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※ 練金術(ねりきんじゅつ)とは『週刊金曜日』練馬読者会的やり方という意味です。

◆ 反戦の視点・その78-1 ◆

2009年04月17日 | 練馬の里から
「ミサイル迎撃」狂想曲を嗤(わら)ふ
 ──日朝平壌宣言に基づき、日朝国交正常化を──

井上 澄夫

    ※本稿では、朝鮮民主主義人民共和国を北朝鮮と略記する。
 〈国連で日本の主張が通らないなら、国連を脱退するとか、北朝鮮が核保有している限り、日本も核を持つぐらいのことを言うべきだ。〉
(4月7日の自民党党役員連絡会での坂本剛二組織本部長〔参院議員〕の発言、4月8日付『東京新聞』)

◆麻生首相の一人相撲──笛吹けど踊らぬ世論と国際社会──
 さてさて、あれは一体、何の騒ぎだったのか……。人工衛星打ち上げロケットが東北地方のはるか上空を飛んで、太平洋上に落下したとたん、異常に高揚し緊張したマスメディアの論調は総じて気の抜けた風船と化したかのようだ。「撃ちてし止まん」の『読売新聞』や『産経新聞』はあいかわらず北朝鮮バッシングを続けているが、世論を焚きつけることができたのは、ほんの一時期だった。新聞やテレビの異常な煽動ぶりは戦時意識を高揚させる犯罪的なものだったが、日本の領土や領海に3段ロケットの一段目が落下し被害を与えることはなかったし、迎撃(ミサイル防衛による破壊措置)は不発に終わったので、麻生首相が期待したほどには世論は盛り上がらなかった(後注1参照)。2度もの誤報は排外的な興奮に水を差したし、自民党内からさえ不手際を批判する声が噴出した。ただ政権の支持率を上げたこと(4月10日から3日間、行なわれたNHKの世論調査によると、麻生内閣を「支持する」と答えた人は3月より12ポイント上がって30%だった)は彼の狙い通りだっただろう。支持率の上昇には海賊派兵の強行も影響したと思われる。
 ロケット打ち上げ直後、麻生政権は国連安保理に全会一致の非難決議を求めたが、中国が強く反対し、結局は加盟国への拘束力を持たない議長声明にとどまった。それも米国の後見に支えられてのことである。ASEAN首脳会議で非難決議をあげさせようという思惑も会議自体が吹っ飛んでしまったことによって頓挫した。
 北朝鮮の朝鮮中央通信は3月31日、打ち上げを予告している「人工衛星ロケット」を日本が迎撃した場合、軍事的手段で対応すると報じた。同通信は「冒険的な迎撃に出た場合、わが軍はこれを戦犯国・日本が第二次世界大戦後60余年ぶりの再侵略の砲声とみなす」とのべた(4月1日付『東京新聞』)。
 しかし国際社会は北東アジアで緊張が激化することを望んでいない。どの国も米国発の世界同時大不況に打撃を受け、自国経済の立て直しに追われている。麻生首相がおらびたてる「北朝鮮の脅威」どころではないのだ。あの好戦的な米ブッシュ前政権でさえ、政権末期に北朝鮮の「テロ支援国家」指定を解除してしまった。イラクから足を抜き、アフガニスタンを主戦場にする方針のオバマ政権には、ブッシュ政権のように北朝鮮を先制攻撃する気はない。自国発の世界大不況で米国は「唯一の超大国」の座から滑り落ち、世界の多極化に合わせて生き残るしかない。今さら北東アジアで戦端を開く余裕は経済的も軍事的にもありはしないのだ。
 前回2006年の「テポドン」騒動も日本の世論を沸騰させた。そして今回と同様、「敵ミサイル基地先制攻撃論」や「ミサイル防衛(MD)強化論」のような、無視できない政治的効果をもたらした。しかし今回と前回の違いは、迎撃ミサイルが地上にも海上にもすでに配備されていることだった。海上配備型迎撃ミサイル・SM3搭載のイージス艦が日本海に2隻(迎撃担当)、太平洋に1隻(追尾担当)配備され、地対空誘導弾パ(ペ)トリオット・PAC3が公然と国内で移動配備された。迎撃態勢の陣容が華々しく演出され、臨戦ムードを盛り上げた。日本海には米海軍のイージス艦も配備された。米軍は「ミサイル」の追尾を試み、日米の情報共有が追求された。その限りでは日米共同の実戦的演習が行なわれたのだが、米軍は迎撃の意向を示さなかった。米国政府は過剰反応は外交上も軍事上も得策ではないと判断したのである。
 それゆえ日本の迎撃態勢構築(防衛大臣の破壊措置命令に基づく、後注2参照)は世界的で突出した異様なものになった。東北アジアの緊張激化に日本自身も一役買っていると理解されて当然の動きだった。一つ間違えば、6カ国協議そのものが破綻しかねないという強い懸念(後述するように実際その懸念は的中した)が生まれたことを麻生政権は過小評価していた。麻生首相は外交が得意といわれているが、「麻生外交」に外交があるだろうか。
 ※注1 4月4日から5日にかけてJNN(TBS系列)が行なった世論調査の結果は非常に興味深い。
 ▼北朝鮮は5日、人工衛星の打ち上げと称して長距離弾道ミサイルを発射したとみられています。日本の北朝鮮への対応として、あなたの考えに最も近いのは次のうちどれですか?
○ミサイルだろうが人工衛星だろうが、さらなる制裁措置を含め厳しく対処すべきだ
 29%
○ミサイルならさらなる制裁措置を含め厳しく対処すべきだが、人工衛星の場合は 冷静 に対処すべきだ 34%
○ミサイルだろうが人工衛星だろうが、冷静に対処すべきだ 35%
○答えない・わからない 1%
 ※注2 迎撃の法的根拠は自衛隊法82条2項3である。参考に同条の関連部分を記す。
(弾道ミサイル等に対する破壊措置)
 第82条の2  防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。
 3  防衛大臣は、第1項の場合のほか、事態が急変し同項の内閣総理大臣の承認を得るいとまがなく我が国に向けて弾道ミサイル等が飛来する緊急の場合における我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため、防衛大臣が作成し、内閣総理大臣の承認を受けた緊急対処要領に従い、あらかじめ、自衛隊の部隊に対し、同項の命令をすることができる。
 4月5日に発射された「ミサイル」(政府見解)に搭載されるものが弾頭か人工衛星かを政府はあらかじめ判断できなかったので、上記82条にある「弾道ミサイル等」の「等」にあたるとして破壊措置命令を発した。実に強引なこじつけ解釈で迎撃を準備したのだ。

◆いつでも核ミサイルを保有できる日本
 4月6日付『読売新聞』の社説は「ロケットもミサイルも原理は同じだ。衛星の代わりに核弾頭を搭載すれば核ミサイルになる。」とのべている。ちなみに『新明解国語辞典』(三省堂)はこう定義している。
▼ロケット 火薬や燃料を爆発させ、発生した多量のガスを後ろに噴き出し、その反動で非常に速く空中を飛行させる装置。
▼ミサイル ジェット(ロケット)エンジンで飛び、内蔵する装置または無線操縦によって飛行経路や速度を修正して目標に到達する兵器。誘導弾。
上の『読売新聞』の主張に異を唱える人はいないだろう。しかし同社説は北朝鮮を非難するだけで、我が身を振り返ることはしない。「ロケットもミサイルも原理は同じ」であるなら、日本のロケットもミサイルに転用できることは自明の理である。
 宇宙航空研究開発機構(JAXA)によれば、現在、日本が人工衛星打ち上げに使用している主力ロケットはH2Aである。これはH2の改良型で、打ち上げ能力は静止軌道で約2.5トン、低高度軌道で約10トンである。これを軍事的にみればどうなるか。周辺諸国の軍事筋は日本の「ロケット開発」を強い警戒心を持って見守っているのではあるまいか。ロケットがミサイルに転用されれば相当の威力を発揮すると予想されるからである。今回の騒動で、その点にマスメディアがほとんど触れなかったのは実に不思議なことだ。北朝鮮のロケットは軍事目的の兵器だが、日本のロケットは平和目的で兵器ではないなどという身勝手な理屈は国際的にまるで通用しない。
 防衛省からミサイル防衛を請け負っているのは三菱重工業であるが、同社はH2、H2Aも開発してきた。そこは常に念頭に置かれるべきだ。
 米国政府は宇宙空間の軍事利用を隠さない。この地球上で発射される米国の敵のすべてのミサイルを宇宙基地から攻撃して破壊する計画を持っている。そのために軍事利用の実験資材を宇宙空間にせっせと運んでいるのである。日本政府はそれに見習いたい。今回の迎撃騒動を機に自民党国防部会が弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒衛星について、導入を視野に研究開発に着手する方針を明らかにした。早期警戒衛星は現在米国に頼っているが、自前の衛星を持ちたいのだ。
 日本が潜在的核保有国であることも世界の常識である。原発大国・日本はその気になればさして時間をかけず核武装できる。日本の政権が米国のにらみを恐れて当面は政治判断で核武装に手を着けないだけの話である。核もミサイルも保有を可能にする物質的条件は整っている。今回の騒動を考える際、そのことも念頭に置く必要がある。

◆脅(おど)すから脅される
 麻生首相ら政府首脳は「北朝鮮のミサイル」がよほど恐(こわ)いと見える。誰であれ、脅(おど)かされることを歓迎する者はいないだろうが、「脅し」は、脅(おど)される側に心当たりがないなら効果が小さい。しかし、脅かされることに思い当たるところがあれば効果は大きい。相手が本気であると強く感じるからである。
 北朝鮮の朝鮮中央通信は4月5日、同国の科学者と技術者が運搬ロケット「銀河2号」で人工衛星「光明星2号」を軌道に進入させることに成功したと発表した。3段式ロケットの先端部に搭載されたものが弾頭ではなく通信衛星であることは米シンクタンク「グローバル・セキュリティ」も示唆しているし、米国政府もそう見ているようだ。筆者も今回の北朝鮮によるロケット発射は人工衛星打ち上げの試みだと思う(どうやら失敗したらしいが)。この人工衛星打ち上げは、明らかに米国政府に向けた政治的メッセージだろう。「テポドン1号」に比べ飛距離が飛躍的に伸び、着水地点もほぼ予定通りだったから、ロケット誘導の技術もかなりアップしたようだ。この事態に米国政府が無関心であるはずはない。しかし日本のように大騒ぎせず、米軍が十分な迎撃能力を宣言しただけで、迎撃態勢がもたらす軍事的緊張を意識的に回避した。
それだけに、麻生政権の対応は異常な突出ぶりが際立った。北朝鮮と国交があり両国間に軍事的緊張が存在しないなら、日本の頭越しに人工衛星を運ぶロケットが飛ぶくらいで目くじらを立てることはないだろう。ロケットの部品が日本列島に落ちないよう要請すればすむことである。1月23日に打ち上げられた日本のH─?Aロケットはインドネシアの上空で温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」を分離し、小型実証衛星1型をオーストラリア上空で分離した。それで問題が起きたわけではない。麻生政権が迎撃態勢をあえて誇示して北朝鮮に対する敵対を鮮明にしたのはまったく異常なことだった。
ついでに触れておくと、「防衛」が騒がれるが、日本の防衛政策はまったくザルである。防衛を本気で考えているなら、どうしてわざわざ日本海側を原発銀座にしたのだろう。それらの原発は「ノドン」ミサイルの射程距離内にある。政府は原発を建設し始めた頃は「ノドン」の脅威はなかったと弁明するかもしれないが、真剣に「防衛」を考えているなら、原発を地下に潜らせなければ防衛できないはずだ。だがそういう議論はまったく聞かない。 また「脅威」をいうなら、台湾を目標として中国の沿岸部に配備されている1000発のミサイルが在沖米軍基地に向けられた場合を想像すればいい。それこそ安保体制にとって「脅威中の脅威」だろう。米軍は嘉手納空軍基地にPAC3を配備したが、それで迎撃できるとは考えていないだろう。さらに関東に住む筆者にとってより身近な脅威は、ヨコスカを母港とする空母ジョージ・ワシントンである。同空母は移動する原子炉であり、ひとたび事故を起こせば筆舌に尽くせない大惨害をもたらす。
 ところですでにのべたように、今回の人工衛星打ち上げを脅威と感じる日本政府は、脅されることに大いに思い当たるところがあるから大騒ぎする。こちらが脅しているから向こうが脅し返していることを自覚しているのだ。実際、その通り。日本は米国や韓国とともにこれまでずっと北朝鮮を脅し続けてきた。
 順序立てて概略するとこうだ。1910年に朝鮮を植民地として以来、1945年の敗戦に至るまで日本が植民地朝鮮の人びとに強要してきた苦難の数々をここで繰り返すことはしない。しかし長期にわたる植民地支配が、朝鮮と朝鮮人に対する、傲慢な優越感や抜きがたい差別意識を日本の民衆の精神構造の基底部に定着させたことは、恥ずべき冷厳な事実として確認しておきたい。忌まわしいことに、戦争体験と無縁の若い世代もそのような意識のありようから解放されていない。朝鮮戦争以来、日本の歴代保守政権が一貫して煽ってきた北朝鮮敵視は、その植民地本国的精神風土を土壌として利用したものだ。
95年の「村山談話」は表向き日本政府の公式見解とされているが、日本政府が朝鮮に対する植民地支配を真摯かつ根本的に反省したことはない。それは、度々繰り返されてきた閣僚の妄言や現実に展開されてきた対北朝鮮政策が実証している。対韓政策もいま改めて厳しく批判されている日韓基本条約が示すように、なんら深い反省に基づくものではない。侵略戦争と植民地支配について責任の所在を明らかにせず、戦後補償を怠ってきたことがこのような事態の根底にあることは言うまでもない。
 それだけではない。冷戦体制下、日本はひたすら米国に依存し、ソ連や北朝鮮と敵対してきた。ニクソン米大統領の訪中(72年)にショックを受け中国と国交を正常化したが、北朝鮮とはいまだに正式に国交がない。繰り返された米韓合同軍事演習「チーム・スピリット」は明白に対北朝鮮軍事恫喝であり、日本はそれを支援する基地を提供することで恫喝に加担してきた。日米韓軍事同盟による北朝鮮包囲・恫喝はいまも続き、「作戦計画5027」なる北への侵攻作戦のシナリオまで作られている。これは朝鮮戦争の再開に備え60年代に策定されたもので、その後も情勢に合わせて改定されてきた。
 「北朝鮮の脅威」の煽動は冷戦が終わっても変わることはなかった。96年4月の日米安全保障宣言は「アジア・太平洋地域には依然として不安定性及び不確実性が存在する」と強調したが、その中心に位置したのが「北朝鮮の脅威」である。4月3日の閣議がまとめた「09年版外交青書」も北朝鮮による核、拉致問題などを「アジア太平洋地域における深刻な問題」としている(4月3日付『東京新聞』)。
 2002年の「日朝平壌宣言」はそれまでの敵視政策を停止し日朝間の国交正常化を実現する重要な足がかりだったが、北朝鮮側が拉致を認めたことにより、両国関係はむしろ悪化の一途をたどった。植民地支配への「負い目」は一気に払拭され、日本が被害者である証拠として攻撃的な北朝鮮バッシングを生むことになった。拉致糾弾キャンペーンが日本政府とマスメディアによって大々的かつ執拗に展開されたが、核問題をめぐる6カ国協議の場に日本政府が拉致問題の解決を強引に持ち込もうとしたことにより、日本はかえって蚊帳の外に置かれることになってしまった。米ブッシュ前政権が政権末期に北朝鮮を「テロ支援国家」のリストからはずし、両国間の緊張緩和に踏み出す姿勢を見せたにもかかわらず、日本政府は拉致問題の解決をあえて高いハードルとし、「日朝平壌宣言」の実現=日朝間の国交正常化をめざそうとしない。拉致問題を解決するためにも早期の国交正常化が必要なのではないか。
 日本政府が本気で日朝国交正常化を望んでいるなら、今回の人工衛星打ち上げを冷静に受け止め、国交正常化を急ぐよう、北朝鮮政府に提案するはずだ。しかしその気配がまったくないどころか、制裁を延長したり強化したりすることに狂奔し、あまつさえ国連安保理に全会一致の非難決議を採択させようとして挫折するといった醜態をさらしている。これでは行き詰まった事態を打開する道はいよいよ遠ざかるばかりである。本稿執筆中、次の情報が入った。
 〈北朝鮮外務省は4月14日、声明を発表、国連安全保障理事会が北朝鮮の弾道ミサイル発射を非難する議長声明を採択したことに反発し、「6カ国協議に二度と絶対に参加しないし、いかなる合意にもこれ以上拘束されない」として、核問題をめぐる6カ国協議を離脱する方針を示した。また、「われわれの自衛的核抑止力をあらゆる面から強化していく」と主張し、核開発の再開を表明した。朝鮮通信(東京)が伝えた。/14日の報道官声明は「国際法的手続きを経て正々堂々と行った平和的衛星打ち上げ(問題)を論議したこと自体、わが人民への耐え難い冒涜(ぼうとく)、許し難い犯罪行為だ」と激しく反発した。/さらに、6カ国協議参加国が北朝鮮の自主権を尊重する精神を「正面切って否定した」と主張。「協議を妨害してきた日本が衛星打ち上げに言い掛かりを付け、公然と単独制裁まで科した以上、協議は存在意義を喪失した」と決め付け、日本を非難した。〈4月14日付『時事通信』) 
 
※つづく


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