ものすごくうるさくて、ありえないほど近いを観ました。
予告でSeptember.11をテーマにした作品であることを強調していましたけど、この作品は謎解きの物語です。なのでストーリーを書くのは控えます。ネタばらしになっちゃいますからw。
オスカーはニューヨークの対岸、ニュージャージーに住む少年。小さな宝石店を営むパパと仲良しで、二人で命名した調査探険っていう遊びに夢中です。最近の探険テーマはニューヨークの失われた第六区の痕跡を探すこと。そんな普通の生活を送っていたオスカーを突然悲劇が襲います。September.11、たまたま商談で世界貿易センタービルを訪れていたパパが、テロに巻き込まれてしまいます。家族に伝言メッセージを残してパパは逝ってしまいます。ママは誰も入っていない棺でお葬式を上げました。それから1年、オスカーはパパのクローゼットで偶然、鍵をひとつ見つけました。パパの遺品が見つかるかもしれないと思ったオスカーは、鍵を差し込む「何か」を探し始めます。鍵が入っていた袋に書いてあった「Black」という単語だけを頼りに。
観る前に知っておくと便利なのが、ニューヨークの行政区ですね。ニューヨークは、マンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタデンアイランドの5つの行政区でなっています。6番目の行政区がかつてあったのかどうかはわかりませんけど、あると思ったほうが、ロマンチックかもしれないですね。
この作品には謎がいっぱい仕込んであります。
・なぜオスカーはこんなにうるさいのか?
・オスカーが見つけた鍵は、何に使う鍵なのか?
・オスカーはなぜママを避けるのか?
・オスカーはなぜ鍵に執着するのか?
・オスカーはどうやって録音機を誰にも聞かせないようにしたのか? そもそもなぜ誰にも聞かせなかったのか?
・オスカーが訪ねたブラックさん達は、なぜオスカーを不信に思わないのか?
・おばあちゃんの同居人は何者か? なぜ同居人しているのか?
・おばあちゃんの同居人はなぜしゃべらないのか?
・パパは最後に何を言ったのか?
・アニーはなぜ泣いていたのか?
・そもそもタイトルの意味は何?
覚えているかぎりでざっとあげてもこんなに謎があります。この作品の素晴らしさは、謎のひとつ一つを丁寧に解き明かしてくれているところです。だから観終わって疑問が残らず、すっきり映画館を出られるのです。これらの謎を全部解き明かすことができるんですけど、それやっちゃうとネタばらしw。
正直なところ、序盤はイライラしてました。子供っぽい映画だなと思ってました。オスカー主観で物語が進行するので、子供っぽくなります。オスカーの賢しげな振る舞いが苛立ちを増幅させます。でも、オスカーが賢しげでうるさい理由を知ると、納得でき、一気に気持ちが物語に吸い込まれていきます。終わってみれば、とても練りこんだ巧妙なストーリーだと思います。
我慢できないのでちょっとだけネタばらしをしますw。この映画は、発達障害をテーマにした映画でもあります。オスカーは自閉症の検査をした結果ポジティブではなかったようですけど、数字への執着や、年齢のわりに過剰な論理性、ちょっとだけ欠落した社会性など、発達障害に特徴的な症状を示しています。発達障害は、症例の定義が研究途上で、現在進行形な研究分野です。なので、認定がされにくい障がいです。潜在的な発達障害の患者数は、一般に認識されている以上に及ぶと言われています。我々自身が発達障害である可能性もあるのです。大事なことは、周囲のひとの接し方だと思います。まだまだ(あるいは永遠に)、こうしたらいいという接し方のガイドラインのようなものができているわけではないですので、身近なひとほど負担が大きいこともあるんだと思います。オスカーのパパは、発達障害の傾向を察し、オスカーの特徴的な能力を伸ばす方向で成長を期待していたんでしょう。ママも、そんなパパの教育方針に賛成し、パパに任せていたんだと思います。そんな生活を一変させた事件で、オスカーとママの間にいたパパが失われ、お互いに距離を感じるようになったんだと思います。事件の前はパパしか見えてなかったオスカーが、ママの愛に気づきます。クライマックスでは一気に距離が縮まり、そんな二人の優しい気持ちを感じ、観てる我々を感動させてくれます。謎解きにくるまれたもう一つのメインテーマを感じました。
クレジットではトム・ハンクスとサンドラ・ブロックが主演ですが、オスカー主観で進行しますので、実質的にトーマス・ホーンが主役です。少しばかり普通と違う性格のキャラクターを、見事に演じます。子役なんてカテゴリーでくくるのが失礼に思うくらい上手です。
おばあちゃんの同居人役のマックス・フォン・シドーが楽しいです。まったくセリフがないのですが、オスカーに対する特別な感情を表情の演技でみごとに表現していました。
オスカーのキャラクターのせいで、セリフが異常に多いですし、セリフの音量が大きくて高いので、耳と脳に負担がかかります。子供や年配のかたにはちょっとしんどい映画かもしれませんね。決してわかりやすい作品でもないですし。
ただ、やっぱり泣けます。隣の女性は号泣してました。女性がひとりで観るのにもいいでしょうし、カップルも楽しめると思います。オススメです。