はいほー通信 短歌編

主に「題詠100首」参加を中心に、管理人中村が詠んだ短歌を掲載していきます。

鑑賞サイト 027:嘘

2006年05月05日 19時27分02秒 | 題詠100首 鑑賞サイト
あの嘘をそろりと注ぐその日からシャーレに増殖してた白黴
             小軌みつき (小軌みつき-つれづれ日和-)

  「嘘をそろりと注ぐ」という表現で、精神的状況が生物学的反応
  として表されています。
  ちょっと読みにくかったのは時制の問題で、「そろりと注ぐ」と
  いう現在形と「増殖してた」という過去形。
  これが逆ならすんなりと意味が通るのですが、そう簡単にはいか
  ない。
  注いだときには、すでに白黴が増殖していた?
  うーん、ちょっと違うような。

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恋として嘘をかさねながら抱く 犬のにおいのする公園で
                          花夢 (花夢)

  初めは犬を抱いているのかと思いましたが、そこにあるのは匂い
  なんですね。
  「これは恋だよ」と自分にも相手にも嘘を重ねつつ、相手を抱き
  しめている、ということでしょうか。
  漂っているのは、犬の匂い。腕の中の人も、犬であるかのように
  錯覚してしまう。
  相手も、そう思いながら抱かれているのかもしれません。

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シーソーを漕ぎつつ多分わたしたち嘘はつけない春の公園
                    秋野道子 (気まぐれ通信)

  こちらも、嘘と公園。
  恋人同士が、シーソーに乗っているのでしょうか(男の方が、少
  し軸寄りに座ったりして)。
  普段はいざ知らず、この春の空間の中では、嘘はつけないだろう
  なあ、とお互いに思っている。
  古来、天秤は公平なる裁き(ジャスティス)の象徴としてありま
  した。
  この歌には、シーソー以外にはありえないですね。

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縁先に仕込む蚊遣りの渦巻に火ともす指を嘘が揺らめく 
       ひぐらしひなつ (エデンの廃園 ー題詠百首のためにー)

  縁側の蚊取り線香に火を付けようとしたとき、誰かが(旦那さん
  かな)何か聞いたんでしょうか。
  「(昼間の)PTAの集まりでは何か決まったのかね」とか。
  「ええ、何にも決まりやしませんわ。愚痴の言い合いばっかりで
   …」
  とか言いながら、マッチの火が微妙に揺れている。
  さりげなく体をずらして、それを隠す。ブタの鼻先から立ち上る
  煙…。
  また妄想暴走してしまいました。