練金術勝手連

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※ 練金術(ねりきんじゅつ)とは『週刊金曜日』練馬読者会的やり方という意味です。

◆ 反戦の視点・その79 ◆

2009年04月26日 | 練馬の里から
   エスカレートする海賊派兵
─海上自衛隊をソマリア沖から即時帰還させよ─
 

井上 澄夫(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)

◆〈流血の海〉と化すソマリア沖海域
 ソマリア沖海域は〈流血の海〉と化しつつある。同海域では各国軍の艦船がアデン湾を中心にパトロールを続けているが、4月に入って再び海賊行為が増加している。 
○フランス軍は4月10日、海賊に乗っ取られた同国のヨットを救出する作戦に踏み切った。その際、人質5人のうち船主のフランス人男性が、銃撃戦の巻き添えになるか、海賊に撃たれるかして死亡。仏軍は銃撃戦で海賊2人を殺害、3人を拘束した。
○海賊に乗っ取られた米船籍貨物船マークス・アラバマは4月8日、船員が船を奪還したが、海賊は米国人船長を人質にとって救命ボートで逃げた。駆逐艦を急派して行方を追っていた米海軍は12日、海賊4人のうち、交渉役以外の3人を射殺し、船長を解放した。
※ 海賊3人を射殺したのはSEALs(米海軍特殊部隊)である(『ニューズウィーク  日本版』4月29日号)。
 この事態に関連する記事を3つ紹介する。
 〈海上自衛隊を含む各国艦艇が警備行動を強化しているにもかかわらず、ソマリア沖の海賊被害が止まらない。ここ数週間、現地の天候が安定して波や風が収まり、小型高速艇を使う海賊の動きが活発化。アデン湾での警備が強化された結果、海賊はインド洋北西部に頻繁に出没するなど行動範囲を拡大させ、アフリカ南端の喜望峰回りルートの一部も脅かし始めている。国際海事機関(IMO)によると、今年のソマリア沖の海賊被害は約70件に達しており、前年同期に比べて大幅に増加。今月に入ってからも米国船籍の貨物船やフランスのヨットが被害に遭ったが、いずれも襲撃されたのは「インド洋北西部付近」(専門家)だった。〉(4月13日付『時事通信』)
 〈米軍や仏軍がソマリア沖で、人質救出作戦の際に相次いで海賊を射殺したことを受け、反発した海賊がより過激化するとの懸念が出ている。CNNテレビは4月13日、海賊が「報復」を宣言していると報じた。/CNNによると、ある海賊は現地の報道関係者に「今後、人質の中に米国やフランスの兵士が含まれていれば殺害する」と語ったとされる。AFP通信も「捕らえられた米国人は今後、われわれの慈悲を期待できない」とする海賊のコメントを伝えた。/中東の海域を管轄する米海軍第5艦隊のゴートニー司令官は12日の記者会見で、「今回の出来事が、この海域における暴力をエスカレートさせることに疑問の余地はない」と語っている。〉(4月14日付『時事通信』)
 〈オバマ米大統領は4月13日、ソマリア沖で米国船籍の貨物船を襲撃した海賊を米特殊部隊が射殺、人質の米国人船長を救出した事件に関し、「海賊の台頭を抑え込む決意だ」と述べ、海賊の襲撃阻止に向け軍事行動を含め厳しく対応する考えを強調した。/米国ではカーター政権時のイランの米大使館人質救出失敗や、クリントン政権時のソマリアでの民兵高官拘束失敗など軍事作戦の失態が政権を痛撃するケースがあっただけに、オバマ大統領は米軍の功績をたたえた。〉(4月14日付『毎日新聞』)
 海賊に対応する側、海賊側ともに戦闘を激化させている。海賊は米軍艦にも発砲しており、米国船籍貨物船マースク・アラバマの事件では、米海軍が現場に駆逐艦など3隻を急派するなか、海賊側は仲間を守るため、捕獲したドイツ船籍の貨物船でソマリア北部エイルを出港していたことも判明した。このままでは海戦の激化は必至である。

◆エスカレートする自衛隊の海賊派兵
 海上自衛隊の警護活動の現状については、4月19日付『中日(東京)新聞』の記事が詳しい。
 〈ソマリア沖の海賊対策に派遣されている海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」「さみだれ」が警護した日本関係船舶は1回平均3隻と少なく、直近で警護したのはわずか1隻であることが分かった。世界不況の影響で船舶の運航が激減する一方で、警護活動と民間船舶の運航スケジュールが合わないことが主な理由だ。/警護活動は3月30日から始まり、護衛艦2隻は日本関係船舶を率い、ほぼ4日に1回の割合でソマリア沖のアデン湾を往復している。/これまで、3回半の往復をしており、警護した船舶数は1回目の往路が5隻、
復路は2隻、2回目の往路が3隻、復路が4隻、3回目の往路が3隻、復路が3隻、4回目の往路が1隻だった。/政府は、アデン湾を航行する日本関係船舶は年間2千隻、1日平均して5隻が通過すると説明していた。説明通りなら、警護対象の船舶は4日間かかる1往復で20隻に上り、往路、復路で分けると船団にはそれぞれ10隻の船舶が加わる計算になる。/だが、実際にはその3分の1にも達していない。日本船主協会によると、昨
年、アデン湾を通過した船舶はコンテナ船と自動車専用船で約1500隻を占めた。しかし、世界不況の影響で自動車専用船の運航が半減するなど激減した。/船舶に余裕があるため、日数をかけて南アフリカの喜望峰に迂回(うかい)する船もある。また、荷主との契約から4日に1回の警護活動に合わせてアデン湾を通過するのが難しい船舶は、他国の船団の末尾に付いて航行する例もあるという。〉
 日本関係船舶の警護活動が予定をはるかに下回るなかで、2隻の海自艦船がやっていることは、外国船の要請を受け海賊に対処することである。
○護衛艦「さざなみ」は4月4日、シンガポール船籍のタンカーから「海賊らしい小型船舶に追われている」との連絡を受けて、現場海域に急行、約20分後に追い払った。サーチライトを照射したり、「長距離音響発生装置」(後注参照)と呼ばれる大音量を出す機器で現地語(ママ)を使い「こちらは海上自衛隊」などと呼びかけ、追い払ったという。/タンカーに近づいた船は、はしけ船の後ろに3隻の小型船をつなげて航行していたが、武器は使っておらず、防衛省は「海賊船かどうかは不明」としている。(4月4日付『東京新聞』)
 ※ 注 艦橋部に設置された指向性大音響発生装置「ARAD」(『朝雲新聞』)
 ○護衛艦「さみだれ」が4月11日、マルタ船籍の商船から「海賊から追われている」という通報を受けて現場に向かい、小型の不審船に大音響を発する装置を使って現地の言葉(ママ)で海自艦艇であることを伝えたが、不審船から応答はなかった。この船は、その後、商船を追いかけず現場海域にとどまっていた。「さみだれ」は1時間ほど警戒を続けたが、動きがなかったため、現場を離れたという。(4月12日付『朝日新聞』)
 ○防衛省は4月18日、東アフリカ・ソマリア沖の海上自衛隊の派遣部隊が、不審船に追われた護衛対象外の外国船から救援を求められたため艦載ヘリコプターで状況確認したところ、不審船は追跡を中止したと発表した。派遣部隊が不審船に遭遇するのは3月30日の活動開始以来3度目。/防衛省によると、18日午後8時4分(現地時間午後2時4分)ごろ、アデン湾西部の日本関係船舶の集合海域で待機中、北東約37キロを航行中の外国船籍のクルーザーが、無線で周囲の船舶に「小舟2隻に追いかけられている」と助けを求めてきた。/護衛艦「さざなみ」の艦載ヘリ1機が発艦し近づいたところ不審船は停船。ヘリは不審船が追跡をあきらめたと判断し、約30分で現場を離れたという。/不審船は計3隻確認されたが、上空から武器は目視できなかった。イエメン国旗とみられる旗を掲揚していたが、海賊船であることを隠している可能性もある。
(4月19日付『毎日新聞』)
 ※『読売新聞』は護衛艦に連絡してきた外国船を「カナダ船籍とみられるクルーザー」とし、「さざなみの搭載ヘリが約40分後、約35キロ離れた海域で、クルーザーを追尾している3隻の小型船を発見。上空を旋回すると、3隻はクルーザーから離れたという。武器は使用しなかった。3隻が海賊かどうかは不明。」と伝えている。
 上記3回の対処は、いずれも「海上警備行動」での警護対象になっていない外国船舶のためになされた。しかも3件とも対処したのが本当に海賊(船)であったのかどうか、はっきりしないのだ。これは明らかに法的根拠を欠いた脱法行為である。防衛省は「船員法14条(後注参照)の遭難船舶等の救助を適用した。武器などの強制力を使っておらず問題はない」と釈明している。4月14日の定例会見で赤星海幕長は4月4日、11日の「2度ともシーマンシップと人道的な観点から対応した。(救助要請がありながら)やらない場合、現場は忸怩たる気持ちでいることになる。(外国海軍から)なぜ行かなかったのかと質問を受けたり、疑問をもたれたりすることもある」とのべたが、外国船舶の救助は日本の国内法でできないと答えればいいだけのことではないか。こうした脱法行為が繰り返されれば、もともと拡大解釈によるとしかいいようがない「海上警備行動の発令」も無意味になる。出先の海域で自衛隊はやりたい放題である。
※ 注 船員法14条(遭難船舶等の救助) 船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知つたときは、人命の救助に必要な手段を尽さなければならない。

◆「3軍統合運用」に転化する海賊派兵
 まず4月18日付『東京新聞』の記事「ソマリア周辺3自衛隊1000人 米の『対テロ』援護射撃」を要約して紹介する。
 〈浜田靖一防衛相は4月17日、ソマリア沖・アデン湾の海賊対策で、海上自衛隊の哨戒機P3Cに派遣準備命令を発令した。機体の警護のため陸上自衛隊員、物品や人員の空輸のため航空自衛隊も派遣するため、陸海空すべての自衛隊が動員される。インド洋の補給支援活動と合わせれば、展開する自衛隊は1000人規模に。米国の「テロとの戦い」を下支えし、自衛隊が海外で治安活動を担う先例となりそうだ。/P3Cは5月中に海賊対策の拠点であるジブチに2機が派遣され、6月には哨戒任務を始める予定だ。/もともとP3Cの派遣は、海賊対策に参加している各国が自衛隊に期待していたことだ。現在、海賊対策の拠点であるジブチに派遣されている哨戒機は米国の3機のほか、ドイツ、フランス、スペインの各1機のみ。全長1000キロの海域を見張るには日本が派遣する2機は強力な助太刀となる。/最も助かるのは米国だ。海賊対策と並び、アフガニスタンでの対テロ戦争に重点を置く米国は哨戒機を陸上の偵察にも用いる。日本が海上の哨戒を担えば、米国は余力をテロ対策に回せる。
 自衛隊にとっても、海外での任務拡大に新たな足掛かりを得たといえる。機体の警護を理由に2,30人の陸自要員を派遣するからだ。/根拠は自衛隊法の「武器等防護」の規
定。小銃、機関銃のほか、イラクで使った軽装甲機動車の使用も検討する。P3Cの駐機場はジブチ国際空港の民間部分。自衛隊の海外活動でも、他国の主権がおよぶ一般地域で治安を目的に自衛隊が派遣されるのは初めてだ。イラク派遣で空自がクウェートを拠点に空輸支援を行った際も、警護要員は派遣されなかった。防衛省は「今回は民間空港なので独自の警護が必要」と強調するが、同省幹部は「将来、この経験が役立つかもしれない」
と、海外での活動拡大に期待感を隠さない。/今回の派遣人員は警護要員も含め約150人。すでに始まっている日本関連船舶への警護活動のほか、インド洋で補給支援活動をしている補給艦がアデン湾でも活動し、海賊対策の護衛艦に補給していることを考えれば、派遣人員は計約1000人に上る。/自衛隊の存在感は、アラビア半島を包む海域に2隻の護衛艦と1隻の補給艦、そしてP3C2機が動き回るまでに拡大しつつある。〉
 日本はすでにジブチと地位協定を結んだ。したがって駐機場の確保は、海上自衛隊が「ジブチに基地を得る」ということだ。
 海自のジブチ基地の警護のために陸上自衛隊が派遣される。「イラク派遣で空自がクウェートを拠点に空輸支援を行った際も、警護要員は派遣されなかった。」
 ジブチ基地に派遣されるのは陸自だけではない。「陸上自衛隊員、物品や人員の空輸のため航空自衛隊も派遣する」。記事は「3軍統合運用」という言葉を使っていないが、実態は「3軍統合運用」である。
 海自のインド洋・アラビア海における米艦船への洋上給油は続き、それは米国の対テロ戦争(後注参照)支援である。そしてその活動に携わっている補給艦は海賊対処の護衛艦にも補給している。海自の哨戒機派遣は米軍の海賊対処の負担を軽減する……。ここで見えてくるのは、海賊派兵が対テロ戦争の一環であるという構図だ。対テロ戦争としての海賊派兵については、改めてのべる予定だが、日本の自衛隊は「3軍統合運用」という本格的な戦争態勢でいよいよこの対テロ戦争にのめりこみつつあることに読者の注意を喚起したい。
 ※ 注 オバマ政権は「対テロ戦争(war on terror)」という言葉を避け、「テロとの戦い(fight against the terrorists)」という。
「ブッシュの戦争」とは違うというわけだ。しかし現にやっていることはブッシュ政権時代と変わらないので、筆者も必要に応じて「対テロ戦争」という言葉を用いる。

◆海賊対処は一義的に海上保安庁の任務ということの意味
 筆者は海賊派兵問題に初めて論及した本シリーズ「反戦の視点・その68」の「海賊への対処は海上保安庁の任務である」でこう記した。

 《海上警備行動は、海上保安庁では対応が困難な場合に職務を代行することになっている。しかし海賊への対処が「海上保安庁では対応が困難な場合」に該当するかどうかなどこれまで検討されなかったし、それゆえ当然のことだが、海上自衛隊は海賊対処の訓練をしていない。海賊への対処は一義的に海上保安庁の仕事である。海上保安庁法は第2条で同庁が「海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕」を任務とすると定めている。
 「マラッカ海峡の海賊対策では、海上保安庁がアジアの沿岸各国と情報を共有する体制を築き、人材育成を支援してきた実績がある。」(08年12月26日付『北海道新聞』)。 「日本は、東南アジアの海賊対策で「アジア海賊対策地域協力協定」策定を主導し、マラッカ海峡周辺国に海上保安庁の巡視船を提供するなどして海賊封じ込めに成功した実績がある。」(08年12月27日付『毎日新聞』)
 実際、同海峡での海賊事件は激減した。「2003~07年のデータを見ると、海賊事案は東南アジアでは5年間で半数以下になっている」(外務省のホームページ)。だからソマリア沖での海賊事件についても、海上保安庁はイエメンやオマーンなど沿岸諸国に働きかけてマラッカ海峡での経験を活かそうとしている。
 そもそも日本政府の「海賊対策」は沿岸国イエメンの要請に応じ巡視船や巡視艇を供与する方向で調整を始めるところから始まったのだ。
 「巡視船艇供与は2006年6月に閣議決定したインドネシア向けに続き2例目。イエメンの海上警備能力の向上が狙いで、政府開発援助(ODA)の無償資金協力の枠組みで実施される見通し。既に海上保安庁が今月(12月)、現地に職員を派遣し、巡視船艇導入の効果などを詳細に調査している。」(08年12月24日付『共同通信』)
 ところが麻生首相が突出して海上警備行動発令を持ち出し、まず護衛艦隊を派遣し、その後「海賊行為対処に関する法律案」(仮称)を成立させることになった。浜田防衛相は一般法(海賊対処法)を整備した上での艦隊派遣を望んでいるが、麻生首相は押し切るかまえだ。》

 「海賊対処は一義的に海上保安庁の任務」という筆者の主張は、いうまでもなく、ソマリア沖に海保の巡視船艇を派遣せよという意味ではない。海保のノウハウをマラッカ海峡沿岸諸国に伝え、それが大きな成果を上げたのだから、イエメン、オマーン、ジブチ、エリトリアなどアデン湾周辺諸国に同じノウハウを提供することで、それら諸国が〈自力で〉海賊に対処するよう支援すべきということである。
 海保が重武装の遠洋航海に耐え得る巡視船を多数建造し、海賊行為が行なわれる世界のあらゆる海域に派遣すべきなどと主張しているのではないのだ。海上保安庁法にいう「海上」に厳密な地理的規定はない。しかし海保の任務には「沿岸水域における巡視警戒」が含まれる。海上保安庁は英語では「JapanCoast Guard(ジャパンコーストガー
ド)」であり、それは日本の沿岸警備隊という意味だ。当然のことだが、海保の巡視船艇の船腹にはそう描かれている。しかも余り知られていないが、海上保安庁法第25条はこう規定している。
 《この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない。》
 「海の警察」である海保にこういうシバリがかかっているのは、日本の敗戦直後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の民政局が水上保安制度の発足を日本の再軍備の第一歩になりかねないと懸念したからであるといわれている。
〈そうこうしているうちにも(密航、密輸、密漁、船内での賭博開帳など)海上の治安悪化は深刻化し、ついに昭和22(1947)年9月23日には民政局も折れて、条件付きで許可を与えた。その条件とは、職員総数1万人以内、船艇125隻以下で総トン数5万トン以内、各船艇は排水量1500トン以内で速力15ノット以下、武器は小火器に限定、日本沿岸の公海上でのみ活動、というものであった。そして、「軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営まない」ことを法令に明記するよう強く求めている。こうして昭和23(1948)年4月26日(正確には27日、引用者)、海上保安庁法が国会で成立、翌日公布され、同年5月1日施行となり、運輸省の外局として海上保安庁が発足した。〉(永野節雄『自衛隊はどのようにして生まれたか』、学研)
ここでは海上自衛隊発足のいきさつには触れないが、上記のように、海保は海自と無関係の組織であり、軍隊化しないという大前提で「海の警察」が誕生したという事実を記憶してほしい(海保は現在、国土交通省の外局)。なお海上保安庁法はこれまで度々改正されているが、25条はずっとそのままである。
 ※ 筆者は海保が徐々に軍隊化していることに強い懸念を持っている。たとえば、フランスからのプルトニウム運搬船警護専用に建造された世界最大の巡視船「しきしま」(1992年就役、総トン数:7175トン、基準排水量:6500トン)は35ミリ軽装機関砲2基と20ミリ機関砲2基を備えている(出典『ウィキペディア』)。プルトニウム輸送はやめるべきだし、そうであれば「しきしま」は不要である。
 海保の武器使用については、警察官職務執行法7条の規定を準用するとされている(海保法20条)。正当防衛と緊急避難の場合のみ許されるということだ。ただし違法行為が疑われる「船舶の進行の停止を繰り返し命じても乗組員等がこれに応ぜず、当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由のあるときには、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。」として「危害射撃」を認めている(20条2項)。
 2001年12月22日に起きた九州南西海域不審船事件では、海保と「不審船」(事件後、海保は朝鮮民主主義人民共和国籍の工作船と断定)との間で交戦があったが、東シナ(中国)海沖の中国の排他的経済水域(EEZ)で「不審船」が沈没した後、海上を漂っていた乗員を海保は救助しなかった(死者は少なくとも10人とされる)。それが正当だったのか、筆者は深く疑問に思う。

◆なぜ「ソマリア」か
4月5日付『信濃毎日新聞』の「潮流」欄に栗田禎子・千葉大学教授(中東・北アフリカ近現代史)が寄稿している(「海賊対策」という罠)。共感するところが多いので、それを紹介して本稿を終える。  
 〈つい見落としてしまいがちなのは、「海賊」云々という話題は元来は政府が昨年、インド洋への海上自衛隊派遣の延長を図ろうとするなかで持ち出してきたものだということである。「テロ対策」の名のもとの自衛隊派遣を疑問視する国民の声が高まる状況下で、こうした批判をかわすため、「補給支援活動には海賊対策という副次的効果もある」という主張が始まった。他方民主党も、(テロ特措法延長には反対したが)基本的には自衛隊の海外展開拡大を支持する立場であるため、「海賊」対策問題をめぐっては、むしろ積極的な旗振り役を務めた。二つの流れが合流した結果、今回の自衛隊派遣がある。
 なぜ「ソマリア」か、という点に関しては、インド洋を臨み、ペルシア湾岸の油田地帯にも近い、いわゆる「アフリカの角」に位置する同国が、戦略上の要衝であり、冷戦時代には米ソの角逐の場だったことを思い起こす必要があるだろう。また現在では、アフリカの石油・鉱物資源が注目を集めるなかで、ソマリアはアメリカをはじめとする先進諸国にとって新たな重要性を帯びつつある。
 このように見てくると、今回の派遣は、アメリカの世界戦略に応えて自衛隊の海外展開を拡大していこうという、近年、日本の政財界がさまざまな形で追求してきた試みの一つにほかならず、きわめてきな臭いものであることが分かる。クリントン米国務長官は、ソマリア沖への派遣実現を高く評価した。派遣後の自衛艦は、バーレーンの米第5艦隊と連絡をとりつつ活動していく方針であることも公表されている。冷戦期に日米の支配層がめざした「シーレーン防衛」構想が、形を変えて実現しつつある、と言うこともできよう。 「海賊対策」という主張は一見もっともらしいが、歴史的に見て列強の海軍力の増強は、まさに「海賊」問題を口実に行われてきた経緯がある。「匪賊」「馬賊」退治という言い方は、かつて日本が中国等での軍事行動を正当化しようとする際にも用いられた。「海上輸送路の確保は石油を輸入に依存する日本の責務」等の議論がされるが、経済的利害を軍事力で守る、という発想自体が、植民地主義的であり、危険であることを自覚する必要がある。
 「ソマリア海賊」問題は、自衛隊の海外派兵の流れを一気に加速化・拡大し、平和憲法を掘り崩すための「罠」だと言える。一連のプロパガンダを通じて「退治」され、葬り去られようとしているのは海賊ではなく、憲法九条なのである。〉
【付記】本稿執筆中、4月23日、海賊対処法案は、衆院本会議において自民、公明両党の賛成多数で可決した。自衛隊は米軍の下級支援軍として外へ外へと展開していく。日本の派兵大国化を筆者は深く憂慮する。(09・4・23記)

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2009年04月23日 | みんなの日記
 さっき夕刊一面の「千葉市長逮捕へ」という見出しが目に飛び込んだとき、おいらは一瞬、森田健作のことかと勘違いしてしまった。いやァ~、思いこみが強いとあり得ないものも見えてしまうもんだということが、そのとき実感できた…ってわけだが、それにしても森田健作はなぜ逮捕されないのか?ふしぎだ。

 日曜日に投開票された青森市長選挙では、27年間一度も政党に属さず、「『核燃料サイクル施設反対』という旗をいったん降ろし、固い保守地盤にも食い込む」(朝日新聞)なんて努力を重ねた鹿内博氏が、ほんとにほんとの“完全無党派”として市長に当選した。
http://www.asahi.com/politics/update/0419/TKY200904190142.html

 それに比べて、「完全無党派」を最大の売りに立候補・当選した森田健作の偽装選挙はひどい。
http://www.news.janjan.jp/government/0904/0904060954/1.php
 公職選挙法第235条は「当選を得又は得させる目的をもつて公職の候補者の政党その他の団体への所属に関し虚偽の事項を公にした者は、2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。」と言っているのに、千葉地検はなぜ強制捜査に着手をしないのか。

 民主党小沢党首公設秘書は政治資金収支報告の修正申告で済む類の形式犯でいきなり逮捕されたのに、森田健作自民党東京都衆議院選挙区第2支部長の違法献金は何故おとがめなしなのか。
http://www.asahi.com/politics/update/0403/TKY200904030314.html
不思議なことばかりだ。

 検察の強権(狂権)発動・情報操作(リーク)と
マスゴミ汚染力”がぐるになれば
不可能を可能にし、可能を不可能にしちゃえるとでもいうのだろか?

 
 そういえば「大久保秘書、起訴事実認める」なんてウソ報道も、“検察・マスゴミ連携キャンペーン”にまじってた…なんてこともあたけ。
サンケイ http://www.asyura2.com/09/senkyo60/msg/874.html
NHK  http://www.youtube.com/watch?v=unqJcEoEmBA&feature=related

(在日日本人)
 練馬読者会4月例会

  日  時:2009年4月25日(土) 19時から
  会  場:喫茶ノウ゛ェル(西武池袋線大泉学園駅北口駅前)
  会  費:喫茶代
  問合わせ:nerikinjyutu@mail.goo.ne.jp
       または03-3925-6039 近藤まで。

★★“公共事業”から“民営化“へ ★ 究極のアウトソーシングとは ★★

2009年04月20日 | これだけは言いたい!
 麻生政府は追加補正で15兆円もの公共事業をばらまくという(4月10日各紙)。 若者やメディアの皆さんは、飛翔体やら宇宙戦争ごっこに悪のりしている場合でないことに気付いてほしい。未曾有の金融破綻・経済危機に際してこそできること、《米国過剰消費だのみの輸出主導型》、《金持ち太って内需疲弊型》の経済構造の転換を指向すべきなのは明らかではないだろうか。
 にもかかわらず、麻生政府は“赤字国債の縛りが解けた”とばかりに、なんでもありの財政出動でこうした経済構造を延命しようとしているわけで、これが意味するのは格差拡大固定の上に極近未来に大増税(&インフレ)時代が、間違いなくやってくるということなのだ。

 さて、標記の「公共事業から民営化」だが、“privatization”を「民営化」とするのは新自由主義者のまやかしだ、ということに注意を喚起したい。政府やマスゴミの言い方にに抗して、「私営化」などと表現するむきもあるが、練金術師は、より正確に『民営(私利私欲)化』と言ったほうが解りやすいと思っている。(『民営(非営利)化』と区別) 

 今回問題にするのは、公共事業といってもダムや高速道路の話ではない。『民営(私利私欲)化』といっても郵政改革、PFI、指定管理について言いたいのでもない。ここでは平和を希求する立場から“戦争の実体と本質”の一端について愚考してみたい。

 まず、戦争とは経済問題であり、今も昔もある種の経済人にとって戦争は確実なビジネスソリューション(蜜の味)なのだ、という問題意識を持つことから始めよう。

第二次世界大戦が終わって冷戦秩序が作り上げられた(“共産主義=悪魔”だとして封じ込めようとするCold War)。そして、超大国アメリカは必要に応じて世界各地でHot Warを繰り返してきた歴史がある。それは軍隊・軍備・軍需から戦略(兵器)まで広範な需要喚起・新製品開発・在庫処分のための機会をつくるものであった。いわゆる「死の商人」たちによるこうしたやり口を見れば、あまたの公共事業のうちでも、それ(Cold War & Hot War)が膨大な国家予算を貪り続ける最強最後の公共事業だということがわかる。
 エージェントを使って《危機》を造り、メディアが《危機感》をあおって《安全保障》の名の下に国民を説得?する…。このような軍拡に走ることが経済成長の必須アイテムであった時代が長く続いた。(“戦争中毒”)
 この問題は無論、日本にとって人ごとではない。朝鮮戦争・ベトナム戦争(の「特需」)がひとつの契機(刺激剤)となって戦後復興や経済成長は成し遂げられてきたのであるし、「日米同盟」の名により経済大国から軍事大国をめざし、非戦憲法下で小さく生んだ属国軍隊・自衛隊をここまで育てあげ、米軍事戦略の世界的再編に深入りしようとしているのだから。

1990年代初頭ソビエト連邦の崩壊により「鉄のカーテン」で世界を二分した東西冷戦時代は終わりを告げ、軍縮、軍事予算削減の方向が自然の流れとなった。
2000年代に入ると軍産複合体にとって「あたらしい世紀には“新しい悪魔”が必要」となった(“テロリスト”があたらしい悪魔として登場)。…しかし、貧困と抑圧、社会矛盾のグローバル化で、あちこちで立ち上がる(ボランティアグループのような)“テロリスト”では、いかにも非対称すぎて戦争相手には役不足!だった。2001年9月11日までは…。
 かくして、ブッシュは《911事件》を得ることによってアフガン・イラク侵攻=「対テロ戦争」の咆哮をはなつことができたわけだ。

8年目に入った対テロ戦争を引き継いだオバマ米国大統領は就任に際し、世界の人々の期待に応えるべく「我々は責任を持ってイラクから撤退し始め、イラク人に国を任せる。そしてアフガンでの平和を取り戻す。」と宣言(就任演説)して“二兎を追うものは一兎を獲ず”という格言を地でいった。以来、グアンタナモ収容所の閉鎖を決めたり、イラク撤退計画を指示したり世界に向かってメッセージを発するオバマの口から「対テロ戦争」のことばは今のところ聞こえてこないようだ…。

 しかし、ブラックウォーター社(※)のような民間軍事会社(PMC)の存在なしに米国のプレゼンスはありえないと言われるイラク。そのイラクから米軍(戦闘要員)を撤退させるということは、侵略と支配の外注化(『民営(私利私欲)化』)をますます進行させるさせることになり(“オバマのジレンマ”)、戦争の不可視化ががすすむというゆゆしき事態が懸念される。
 ※ブラックウォーター社()(
 《侵略と支配の民営(私利私欲)化》について考えてみたい。【この項つづく】

(練金術師)


★★ 侵略と支配の民営(私利私欲)化 ★ 究極のアウトソーシング ★★

2009年04月18日 | ホントノデアイ
 「本とのであい」を「本当のであい」とするため《侵略と支配の民営(私利私欲)化》に関する本をまとめて3冊紹介します。(練金術師さん参考にしてください)
 
 その1の著者は英国のジャーナリスト。80年代に始まる“規制緩和”や“民営化”“小さな政府”の流れ(サッチャリズム)が行き着いた究極のアウトソーシング《ハードパワーの民営(私利私欲)化》が進行してゆく過程を追い、英米の政財界の動きを詳述しています。
 その2の著者はドイツ人。進行する軍事の民間委託化の問題点を、冷戦終結後の一極支配下で生じた構造変化のなかに読み解き、今後どうすべきかに言及しています。 
 その3の著者は日本人。東京財団(日本財団が設立)の資金による研究・本書取材執筆後英国PMCの日本法人設立に参加し、業界人(インサイダー)となってしまいました!?戦闘地域での物流サービスに始まり、捕虜の尋問、メディア対策、諜報活動、軍隊の訓練から実際の戦闘行動まで、戦争のあらゆる場面がおいしい“新ビジネス”と化している実態をビジネスマンの視点で描いていて、興味深い。
 この3冊はいずれも練馬区図書館に複数所蔵しています。
(イトヤン)
その1
images
対テロ戦争株式会社-「不安の政治」から営利をむさぼる企業-

ソロモン・ヒューズ(英) 松本剛史訳/河出書房新社/2008.10/2400円

【紹介文】
民間軍事産業と軍や政府との癒着がうみだした怪物=「国防‐産業複合体」の腐敗はとまらない。そのすさまじい実態を生々しく描く、気鋭のジャーナリストによる渾身の力編。国家建設の破産、基地民営化の悲惨、民間刑務所の役割、プロパガンダ戦争の深化、傭兵のクーデター、下請けスパイ会社の成長など悪夢のような最新の事例を多角的にレポート。
【もくじ】
まえがき 「一九八四年」株式会社
第1章 出稼ぎ労働者
第2章 基地の誘惑
第3章 力の投射
第4章 ダインコープ流の国家建設
第5章 富を求める軍人たち
第6章 プロパガンダ戦争
第7章 ミステリー・トレイン
第8章 雇われスパイ
第9章 データベース国家
あとがき 蛮人を待ちながら

その2
images戦争サービス業-民間軍事会社が民主主義を蝕む-
ロルフ・ユッセラー(独) 下村由一訳/日本経済評論社/2008.10/800円

【紹介文】
新しいタイプの傭兵は世界中に数十万人が活動する。
本来、軍や警察が担うはずの任務を遂行するのは、会社職員で、
敏腕マネージャーやコンピュータ、衛星放送の専門家までいる。
軍事関連業務の多くはサービス業になったのだ。
重大な罪を犯しても、彼らを裁く法はない。
内外の安全保障を、利潤を追求する民間軍事会社(PMC)に任せてよいのか。
【もくじ】
はじめに
第3版への序文
第1章 ビジネスとしての戦争
 1 世界中で暗躍する「新しいタイプの傭兵」
 2 民間軍事会社──新しいサービス業種
 3 多彩な発注者──「強い国家」、ビッグビジネスから反乱軍まで
 4 武力の世界市場で暗躍する民間軍事会社──四つのケーススタディ
第2章 グローバル化と「新しい戦争」
 1 戦争業、その小史
 2 東西紛争の終結──軍事サービス業の枠組みの変化
 3 パトロン・クライアント体制と闇経済──安全保障を求める新しい需要の展開
第3章 危険な結果 
 1 戦闘的な協力関係──経済と民間軍事会社
 2 管理不可能──西欧諸国での武力の民営化
 3 見せかけの安全──「弱い国家」での国民総売出し
 4 人道支援団体──軍の陰で  
第4章 民間軍事会社抜きの紛争解決は?
 1 暴力市場か暴力独占か
 2 危機の防止と平和の確保
終わりに──民主主義をまもるためにはなにが必要か

その3
 外注される戦争-民間軍事会社の正体-
菅原出/草思社/2007.3/1600円

【紹介文】いまや米軍でさえ民間軍事会社なしでは戦えない。補給、捕虜の尋問、軍隊の訓練、戦闘、すべてはお金で買える「商品」になった。イラク戦争以降注目されている新ビジネスの実態を、企業、米軍関係者への取材をもとに描く。


“公共事業”から“民営化“へ ★ 究極のアウトソーシングとは
を読む。

◆ 反戦の視点・その78-2

2009年04月18日 | 練馬の里から
「ミサイル迎撃」狂想曲を嗤(わら)ふ
つづき 
◆日本政府が国交正常化を望まない重要な動機
 2002年の「日朝平壌宣言」は、自民党のみか日本経済と社会を根本的に破壊した小泉純一郎元首相が残した唯一の功績だったが、それがたちまち打ち捨てられたのは、日本の支配層が朝鮮半島の統一を心底から恐れているからである。「宣言」にはこういう重要な文言が記されている。
 「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。」
 しかし「宣言」後の日本政府の姿勢はこの「痛切な反省と心からのお詫びの気持」を自ら踏みにじるものだった。「お猿の反省」でさえなかったのだ。 
 朝鮮半島の南北統一が北東アジアに平和をもたらすことは言うまでもない。しかし今でさえ、東アジアにおける日本の地位は著しく「低下」している。それは福田前首相をひどく苦しめたことだ。中国の大国化が誰の目にも明らかで、日本が米中間の谷間に沈没しかけていることを、日本の支配層は深く憂慮している。
 このうえ南北の統一が成り、一つの国として発展を続けたら、日本はどうなるか。落日の恐怖が日本の支配層をとらえて放さない。筆者自身は日本の地位低下などどうでもいいが、日本の支配層はすでに費(つい)えた「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の夢にしがみついている。彼らはかつて日本が中国や朝鮮に対して行なった犯罪を知悉している。それゆえ、いずれ報復される(やり返される)とひしひしと感じている。中国の大国化さえ我慢できないのに、統一朝鮮がきっとしかけるだろう日本への反撃……、それを思うと夜も寝られないのである。しかも彼らの焦りや憂悶の底には、敗戦によって失われた旧「満州」(中国東北部)や朝鮮での権益奪還の夢が息づいている。
 
◆麻生政権の暴挙と私たちの課題
 まず「NO!AWACSの会」と「人権平和・浜松」が4月1日に麻生首相と浜田防衛大臣に提出した要請書から引用する。 
◎「破壊措置命令」の撤回と浜松基地のPAC3の秋田・岩手からの撤退を求める要請書 麻生政権は、3月27日、朝鮮による「衛星」発射準備を利用して「破壊措置命令」を出し、「ミサイル防衛」(MD)を発動させました。それにより、部隊を実戦配備し、戦争の開始につながる態勢をとろうとしています。それは排外主義を煽り、外交努力ではなく軍事的威嚇を行使するものであり、このような動きに、私たちは強く抗議し、その撤回と部隊の撤退を求めます。/この命令によって首都圏では、市ヶ谷を中心に朝霞・習志野にPAC3が配置され、佐世保のSM3を持つイージス艦「ちょうかい」「こんごう」なども配備されています。/浜松基地のPAC3は浜松を3月29日の朝に出発しました。迷彩服姿の自衛隊員が実戦を想定して北門に立って警備し、一般車両は警察に規制され、迷彩服を着用した隊員を乗せた47台・4基分のPAC3の軍用車両が基地を出て行きました。それは軍事的大移動でした。/部隊は東名高速から清水港で民間船第1有明丸に乗り込んで仙台に移動し、さらに東北道を使い秋田・岩手に展開するというものでした。ここでは民間の有事動員もおこなわれたのです。/PAC3部隊は秋田の空自加茂分屯地や陸自秋田駐屯地に指揮・通信関係を置く形で、秋田の新屋演習場、岩手山演習場に配備されました。すでに浜松基地からは「破壊措置命令」の発令を前提に、発令前の3月19日付での特殊車両の通行予告が静岡・秋田・岩手などに通知されています。わたしたちはこのようなPAC3の展開に抗議し、その撤退をここに求めます。/この間、わたしたちはMD導入とPAC3の配備の中止を求めてきました。その理由は、MDやPAC3は新たな米軍の戦争システムへと浜松基地を統合することになり、政治的には憲法を破壊し、日米共同作戦により集団的自衛権が行使され、経済的には数兆円の軍需企業の利権を生み、社会的には基地機能を強化し、宇宙の軍事化とアジアでのミサイル軍拡をさらにすすめるからです。/今回の「破壊措置命令」とPAC3の展開によって、私たちが指摘してきたことが実際に起きようとしています。それは戦後初めての「破壊措置命令」による実戦配備であり、その軍事行動によって、憲法第9条が最初に破壊されることになります。戦力の不保持も武力の威嚇・行使の禁止も交戦権の否認も、実際の軍事行動によって無きものにされます。その運用は米軍からの情報と日米の共同作戦司令部の判断によることになり、浜松基地のAWACSもこのシステムに組み込まれていきます。/今からでも遅くはありません。「破壊措置命令」の撤回とPAC3の撤退をすすめ、ミサイル防衛政策自体を中止すべきです。(要請書の引用ここで終わり)

※ 文中の航空自衛隊加茂分屯地は秋田県の男鹿半島にあるレーダーサイト(基地)。今 回の迎撃態勢では新屋演習場に配備されたPAC3発射の頭脳になった。AWACSは 早期空中管制機。

要請書が指摘する「軍事的大移動」は公然と行なわれた。昨年、東京都心の新宿御苑にMD関連機材を搬入したときは深夜密かに行なったが、今回の迎撃態勢作りはむしろ軍事的デモンストレーションだった。そしてマスメディアはこのパフォーマンスに積極的に協力した。「いざというとき頼りになる」自衛隊の姿を大宣伝したのだ。
 この「臨戦態勢」の構築と宣伝が持つ意味は非常に大きい。「北朝鮮の脅威」を煽り、世論に戦時を意識させる大きな役割を果たした。確かに「ミサイル発射秒読み」の行き詰まる興奮は一時的なものだったが、この種のことが繰り返されていけば、脅威への反撃気運は着実に高まっていく。自分の身を守るために自衛隊に協力しなければというムードがかもし出される。それこそ防衛省・自衛隊中枢の政治的ねらいだっただろう。
 人工衛星打ち上げロケットの1段目ブースターは日本の領土や領海に落下せず、迎撃は行なわれなかったから、現在のミサイル防衛(MD)システムが実効性のあるものかどうかは明らかにならなかった。もっとも日本の領土や領海への「落下物」を迎撃するといっても、SM3やPAC3をブースターに打ち当てた場合、破片が広範囲に落下してかえって被害を広げる危険性や失敗の確率などについて、防衛省はまったく説明責任を果たさなかった。「PAC3を開発した米軍でさえ、市街地に展開して活用した例はない。迎撃による被害も想定できない武器が何の説明もなく市街地に置かれた」(4月6日付『東京新聞』)。防衛省はただ破壊措置命令による迎撃を大宣伝しただけである。それゆえ迎撃はポーズだけで、防衛省・自衛隊はMDの実効性が衆人環視の下で検証されないよう、打ち上げの成功を祈るばかりだったというのが真相だったのではあるまいか。
 しかし「北朝鮮の脅威」の煽動は一定の効果をあげたから、MDの拡充に期待する世論が台頭する下地は作られた。すでに防衛省や自民党はMD拡大論を唱え始めている。三菱重工業幹部の高笑いが聞こえるようではないか。
 私たちがなすべきは何より〈脅し・脅される〉関係を解消することを政府に要求することだ。日中間には国交があり平和友好条約が締結されているから、中国が保有するミサイルが日本を襲うことにリアリティを感じる人は少ない。ならば、北朝鮮と一刻も早く国交を正常化すべきである。幸い「日朝平壌宣言」という重要な基礎がすでにできている。宣言に基づく早期国交正常化を政府に求めよう。
 〈脅し・脅される〉関係を解消するためには、日米安保条約を破棄して日本から米軍を去らせること、日本政府に南北の統一を妨害させないことも重要な課題である。北朝鮮に対する制裁措置を解除・撤廃し、在日朝鮮人への抑圧をやめることは今すぐなすべきことだ。
 また〈脅し・脅される〉関係を解消するためには日本が軍拡をやめねばならない。「専守防衛」をタテマエにしながら、武装ヘリ搭載の小型空母「ひゅうが」を建造するなどという愚行はやめるべきだ。北朝鮮にとっては、米軍や韓国軍のみならず自衛隊という日本軍も脅威なのである。

 外交ですべての問題を解決するなら、金食い虫のMDなどに政府予算を費やすことなく脅威は解消し、東北アジアに平和と安定をもたらすことができる。それは私たちが本気で実現しようと思えばやれることだ。安易なあきらめを友とせず、ともに日々努力しようではないか。  (09・4・14記)


 

◆ 反戦の視点・その78-1 ◆

2009年04月17日 | 練馬の里から
「ミサイル迎撃」狂想曲を嗤(わら)ふ
 ──日朝平壌宣言に基づき、日朝国交正常化を──

井上 澄夫

    ※本稿では、朝鮮民主主義人民共和国を北朝鮮と略記する。
 〈国連で日本の主張が通らないなら、国連を脱退するとか、北朝鮮が核保有している限り、日本も核を持つぐらいのことを言うべきだ。〉
(4月7日の自民党党役員連絡会での坂本剛二組織本部長〔参院議員〕の発言、4月8日付『東京新聞』)

◆麻生首相の一人相撲──笛吹けど踊らぬ世論と国際社会──
 さてさて、あれは一体、何の騒ぎだったのか……。人工衛星打ち上げロケットが東北地方のはるか上空を飛んで、太平洋上に落下したとたん、異常に高揚し緊張したマスメディアの論調は総じて気の抜けた風船と化したかのようだ。「撃ちてし止まん」の『読売新聞』や『産経新聞』はあいかわらず北朝鮮バッシングを続けているが、世論を焚きつけることができたのは、ほんの一時期だった。新聞やテレビの異常な煽動ぶりは戦時意識を高揚させる犯罪的なものだったが、日本の領土や領海に3段ロケットの一段目が落下し被害を与えることはなかったし、迎撃(ミサイル防衛による破壊措置)は不発に終わったので、麻生首相が期待したほどには世論は盛り上がらなかった(後注1参照)。2度もの誤報は排外的な興奮に水を差したし、自民党内からさえ不手際を批判する声が噴出した。ただ政権の支持率を上げたこと(4月10日から3日間、行なわれたNHKの世論調査によると、麻生内閣を「支持する」と答えた人は3月より12ポイント上がって30%だった)は彼の狙い通りだっただろう。支持率の上昇には海賊派兵の強行も影響したと思われる。
 ロケット打ち上げ直後、麻生政権は国連安保理に全会一致の非難決議を求めたが、中国が強く反対し、結局は加盟国への拘束力を持たない議長声明にとどまった。それも米国の後見に支えられてのことである。ASEAN首脳会議で非難決議をあげさせようという思惑も会議自体が吹っ飛んでしまったことによって頓挫した。
 北朝鮮の朝鮮中央通信は3月31日、打ち上げを予告している「人工衛星ロケット」を日本が迎撃した場合、軍事的手段で対応すると報じた。同通信は「冒険的な迎撃に出た場合、わが軍はこれを戦犯国・日本が第二次世界大戦後60余年ぶりの再侵略の砲声とみなす」とのべた(4月1日付『東京新聞』)。
 しかし国際社会は北東アジアで緊張が激化することを望んでいない。どの国も米国発の世界同時大不況に打撃を受け、自国経済の立て直しに追われている。麻生首相がおらびたてる「北朝鮮の脅威」どころではないのだ。あの好戦的な米ブッシュ前政権でさえ、政権末期に北朝鮮の「テロ支援国家」指定を解除してしまった。イラクから足を抜き、アフガニスタンを主戦場にする方針のオバマ政権には、ブッシュ政権のように北朝鮮を先制攻撃する気はない。自国発の世界大不況で米国は「唯一の超大国」の座から滑り落ち、世界の多極化に合わせて生き残るしかない。今さら北東アジアで戦端を開く余裕は経済的も軍事的にもありはしないのだ。
 前回2006年の「テポドン」騒動も日本の世論を沸騰させた。そして今回と同様、「敵ミサイル基地先制攻撃論」や「ミサイル防衛(MD)強化論」のような、無視できない政治的効果をもたらした。しかし今回と前回の違いは、迎撃ミサイルが地上にも海上にもすでに配備されていることだった。海上配備型迎撃ミサイル・SM3搭載のイージス艦が日本海に2隻(迎撃担当)、太平洋に1隻(追尾担当)配備され、地対空誘導弾パ(ペ)トリオット・PAC3が公然と国内で移動配備された。迎撃態勢の陣容が華々しく演出され、臨戦ムードを盛り上げた。日本海には米海軍のイージス艦も配備された。米軍は「ミサイル」の追尾を試み、日米の情報共有が追求された。その限りでは日米共同の実戦的演習が行なわれたのだが、米軍は迎撃の意向を示さなかった。米国政府は過剰反応は外交上も軍事上も得策ではないと判断したのである。
 それゆえ日本の迎撃態勢構築(防衛大臣の破壊措置命令に基づく、後注2参照)は世界的で突出した異様なものになった。東北アジアの緊張激化に日本自身も一役買っていると理解されて当然の動きだった。一つ間違えば、6カ国協議そのものが破綻しかねないという強い懸念(後述するように実際その懸念は的中した)が生まれたことを麻生政権は過小評価していた。麻生首相は外交が得意といわれているが、「麻生外交」に外交があるだろうか。
 ※注1 4月4日から5日にかけてJNN(TBS系列)が行なった世論調査の結果は非常に興味深い。
 ▼北朝鮮は5日、人工衛星の打ち上げと称して長距離弾道ミサイルを発射したとみられています。日本の北朝鮮への対応として、あなたの考えに最も近いのは次のうちどれですか?
○ミサイルだろうが人工衛星だろうが、さらなる制裁措置を含め厳しく対処すべきだ
 29%
○ミサイルならさらなる制裁措置を含め厳しく対処すべきだが、人工衛星の場合は 冷静 に対処すべきだ 34%
○ミサイルだろうが人工衛星だろうが、冷静に対処すべきだ 35%
○答えない・わからない 1%
 ※注2 迎撃の法的根拠は自衛隊法82条2項3である。参考に同条の関連部分を記す。
(弾道ミサイル等に対する破壊措置)
 第82条の2  防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
 3  防衛大臣は、第1項の場合のほか、事態が急変し同項の内閣総理大臣の承認を得るいとまがなく我が国に向けて弾道ミサイル等が飛来する緊急の場合における我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため、防衛大臣が作成し、内閣総理大臣の承認を受けた緊急対処要領に従い、あらかじめ、自衛隊の部隊に対し、同項の命令をすることができる。
 4月5日に発射された「ミサイル」(政府見解)に搭載されるものが弾頭か人工衛星かを政府はあらかじめ判断できなかったので、上記82条にある「弾道ミサイル等」の「等」にあたるとして破壊措置命令を発した。実に強引なこじつけ解釈で迎撃を準備したのだ。

◆いつでも核ミサイルを保有できる日本
 4月6日付『読売新聞』の社説は「ロケットもミサイルも原理は同じだ。衛星の代わりに核弾頭を搭載すれば核ミサイルになる。」とのべている。ちなみに『新明解国語辞典』(三省堂)はこう定義している。
▼ロケット 火薬や燃料を爆発させ、発生した多量のガスを後ろに噴き出し、その反動で非常に速く空中を飛行させる装置。
▼ミサイル ジェット(ロケット)エンジンで飛び、内蔵する装置または無線操縦によって飛行経路や速度を修正して目標に到達する兵器。誘導弾。
上の『読売新聞』の主張に異を唱える人はいないだろう。しかし同社説は北朝鮮を非難するだけで、我が身を振り返ることはしない。「ロケットもミサイルも原理は同じ」であるなら、日本のロケットもミサイルに転用できることは自明の理である。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)によれば、現在、日本が人工衛星打ち上げに使用している主力ロケットはH2Aである。これはH2の改良型で、打ち上げ能力は静止軌道で約2.5トン、低高度軌道で約10トンである。これを軍事的にみればどうなるか。周辺諸国の軍事筋は日本の「ロケット開発」を強い警戒心を持って見守っているのではあるまいか。ロケットがミサイルに転用されれば相当の威力を発揮すると予想されるからである。今回の騒動で、その点にマスメディアがほとんど触れなかったのは実に不思議なことだ。北朝鮮のロケットは軍事目的の兵器だが、日本のロケットは平和目的で兵器ではないなどという身勝手な理屈は国際的にまるで通用しない。
 防衛省からミサイル防衛を請け負っているのは三菱重工業であるが、同社はH2、H2Aも開発してきた。そこは常に念頭に置かれるべきだ。
 米国政府は宇宙空間の軍事利用を隠さない。この地球上で発射される米国の敵のすべてのミサイルを宇宙基地から攻撃して破壊する計画を持っている。そのために軍事利用の実験資材を宇宙空間にせっせと運んでいるのである。日本政府はそれに見習いたい。今回の迎撃騒動を機に自民党国防部会が弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒衛星について、導入を視野に研究開発に着手する方針を明らかにした。早期警戒衛星は現在米国に頼っているが、自前の衛星を持ちたいのだ。
 日本が潜在的核保有国であることも世界の常識である。原発大国・日本はその気になればさして時間をかけず核武装できる。日本の政権が米国のにらみを恐れて当面は政治判断で核武装に手を着けないだけの話である。核もミサイルも保有を可能にする物質的条件は整っている。今回の騒動を考える際、そのことも念頭に置く必要がある。

◆脅(おど)すから脅される
 麻生首相ら政府首脳は「北朝鮮のミサイル」がよほど恐(こわ)いと見える。誰であれ、脅(おど)かされることを歓迎する者はいないだろうが、「脅し」は、脅(おど)される側に心当たりがないなら効果が小さい。しかし、脅かされることに思い当たるところがあれば効果は大きい。相手が本気であると強く感じるからである。
 北朝鮮の朝鮮中央通信は4月5日、同国の科学者と技術者が運搬ロケット「銀河2号」で人工衛星「光明星2号」を軌道に進入させることに成功したと発表した。3段式ロケットの先端部に搭載されたものが弾頭ではなく通信衛星であることは米シンクタンク「グローバル・セキュリティ」も示唆しているし、米国政府もそう見ているようだ。筆者も今回の北朝鮮によるロケット発射は人工衛星打ち上げの試みだと思う(どうやら失敗したらしいが)。この人工衛星打ち上げは、明らかに米国政府に向けた政治的メッセージだろう。「テポドン1号」に比べ飛距離が飛躍的に伸び、着水地点もほぼ予定通りだったから、ロケット誘導の技術もかなりアップしたようだ。この事態に米国政府が無関心であるはずはない。しかし日本のように大騒ぎせず、米軍が十分な迎撃能力を宣言しただけで、迎撃態勢がもたらす軍事的緊張を意識的に回避した。
それだけに、麻生政権の対応は異常な突出ぶりが際立った。北朝鮮と国交があり両国間に軍事的緊張が存在しないなら、日本の頭越しに人工衛星を運ぶロケットが飛ぶくらいで目くじらを立てることはないだろう。ロケットの部品が日本列島に落ちないよう要請すればすむことである。1月23日に打ち上げられた日本のH─?Aロケットはインドネシアの上空で温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」を分離し、小型実証衛星1型をオーストラリア上空で分離した。それで問題が起きたわけではない。麻生政権が迎撃態勢をあえて誇示して北朝鮮に対する敵対を鮮明にしたのはまったく異常なことだった。
ついでに触れておくと、「防衛」が騒がれるが、日本の防衛政策はまったくザルである。防衛を本気で考えているなら、どうしてわざわざ日本海側を原発銀座にしたのだろう。それらの原発は「ノドン」ミサイルの射程距離内にある。政府は原発を建設し始めた頃は「ノドン」の脅威はなかったと弁明するかもしれないが、真剣に「防衛」を考えているなら、原発を地下に潜らせなければ防衛できないはずだ。だがそういう議論はまったく聞かない。 また「脅威」をいうなら、台湾を目標として中国の沿岸部に配備されている1000発のミサイルが在沖米軍基地に向けられた場合を想像すればいい。それこそ安保体制にとって「脅威中の脅威」だろう。米軍は嘉手納空軍基地にPAC3を配備したが、それで迎撃できるとは考えていないだろう。さらに関東に住む筆者にとってより身近な脅威は、ヨコスカを母港とする空母ジョージ・ワシントンである。同空母は移動する原子炉であり、ひとたび事故を起こせば筆舌に尽くせない大惨害をもたらす。
 ところですでにのべたように、今回の人工衛星打ち上げを脅威と感じる日本政府は、脅されることに大いに思い当たるところがあるから大騒ぎする。こちらが脅しているから向こうが脅し返していることを自覚しているのだ。実際、その通り。日本は米国や韓国とともにこれまでずっと北朝鮮を脅し続けてきた。
 順序立てて概略するとこうだ。1910年に朝鮮を植民地として以来、1945年の敗戦に至るまで日本が植民地朝鮮の人びとに強要してきた苦難の数々をここで繰り返すことはしない。しかし長期にわたる植民地支配が、朝鮮と朝鮮人に対する、傲慢な優越感や抜きがたい差別意識を日本の民衆の精神構造の基底部に定着させたことは、恥ずべき冷厳な事実として確認しておきたい。忌まわしいことに、戦争体験と無縁の若い世代もそのような意識のありようから解放されていない。朝鮮戦争以来、日本の歴代保守政権が一貫して煽ってきた北朝鮮敵視は、その植民地本国的精神風土を土壌として利用したものだ。
95年の「村山談話」は表向き日本政府の公式見解とされているが、日本政府が朝鮮に対する植民地支配を真摯かつ根本的に反省したことはない。それは、度々繰り返されてきた閣僚の妄言や現実に展開されてきた対北朝鮮政策が実証している。対韓政策もいま改めて厳しく批判されている日韓基本条約が示すように、なんら深い反省に基づくものではない。侵略戦争と植民地支配について責任の所在を明らかにせず、戦後補償を怠ってきたことがこのような事態の根底にあることは言うまでもない。
 それだけではない。冷戦体制下、日本はひたすら米国に依存し、ソ連や北朝鮮と敵対してきた。ニクソン米大統領の訪中(72年)にショックを受け中国と国交を正常化したが、北朝鮮とはいまだに正式に国交がない。繰り返された米韓合同軍事演習「チーム・スピリット」は明白に対北朝鮮軍事恫喝であり、日本はそれを支援する基地を提供することで恫喝に加担してきた。日米韓軍事同盟による北朝鮮包囲・恫喝はいまも続き、「作戦計画5027」なる北への侵攻作戦のシナリオまで作られている。これは朝鮮戦争の再開に備え60年代に策定されたもので、その後も情勢に合わせて改定されてきた。
 「北朝鮮の脅威」の煽動は冷戦が終わっても変わることはなかった。96年4月の日米安全保障宣言は「アジア・太平洋地域には依然として不安定性及び不確実性が存在する」と強調したが、その中心に位置したのが「北朝鮮の脅威」である。4月3日の閣議がまとめた「09年版外交青書」も北朝鮮による核、拉致問題などを「アジア太平洋地域における深刻な問題」としている(4月3日付『東京新聞』)。
 2002年の「日朝平壌宣言」はそれまでの敵視政策を停止し日朝間の国交正常化を実現する重要な足がかりだったが、北朝鮮側が拉致を認めたことにより、両国関係はむしろ悪化の一途をたどった。植民地支配への「負い目」は一気に払拭され、日本が被害者である証拠として攻撃的な北朝鮮バッシングを生むことになった。拉致糾弾キャンペーンが日本政府とマスメディアによって大々的かつ執拗に展開されたが、核問題をめぐる6カ国協議の場に日本政府が拉致問題の解決を強引に持ち込もうとしたことにより、日本はかえって蚊帳の外に置かれることになってしまった。米ブッシュ前政権が政権末期に北朝鮮を「テロ支援国家」のリストからはずし、両国間の緊張緩和に踏み出す姿勢を見せたにもかかわらず、日本政府は拉致問題の解決をあえて高いハードルとし、「日朝平壌宣言」の実現=日朝間の国交正常化をめざそうとしない。拉致問題を解決するためにも早期の国交正常化が必要なのではないか。
 日本政府が本気で日朝国交正常化を望んでいるなら、今回の人工衛星打ち上げを冷静に受け止め、国交正常化を急ぐよう、北朝鮮政府に提案するはずだ。しかしその気配がまったくないどころか、制裁を延長したり強化したりすることに狂奔し、あまつさえ国連安保理に全会一致の非難決議を採択させようとして挫折するといった醜態をさらしている。これでは行き詰まった事態を打開する道はいよいよ遠ざかるばかりである。本稿執筆中、次の情報が入った。
 〈北朝鮮外務省は4月14日、声明を発表、国連安全保障理事会が北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難する議長声明を採択したことに反発し、「6カ国協議に二度と絶対に参加しないし、いかなる合意にもこれ以上拘束されない」として、核問題をめぐる6カ国協議を離脱する方針を示した。また、「われわれの自衛的核抑止力をあらゆる面から強化していく」と主張し、核開発の再開を表明した。朝鮮通信(東京)が伝えた。/14日の報道官声明は「国際法的手続きを経て正々堂々と行った平和的衛星打ち上げ(問題)を論議したこと自体、わが人民への耐え難い冒涜(ぼうとく)、許し難い犯罪行為だ」と激しく反発した。/さらに、6カ国協議参加国が北朝鮮の自主権を尊重する精神を「正面切って否定した」と主張。「協議を妨害してきた日本が衛星打ち上げに言い掛かりを付け、公然と単独制裁まで科した以上、協議は存在意義を喪失した」と決め付け、日本を非難した。〈4月14日付『時事通信』) 
 
※つづく

●●西松建設事件に関する週刊金曜日の報道について●読者会有志から質問 ●●

2009年04月14日 | これだけは言いたい!
 西松建設事件(小沢民主党代表秘書逮捕)に関する週刊金曜日の記事に関連して練馬読者会の有志で4月3日(金)、編集部に対し以下の質問をしたところ、4月10日(金)に北村肇編集長より回答を戴きましたので、報告致します。
(Kdac)


【質問文】
2009年4月3日
週刊金曜日編集部御中

週刊金曜日練馬読者会有志
 日々ジャーナリズム精神を全うすべく、週刊金曜日の編集にあたっておられることにつきまして、感謝と尊敬の意を申し上げます。
 ご存じのように、3月3日に小沢一郎民主党代表秘書の大久保隆規さんが逮捕され、これに対する多くの批判にもかかわらず、残念なことに3月24日起訴される事件が起こってしまいました。
 この間の東京地検の有力メディアを使った世論操作には常軌を逸するものがあり、小沢代表に対して「ゼネコンと未だに癒着している金権政治家」といった、あたかも悪徳政治家であるかのようなイメージが植え付けられ、そのことが民主党の支持率低下につながり、次回の総選挙においての政権交代を不安視する者さえ出ている状況です。
そのような状況の中で、編集部が今回の事件に対して採られた対応について、以下の点につきお伺いしたいので、ご多忙のところお手数ですが、回答して戴くようにお願い致します。

質問1
今回の大久保さんの逮捕は、単なる国会議員秘書の逮捕に止まらず、政権交代をすることによって政治の腐敗などを防ぐことを要素の一つとする民主主義に対する、また、主権者である全国民に対する悪質極まりない攻撃であり、今後の国民生活、福祉、教育、人権、外交、防衛、経済など全ての分野において今後の帰すうを左右する極めて重大な事件と考えております。また、自民・公明両党を政権から引きずり下ろし、民主党を中心とする政権に交代することによって、今後の国民生活、福祉、教育、人権、外交、防衛、経済など全ての分野において、国民の望む変化の全ては無理としても、少なくとも良い方向への変化は、これまでの小沢代表や民主党はじめ各野党幹部・議員の発言から十分期待できると、私達は考えております。
このため、大久保さんの不起訴さらには無罪となるよう、小沢代表や民主党をネガティブキャンペーンから守り、東京地検や麻生内閣を糾弾していくことを徹底的にする必要があったのではないかと考えております。
にもかかわらず、3月6日号以降5号をみると、必ずしもそのような内容になっておらず、それどころか、3月13日号、3月27日号、4月3日号では、小沢代表が徹底抗戦するのを批判したり、代表を辞任するよう主張する記事すら出ております。私達は、今回の起訴を理由に小沢代表が辞任するのは、小沢代表を恐れる、東京地検さらには自民党の思うつぼになると考えております。
なぜそのような内容になったのか、理由をおっしゃっていただけないでしょうか。また、今後どのような方針で今回の事件について取り上げていくかについてもおっしゃって戴くようにお願い致します。

質問2
3月27日号に佐藤優氏が書かれた記事が載っておりましたが、少なくとも政権交代が成るか、大久保さんの無罪が確定するまでの間は、佐藤優氏が書かれた記事を載せない方がいいのではないかと考えております。
 と申しますのは、佐藤氏は、逮捕時から、「国策捜査」を自己流で「定義」づけして「この定義に該当しないから国策捜査でない」と今回の不当逮捕を正当化するかのようなことを言ったり、3月15日(日)にフォーラム神保町で開かれたシンポジウムでも、東京地検を批判する目的で開かれたにもかかわらず、安倍晋三元首相の選挙区から出馬する民主党の戸倉多香子氏の「自民党にも疑惑のある議員は大勢いるのに、なぜ小沢代表だけが狙われたのか。」という切実な質問に対して、「ものすごい右の村上正邦さんもやられた。」などと言ってまともに答えなかったり、シンポジウムの最後の方で石井一氏が国民に対してマスコミの報道に惑わされないように訴えた後に、「民主党の宣伝の場にするの反対!」とふてくされたりして、不誠実極まりない態度をとるなど、東京地検さらには麻生内閣を批判しようとしないばかりか、正当化しようとすらするかのような発言をしていたからです。
 そのような佐藤優氏が書いた記事を載せるのは、大久保さん、小沢代表、民主党さらには全日本国民さらには全世界の市民を守り、東京地検や麻生内閣を糾弾する決意を、読者から疑われるのではないかと、私達は懸念するものであります。
 3月27日号に佐藤優氏が書いた記事を載せられた理由についておっしゃって戴けないでしょうか。また、4月8日の講演会や4月17日のイベント以外に今後佐藤優氏に記事の執筆やイベントへの参加を依頼される予定はあるのでしょうか。それも併せてお願いいたします。

質問3
今回の事件については、その重大性を考え、編集委員の皆さんの抗議声明を出される必要があったのではないかと考えるのですが、まだされておりません。その理由を教えて戴けないでしょうか。

質問4
3月20日号の表紙は小沢代表の写真が載っておりますが、最後のページの「今週の写真」では3月27日号の写真と説明文が載せられておりました。これについては3月27日号でお詫びが載っておりますが、3月20日号の写真の説明が載っておりません。
なぜこのようなことが起きたのでしょうか。その経緯を教えて戴けないでしょうか。
 また、3月20日号の写真の説明については、次号以降早い時期に改めて載せる必要があると考えているのですが、その予定はあるのでしょうか。ない場合はその理由も教えて戴けないでしょうか。
 この点について、お伺いさせて戴いたのは、大久保さん、小沢代表、民主党さらには全日本国民さらには全世界の市民を守り、東京地検や麻生内閣を糾弾する決意を、読者から疑われるのではないかと、私達が懸念したからであります。

質問5
今回の事件についての週刊金曜日の対応は、権力に追従しがちな各全国紙、各テレビ局などの有力メディアと違って、ジャーナリズム精神を全うせんとする週刊金曜日の創刊の原点にもとり、さらには、これまで築いてきた週刊金曜日に対する信頼をも大きく損ねかねないものではないかと、私達は大変懸念しております。
 この点についての見解をおっしゃって戴けないでしょうか。



【北村肇編集長のご回答】
週刊金曜日練馬読者会有志代表 様

ご愛読、感謝いたしております。回答が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

 「小沢事件」に関して、本誌は基本的に「国策捜査である」との見解をもっています。誌面もそれを前提につくっています。ただ、一方で、複数の読者から「政治資金規正法違反は確かであり、小沢氏擁護はおかしい」という指摘も受けています。確かに「公共事業に関わる業者から多額の政治資金を受ける」ことは批判せざるをえず、記事化に際しては配慮しています。しかし、この時期に形式犯で野党代表の秘書を逮捕するのは、どう考えても政治的策謀であり、今後も「国策捜査」の筋で取材を進めていきます。ネタがとれしだい、誌面で展開する予定です。

 佐藤優氏については、「検察批判」という視点では一致しています。「国策捜査」かどうかは認識の違いです。いかなる問題に関しても見解の相違はあり、佐藤氏に限らず、本誌とは異なる考え方の筆者にも数多く登場してもらおうと考えています。そのほうが建設的議論につながると思うからです。

 なお、4月17日のシンポジウム()で、佐藤氏に見解を明らかにしてもらう予定です。

 「編集委員の抗議声明」ですが、8人の見解は必ずしも一致しないので、いまのところ出す計画はありません。
 奥付の写真説明は、制作会社に2週分のデータを送っていて、差し替わってしまったミスです。初歩的な失敗で、まことに申し訳ありません。再録は誌面制作上、好ましくないのでしませんでした。「大久保さん、小沢代表、民主党さらには全日本国民さらには全世界の市民を守り、東京地検や麻生内閣を糾弾する決意を、読者から疑われるのではないか」というご懸念に関しては、今後の誌面でそのようなことの起きないよう精進してまいる所存です。

 「週刊金曜日の創刊の原点にもとり、さらには、これまで築いてきた週刊金曜日に対する信頼をも大きく損ねかねないものではないか」とのご指摘は真摯に受け止めます。ただ、先述のよう「小沢擁護の誌面は本誌の信頼感を損なう」との意見が届いているのも現実です。「本誌は、多様な言論を認め、建設的議論を行う場である」と考え、日々、編集作業をしております。今回の事件についても、あまり一方的にならないよう配慮したのは事実です。

 編集長である私の力不足により、満足していただける誌面にならず申し訳ない思いで一杯でが、多角的で多様性のある「週刊金曜日」にしたいと日々、努力をしております。今後とも、ご批判、ご意見をいただければ幸いです。
 よろしくお願いいたします。
>『週刊金曜日』PRESENTS スペシャル版 in LOFT/PLUS ONE
  「検察の暴走を許すな」
民主党の小沢一郎代表の公設第1秘書が3月24日、東京地検特捜部に政治資金規正法違反(政治資金収支報告書の虚偽記載罪)で起訴された。だが、メディアが盛んに報じた「もっと大きな犯罪」による再逮捕はなかった。小沢代表からの事情聴取は当面見送られた。 来たる総選挙によって政権交代が起きると言われているなか、「政治に強い影響を与える」検察の捜査のあり方に批判が高まっている。検察の取り調べの実情を暴露し、検察の「正しい」あり方を考える。

【出演】
青木 理(ジャーナリスト)
石坂 啓(『週刊金曜日』編集委員)
神林広恵(ジャーナリスト、元『噂の眞相』デスク)
佐高 信(『週刊金曜日』発行人)
佐藤 優(作家、起訴休職外務事務官)
鈴木宗男(衆議院議員、新党大地代表)
安田好弘(弁護士)ほかゲスト多数。

OPEN 18:30 / START 19:00
予約¥1,500 / 当日¥2,000(飲食代別)




◆ 反戦の視点・その77-2 ◆

2009年04月05日 | 練馬の里から
反戦の視点・その77-2(つづき)
●「21世紀の義和団事件」騒ぎがもたらすイエメン漁民の被害
 〈海賊対策で海上自衛隊も含めた各国海軍が派遣されているソマリア沖のアデン湾で、イエメン漁民が海賊と疑われて威嚇射撃を受けるなど海軍と海賊の板挟みとなり、「漁業が立ち行かない」と悲鳴を上げている。3月21日付のサウジアラビア紙アラブ・ニューズが伝えた。/同紙によると、イエメンのハドラマウト州沿岸では約1万2000人が漁業に従事、主要な漁場は同国とソマリア中間海域で、海賊被害海域とも重なる。両国の漁師が乗り組むことが多く、海賊と誤認されて威嚇射撃を受け負傷者も出ているという。〉                            (3月22日付『時事通信』) 〈ソマリア沖海域に臨むイエメンの漁民らが、海賊と誤認され軍に射撃されたり、海賊に脅され「人間の盾」に利用されるなど、双方から深刻な脅威を受けている。イエメンの漁業組合は「このままでは多くの漁民が漁をやめざるを得ない」と窮状を訴えている。/
3月21日のサウジアラビア紙アラブ・ニューズ(電子版)によると、ソマリア沖で操業を終えたイエメンの漁船団が母港に戻る途中の1月29日、「海賊対策で派遣されているとみられる国籍不明の」軍艦2隻に遭遇。艦船から飛来したヘリコプター1機から無警告で乱射を受け漁民1人が負傷した。艦船はその後、姿を消したという。/漁民らは事件前にも、漁場に向かう途中で海賊の船団に見つかり、海賊対策艦船の目をくらますおとりとして、海賊船に付いてくるよう命じられ、命からがら逃れていた。/漁業組合関係者によると、操業中のマグロ漁船にインド軍艦船乗組員が乗り込み、立ち会いの1人を除く漁民全員を海に放り出して臨検を行うなどしているという。〉(3月22日付『共同通信』)
 イエメン漁民の漁場がソマリアの海賊と諸国艦隊との戦場にされているのだ。愚劣きわまる「海軍オリンピック」の犠牲者である。どれが漁船でどれが海賊船かを見分けることは至難の業である。次は読売新聞の記者がデンマーク海軍のフリゲート艦・アブサロンに同乗して取材した記事である。
 〈各国海軍が既に、商船の護衛や警戒監視にあたっているが、周辺海域では沿岸国の漁船も操業中で、海賊の判別は難しい。/3月12日夜、アブサロンから数十キロ離れた海上に不審な木造船が確認された。小舟4隻を曳航(えいこう)しており、武器を隠し持つ海賊船の疑いがある。アラビア語通訳のマリエ・ルンゲ隊員(25)が無線交信を試みたが、反応はない。ルンゲ隊員は、特殊部隊兵と共に小型艇で接近。アブサロンの甲板では、下士官が機銃を構えた。約20キロ先まで届く艦上の赤外線カメラが前線の模様をとらえた。漁船では17人の男が立ち上がり、両手を上げている。ルンゲ隊員によると、男たちは「我々はイエメンの漁師。寝ていただけだ」と答えたという。/艦内の憲兵事務所には、5丁のAK47自動小銃が並ぶ。2月、中国商船のSOSで現場に急行し、所持品を海に投棄していた漁船を捕捉、船内から押収した。だが、乗船していたソマリア人7人が、この武器で襲撃した十分な証拠はなく、釈放せざるを得なかった。〉(3月18日付『読売新聞』)
 この記事には、漁船を装った2隻の船からロケット弾攻撃を受けたベトナム船籍の貨物船をアブサロンが救援に向かい、約20分後、トルコ海軍のヘリが貨物船の乗員の無事を確認した実話が紹介されているが、「ヘリは海賊船の行方を追ったが、多数の漁船が点在する中、約100メートルの上空からは海賊船の判別は困難。探索は打ち切られた。」と記している。すでにソマリア沖に達し、日本関連船舶を警護し始めた2隻の護衛艦は海賊を判別できるだろうか。不測の事態が起きる可能性は大きい。

●私たちにとって不可欠の視点の確立
 護衛艦「さみだれ」と「さざなみ」はすでに「海賊対処」活動を始めた。こういう社説がある。
 〈歴史をひもとけば、海賊をめぐって国家間の戦争に発展した例がある。「海賊対処は警察活動で、憲法問題は生じない」とする政府の説明は、あくまでも派遣する側の論理だ。
自衛隊は強力な実力組織であり、沿岸諸国から見れば軍隊にほかならない。/海賊問題は
陸の問題であるといわれる。今回の派遣が他国への介入の側面を持つことを自覚しておくべきだ。/無政府状態のソマリアに警察機能が期待できないのは分かる。が、軍艦による威嚇だけでは決定打にはならない。力の対処に終わりがないことは、米国が押し進めた対テロ戦争で証明されたはずだ。/ソマリア沖の海賊は元漁民が多く、高度に組織され、すでに地場産業化しているとの指摘さえある。それを招いた責任は国際社会にもある。/産業を壊滅させた内戦の遠因は東西冷戦だ。ソマリアは国連が人道目的の武力介入を初めて認めた地でもある。米国が主導した二度の国連平和維持活動(PKO)は失敗に終わり、その後、ソマリアは事実上放置され続けた。過去の反省に立ち、ソマリア本土を視野に入れた明確な出口戦略を持たなければ、問題は終わらない。硬軟両面の行動が各国に求められる。〉(3月14日付『愛媛新聞』)
 全国紙・地方紙の社説の中で、「自衛隊は強力な実力組織であり、沿岸諸国から見れば軍隊にほかならない。今回の派遣が他国への介入の側面を持つことを自覚しておくべきだ。」と指摘したものは他に見出せない。また「ソマリア沖の海賊は元漁民が多く、高度に組織され、すでに地場産業化しているとの指摘さえある。それを招いた責任は国際社会にもある。/産業を壊滅させた内戦の遠因は東西冷戦だ。ソマリアは国連が人道目的の武力介入を初めて認めた地でもある。米国が主導した二度の国連平和維持活動(PKO)は失敗に終わり、その後、ソマリアは事実上放置され続けた。過去の反省に立ち、ソマリア本土を視野に入れた明確な出口戦略を持たなければ、問題は終わらない。」という部分は筆者が繰り返してきた主張に近い。同日付『新潟日報』にはこうある。
 〈自由貿易の恩恵を享受している日本が、海賊の横行に手をこまねいているのは責任放棄だ。国連海洋法条約も海賊抑止への協力を求めている。政府はこう主張して派遣を強行した。/もっともらしく聞こえるが、前提が間違っている。海洋法条約100条が各国に要請しているのは「可能な範囲での協力」である。/憲法九条を有する日本がまず考えるべきは「日本が可能な海賊抑止への協力とは何か」であろう。実力部隊である海自を派遣しなければ国際的な貢献を果たせないとする考え方は、外交力のなさの裏返しといわねばならない。/なし崩し的な海外派遣が続き、この問題への国民の関心が薄れてしまうのではと憂慮する。「国益」の名の下に自衛隊の海外派遣を常態化することが許されるのかどうか。/緊急避難的な「とりあえず派遣」は政治の貧困以外の何ものでもない。政府の猛省を促したい。〉
 ※ 第100条 海賊行為の抑止のための協力の義務
   すべての国は、最大限に可能な範囲で、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所に   おける海賊行為の抑止に協力する。

●戦争国家化の完成をはばみ、平和的生存権を高く掲げて、9条実現のために努力しよう
 大きく深呼吸して頭を整理しよう。湾岸戦争終結直後の掃海艇など6隻の派遣(1991年)に始まり、度重なるPKO(国連平和維持活動)派兵(ゴラン派兵は続いている)、米ブッシュ前政権のアフガン・イラク戦争に加担して強行された海自艦隊のインド洋・アラビア海派遣(続行中)、イラクへの陸上自衛隊の派兵、クウェート─イラク間の米兵・米軍需物資輸送のための航空自衛隊派兵、かてて加えて海賊派兵……。これまで足掛け18年間、この国は海外派兵を続けてきた。自衛隊の活動(作戦)は外へ外へと広がってきたのである。それと同時に、周辺事態法(1999年)、武力攻撃事態法(2003年)など戦争法体系が整備され、2004年、戦時の国内治安維持のために国民保護法も制定された。
 この国はすでに戦争を始めていて、その既成事実を追認し恒常化するための法整備が続いている。海賊対処法は海外派兵恒久(一般)法への踏み段である。政府・与党は「海賊対処」を口実に、「危害射撃」容認で武器使用基準を大幅に緩和して9条2項を突き崩し、それを海自の活動一般に、そして陸自、空自に広げるつもりである。
 残念ながら、9条の文言を守るだけで戦争への道を断つことはできない。9条が日々突き崩されている眼前の現実に立ち向かうことなく、「9条を守る」ことはできないのである。海外派兵は困るから9条は変えてほしくないが、自衛隊は「専守防衛」の立場で自分たち(あるいは「日本」を)を守って欲しいというのは、虫のいい話であり、自己矛盾である。その考えは、9条は〈あっても〉、あるいは9条が〈あるにもかかわらず〉、海外派兵が強行されている現実に目をつぶっている。防衛庁が防衛省に格上げされたことに伴い、海外派兵は自衛隊の本来任務になった。自衛隊はとっくに「専守防衛」などかなぐり捨てていたのだが、海外派兵の本来任務化によってそれを追認して開き直ったのである。 そのうえ、治安出動(市民による抵抗の鎮圧)も、もともと自衛隊の本来任務である(自衛隊法3条〔自衛隊の任務〕)。反戦運動が高揚して体制を脅かしたり、戦時に治安が危うくなったりすれば、自衛隊は市民に銃を向ける。「必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」(同3条)。そのために自衛隊の情報保全隊は日々市民の動向を監視しているのである。自衛隊が守るのは支配(統治)機構=政府の行政システムであり、被支配者である私たちではないことを肝に銘じたい。
 被支配者である市民は本質的に支配機構の敵対者である。だからこそ、治安出動が自衛隊の本来任務なのである。それゆえ、巨大で強力な国家の暴力装置である自衛隊に私たち市民が守られることを期待するのは、政府の宣伝に踊らされた倒錯の心理である。
 9条を変えさせてはならないが、「9条を守れば戦争を防止できる」と信じるのは迷信である。歴代保守政権は、9条の文言を変えることなく、自衛隊を世界有数の軍隊に肥大させ、すでに海外で戦争をしている。9条の明文改憲は、これまで執拗に続けられてきた解釈改憲の総仕上げなのであって、明文改憲で突然9条が殺されるわけではない。9条はすでに息も絶え絶えである。
 しかし昨年4月17日のイラク派兵差止訴訟名古屋高裁控訴審判決(確定)は、イラクにおける空自の活動を「憲法9条1項(戦争放棄)違反」とする画期的な判断を示した。判決はさらに、憲法前文が明記する平和的生存権を「全ての人権の基礎にある基底的権利」であるとし、法的な「具体的権利性」を認めた。この劇的な市民の勝利は戦争に反対するすべての市民を勇気づけている。息も絶え絶えの9条をよみがえらせ実現することは私たちが果たすべき義務である。

 海賊派兵の中止を求め、海賊対処法の成立を阻止しよう! 眼前の「日本の戦争」を凝視しともに努力を続けようではないか!

【付記】海賊対処法案は4月14日、衆院本会議で審議入りする。海賊派兵と海賊対処法案への批判は今後も続けるが、ミサイル防衛を強化し臨戦意識を高揚させるための「飛翔体迎撃」騒動も起きているので、断続もあり得ることをお断りしておきたい。反戦の視点・その77 

◆ 反戦の視点・その77-1 ◆ 

2009年04月04日 | 練馬の里から
反戦の視点・その77 
 第7回 愚かしい海賊派兵を阻止しよう
─「海賊対処」は始まったが、反派兵の闘いはこれからだ─
      

井上 澄夫        

 
●ソマリア沖の海賊事件概況
 〈ソマリア沖の海賊、厳戒避けインド洋へ転進?
 アフリカ・ソマリア沖の海賊による商船襲撃事件が3月に入り、同国東方沖のインド洋で急増していることが3月29日、分かった。/海賊は、各国海軍が対策を強化しているソマリア北方沖のアデン湾を避け、警戒体制の手薄な海域に照準を移している可能性もある。/国際海事局(IMB)によると、3月にソマリア東方沖で起きた襲撃は3月27日までに14件で、2月より12件増加。アデン湾は8件で、海賊事件が急増した昨年以来初めて、ソマリア東方沖の襲撃件数が上回った。/欧州軍事筋によると、商船三井の自動車運搬船が襲撃された3月22日には、周辺海域で計4件の襲撃があった。〉
                         (3月30日付『読売新聞』)
 「海賊は、各国海軍が対策を強化しているソマリア北方沖のアデン湾を避け、警戒体制の手薄な海域に照準を移している可能性もある。」とあるが、これは憶測による記述であり、鵜呑みにはできない。「ソマリア東方沖のインド洋」とはソマリアからケニアにかけての沿岸沖の海域で、そこでの海賊事件発生はアデン湾での事件とともにこれまでにも報道されている。同海域を航行する船舶はアフリカ大陸最南端の喜望峰をめぐる航路をたどることが多い。上の記事にある商船三井の自動車運搬船襲撃事件とはこうである。
〈商船三井の船舶、海賊?が銃撃 ソマリア沖けが人なし
 国土交通省に入った連絡によると、日本時間の3月22日午後10時10分ごろ、ソマリア沖をケニアに向けて航行中だった商船三井の船舶が2隻の小型船から銃撃された。乗組員は全員フィリピン人。船舶は操舵(そうだ)室の窓ガラスなどに被弾したが、小型船を振り切り、けが人はなかった。/同海域ではしばしば日本の船舶事業者が運航する船などが海賊とみられる小型船から銃撃を受けており、今年になってからは今回が初めて。〉                         (3月23日付『日本経済新聞』)
 NHKの報道によると、銃撃を受けた船は、船籍がイギリスのケイマン諸島で、東京の商船三井が運航する自動車運搬船「JASMINEACE」(1万3000トン余り)で、3月17日にアラブ首長国連邦で中古車およそ400台を載せ、ケニアのモンバサ港に向けて航行中、ソマリアの東方沖およそ900キロの海域で襲撃を受けたという。
 しかし、仮に海賊が活動領域の重点を「ソマリア東方沖のインド洋」に移しているとしても、派遣された海上自衛隊艦隊がただちに同海域で「海賊対処」活動を行なうことは考えにくい。日本関連船舶の大多数が地中海─スエズ運河─紅海─アデン湾─インド洋─マラッカ海峡経由で航行しているからである。それに「ソマリア東方沖のインド洋」はアデン湾よりはるかに広大で、そこで「海賊対処」の成果をあげることはかなり困難ではあるまいか。
 しかしアデン湾での海賊の活動も依然として続いている。
 〈海賊 ドイツの補給艦に銃撃
 バーレーンに司令部があるアメリカ海軍の第5艦隊によりますと、ソマリア沖のアデン湾で3月29日、ドイツ海軍の補給艦が小型船に乗った海賊から銃撃を受けました。補給艦も小型船に向けて発砲し、さらに周辺にいた各国の艦艇に支援を求めた結果、アメリカ海軍のヘリコプターなどとともに、駆けつけたギリシャ軍の駆逐艦が小型船を追跡し、およそ5時間後、7人の海賊を拘束したということです。また、小型船の中にあった自動小銃やロケット砲を押収したということです。ソマリア沖で活動している各国の艦艇が海賊に襲撃された例はこれまでほとんどなく、アメリカ軍では、海賊は、ドイツ海軍の補給艦を民間の商船と勘違いして襲撃しようとしたのではないかとみています。〉(3月31日付NHKニュース)

●始まった「海賊対処」
 〈海自護衛艦、オマーン到達…まもなく警護活動スタート
 防衛省は3月30日、護衛艦「さざなみ」と「さみだれ」が、オマーンの港湾都市サラーラの沖合に到達したことを明らかにした。/5隻の「日本関係船」を対象に初の警護活動をスタートさせる。国土交通省の「海賊対策連絡調整室」には、これまでに計2595隻から警護の希望が寄せられており、同省は、2隻の護衛艦では対応しきれないとして、P3C哨戒機による空からの警護を実施する方向で調整している。/防衛省によると、初の警備対象となる5隻は、いずれも外国船籍だが、国内の船会社が管理しており、うち2隻に日本人が乗船している。この海域では昨年だけで計111件の海賊事件が発生しており、5隻は隊列になって航行し、前後を護衛艦にはさまれながら湾内を約900キロにわたって西に進み、2日後にジブチ沖に到達する見通し。/警護はそこで終了し、護衛艦2隻は、湾内から湾の外に向かう別の日本関係船団と待ち合わせ、サラーラ沖まで引き返すことになる。2隻は9月ごろまで活動を続けるとみられる。〉(3月30日付『読売新聞』)
 もう一つ大事な情報を加える。
 〈事前登録2600隻=ソマリア海域-国交省
 ソマリア周辺海域で海上自衛隊による護衛を希望する船は、国土交通省を通じて申請する。同省への事前登録では、向こう1年間に周辺海域を通過する船は、東向き、西向き合わせ約2600隻(うち約300隻は外国会社が運航)。同省は護衛対象となる条件を満たせば、希望に応えられる数とみている。/護衛を受けたい場合は原則10日前までに申請する。/対象は、現段階では(1)日本籍船(2)日本人が乗り組む船(3)日本の会社が運航する船(4)積み荷が日本の国民生活維持にとって重要な船-に限られる。〉(3月30日付『時事通信』)
 実際、3月30日、とうとう「海賊対処」の警護活動が始まった。「防衛省に入った連絡によると、両艦は5隻の日本関連船舶を警護しながらアデン湾を順調に航行しているという。」(3月31日付『東京新聞』)。同日付『朝日新聞』は防衛省提供の写真を掲載しているが、それには隊列を先導する護衛艦「さみだれ」と民間船舶2隻が映っている。記事にこうある。「護衛艦2隻は、ソマリアの隣国ジブチの港など補給拠点に任務を続ける。部隊は4カ月前後で交代を繰り返していく」。海自艦隊の拠点は、ジブチのジブチ港、イエメンのアデン港、オマーンのサラーラ港とされている。そこで日本政府はジブチと地位協定を結ぶ。
 〈海賊対策で協力 ジブチと一致
 アフリカを訪れている中曽根外務大臣はジブチのシライ国際協力担当相と会談し、海賊による被害を防ぐため、両国が連携して取り組んでいくことで一致しました。/この中で、中曽根外務大臣は「ソマリア沖の海賊対策では、護衛艦や航空機の燃料や食料の補給など、ジブチの港などを活動の拠点としていきたいと考えている。日本としてもそれを踏まえて、可能なかぎりの経済支援をしていきたい」と述べました。これに対し、シライ国際協力担当相は「海賊対策をめぐる日本の海上自衛隊の活動が有益かつ円滑に進むように、あらゆる支援をしたいと考えている」と応じました。また両氏は、ジブチで自衛隊員が活動するにあたって、隊員の身分を保障する地位協定を締結することで合意し、近くジブチの外相が来日して署名式を行うことになりました。〉(3月22日NHKニュース)
 中曽根外相は「ジブチの港などを活動の拠点としていきたいと考えている。日本としてもそれを踏まえて、可能なかぎりの経済支援をしていきたい」とのべているが、これは海自に活動拠点を提供すれば経済支援するということで、要するに便宜供与を金で買い取るということだ。あまりの露骨さに呆れるばかりである。ただ注意したいのは、「ジブチの港など」という表現で、これにはP3C哨戒機の基地提供も含まれている。地位協定については次の記事が参考になる。
 〈海賊対策でジブチと公文交換へ=自衛官の活動規定
 海上自衛隊の活動拠点となるジブチと自衛官らの地位に関する交換公文を取り交わすことが3月23日、固まった。4月上旬にも同国のユスフ外務・国際協力相が来日し、中曽根弘文外相と署名する。/交換公文には、公務中に事故が発生した場合のジブチ側裁判権の免除や、問題発生時の両当局間の協議会設置、日本側が持ち込む物資の免税規定などが盛り込まれる。〉(3月23日付『時事通信』)
 自衛官が起こした公務中の事故について「ジブチ側裁判権の免除」は日米地位協定で米軍に保障されている特権で、日本政府は同じ特権をジブチに認めさせようとしている。
 日本海軍(海自)がはるか彼方のアデン湾で日本関連船舶を警護する。そのためにジブチと地位協定を結んで海自の拠点を確保する……。少し前なら考えられもしなかった事態がついに現実になったのだ。しかし問題の大きさと深さを忘れないために、ここで話を半月ほど前に戻したい。

●「アデン湾生命線論」
 3月14日、海上自衛隊呉基地で海自艦隊の出港行事が行なわれた。そこでの発言集。
 ◆麻生首相:海賊行為は人類共通の敵。国難に対処すべく、強い信念を持って出航していく諸官を誇りに思う。
 ◆浜田防衛相:諸官の活動は日本国民の人命・財産を守るという観点から極めて重要。国益とともに国際社会の繁栄と安全のため任務の遂行を。
 ◆泉徹自艦隊司令官:派遣海賊対処水上部隊の第1次隊は日本の海賊対策への固い決意をあまねく世界に示すことになる。
 ■日本船主協会前川弘幸会長(来賓)のコメント:現行法の派遣では自衛艦が十分活動できないと懸念の声があるが、エスコートだけでも海賊行為の抑止に大きな効果が期待できる。派遣はわが国の人命・財産を保護するための尊い任務。海賊対処のための新法案の早期成立を強く期待する。
                          (3月19日付『朝雲新聞』)
海賊行為は人類共通の敵、国難への対処、日本国民の人命・財産を守る、国益のため任務の遂行を……。「国難」打開のための出陣式だったわけだ。「敵は海賊」。ここで中国東北侵略戦争(「満州事変」)を後押しした「満蒙生命線論」、シーレーン(海上輸送路)防衛の「マラッカ海峡生命線論」、「湾岸危機」の際喧伝された「ペルシャ湾生命線論」などを想起するのは大いに有意義だろう。「海賊対処」を煽っているのは「アデン湾生命線論」である。
 海賊派兵についての世論調査では賛成がどんどん増えている。最初3割だった支持はたちまち半数に達し、今や6割である。1929年の大恐慌が日本に及び、人心の動揺につけこんで「満蒙生命線論」がブチ上げられた。窮状を打開するためには「満蒙問題の解決」しかないと世論を煽ったのである。
 〈石原完爾関東軍参謀作戦主任は「国運転回の根本国策たる満蒙問題解決案」(1929年)で「満蒙の合理的開発により、日本の景気は自然に回復し有識失業者亦救済せらるべし」として、不景気にあえぐ民衆の不満に訴えた。中国東北戦争は国内の経済危機、昭和恐慌と密接に連動していたのである。〉(森武麿『アジア・太平洋戦争』、集英社版・日本の歴史〔20〕)
 「昭和」初期の世界大恐慌─昭和恐慌と「満州事変」、そして今、米国発の世界大不況─「百年に一度」の未曾有の底なし不況が、海賊派兵支持を生んでいる。日本社会に充満しつつある不安・苛立ちのガスが対外軍事行動に出口を見出そうとしているのだ。
 もう一つ「昭和」初期との類似点を挙げよう。「満州事変」「支那事変」など「事変」という言葉は、侵略戦争であることを隠すための非常に政治的な用語である。「支那事変」は言うまでもなく、日中戦争、すなわち中国侵略戦争のことだが、大日本帝国政府は中国との戦争をついに「戦争」と呼ばなかった。アジア・太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼んだのは、米英に対して宣戦布告したからである。
 さて、麻生政権は海賊派兵を軍事行動とは言わない。「国または国に準じる組織」と戦闘(交戦)するのではない「警察行動」だと言うのである。政府の公式見解では自衛隊は実力組織であり軍隊ではない。したがって交戦はあり得ないことになる。「さみだれ」と「さざなみ」は誰が見ても駆逐艦(デストロイアー)だが、それを護衛艦という。ところで、前掲の『朝雲新聞』の記事にはこうある。
 〈呉は朝方まで低気圧の通過で大荒れだったが、自衛官の家族たちが訪れた午前10時ごろには陽光が差し始め、風雨に洗われた派遣艦「さざなみ」「さみだれ」が輝いて見えた。両艦は艦橋ウイング部やヘリ格納庫上に機関銃座と防弾板を追加。また、艦の「立ち入り検査隊」が乗り組む小型の特別機動船や機関銃が装備されたSH60K哨戒ヘリも搭載されており目を引いた。〉
 これを読んで2隻の艦隊が「警察行動」に出動するのだと信じる人がいたら、その人は世界の常識に反している。すでに始まった「海賊対処」で不幸にして自衛官が亡くなったら、それは殉職で戦死ではない……。戦争はどこまでも虚偽と欺瞞に彩られて強行される。
(つづく)