年の瀬でございます。無事仕事も納めまして、なにもなければ大掃除や年賀状や帰省の準備で慌ただしく過ごす時期ですけど、ボクらには、選ばれた者達しか味わえない非日常が用意されています。
東京がボクらを国立に連れてきてくれました。
天皇杯準決勝。ボクらの聖地、国立霞ヶ丘最後の天皇杯です。
試合前から負ける気がしませんでした。ていうか、負ける予定がありませんでした。ノックアウト方式で、かつ日程が詰まった三連戦ならではですね。
ポポさんの周到な作戦がはまってプラン通りの試合に持ち込みましたけど、残念ながらAプランはならずBプランに回り、そして最後は不運に泣きました。2013シーズンの東京は、2013年内に終戦です。
東京は、シーズン最終盤のここにきて、とても興味深いチャレンジをしました。ベースは、広島対策でお馴染みの3バックです。GKはシーズンラストでレギュラーを奪取した塩田。3バックは、真ん中にヒョンスを置き、右に加賀左にモリゲ。ボランチは秀人とヨネ。WBは右に徳永左に宏介。千真の1トップに、アーリアと慶悟のシャドウです。もしもルーカスがいたらシャドウでしょうか。アーリアと秀人を一枚下げて加賀が外れる感じだと思います。
広島はベストメンバー。GKは西川。3バックは、右から塩谷、千葉、水本の並び。ボランチは青山とカズ。WBは右にミキッチ左にファン・ソッコ。石原と洋次郎の2シャドウ。1トップは、エース寿人。
2013シーズンチャンピオンの広島の戦い方は、すっかりお馴染みですね。くどいようですけどもう一度整理しましょう。守備はリトリートするスタイルです。3バックでゴール前を閉じつつ、WBとボランチで網をはりバイタルエリアでターンオーバーするイメージです。攻撃がポイチ広島の最大の特長です。守備を受動的にする意味は、攻撃がビルドアップスタイルだからです。先週の仙台と比べるとより違いが鮮明で、とても面白いと思います。広島の起点は最終ラインです。ターンオーバーすると千葉に預けます。この時、カズが最終ラインまで下がると同時に、水本と塩谷が開きます。つまり、攻撃時は4バック。そして、ミキッチとソッコが最前線に位置します。言うなれば、4-1-4-1。千葉が攻撃ルートを決め、カズか塩谷に預けます。カズと塩谷は、千葉、青山とパス交換をして攻撃のタイミングを計り、前線のポジショニングを確認します。そこからの攻撃パターンは3つ。今日の広島は、そのすべてを披露してくれました。
チャンピオンチームの分析は、二度の対戦を含めて十分に行えていたのでしょう。東京は工夫をして臨みます。広島を抑える考え方は、この広島の個性的な攻撃スタイル故、シンプルに二つに絞られます。WBを抑えるか、最終ラインを抑えるか。広島の攻撃パターンは、実はとてもシンプルです。主戦はWBからのクロスです。つまりミキッチとファン・ソッコにクロスを上げさせなければ、広島の攻撃パターンの3分の2を封じることができます。そのためのメソッドとして、WBにパスが渡ってから抑えるか、パスの出し手を抑えるかの二択になります。抑えかたのアプローチは、1on1基調か囲い込みに行くかでバリエーションがありますけど、基本メソッドは、広島のシンプルさ故、シンプルです。さて今日の東京は、WBにパスが渡って抑える方を選択しました。そうすると、クロスを被弾することに備え、ゴール前を閉じる必要が出てきます。そのための3バック。サイドの守備は、1on1を選択しました。これは徳永と宏介の守備能力に対する信頼の現れです。かつ、WBの位置を低く設定しました。ミキッチとソッコがボールを持つことを許すということは、広島は中盤を省略しますから、局面が一気にアタッキングサードに及びます。だから、リトリート。
広島の攻撃は、シンプルゆえ純度を高め易いとも言えます。もちろんそれを成し得るタレントがいることが前提ですけど。先に述べました通り、状況判断により攻撃のタイミングを計るのが最終ラインとボランチの仕事で、サイド攻撃がWBの仕事。最終兵器は寿人。なので、中盤のチャンスメークは、すべて石原と洋次郎が担います。それを実行できる二人の能力が、広島がチャンピオンに上り詰めるのを支える原動力だと思います。シャドウはとてもよく動きます。ただ、基本的な役割はこれまたシンプル。最終ラインからWBにパスを渡すハブと、ゴール前での寿人のフォローです。その他の動きは、いわゆるフリーランニング。守備に関しては、網への追い込み役です。洋次郎はもうひとつ仕事があります。広島の3つ目の攻撃パターンは、バイタルエリアにいる洋次郎を経由して寿人に落とすコンビネーションです。いずれのパターンも手数も人数もかけずに一気にシュートまで攻めきります。最終ラインのゆったりとしたリズムから3本の縦ルートに鋭い矢を放つ。毛利に伝わる三本の矢の故事のようです。
この広島のスタイルは、ようするに寿人を最大限活かすことから発想しているんだと思います。寿人の特長は豊富なシュートパターンとゴール前でのアジリティであり、ウィークポイントはフィジカル。であれば、寿人が欲しいタイミングでゴール前にラストパスを供給する方法を講じるでしょう。次に、広島のストロングポイントは両WBの運動量と威力あるクロス。となれば、サイドアタックが得策。広島の凄さは、そこに徹し純度をひたすら高めてきたこと。チーム作りに取り組む時間は限られます。その意味でマネジメントとは、時間をどう使うか、いい換えると何をやるべきで何をやらなくていいのかを明確にし、チーム内でコンセンサスをとること。ポイチさんはこの能力がすごく高いんでしょう。
チャンピオンチームの分析のようになってしまいましたw。戻りますと、WBがボールを持つことを許容した東京は、3つの対処を用意していました。まず、WBにいい形でパスが渡らないように、2シャドウを秀人とヨネがスペースを消しチェイスすること。WBには徳永と宏介がマッチアップで勝ち、クロスを上げさせないこと。万が一クロスが上がっても、3CBとボランチでゴール前を固め、寿人、石原、洋次郎にシュートを打たせないこと。それでもシュートを完全に防ぎきれるほど広島の攻撃は柔くないですから、最終的には塩田のがんばりかかっています。
さて、お気づきだと思いますけど守備の話ばかりです。なので、今日の東京は守備的と短絡的に片付けることもできるでしょう。でも、そうではないと思います。広島に勝った実績のある戦い方と、一発で相手を仕留められる鋭さを合わせ持つ。言うなればコンサバティブなポポさんと負けず嫌いなポポさんがハイブリッドに融合したプランだと思います。それは、CBの並びにあります。ルーカスが不在ということがきっかけだと思いますけど、真ん中にヒョンスを持ってきたことに驚きました。この配置は、負けず嫌いの成せる技だと思っています。ホントに守ることだけを考えていたのであれば、モリゲが真ん中でいいと思います。でもモリゲを左に持ってきたのは、モリゲのビルドアップの技術力を活かしたかったからでしょう。同様に加賀を右に置いたのは、徳永のさらに背後から一気にオーバーラップする快速攻撃を狙った意図でしょう。つまりその意味で、超攻撃的な3バックです。同時にリスクテイクします。守備に不安が残る3CBでもあります。先ほどゴール前を固めると言いましたけど、このメンバーで固められるのかは大いに不安でした。なればこそ、ドキドキとワクワクが混在したエンターテイメントならしめました。最後の最後のここに至って、しかもノックアウト方式の天皇杯で、いまさら新しいスタイルに取り組まないでもいいじゃないと思わないでもないですけど、チャレンジ好きの自分は大歓迎です。
さて、そいうわけで早々広島がイニシアチブを握ります。広島はまず、ミキッチを試します。塩谷から直接、青山を経由、石原と洋次郎を経由、カズからのサイドチェンジといろんな形を試しつつ、東京の守備とミキッチの間合いを計ります。ところが、再三のアタックを受け宏介が慣れてきて、ミキッチとの間合いを見切りました。前半15分くらいで、案外とはやくミキッチを封じることに成功します。そこで広島は、次にファン・ソッコにパスを集めます。ミキッチより威力も確度も落ちるアタックであるうえ、対峙するのが徳永ですから、こちらも早々封じます。心配された真ん中ですけど、ヒョンスも加賀も落ち着いていました。人数をかけない広島の攻撃は比較的スペースがありますから、ゴール前のごちゃごちゃとした状況でのコレクティブな守備を苦手とする東京にとってはやり易いのかもしれません。というわけで、広島の両翼を無力化するのに、それほど多くの時間を必要としません。
一方で、サイドアタックを深い位置で受けているので、どうしても攻撃の重心が低くなってしまいます。なので、意図していたであろうCBの攻め上がりを放つ状況が作れません。結果的に守備的になってしまったことは否めないと思います。でも、守備に目処ができて東京は少しモードチェンジをします。石原と洋次郎に対するボランチのチェックが効くようになり、中盤でターンオーバーでき始めます。それを受け、宏介と徳永が攻撃参加できるようになります。
今日、チャンスメークで輝いていたのが慶悟です。慶悟が広島守備陣の間をフリーランニングすることで、千真が飛び込むスペースができます。さらに、ダイアゴナルランでゴール前に飛び出し、後方からのロングフィードを引き出していました。全体に低重心なのでチャンスが限られることはわかっていましたから、慶悟の可能性を拡げる働きには助けられたと思います。
徳永と宏介が完全にクロスを封じてから、東京は意図したCBの攻撃参加をできるようになります。ただ、そこから急造システムであることを露呈します。広島のシンプルさに比して、東京の攻撃は複雑です。実は考え方はシンプルで、タレントのイマジネーションの連携でコレクティブな守備網を突破しようというものです。ポイントは、意図の共有。つまり、コンビネーション。残念ながらポポ東京は、ストロングポイントに成り得るほど相手を凌駕するコンビネーションを作れずにいるまま、体制の終焉を迎えてしまいました。もし仮にコンビネーションができていれば、急造のシステムであっても攻め手があったと思います。今日の東京が超守備的に見えたのは、そんな辺りにも要因があると思います。
前半はスコアレスで終了。
後半も試合展開に変化はありません。すべての攻撃パターンを封じられた広島は、もうひとつのオプションを持っています。守りきるということです。リーグ戦では、うまくいかない時の勝ち点1が後々大きな意味を持ってくることがあります。なので直接を実感できませんけど、ノックアウト方式では勝つ可能性を50%まで高められる作戦になります。ワンチャンスの可能性を30分間拡げる延長戦とPK戦。両方の作戦をシームレスに使い分けられる土台が、広島の戦い方には出来上がっています。
ポポさんも同じ考えになりました。当初は、広島の攻撃を抑えきった後、CBの攻撃参加を含めた厚いアタックで1点を取り、そして逃げ切るというプランを優先していたと思います。これがAプラン。でも1点すら難しい状況になり、ポイチさん同様、120分+PK戦を視野にしたと思います。両者ともセットプレーを持っていますから、終幕のバリエーションはもうひとつ加わりますけど。
そんなわけで、試合は膠着しますし、両チームとも交代の動きをとれないクリンチになります。PK戦を考慮すると蹴れる選手は残しておきたいですけど、さすがにコンディションの問題は修正できません。ようやく動きがあったのは後半も最終盤に来て。広島は寿人に代えて野津田を投入。これはいつも通り。東京も千真に代えてナオを投入。東京は相太をサスペンションで欠くことがダメージでした。前線にランドマークを置くことでモードチェンジする形を作り上げてきただけに、こちらは不可抗力で新しい形にチャレンジしなければなりません。それでもナオは、惜しいシュートもあり積極的でした。だけどゴールには至らず。
後半もスコアレスで終了。
延長に入り、交代の動きが活発になります。東京は慶悟に代えて容平を投入し、トップに置きます。さらに秀人に代えてたまを投入。アーリアをボランチに下げ、たまはシャドウに入ります。広島は洋次郎に代えて浅野を投入。続いてソッコに代えて清水を投入。いずれも展開を大きく変えようという意図ではありません。ただ、ポポさんだけにはもう一度モードチェンジするカードがありました。ネマニャんです。組織力に対抗する最高の武器は個人の技術力です。さすがに疲労が出るだろう延長後半15分間をネマニャんでひっかき回すという、作戦になり得ない作戦もありだと思っていました。ほぼ100%やるべきことをやり切った感がある素晴らしい試合でしたけど、唯一見て見たかった幻がネマニャんでした。
延長も動きがないまま終了。千葉戦以来、今大会二度目のPK戦に入ります。
宏介のPK。〇。
青山のPK。×。
モリゲのPK。〇。
水本のPK。〇。
ヒョンスのPK。〇。
千葉のPK。×。
たまのPK。大きな期待とプレッシャーがかかりました。×。これで流れが変わりますけど、たまに責はありません。たまたま最も重要な順番がたまに回ってきただけです。良い経験をしたと思います。×。
西川のPK。〇。
アーリアのPK。お正月チャントが、イケイケの意図はともかくネガティブに影響した雰囲気は否めないと思います。アーリアは試合中に痛めていたように見えましたし、疲労もあったでしょう。ただ、アーリアの時から西川がとっても大きく見えました。×。
塩谷のPK。〇。
ヨネのPK。〇。
浅野のPK。〇。
ナオのPK。×。
野津田のPK。興味深いのは、西川が作った流れとは言え広島の若手が後ろの順番に固まっていて、すべて成功していることです。〇。
試合終了。東京0-0広島。東京4PK-5PK広島。広島が元旦決勝に進みました。
負ける予定がホントになかっただけに、喪失感がとてつもなく大きいです。ポポさん、ルーカス、ネマニャんとの別れも突然やってきました。これから契約や移籍の話がいろいろ出てくるでしょう。試合の高揚感のすぐ傍に寂寥感が佇んでいる、12月の天皇杯にはそんな空気があります。
これにて、東京の2013シーズンがすべて終了しました。自分のブログに訪れていただいた皆さま、今シーズンも大変お世話になりました。フィッカデンティ体制のリニューアル東京を待ちつつ、しばし冬ごもりいたします。来年もどうぞよろしくお願いします。
それでは皆さま、よいお年を!。