落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

そんなに女が悪いのか

2005年12月14日 | movie
『ブレイキング・ニュース』
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※あーちょっとネタバレっぽいけど伏字じゃないです。

おもしろかったよ。うん。でもなぁ。なんかイマイチ。これまでに観た杜[王其]峰(ジョニー・トー)作品と比べるとはっきりと精彩に欠ける。ストーリー展開にキレがない。緊迫感が足りない。なんでだろう。
まぁいつもと明らかに違う点はメインキャラクターのひとりが女性、ってとこですか。
杜[王其]峰だって毎度毎度オトコまみれのクライムアクションばっかし撮ってる訳じゃない。『イエスタデイ、ワンスモア』とか『ターンレフト ターンライト』とか『Needing You』といった女性メインの映画も撮っている(あんまし観てないけど>爆)。
でもなぜか作家・杜[王其]峰といえばそういう女子ども向けのソフト路線じゃなくて、ピッタピタにクールなオトコの世界!をスタイリッシュに撮る人、というイメージがある。現にそのふたつの路線は今では同じ監督作品とは思えないくらいくっきりと作風がわかれている。まるでジョニーA/ジョニーB、というべつべつの人がつくってるみたいだ。
この『ブレイキング〜』はどっちかといえばジョニーB─オトコ系─の方に属する作品だろう。それなのに主人公が女。ビックリするくらい眉毛ぶっとい陳慧琳(ケリー・チャン)。

じゃあケリーの何がいけないのか、っつーとそんなことはない。ぐり的には彼女が登場するずっと前、最初からちょっと怪しかったのだ。
例の評判のワンカット長回しの銃撃戦。せっかくものすごく複雑に設計したオープニングカットなのに、完成度がいまひとつ。カメラの動線がスッキリしないせいで緊張感が削がれてしまうし、構図が小さいのにカメラの動く範囲が広過ぎて臨場感も出しきれていない。ワンシーンワンカットが活かしきれていないのだ。同じ意味で、エレベーターの場面も効果的ではなかったように思う。
それとわざわざ警察×犯罪者×マスコミという三つ巴構造にしたにも関わらず、マスコミの影が異常に薄い。あれではただの舞台の書き割りにしかなっていない。警察内部や犯罪者を2層にわけるより、もっときっちりマスコミをストーリーに絡ませた方がおもしろくなったはずだ。警察内部の軋轢や大陸出身の犯罪者ってのももう使い古され過ぎて新鮮味がない。
そしてそれぞれの要素の入り方・配置があまりにあっさりというか予定調和的なのも物足りない。もうちょっと葛藤とか驚きがほしかったです。父親はいきなり子ども置いて逃げるし、人質はいつの間にか増えてるし、なーんか全体的にしまりがないような感じもする。ゆるい。どことなく『踊る大捜査線』っぽい。

そこへもってきて食えない警察官僚(ケリー)=ヒロイン≒真矢みきの登場である。
杜[王其]峰作品に限らず、香港映画の犯罪モノに出てくる男はみんな哀れなほど純粋だ。純粋なゆえに罪を犯したり、命を落としたりする。そういう男の愚かさを題材にした映画が実に多い。この映画でもそうだ。
ユアン(任賢齊リッチー・レン)は平気で警官を殺せるクセに、人質にむやみに暴力をふるうのを極端に嫌う。チョン(張家輝ニック・チョン)はどれだけ上層部に撤退を命令されても犯人逮捕のためにひたすら前進する(青島刑事だ)。アホです。アホだからこそヒロイックなのだ。
それはそれでいいんだけど、そういうピュアネスと対極にあるもの─うまい表現がみつからないんだけど─を女性=ケリーに転嫁しすぎなんではないだろうか。転嫁してそれでストーリーやテーマが消化できりゃいいけど、結果的にはできていない。

それでも途中まではなかなかおもしろかったのだ。
だが犯罪者(リッチー)と警察(ケリー)が直接対決に至った時点で、それまでどうにか均衡を保っていた世界観が破綻してしまう。警察官が女性であるがゆえに、ケリーが単独で状況を覆すというフェアネスが成立しなくなるからだ。そこでストーリーの緊迫感が決定的に失われてしまう。もうあとは完全に先が読めてくる。
もしかすると杜[王其]峰は純粋さを否定する力を男性キャラクターに託すのには抵抗があったのかもしれない。けどだからといってそれを安易に女性キャラクターに負わせるのは危険だし、そうする必要もなかったんではないかと思う。むしろこういうイヤな役は男がやった方がおもしろくなったのではないか。
ケリーにとってはおいしい作品だったろう。しかし杜[王其]峰にとっては勉強になった作品ではないだろうか。

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