(そろそろ、ブレイクタイムよ)
第一話
「縁側の住人客人と
~まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響~を見る」
の巻
その男は
縁側に住んでいた
正確には
縁側でできた家
正方形のオレンジ色の板張り
縁側でできた家
縁側というのは
部屋のへりにくっついて
内でも外でもない空間
雨が降れば半分は濡れ
風が吹けば板の上をするりとぬける
陽が射せば日だまりができて
座布団を枕に 猫ろべば
にゃあ~と鳴いて眠る最上快眠
縁側だけで出来た家には
部屋はない
真四角に縁側がぐるりとあるだけ
真ん中は抜けている
はて?
縁(へり)なのに
何のへりなのか定かでない
男は
いや男だったのかどうかも
定かでない
女だったかもしれない
(さっきお八つの虫捕り逃がしちゃったのよ)
縁側の家
縁側だけの家
縁側で出来た家
は
内でも外でもない
その住人は
オレンジの板の上で思案する
軒下なのだが
その軒はどの屋根に
つならっているのだろう
ありえないことに
軒先だけの家なのだ
玄関はないが
どこからでも入れる
入らずとも腰は掛けれる
しかし
くつぬぎ石のある場所
いわばそこが玄関だろう
住人は
そこの近くの柱に表札をかけた
柱は何本かあるみたいだ
軒をささえている柱
あくまで屋根ではない
屋根がないのに軒とはカタハラ痛い!
(おなかすいたな~おいでよあたしの可愛い虫さん)
表札にはこうある
『やせ我慢の住人棲家』
横に小さく
~縁を感じたら遠慮無くお上がりクダサい~
ちょっとダサい
猫が縁側四隅にいるまるで狛犬のように
前足を立てて座っているもの
寝そべっているもの
のびをしてあくびをしているもの
もう一匹は・・・・逢引に出かけたか?
しかし魔除けになるのかならないのか
これまた曖昧に尽きる
あいまいもこ な住人は
出かけようか家にいようか 悩んでいた
出かけてもよい が
風にあたるならここでもいい
日差しもそこそこ秋びより
外庭には
紅葉が切り石の道に沿って
数本植えられている
軒しのぶの羊歯類の葉が被った
吊りヒモの間の三角形を窓枠がわりに
まだ紅葉していない
かえで類を眺めてみた
(隠れてないで出ておいで~)
吊りしのぶは
朝日のあたるへりの
中央に三つ下げてある
内庭には
芝生に近い色の苔が隙間無く張られていて
これまた
和風なのか洋風なのか
遠目に微妙にあさはか なり
庭のどこかに
肝据わりの景石を埋めてあるが
十分の一を地上に出して
据えるつもりが
苔の下に
十分の十埋まっている
何ゆえなのか・・・。
見えぬ景石は
埋めてあることさえ 時に忘れる
肝が据わりすぎて
もう矢でも太鼓でも鳴らしてくれ
飛び道具は嫌いだから
縁側ぐるりと周って一周できる
回遊式縁側 いや縁宅
南には座布団と新聞紙
の上にはむきかけの南京豆
北側には藤の枕と細長い床ぶとん
丸めるとマーブルロールケーキのように
茶と紺色の縞の布団である
東には小さな文机がひとつ
上には
硯ならぬマウス
引き出しもついている上板を上げると
おどろいたことにPCが出現
(もう・・・なにさどこさ?)
西にはたくさんの笹に短冊
七夕の飾り
ところどころに
色紙で作った西瓜やなすび
本物のきゅうりやトマトも
うりうりして
はりはりしてるな
まあ七夕はとうに過ぎたのに
七という字が好きらしい住人は
いつまでも七夕を飾る
東・西・南・北は多分
客間・書斎・寝所・居間
といったところか
まあそれも定かでないが
内庭には桜の木
桜桃の木も一本
兄弟の様に植わっている
桜の下には
四角い縁台
縁側の家のコアは
やはり縁台なのか
縁側に座って縁台を見る
不要の様は必要の用
月見る月は映し絵の月
そろそろ昼か
とひとりごちる頃
西の文机の横に客人が
なにげに上がりこんで
隠し剣ならぬ隠しバソコンを覗いていた
『あ、ども。縁あっておじゃま してます。』
と
客人はペコリともせず玄関でない
縁から上がりこんでいた
「なにか御用でしょうか?」
「あ、いや御用というほどでもありませんが
このパソコン画面のものはなんでしょう?」
「これは公園の調査票で夜中から明け方に作っているのです」
「ほほう何故夜中から明け方に?」
「まあ段取り上そんな感じになるので」
「いつ終わりますかそのお仕事」
「いやまだもうちょっとかかります、何故です?」
「私、ちょっとお借りしたいものが。」
「はい、お塩ですか?しょうゆですか?」
「いやしお・・・しょうゆうものではなく」
「実は、このパソコンでテレビは見れますまいか?」
「あ。見たことはないのですが、コードを繋げて設定すれば。」
「では、ぜひに設定して見せてください。」
「何をご覧になりたいの?」
「~まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響~を見たいのです」
「なるほど~まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響~それは妙に気になります」
「是非に」
「見ましょう」
「ポール・ニューマン 追悼一周年ですからね」
「そうですね」
「ポール・ニューマン は5本?も監督として映画を残しているのに、
あまり監督として語られないのは何故ですかね?」
「さてね、「まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響」は
3本目らしいですよ」
「1作目が「レーチェルレーチェル」、2作目は「わが緑の大地」」
「3作目が「まだらキンセンカ」で
4作目が「ハリー&サン」、で5作目が「ガラスの動物園」」
「テネシーウイリアムズですか?」
「そのうち4作に奥さんのジョアン・ウッドワードが出ていますね」
「多分奥さんの演技者としての才能を世間に見せたかったんじゃないですか?」
「ふーんどうかなあ、でも愛妻家ですからね」
「ところでお腹がすきました」
「確かに」
と言って
住人は縁側表面をなでて
なにやら指で板を押さえた
すると
隠し取っ手がくるりと突出して
取っ手を持ち上げた
縁側の板が
これまた正方形にパカリとはずれて
その下に冷蔵庫が現れた
「これは便利至極、いやはや恐れ入り屋の鬼子母神です」
「ビールをどうぞ、ワインにしますか?」
と
住人はくるりと反対側を向いて
別の隠し取っ手をくるりんとした
パカリと音がして
そこに手をつっこむと
グラスを二つに
ナイフと箸を二膳出し
ついでに
オードブル皿も出した
パカリふたの縁板をひっくり返して
その上にチーズとハム
七夕の笹につるした
きゅうりとトマトを取ってきて
載せて食べやすくスライス
そして皿に載せて
「さあ、どうぞめし上がれ」
「いやはや、まな板になるとはこの縁側は
何にもないように見えて・・・いただきます。」
夏のなごりの風鈴が
軒下でちりりん ちりりん鳴る
豚の蚊取り線香入れから
一筋の煙が風に乗って縁側を走る
(おーい・・・無視かい?。)
「いや~縁があってよかったです!この縁に」
と
客人はチーズにハムときゅうりをはさんで
ほうばる
「この縁はまさに縁の下の力要れ?ですなあ」
「まあ・・東西南北の縁の下にはまだまだいろいろございます」
「囲炉裏も井戸も衣類入れも五右衛門風呂もこの隠しブタの下に?」
「まあ・・・そんなとこです。」
「なるほど縁側の家はおもったより快適ですな」
「まあいちおう、やせ我慢の棲家とはいえ、それなりに。」
「ふむ、ところで話は戻りますが、やっぱりポール・ニューマンですよね!」
「もちろんです!」
「くらべるもんでもありませんが、クリントイーストウッドより?」
「もちろんです」
「自分が法律のクリントイーストウッドは、とうとう
「グラントリノ」で神になって昇天しましたし・・・。」
「また甦るでしょうあの人は」
「ポールは甦りませんが・・・。」
「ポール・ニューマンのすごいところは、縁を切らない演技といいますか
他の役者を生かす演技をする、そこがいい。」
「確かに!縁起な演技ですな、監督としてはどうでしょう?」
「とりあえず「まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響」
を見てみましょう」
「そうしましょう。」
第二話につづく。
ポールニューマン追悼特集を
テレビでやっていたのを知らなくて
大半を見逃した、悔しい!
が唯一ビデオに収めることができたのが
この
「まだらキンセンカにあらわれるガンマ線の影響」
であった
まだ見ていないのさ!うふん。
(あ。ここに居たの)