練習オタクの日々

3日ぼうずにはしたくありません!この日記とピアノのお稽古。練習記録とその他読書などの記録をつけておきます。

『砂漠』 伊坂幸太郎

2006-10-06 | 読書
大学時代ってこんなだったなぁ・・・とちょっと感慨深くなってしまうような作品。

伊坂作品はどこか現実離れしたようなシチュエーションが魅力だったりするけれど、これは比較的限りなく日常に近いような印象を受けた。
その中にも伊坂さんおとくいの緻密な設定や伏線、決めのフレーズなんかがあちこちに散りばめられていて期待を裏切らない。

なんといっても主たる登場人物が東堂、南、北村、西嶋。この四人が集まったのは名前に東西南北がついているからという理由で雀卓を囲む事になったから。
そういう意味もなくくだらなくてなにも建設的ではないことに夢中になれるのは学生時代だけだったなぁ、とン十年もたった今、つくづく思うのだ。

でも、そんな風にくだらないばかりではない。この物語の登場人物たちは。
多分、伊坂さんがこうありたい、と思うようなキャラが登場人物に投影されているような気がする。

特に西嶋だ。彼は集団の中では浮いている。周りがサ~~~~っと音をたててひいてしまうくらい、恥ずかしくなるような正論を大きな声で弁じてしまうような、なんだか熱いんだか空気が読めないんだかよく分からないような浮きさ加減なのだ。
そんな彼だが、話を読んでいるうちにどうしようもなく西嶋に惹かれてゆくのが自分で分かった。

作品中にたしか「自分とは全く関係のない土地でおきている人間の不幸を憂うことができるのが人間だ」とかなんとかいう引用があったが、西嶋はそれを地で行ってしまい、行動に移してしまうような人間だ。
もちろん、地球の裏側の国でおきている理不尽な殺戮を憂いて、武器を即座に手にして戦いに行く・・・なんてことはいくらなんでもしないけれど、保健所のサイトで保護期限が明日までという野良犬の写真を見ていてもたってもいられなくなって後先のことを考えずに引き取りに行ってしまう程度の行動力なんだけど・・・・。

びっくりしてしまうようなことを言ったりやったりする西嶋だが、彼がすごいのはとにかく「臆さない」ということだ。まったく軸がぶれていない。
私は彼のエピソードを読んでいて、「孤高」という言葉を思い浮かべていた。

それでも彼は決して孤独で他を受け付けないというわけではない。
友人、友情のかけがえのなさ、みたいなものを一番実感しているように描かれていたのも西嶋自身だったと感じられる。

ラスト近く、卒業式での学長先生のことばもなかなか泣かせるものがあった。
学生時代という短い、それでいて二度と経験できない貴重な時間の素晴らしさ、それを改めて思い出させてくれる作品だったと思う。