。

巌+日経CSRプロジェクト編『CSR 企業価値をどう高めるか』日本経済新聞社

2010-10-11 20:21:34 | マネジメント・ガバナンス
2004年に出版された本なので情報は少し古いが、日本のCSRに関わる主要なテーマや人物が登場している。

最も面白かったのは、第4章CSRを担う人々だ。

資生堂の田中万里子さんは、小室淑恵さんが取り組んでいた育児休業者の職場復帰を支援するインターネットプログラムを利用したことからCSR部の男女共同参画グループに関わるようになる。大和証券の高岡亮治氏は秋山をねさんが始めたインテグレックスのCSR調査をもとにしたSRIファンドを立ち上げる。

そのほか東京海上火災の自動車版フライトレコーダで事故を減らす活動、富士ゼロックスの環境に配慮したエコ・ソフト、三井物産の排出権プロジェクトなど。CSRというとメセナやフィランソロピーなどの活動を思い起こしがちだが、企業活動全般に関わっているようだ。

伊藤邦雄教授はCSR活動はステークホルダーにとってコーポレートブランドの魅力を高めることになること、社員のリスク意識・感度を高め、ブランドリスクを低減する効果があると述べている。統計調査でも環境経営を行っている企業のβは低くなることを示している。

企業価値というとフリーキャッシュフローの総和と加重平均資本コストの割り算で計算しがちだが、CSR活動が企業価値に影響するというのは面白い。エンロンやワールドコム、雪印乳業や吉兆の事件を考えると、フリーキャッシュフローとWACCの計算にブランドリスクを入れ込むべきだと思う。

堀義人『創造と変革の志士たちへ』PHP研究所

2010-09-26 18:40:04 | マネジメント・ガバナンス
著者の堀義人氏はグロービス経営大学院大学の学長である。
アパートの一室でビジネスパーソンにマーケティングを細々と教えることから始めたグロービスだが、現在では文部科学省認可の日本で一番大きなビジネススクールになっている。

堀氏は「創造と変革の志士」を輩出することにより社会のダイナミズムを生み出すことを使命とし、グロービス経営大学院をアジアでナンバーワンのビジネススクールにするという志を持っている。この本は、そのことが熱く伝わる本である。そういう意味では、この本はグロービスに関係するすべての者にとって「バイブル」であるのかもしれない。

これからグロービスはアジアでナンバーワンのビジネススクールを目指す。これは量的にも質的にもという意味だろう。量的にはハーバード・ビジネススクール並みの1学年900人規模にすることが目標らしい。そのため福岡校を開設し、英語プログラムのフルタイム・キャンパスをつくる。質的には学生満足度ですでに日本ではNo.1なので、修了生の社会的評価もNo.1にすることが目標なのだろう。壮大すぎるビジョンだが、グロービスなら不可能を可能にするパワーを秘めていると思う。

専門職大学院として発足した日本のビジネススクールの多くが現在では定員割れになっている。株式会社で大学院を設立したグロービスの躍進は奇跡とも思える。しかし、これは許認可行政のもとでゆるんだ体質の業界に対して、顧客志向の精神で着実に挑戦した結果だろう。総務省に対するソフトバンクやイーアクセス、国土交通省に対するヤマト運輸など顧客に新しい価値を提供してきたベンチャー企業と共通している。能力開発のプログラムや人的ネットワークの機会提供だけでなく、志までも鍛えるグロービスの教育は文部科学省のものさしではおそらく善し悪しの判断ができないのではないかと思う。

「徳が高い人がリーダーとして国民を率いるべき」であり、キング牧師のような正義感をもち、強い精神力を持つ人々こそが「創造と変革の志士」である(p.205~206)。

これまで能力の高い人がリーダーであるべきと思っていたが、徳が高い人こそリーダーになるべきだと思った。堀氏の考え方は陽明学や仏教の影響を強く受けていると思う。アジアでナンバーワンのビジネススクールにふさわしい哲学かもしれない。

小倉昌男『経営学』日経BP社

2010-08-14 20:18:50 | マネジメント・ガバナンス
1年前にノートを取りながら読んで、感想を書こうと思っていたら、忘れていた。

この本がそのまま経営学のケースに使えるすばらしい本。

小倉氏の経営哲学とヤマト運輸成長への影響を拾ってみる。

○過去の成功体験は、時代が変わり、新しい仕事を始めるときには妨げとなる。

宅急便への参入の際に、小倉氏はこれまでの常識を見直した。
優良な得意先を断ってまで、物流の仕組みを変えた。 
多数の小包がどこにでも配送できるように、ベース → センター → デポのハブ・アンド・スポークのしくみを宅急便の流通システムでつくった。
  

○よい循環を起こす出発点は「よく働くこと」

SD(セールスドライバー)を導入した。
「サービスが先、利益は後」と配送車に書いて、社員の自覚を促した。
ネットワークを拡大し、徐々に社員を増やした。

○経営とは自分の頭で考えるもの

それまで郵便局が独占していた市場がビジネスになるということを考えた。
市場の捉え方、営業所の必要数などをフェルミ推定で考えた。
ex.宅急便に必要な営業所の数の目標を警察署の数にした。

○儲からないから止めてしまうのは情けない。儲からないものを儲かるようにするのが起業化魂。経営のロマン。

それまで採算が取れないと言われていた小口荷物の輸送の宅急便を採算が取れる事業にした。
新しいサービス、スキー宅急便、ゴルフ宅急便、クール多急便などを考案した。


○組織をフラット化し社内のコミュニケーションをよくれば、経営のスピードも速くなる。

SDの採用、事務と労務の一本化を実行した。

○上司の目は頼りにならない。下からの評価と横からの評価。項目は実績でなく人柄。


リーダーには、ビジョンをつくる力、ビジネスモデルを構築する力、具体的な目標に落とし込む力、組織を作り上げる力が必要と言われるが、小倉氏はそのどれもが優れている。

ビジョン:郵便局だけの独占事業であったゆうパックの市場に宅急便というあらたなビジネスを生む。福祉事業で障害者に一人前の給与を支払う。

ビジネスモデルの構築:宅急便で採算が取れる事業になるかを、ハブ・アンド・スポークシステムや営業所の数、太平洋側の主要都市から拡大するなどの施策としてつくった。

目標に落とし込む: ダントツ三カ年計画などの目標を掲げ、実行した。

組織を作り上げる: 全員経営の考え方で、ブルーカラーとホワイトカラーの一本化や労働組合を見方につけることなど、それまでの常識を変えて組織をつくりあげた。

何度も読み返したい日本のすばらしい経営者の本であり、小倉氏自身による貴重な経営書である。

小倉昌夫『経営はロマンだ!』日経ビジネス文庫

2010-08-12 23:46:10 | マネジメント・ガバナンス
1年くらい前に読んだ。
とても面白い本である。日経新聞に連載されていた私の履歴書のをまとめたもの。

ヤマト運輸は小倉氏の父親が起こした会社だが、ここまで大きくしたのは小倉昌夫氏の力だ。
東大時代にマックス・ウェーバーに感銘を受けた話や静岡での駆け出し時代に短刀をもった社員にひるんだ話なども面白い。一番ためになったのは、引退してから障碍者が働ける職場をつくるために共同作業所などで経営指南をするところだ。

「利益とは目的ではなく、収入から経費を引いた結果である。宅急便もそうだった。一生懸命いい仕事をしてその結果、ご褒美として利益が出る。利益が出ることで事業が長続きする。利益の確保は事業を永続させるための手段である。目的と手段を取り違えてはいけない」
とまず福祉関係者に教えるそうだ。福祉の世界では利益など考えたことがない人も多いらしい。
小倉氏は障碍者を最低賃金以下で働かせているのを「搾取だ」と批判する。
顧客が望むサービスを考え、儲かるしくみをつくることは、どの世界でも共通との認識がある。

ヤマト運輸は郵便局が小包を業務独占することに果敢と挑んだ。今で言うとNTTに挑むソフトバンクの孫さんのようなものだろう。
「宅急便」や「クール宅急便」には起業家の魂がこもっているのかもしれない。

三木谷浩史『成功の法則92ケ条』幻冬社

2009-12-28 22:17:32 | マネジメント・ガバナンス
 三木谷社長の本は元気が出る。
 この人の考えはシンプルでわかりやすく、読むたびに「ああ、前向きにまともな考え方をしなきゃいけない」とモリモリ力が沸いてくる感じがする。。
 主張は根拠をもって展開され、論理的である。けれど、非論理的、感情的なところもある。たとえば0.5%の頑張りは気合いを感じるし、顧客サービスと楽天イーグルスが結びつくところは個人の好みや感情を感じる。思いや感情はあるレベルからの飛躍バネのような気もする。
 論理と感情。これらはどちらも大切だ。どちらも意識してコントロールできれば幸せな日々が送れるのだろう。ところが逆に論理のための論理になったり、感情に支配されたりしてしまい、幸せとは縁遠い方向に歩んでしまう。
 FinacialTimesがお勧めの雑誌だ。日本のジャーナリズムより質の高い論評がついているからだそうだ。

冨山和彦『会社は頭から腐る』ダイヤモンド社

2009-12-28 22:10:16 | マネジメント・ガバナンス
 経営コンサルティングの仕事を実際にやると、MBAの「経営ごっこ」やわけのわからない横文字のフレームワーク、学歴などが通用しないことがわかったと冨田氏はいう。
 冨田氏は東大現役時代に司法試験に合格し、卒業後スタンフォードのMBAを取得し、BCGに入社した。それが中小企業の再建に関わり、自身が中小のコンサルティング会社に転職し、のちに社長になり、バブル崩壊の時期に倒産の危機にも遭遇した。
 冨田氏のコンサルティングの経験では、東大出身の大企業幹部や省庁の官僚はその制度で上り詰めたので、この制度を壊そうとしないし、ビジネスが儲かるか儲からないかより、リスクを取らない方法を必死で探し、穏当に処理したいとまず考えるのだそうだ。およそ学歴が評価されない現場の人々のほうがひたむきに働くし、ベンチャー企業のほうが意思決定が早く、ビジネスを成功させるのに向いているらしい。カネボウの再建でも現場の女性が売れる仕組みを必死で考えたのが成功の要因だという。

 会社の修羅場でこそ、人間の本性が見える。倒産するか立て直すかという土壇場でこそ、その人の人間性が見えてくるというのは慧眼だ。しがみついてでも再建に尽力する人、昨日までのライバル会社にさっさと転職する人、出向先に戻ることばかりを優先する人など様々らしい。

 再建のポイントは次の3つを知り、自社に当てはめ、何を優先してすべきかを戦略(仮説)として立てることだ。

①その事業の経済状況、消費者を知る
②競合状況を知る
③経済の仕組み(成功するビジネスモデル)を知る

 これをもとにPDCAで何がどこまで到達したか、何が間違っていたのかをフィードバックする。「組織は戦略にしたがう」のでも「戦略が組織にしたがう」のでもなく、戦略はあくまで仮説であり、そので合理と情理を尽くした人々により変えていくものなのだ。
組織では人がすべてであり、人が何を感じ、何を考え、何によって働こうと思うのかが需要なのだ。それを良い方向にもっていくことこそマネジメントだという。

 部長になるとパフォーマンスが下がるのが日本の現状だという。調整のために人と話をする時間が長く、書類に適当に判子を押して、会議で威張り散らすというような人が多い。そうならないためには、若い人に部長を譲るか、老兵は去るか(会社から出るか)、それを避けるためには人並み以上の研鑽に励むか。

永宮和美『日本のホテル大転換』ダイヤモンド社

2008-12-07 21:15:17 | マネジメント・ガバナンス
日本のホテルの事業構造が知りたくて読んだのだが、損益計算書にあらわれるような数値はほとんどなかった。ホテル産業の最近の動向はわかったので、まあ悪い本ではない。この本によると古くからの日本のホテルが外資だけでなく日本の企業にも売られていて、ホテルを取り巻く環境の変化に驚く。京都でも2001年以降では、京都ロイヤルホテルがイシン・ホテル・グループに、ホテルプリンセス京都が京セラ興産に、京都東急ホテルがNKリアルティに、パークホテルがモルガンスタンレーに、ホテルフジタが積水ハウスに売られている。東京では帝国、オークラ、ニューオータニの御三家でも帝国が客室改修に170億円を投じるとか、安泰な事業ではなくリスクが大きい事業に変わっている。新たな潮流として、アメリカの外資、デザインホテルの流行りの次はアジア資本の参入らしい。ペニンシュラ(香港)、マンダリン(香港)、シャングリ・ラ(中国)が新たな御三家になるとか。

ビル・ゲイツ&ウォーレン・バフェット『バフェット&ゲイツ 後輩と語る』センゲージラーニング

2008-08-24 21:59:01 | マネジメント・ガバナンス
大金持ちもここまで来ると庶民とは感覚が違う。
ゲイツもバフェットも金持ちはもっと税金を支払うべきで、アメリカの税制は金持ち優遇過ぎると言っている。大金持ちは貧乏人に金を還元すべきだとも言う。
ゲイツが作った慈善団体にバフェットは膨大な額の寄付をしているらしい。
この企画はバフェットの母校のネブラスカ大学の学生が二人に質問して答えるものだが、大金持ちになる方法を知りたい人には不向きな本。
金を儲けすぎてもてあましている人物は何を考えているのかを知るにはよい本だが。
この本には企画を録画した英語字幕付きのDVDが付いている。二人の姿と声に触れるにはよい本。金持ちマニア向けかも。

三木谷浩『成功のコンセプト』幻冬舎

2008-08-18 23:28:56 | マネジメント・ガバナンス
カンブリア宮殿に三木谷社長が出演しているのを見てからこの人にはとても興味があった。『成功のコンセプト』もおもしろいので60分くらいで読んでしまったが、また読みたい本である。

<コンセプト1:常に改善、常に前進>
人間の力には潜在能力、能力、実力の3種類あり、潜在能力を能力まで高められない人、能力があっても周囲の状況や自分のコンディションで実力を発揮できない人もいる。潜在能力をいかに実力にまで結実させるか、そのために楽天では「常に改善、常に前進」することを最も大事にしているという。
<コンセプト2:プロフェッショナリズム>
プロフェッショナルとはどれだけ自分の仕事に心血を注いでいるかできまり、なにより仕事を楽しみにしていることだという。
<コンセプト3:仮説→実行→検証→仕組化>
アイデアは右脳で、フレームワークは左脳で。右脳も大事だが、左脳での蓄積も大事。しかしビジネスにおけるフレームワークは自分で見つけないといけない。成功のためには右脳と左脳を使って、仮説→実行→検証→仕組化が必要。
そのほか<コンセプト4:顧客満足の最大化><コンセプト5:スピード、スピード、スピード>で5つの成功のコンセプトを三木谷氏が大事にしている。
三木谷氏はハーバードビジネススクール(HBS)のMBAだが、この本には難しいことが一切書かれていない。HBSでは、いかに大きな企業に属しているかとかではなく、小さい事業でも自分の才覚で新しいビジネスを起こす人が称賛されたらしい。GAPやベネトンの国際戦略の授業で三木谷氏は一人だけいかに地域ごとの多様性が重要かを主張していたという。この人が事業で学んだことをぜひ参考にしたい。