阿部ブログ

日々思うこと

高速増殖炉の誤解

2011年10月27日 | 日記
高速増殖炉と言う言葉は、人々に誤解を与えているのではないか? 
何故なら高速に核燃料を増殖する原子炉と理解してはいないか。この場合の「高速」の意味は核分裂で発生する中性子を軽水炉などのように減速させず、高速のままウラン238にぶつけてプルトニウム239に核変換させるので“高速”という単語が用いられている。つまり高速に核燃料が増殖する意味での高速ではない。

昨日、高速増殖炉「もんじゅ」の開発に携わった東京大学特任教授であり、財団法人キャノングローバル戦略研究所理事の湯原氏から高速増殖炉におけるプルトニウム(以下、Pu)の増殖比をお聞きする事が出来た。答えは1.2であるとの事。
この増殖比1.2に基づいて原子炉倍増時間が計算できる。
原子炉倍増時間とは、高速増殖炉を動かす為に、最初に炉心に入れた燃料が倍になる時間の事で、増殖比が1.2と言う事は毎年20%の燃料が増加するので、単純に5年で倍になりそうだが、机上での計算と現実とは大きく乖離している。

実際の高速増殖炉には1年で消費されるPuの8~9倍を装荷する必要があるので、原子炉倍増時間は、Puの初期装荷量を1年で増えるPuの増加量で割ると求められる。つまり原子炉倍増時間は、40年~45年である。
また、高速増殖炉の初期装荷燃料とは別に1炉心分のPuを準備する必要がある。これは最初の段階で取換え燃料を用意しておかないと1燃料サイクルが終わった後の取替え間に合わない。これは高速増殖炉から取り出されたPuを再利用可能にする為には再処理が必要な為。

この再処理にしても通常の軽水炉からの使用済み核燃料の再処理とは違い、Puが濃縮され強力な放射能を発する為、高速増殖炉の再処理は技術的にも従来には無い困難が伴う。また再処理過程におけるPuのロスも考慮しなくてはならない。更にはPu239だけが生成する訳ではなく、様々なPu同位体も生成する。現在Puの同位体は15存在する事が確認されているが、そのうち半減期14年のPu241の崩壊による核分裂性Puの減少も計算に入れる必要がある。
因みにPu240のような偶数番の同位体は核分裂しないPuであり、核兵器用途のPuや高速増殖炉の燃料については偶数番のPuを如何に少なくするかが重要なポイントとなっている。

上記を考慮すると、現実的な原子炉倍増時間は80年~100年と言わているが、「もんじゅ」のようなナトリウムを冷却材とする高速増殖炉の場合の増殖比は、実測値1.16であると言う。(原子炉倍増時間は50年~56年に延びる)
仮に原子炉の寿命を30年とすると1基の高速増殖炉だけでは燃料を倍増する前に廃炉となる為、複数の増殖炉と再処理施設が必要となるが、1997年に稼働する予定の六ヶ所村再処理施設は現在も稼働の目途がたっていないのは衆知の事実で、実質的に我が国が目指す核燃料サイクルは破綻している言えるが、今後は「高速増殖炉」ではなく「高速炉」と正しく表記するべきである。