落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

とおりゃんせ

2008年02月16日 | movie
『ボーフォート ─レバノンからの撤退─』
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2007年度のアカデミー賞外国語映画賞部門にノミネートされ、本選でも最有力候補と目される注目作。
日本ではDVDが来月発売されるのだがもともと公開の予定はなく、今回のノミネートで急遽短期間だけ劇場公開されることになったらしい。
これねえ、スゴイよ。もしかしてスゴイ映画観ちゃったかも。観た方がいいですよ、コレ。マジで。
題材は副題の通り2000年のイスラエル軍のレバノン撤退。舞台は12世紀に十字軍が築いたという歴史的要塞ボーフォート。映画では、この要塞で任務に着く若い兵士たちの撤退までの数日間を描いている。
それだけなのだ。ほんとうにほんとうに、たったそれだけ。

カメラは要塞の外へはほとんど出ない。登場人物もほぼ全員が要塞の兵士たちだけ。すべてがその要塞の中の出来事だけで構成されている。
つまり、戦争のしっぽの端っこの、そのまた毛の一本を、ものすごく丁寧に緻密にリアルに表現している。誇張もなくドラマもなく、ひたすら淡々と。
なんのために?一体なんのためにそんな映画をつくらにゃならんのか?
この映画は戦争映画だ。だが戦闘シーンはまったくない。ひっきりなしにヒズボラらしき敵からの爆撃はある。地雷も仕掛けられる。ひとり、またひとりと兵士が命を落とす。仲間の目の前で、虫けらのように呆気なく死ぬ若者。だが自動小銃を肩にかけたイスラエル兵たちは反撃はしない。彼らの任務は反撃ではないからだ。また敵の姿も画面にはいっさい出てこない。爆弾が無情に、ひゅーーーーーーーーーー・・・っと飛んでくるだけ。
だからこの戦争映画には正義も勇気も涙も感動もない。もちろん英雄もなし。信仰もなければ民族の誇りも政治信条も平和への願いもなし。
ここに表現されているのは、たったこれだけの撤退がこんなにもこんなにも難しい、一度始めた戦争をやめることの困難さの現実なのだ。それだけで、つくり手が何を表現しようとしているのかが、痛いほど伝わる。

登場する兵士はみたところ全員が20代。すごく若い。ぐりの目からみても、まるで子ども、少年のようだ。
ジョークや将来の夢、家族や恋人の思い出話に盛り上がり、うちに帰る日を指折り数える少年たち。でもそこはサマーキャンプじゃない。見えない敵に取り囲まれた砦だ。
そこにいる誰もが、いつ死ぬかわからない恐怖に怯え、同時に怯えまいと必死に自己を抑えている。
そんなぱっつぱっつにつっぱらかった心理描写が、とにかくもうもうメチャクチャにリアル。観ているこっちもオシッコちびりそうなくらい、生々しい。怖い。
けど戦争ってそういうことだ。死と隣りあわせの恐怖。逃げ場はない。
ぐりはもともと戦争映画ってあんましスキくなくて本数も観てないけど、これまでに観たなかでは間違いなくトップ3に入る傑作ではないかと思われ。

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