阿部ブログ

日々思うこと

超薬剤耐性NDM-1(New Delhi metallo-β-lactamase1)の脅威

2012年04月09日 | 日記
超薬剤耐性菌への警戒感が強まっている。

日本で検出される多剤耐性菌には、
①「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」
②「ESBL産生菌」
③「多剤耐性緑膿菌(MDRP)」
④「多剤耐性アシネトバクター(MDRA)」
⑤「バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)」などがあるが、
最近注目されているNDM-1は、カルバペネムを含む各種の広域β-ラクタム薬を分解する酵素で、後述するがチゲサイクリンとコリスチン以外の抗生物質に対して「高い耐性」を示すことから医療関係者の間で警戒感が広がっている。

※NDM-1は New Delhi metallo-β-lactamase1(ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ-1)

日本では昨年2011年1月21日、厚生労働省が「我が国における新たな多剤耐性菌の実態調査」の結果について発表しており、国内でも感染例・保菌例があったとしている。
 

多剤耐性菌とは、厚生労働省によると「カルバペネム系を含む広域-ラクタム系、フルオロキノロン系、アミノ配糖体系の3系統の抗菌薬に対し広範な耐性を示す菌」と定義しており、参考として添付されている資料によれば、埼玉県内の医療機関に、消化管出血の治療のため入院した80代女性患者から採取した尿の検体からNDM-1が検出された。
しかしその後、何のことはなくお婆さんは退院したとしているが、気になるのは、このお婆さんには海外渡航歴が無いこと。

イギリスの事例では、37人の患者のうち17人が過去1年以内にインド、若しくはパキスタンに旅行し14人は美容整形手術のため入院していた。NDM-1の感染症状は、人により異なっているようだが、何人かは血液感染を起こしている。

※因みに、埼玉のお婆さんのNDM-1報告としては、国内3例目との事。日本で初めてNDM-1が単離されたのは、2009年獨協医科大学病院においてである。

海外でのNDM-1の単離は、インドのチェンナイ44株,ハリヤーナ州26株,イギリスで37株,その他の地点から73株が単離されており、そのほとんどが大腸菌と肺炎桿菌。これらの腸内細菌群は、薬剤耐性試験でチゲサイクリンとコリスチン以外の抗生物質に対して「高い耐性」を示している。その後調査では、カルバペネムを含むほぼ全ての広域β-ラクタム系抗菌薬とともに、フルオロキノロン系、アミノ配糖体系など広範囲の抗菌薬に多剤耐性を示す株が大半を占る事がわかっており、現時点は、日本では未承認であるが、チゲサイクリンやコリスチン(ポリミキシンE)などの抗生物質には感受性を示す株が多いとされている。

さてNDM-1が脅威とされる理由は、ヒトの腸管に定着しやすい大腸菌や肺炎桿菌において多く見つかるという大きな特徴があり、院内感染症や術後感染症の起因菌としてのみならず、尿路感染症などを引き起こす新手の多剤耐性菌として、世界的に感染が広がる可能性が懸念されている。既にイギリスにおいて、人から人への感染例が知られている。

今までも、様々な薬剤耐性をもつ細菌が出現しているが、新たな耐性細菌が見つかる都度、人類の至宝である抗生物質群はその効力を失っていった。これら薬剤耐性菌の治療には、高価でしかも副作用が強い薬剤を患者に投与しなくてはならない。代表例がカルバペネム系抗生物質による治療だ。

カルバペネム系抗生物質は、ペニシリンやセフェム系抗生物質が奏功する一般の感染症に安易に使用する薬剤ではない。カルバペネム系抗生物質は特に強い抗菌力を有する薬剤で、グラム陽性菌からグラム陰性菌をカバーする広域抗菌スペクトル性、強力な抗菌活性、β-ラクタマーゼに対する高い安定性などの特性を有する。これが為、カルバペネム系抗生物質の使用には慎重さが求められる。

しかし、残念ながらカルバペネム系抗生物質は、NDM-1に効果は無い。

カルバネペム系抗生物質が効かない耐性菌治療には、前述のコリスチン(ポリミキシンE)やチゲサイクリンが用いられる。またこれらの組み合わせ療法も行われるが、一般的な組み合わせ治療は、①コリスチンとリファンピシン、②コリスチンとカルバペネムであるが、単体の薬剤治療と比較してその治療効果が高いかは現在の所判然としていない。
このような耐性菌治療は、耐性菌優位に推移しており、感染症そのものによる致死率だけで8~23%、集中治療室では10~43%に達すると報告されている。

それと注意しなくてはならないのは、コリスチン耐性株も僅かながら報告されつつある点。
カルバネペムに次いで、コリスチンとチゲサイクリなどによる組み合わせ治療もNDM-1などの超耐性菌の攻勢に屈すると人類における最後の砦が陥落する事になりはせぬか?

この耐性菌治療と感染症対策に、米国では1日あたり800万ドル、年間で340億ドルのコストが掛かっていると言われるが、今後この手のコストは世界的に増加する事は間違いないが、このままNDM-1を放置すれば治療不可能な感染症を新たに生み出す可能性がある。早急な対応が求められている。
我が国においては、少なくとも効果のあるとされるチゲサイクリンとコリスチン系抗生物質の承認と医療機関での使用可能としなくてはならないだろう。これを怠るようであれば行政の怠慢は、担当大臣も含めて厳しく処罰されねばならないだろう。

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