はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 029:草

2006年05月12日 19時45分19秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
搗きたての清明節の草餅を並んで食べた 恋じゃなかった
              ふしょー (DEATH IS A LONELY BUSINESS)

  「清明節」は中国の祝日の一つ。
  4月5日ころで、お墓の掃除をするのだとか。
  日本のお彼岸のようなものでしょうか。
  ご先祖のことを思いながら作った草餅を、(おそらく)墓地の脇
  で並んで食べる。
  おだやかな春の日射し、さわやかな苦みと甘みの草餅、隣にいる
  人。
  「恋だと思ってたけど、別の何かなのかなあ」
  あるいは、もっと劇的で辛い歌なのかもしれませんが、僕が思い
  浮かべたのはこんな風景でした。

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はふはふと息を切らして帰り来し老犬の毛に絡む草の実
                      水都 歩 (水都blog)

  迷子になっていた愛犬が、自力で家に帰ってきたんでしょうか。
  毛に絡みついたさまざまな物が、彼がくぐり抜けてきた冒険を物
  語ります。
  心を動かされるのは、彼が「老犬」であるということ。
  向こう見ずな若気の至りではなかったということ。
  迎える家族も、子どもではないでしょう。
  再会も、熱さを表に出さない穏やかなものだったのではないで
  しょうか。

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草萌ゆる季節(とき)を好みて憂鬱はふいに背後に忍び寄るらし
                   スガユウコ (ココロに花を)

  おかしなもので、もの悲しい秋やつらい冬での憂鬱よりも、
  命あふれる新緑の時期に感じるそれのほうが、何倍も心に
  食い込みます。ひどいときは、心を殺してしまうほどに。
  「ふいに」の語が、本人の努力だけではどうにもならない
  理不尽な力を表しています。