はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 030:政治

2006年05月17日 20時18分07秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
はるの日はためらいがちなぼくたちのやさしい王の政治のように
                     飯田篤史 (ひこうき雲)

  王政は、どんなに立派な王が行っても独裁であることに変わ
  りはありません。
  やさしく包み込む、抗いがたい支配。春の気分とは、まさに
  そんな気分ですね。
  2句が3句にかかり、それが「やさしい→王→政治→ように」
  とかかり、その全体が「はるの日」に導かれる。
  複雑な構造ですが、意味を掴むのはそれほど困難ではない。
  技巧的にもうまいなあと思いました。

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合併の町に小さな政治あり曇硝子を塞ぐポスター
                   水須ゆき子 (ぽっぽぶろぐ)

  「政治」というお題。今の政治に遺憾の意を表する人が多か
  ったですが、その中で、政治の複雑さを風景描写的に詠んだ
  歌だと思いました。
  「小さな政治」とは、すなわち住んでいる人にとっては、一
  番身近で大事な政治。
  そして、卑近な政治でもあります。
  「曇硝子」をわざわざ「ポスター」で塞ぐ。
  息苦しいほどの閉塞感が表れています。
  建物にとっても、政治にとっても。

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この店に今度入ってきた人と政治とか愛とかの話をしたい
                      やすまる (やすまる)

  「とか」の使い方が好きです。
  別に政治や愛でなくても(お好み焼きとかカンガルーとか人
  類とか終末とかでも)、なんでもかまわない。
  さらに言えば、話し合う人も誰でもかまわない。
  胸の内を打ち明けたいし、打ち明けてほしい。
  初めに読んだときは「おいおい」と突っこみたくなるような
  楽しい歌でしたが、だんだん胸が切なくなってきました。
  そんな歌です。

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野いばらにおるがんの音照り映えて恐怖政治下したたる五月
                    萱野芙蓉 (Willow Pillow)

  「恐怖政治」の読み方で、歌意が変わってきます。
  恐怖政治(戦時下日本とかスターリンとか)の元でも新緑の
  季節は巡ってくるのだ、という意味か。
  五月という季節そのものが「恐怖政治」であるのか。
  どちらを取っても、胸に響く歌です。
  いばらの緑、紫外線降り注ぐ五月の太陽、そして「おるがん」。
  その音色は、呪術的にすら聞こえるのでしょうか。