ゴールデンウィーク前半最終日です。藤が咲き始めました。
菖蒲の一種、シャガ。
今日の主役は、国立霞ヶ丘競技場。東京オリンピックに向けた建て替えのため、まもなく解体工事が始まります。東京の国立開催は今日が最後。想い出はあり過ぎるので、また別の機会に。
聖火点火。
サウダージ感漂うメモリアルマッチの対戦相手は、絶不調名古屋です。
前節のマリノス戦の裏返しのような試合になりました。連勝のポジティブモードからいっぺんに停滞感が漂ってきました。
東京は今シーズン初めて2戦続けて同じ布陣で臨みます。結果的にはこれがアダとなります。シフトはお馴染み4-3-1-2。GKは権田。CBはモリゲとカズ。SBは徳永と宏介。3CHは秀人をアンカーに置き、右にヨネ左にたま。トップ下は慶悟。2トップは相太と千真。
名古屋は4-2-3-1。GKは楢崎。CBは闘莉王の相棒は強化指定の大武。大武も怪我明け。SBは右に刀根の怪我でスクランブル登板の貴章、左に本多。ボランチは田口と直志。WGは右に枝村左に佳純。トップ下に玉田。1トップはケネディの怪我のため、永井です。
名古屋は怪我人が続出で苦しんでいます。大エースケネディが不在。玉田と大武はなんとか今日の試合は間に合いました。勇退したピクシーに代わり、今年から西野さんが指揮を取ります。西野さんを擁護するわけではありませんけど、とても難しい初年度のタスクだと思います。名古屋の悩みは、リーグ優勝した時の主力が今も主力であり続けている高齢化と硬直化です。一定の結果を残しつつ、世代交代もしなければならないというハードタスクを西野さんは負っています。にもかかわらずの怪我人続出では、直近の試合でやれることは限られるでしょう。
急造の布陣では今できるサッカーをせざるを得ません。ところがサッカーって面白いもので、そんな環境にあるからこそ優位に立つ可能性があるのです。なぜなら、やるべきことがシンプルでチームのコンセンサスを取り易くなることがあるから。今日の名古屋はまさにそうでした。
試合は名古屋のバタつきから始まります。最低限できるサッカーをやろうというコンセプトの場合、チーム作戦の中心は個人戦になります。連携など望むべくもないので、各選手がとにかくその選手なりの頑張りをするということです。したがって今日の名古屋の戦い方は、個々の選手の特性の積み重ねということになります。すべてを上げると大変なので、ポイントになる選手だけ。名古屋の大黒柱は4人。玉田、闘莉王、田口、貴章です。名古屋の選択はまず、しっかり守ること。守備に関しては、闘莉王と田口がひっぱりました。闘莉王は最終局面で相太と千真に仕事をさせません。中盤では田口の存在感が光りました。直志とともに、タイトなマークでバイタルエリアを閉めます。とくに田口の守備範囲の広さが際立ちました。
攻撃に置いては貴章です。組み立ての中心になっていました。貴章のSBはスクランブルでしょうから守備面での不安は覚悟の上だと思いますけど、足元の技術がしっかりしているのでサイドで基点になれます。加えてスピードがありますので、距離が長ければ長いほど有利です。不安があるだろうと思っていた守備面でも、東京がサイドに基点を作ろうとしたとき、フィジカルの強さを活かして攻撃を寸断していました。
そして玉田です。今日のピッチ上で、玉田のクオリティの高さが一人だけ抜きん出ていました。怪我明けの急拵えでしょうからコンディションはまだ整っていないと思います。なので運動量は望めません。でもポジショニングとボールキープ、つまり頭脳とテクニックはコンディションにそれほど影響されないんでしょう。玉田が作った時間に、ずいぶん名古屋は救われたと思います。その他の選手もラフさは目立ちましたけど、体をはったタイトな守備でそれぞれの役割を果たしていました。
結果論でそのように言えるんですけど、今日の試合は4つのステップを経てそのような状態に至りました。序盤名古屋は、各自のプレーが文字通りバラバラで、ホントに個人戦になっていました。個々のがんばる気持ちがチームとして空回りしていて、各自が孤立します。東京の中盤はそこを突きます。マリノス戦でも見せた左右のハーフのプレッシングが機能し、中盤でイーブンボールをものにします。完全な東京のリズムで試合が始まります。結果的には、この時間帯で先制したマリノス戦と先制できなかった名古屋戦で、勝敗が真逆になってしまいました。東京はちょっと油断があったかもしれません。連勝中ですし、完封を続けられましたから守備に自信が芽生えていますし、加えて名古屋の状態があまりにも酷いので、いつかは先制できるくらいの気持ちが、ひょっとするとあったかもしれません。この時間帯、いきなりCKが4本続きますけど、決めきれなかったことが悔やまれます。東京はちょっとフワッと試合に入ってしまいました。
15分を過ぎると、第2ステップに入ります。名古屋が落ち着きます。施した打ち手は一つ。サイドチェンジです。ターンオーバーしたらボールを戻し、中盤に渡ったら逆サイドに振る。とくに左から右へのサイドチェンジが機能し始めます。貴章が目標になります。このことで、名古屋のなかにコンセンサスが芽生えます。貴章が基点になってクロスからシュートに持っていくといく攻撃ルートができます。フィニッシュの形を共有できるようになると、守備にも目的ができます。極論すれば、最初の15分が勝敗の大きな分岐点になったような気がします。相手の混乱期に乗じられなかった東京と、たった一つの形でコンセンサスを取れた名古屋。
されども名古屋には、まったくゴールの匂いがしません。貴章からクロスは上がりますけど、かなり見え見えのクロスですから対処が用意です。玉田もシュート面ではまだまだキレがなく、ゴール前で得意のドリブルを見せられません。永井はとても窮屈そうでした。1トップは基点ですから、使われて活きるしかない永井には不向きです。永井に関しては、90分通して無力化できました。
一方の東京も停滞します。守備はすっかり安定しました。コンディション不良があったとは言え、永井、玉田、佳純、枝村の攻撃陣を完封したわけですから。とくにカズの1on1でのがんばりが目立ちました。問題は攻撃です。相太、千真、慶悟のアタック陣は、勝ったとは言えマリノス戦もけして出来がよかったわけではありません。3人のコンビネーションでゴールしたあの前後の時間帯だけ良くて、それ以外は連携がうまく取れていませんでした。原因は3人の距離感とポストプレーの不安定さにあると思います。相手を受けてでも基点になりたい相太と、動き回って自分のリズムでプレーできるスペースを見つけたい千真、フリーランニングからの周囲との連携で組織で攻撃を組み立てたい慶悟。千真と慶悟のコンビネーションは実績がありますけど、そこに相太が加わると、今のところ良い化学反応を起こしていないようです。
今日のポスト役は千真でした。闘莉王と田口に手を焼き、ポストが安定しません。相太がポスト役をするとどうたっかという意見はあると思いますけど、今日ばかりは、どちらにしろ闘莉王と田口が強かったと思います。
試合は第3ステップに入ります。ミステルが次のステップへの移行を誘引します。東京は30分くらいにシフトを変えます。中盤を右からたま、ヨネ、秀人、慶悟と並べた4-4-2に変更します。おそらく貴章のサイドアタックをケアする意図だと思います。それに、セレッソ戦で終盤4-4-2にして、秀人を中心にチームが躍動した経験がありますから、停滞した攻撃を活性化する意図もあったと思います。ところがこれも機能しません。トップ下がいなくなりますから、2トップが孤立します。ただでさえ連携ができていない相太と千真ですから、それぞれ孤立します。同時に名古屋のポゼッションが高まり始めます。貴章からのクロス一辺倒だった状態から、玉田、永井、佳純によるゴール前のドリブルが出るようになります。これは、中盤でのイーブンボールの確保で名古屋が上回り始めたことが起因しています。東京は中盤でまったくボールを奪えなくなります。闘莉王がそれを見越し、緩いロブを中盤に送るようになります。名古屋はバラバラだったプレッシングが組織として機能するようになります。
東京は、いつの間にかジワジワと名古屋の術中にはまり、気づくとイニシアチブを握られていました。名古屋も依然、ゴールの匂いはまったくしないので、両チームとも今日の空模様のようにどんよりまったりした雰囲気のなか、前半はスコアレスで終了。
後半頭からミステルが動きます。たまに代えてよっちを投入。たまは良くない意味で3CHに馴染んでしまっているように見えます。たまの長所は躍動感溢れる運動量なのですけど、CHに入るとそれを封印しています。今の好調な守備バランスは、ヒデがアンカーに入ったナビスコ鹿島戦やリーグ清水戦がモデルになっています。キーワードは動かないCH。左右のハーフに求めらるタスクも、まずはサイドの基点へのプレッシングです。攻撃に入ったときもリスクマネジメントを優先しますから、自然、たまもバランスを見るようになっている気がします。たまのプレースタイルは、今のCHには合わないと思います。シュートからも遠ざかっていますし、ちょっとたまが迷いに入らないか、心配です。
よっちを入れても4-4-2のままでした。問題は前線に基点が作れないことと、中盤でボールを奪えないことなので、選手特性を変えただけのこの交代は、あまり有効ではないと思いました。案の定、東京は前半と同じように後半の入りから受けに回ってしまいます。そして名古屋のラッキーブローが決まります。
後半3分。佳純の右CK。一番後ろにいた貴章がマッチアップする徳永をパワーで押しのけニアに飛び込みます。マンツーマンとゾーンのハイブリッドな東京はニアに秀人がいましたけど、駆け込んだ貴章のほうが勢いがありました。東京0-1名古屋。
最終的にシュート6本に終わった名古屋ですけど、数字以上にゴールの気配はありませんでした。ただ、この時間帯だけ名古屋にセットプレーが続きました。その一つを確実にものにした名古屋と、序盤の同様のシチュエーションで決められなかった東京。内容の彼我の差は、ローテンションとは言えほとんど無かったけど、勝ち点3とゼロの差は、ワンチャンスの決定力の差と言えます。
ミステルが大胆に動きます。徳永に代えて陸を投入。これはホントに驚きました。SBは不動だと思っていたのですけど、少しづつ陸が距離を縮めていたんですね。同時にシフトを変えます。秀人を一列下げて3バックにします。慶悟とヨネのボランチ。WBに陸と宏介。前線は3トップで、相太を真ん中に千真とよっちがシャドウです。この作戦がはまります。ドラスティックに攻守のイニシアチブが逆転しました。東京の攻撃が一気に活性化します。まず中盤に人が増えましたので、コンパクトな守備からターンオーバーできるようになります。攻撃ルートも固め、左で作って右で仕留める形が機能します。陸の役割は長友そっくりです。激しい上下動で、攻撃時には組み立てには加わらず一気にゴール前に顔を出し、ゴールを狙います。東京に躍動感が生まれ、名古屋が混乱します。
ただこの確変は15分くらいしか続きませんでした。理由は名古屋の粘り強い守備です。チームが混乱するなかでも、やはり闘莉王、田口、玉田は落ち着いていました。闘莉王と田口は最終局面でいい形のシュートを打たせません。玉田はボールを持ったときあえてヨネを背負ってキープし、チームを落ち着かせます。この確変期にあった千真の惜しいシュートが決まっていればと思います。
ミステルが続いて動きます。千真に代えてエドゥーを投入。エドゥーはひょっとしてコンディションが上がっていないのかもしれません。試合中に腰を痛めてから、プレーに粘りとパワーを感じられなくなりました。今は使える時間が限られているのかもしれません。すぐに西野さんが動きます。枝村に代えてダニルソンを投入します。この試合のステージは最終ステージに入ります。ダニルソンは守備のリベロとしての役割だったような気がします。ダニルソンは東京の基点になりそうなポイント、エドゥー、よっち、陸をまとめて面倒見ていました。東京の攻撃の芽をつむように、ダニルソンがフィジカルアタックを見せます。これが東京に傾きかけた流れを寸断しました。
以降、名古屋は完全に守りに入ります。東京はなす術がもはやありません。この試合に限っては、後出しの西野さんのほうが有利でした。アディショナルタイムに入って、カウンター要員の力、ダニルソンと同じ役割でヘジスを投入。そのまま名古屋が逃げ切りました。東京0-1名古屋。
スコアレスドローでもおかしくない試合でした。いずれにしろ、澱んだ試合でした。シーズン序盤の「勝てない守れない」という状態を、守備バランスをアジャストすることで乗り切り連勝。その間、攻撃バリエーションの少なさが次の課題として見えていましたけど、こんなにもはやく露呈するとは思いませんでした。やはりプロの世界は厳しいです。今年の東京は、もとよりショートパスを華麗につなぐメソッドを持っていません。ショートカウンターだけが唯一の得点源ですけど、リトリートすることで自ら封印してしまっています。さらに前線の組み合わせ、ようするに選手依存で攻撃のバランスが決まってしまいます。
とは言え、この期間は試合が立て込んでいて、じっくり攻撃メソッドを作れません。なんとかショートカウンターを出せる形を、短い時間でいいので作れるように攻守の問題点をアジャストして欲しいです。そして、少ないチャンスをものにする決定力を。
澱んだ試合でしたけど、光ったところはありました。カズの対人防御力に目を奪われました。寿人にやられたデビュー戦を思うと、遠い目をしてしまいます。それに、秀人。秀人が躍動しています。動き過ぎでチームを不安定にしたシーズン序盤の反省があったのか、ヒデが試合に出ている間にしっかり課題に取り組んだんでしょう。もともとフィジカルが強いですから、それを活かした個人守備の安定はもとより、昨年まで頻繁に見せていた攻撃時の迷いもまったく見られませんでした。視野と判断力が伸びているんでしょう。バランスを見るだけじゃなく、積極的な攻撃参加も見せていますから、3CHにおける攻撃のタイミングを掴んだのかもしれません。
試合が続きます。ゴールデンウィーク後半は埼玉連戦です。次節はライバル浦和です。広島でミシャ的サッカーは体験済みですから、守備面は不安に思う必要はないと思います。攻撃陣の奮起に期待です!