練金術勝手連

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※ 練金術(ねりきんじゅつ)とは『週刊金曜日』練馬読者会的やり方という意味です。

★★★ 税金は金持ちから取れ ★ 今週の注目記事三連発 ★★★

2009年02月26日 | 今週の注目記事
注目記事その1 週刊金曜日

 宗教政党に寄り切られた形で、腐臭を放つ政策(定額給付金)と引き替えに画策された消費税増税スケジュール化の泥仕合は、沈没が目前に迫った自公与党の泥舟上で繰り返されメディアをにぎわせた。そして、もっともらしく口を開けば「税制の抜本改革」…。まやかしはもう通らない!

「そもそも税金は、どういった人や企業などからどのぐらい取ればよいのか。また、どのような目的に使うのがよいのか――それを決めるのは当然、主権者である私たちだ。貧しい人たちに負担が重い消費税率の引き上げを画策しながら、権力闘争に明け暮れる『麻生自民党』。こんな政治家に生活を委ねていいのか」という問題意識をここであらためて想起するのも大切な事だ。

★税金は「金持ち」から取れ★

《ビジネスに精を出して従業員を養い、税金を払う》これは企業家の崇高な使命であり、資本主義の原点だ…。
「いつの頃からか、消費税増税が避けられないものとされている。でもちょっと待て! 消費税増税よりも、今ある {ムダ} をなくせば、消費税増税分のお金は捻出できる」し、「今現在、所得税にしろ住民税にしろ、大企業や高額所得者、株式配当・売買益に対する異常なまでの低税率がまかり通っている。まずはこれを是正するのが先決」だ。

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 週刊金曜日2009/2/20号(739号)の特集は《税金を考える》だ。
  ★麻生増税を嗤う永田町の闇=天城 慶
  ★むしられても怒らない羊たちの消費税
                =三木 義一
  ★消費税を上げる前にやることがある=荻原 博子
  ★税金は金持ちから取れ!=浦野 広明

 今年にはいって『週金』編集委員に3人の“新しい血”がはいった。
「保守リベラルの視点から『週刊金曜日』に新しい風を吹き込みたいと思います」という
中島岳志(なかじま たけし)さん(1/9号抵抗人名録参照)

「貧困は、人間としての誇りや生きる希望を奪い去り、ときには命さえも奪い去ります。…『週刊金曜日』を通じて、貧困に抗する市民のネットワークが広がっていくことを期待しています。」という
宇都宮健児(うつのみや けんじ)さん

「人が地に足をつけて生きていた時代から見ると、今はほとんどが、ありもしない風船をつかまえようと、ぴょこぴょこ飛び上がっていますね。そんな風だから「日本」という幻想にもしがみつきます。「一体感」とやらをほしがります。歴史から目をそむけます。無知に逃げ込みます。人々のそういう欲望を利用して、利益をむさぼる人も出てきます。そのために戦争もするでしょう。私は、自分の足もとをみつめながら、孤独に落ち着いて生きる方途を探したいのです。それを探すために、誤魔化しの向こうの事実を少しでも知りたいと思っています。」という
田中優子(たなか ゆうこ)さん

新任 三編集委員の活躍により、スポンサーに依存しない雑誌メディアの幅と奥行きの広がりに期待したい。
※『週金』は図書館で読める、借りられる(はず)/今週号のその他の記事はこちらを。

注目記事その2は朝日新聞のインタビュー記事。

 『週金』編集委員にも期待されていた内橋克人さんは、1/9号佐高編集委員との対談で「豊かになれない日本国民=その理由は瞭然…との「最新時点での『現実認識』」を述べている。
 その現実認識を『朝日新聞』2009年2月23日付オピニオン欄(内橋克人氏インタビュー=聞き手 都丸修一)でも解りやすく語っているので、以下に全文引用する。

★資本主義はどこへ=協同考え新たな基幹産業を★
競争と共生●内橋克人さん 経済評論家


--内橋さんは市場万能主義、競争至上の新自由主義経済に異議を唱え、90年代から「このままでは雇用が破壊される」「社会のきずなが断たれる」と警鐘を鳴らしてきました。現状をどう見ますか。

 「今の日本は一番大事なものを失いました。それは、人間の尊厳と景気の自律的回復力です。これまでは景気が悪くなっても設備投資が動き出し、やがて働く人びとの所得が増えて好況になった。しかし、日本はいびつな不均衡国家になってしまった。過剰な外需依存と格差拡大、簡単に職を奪われ、安心して消費もできず、景気変動に耐える大事な力を失ってしまったのです」

--なぜ極端な不均衡国家に。

 「日本はグローバル化に『対応する』べきところを『適応する』ことばかり考えてきました。外資を稼いでもらおうとトヨタやソニーなど『グローバルズ』(日本型多国籍企業)に政策支援を集中させ、同時に国内ではリストラが進んだ。小泉構造改革の下で始まったいわゆる『いざなみ景気』の中で、製造業への派遣労働が自由化され、海外に進出していた工場が『日本回帰』と絶賛されて帰ってきた。つまり、国内でも低賃金で雇用できるようになり、輸出によって海外で稼ぎまくった。一方、多くの派遣労働者は社会保障の枠外に置かれ、クビを切られている。賃金、社会保障、地方、農業、あらゆる面で格差が拡大した。グローバルズが稼いだ外貨は十分還元されず、米国の浪費にすがることもできなくなって操業停止です」

--雇用問題は深刻です。

 「市場万能システムでは人間は単なる労働力であり、経営者も景気の条件反射のように労働力を切る。もともと雇用を減らすのは最後の選択だから、例えば雇われている人の数を示す雇用指数は、足元の景気よりやや遅れて動く『遅行指数』とされています。それが今や、景気の先行きを示す『先行指数』のような状況です」

 ★企業化した「公共」★

--内橋さんたちの異議は、しかし市場主義の潮流の中では力を持たなかった。

 「過去30年に及ぶ新自由主義政策は周到につくられています。時の権力者たちは、一つの思潮を広めるのに必ず学問とマスコミを動員します。アメリカでは『シカゴ学派』を、日本では規制緩和の諮問会議などを通して、『官から民へ』『働き方の多様化』『努力した者が報われる社会を』などとあおった。私は、こう問うてきました。『民』は民間巨大資本の民ではないか。働き方の多様化ではなく、働かせ方の多様化ではないか。努力が報われる社会は結構だが、競争社会では最終的に一人勝ち、敗者は努力不足だからあきらめろというのか、と」
 「日本人は、時流に乗る熱狂的等質化の傾向が強く、強い者に弱く、弱い者には強いという特性があって、少数の異議申し立てが排除されやすい。これは危険だと思います。『公共』という意識も弱く、公共の企業化という流れの本質もなかなか見抜けなかった」

--現在の資本主義は破綻しかけている、との見方があります。処方箋はありますか。

 「世界の国内総生産(GDP)の合計は54兆ドル(約5千兆円)ほどなのに、金融市場を暴走するホットマネーは最大で約540兆ドルともいわれます。利が利を生む虚のマネーが巨大化して実体経済を振り回してきた。もはや制御不能です。ホットマネーはいずれ自滅すると思いますが、実体経済を救うためにも、国境を越えて本当の専門家を集め、真剣に国際協調に取り組む必要があります」

 ★分断から連帯へ★

--内橋さんは「共生経済」、具体的には「F(食料)E(エネルギー)C(ケア)自給圏(権)」を提唱しています。

 「競争の原理は分断です。分断して対立させ、競争させる。切磋琢磨は結構ですが、共生は連帯と参加と協同を原理として食料、エネルギー、介護など人間の基本的な生存権を大事にする。FとEとCを自給し、消費するだけでなく、そこに雇用を作り出す。その価値観の下で新たな基幹産業を創出し持続可能な社会に変える。経済効果は大きいはずです」
「オバマ大統領は『無保険者に保険を』と公約し、財源として富裕層優遇減税を見直す考えです。所得再配分政策の復活です。FEC自給圏に通じます」

--国内経済優遇は保護主義につながるという意見や、逆に江戸時代のような自給経済に戻ろう、といった声も出ています。

 「とんでもない。FEC自給圏は人間の安全保障です。私は古き良き日本がいいなどとは思いません。差別や身売りがあり、基本的な生存権が奪われていた時代ではなく、人間を第一義とする共生経済をめざしているのです。それは小さな地域や若者たちの間で、すでに始まっている未来です」
(引用ここまで)

 さて、06年の時点で内橋さんは今日の事態を惹起した仕組みについて正確な警鐘(「悪夢のサイクル-ネオリベラリズム循環-」文芸春秋:刊)をならしていた。その内橋さんのもうひとつの《視点》について、こちら(東京新聞)も参照。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/consti/news/200706/CK2007062202026160.html

注目記事その3は植草一秀さんの『知られざる真実』

“企業家の使命”や“資本主義の原点”をかなぐり捨てた《小泉竹中改革》。“小泉竹中改革の帰結としての郵政民営化”、“郵政民営化の帰結としてのかんぽの宿の闇”について、植草さんは見逃すことのできない分析をしている。
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2009/02/post-9efa.html
今後も要注目!したい。

(練金術師)

◆反戦の視点・その73◆

2009年02月25日 | 練馬の里から
反戦の視点・その73 
第4回 愚かしい海賊派兵を阻止しよう
─武器使用権限を拡大する海賊対策新法の成立を阻止しよう!!─


                     井上澄夫 市民の意見30の会・東京
                          沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック

◆外へ外へと広がってきた自衛隊の活動
〈中東・ゴラン高原の国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)に派遣される陸上自衛隊第27次輸送隊の第1陣ら25人が2月21日、成田空港を出発した。パリなどを経由し22日に現地入り。水など生活必需品の輸送や道路補修などを行い、8月に帰国する。〉(2月21日付『産経新聞』)
 この報道に接して「おや、UNDOFとかはまだやっているのか」と思う人は少なくないだろう。イスラエルが占領を続けるシリアのゴラン高原への日本の派兵は96年2月に始まったから、派兵は今年で実に13年目になる。陸自のゴラン高原派遣輸送隊はおよそ6カ月ごとに交代して延々と続けられてきた。昨年12月27日に始まったイスラエル軍のガザ攻撃でゴラン高原も緊張したので、それに関連する記事を目にした人もいるだろう。
 日本の海外派兵は湾岸戦争終結直後の1991年4月に、ペルシャ湾に海自掃海艇など6隻が向かったときに始まり、幾度ものPKO(国連平和維持活動)派兵を重ねて、ついにアフガニスタン・イラク侵略戦争への加担(参戦)へと発展した。インド洋・ペルシャ湾における海自の米軍支援(洋上給油)は今も続けられ、今度は「警察行動」と称してソマリア海域・アデン湾に海自艦隊を送る準備が進められている。
 いわゆる「専守防衛」は『日本の防衛(防衛白書)』の文言に見られるだけで、自衛隊の活動(作戦)はこの18年間、外へ外へと広がってきたのだ。オバマ政権がアフガンへの米軍増派を進める中、米誌『ニューズウィーク』は早くも「オバマのベトナム」と題する特集を組んだ。オバマ政権の対日要求が「非軍事分野での貢献」から軍事貢献へと転じる日は遠くない。NATO加盟のEU諸国は総じてアフガンへの増派を渋っているから、オバマ政権は今でさえ直接的な軍事貢献を日本に求めたくてウズウズしている。今回の「海賊派兵」はそういう米軍事戦略と切り離せない。オバマ政権による「対テロ戦争戦略の転換」に期待するのではなく、同政権の戦線拡大政策を見つめるべきだ。
 全国紙の報道では信じがたいほど小さな扱いだったが、先日のクリントン国務長官訪日の最大の目的は、「グアム移転協定」に東京で署名することだった。日本政府が沖縄島北部の辺野古(へのこ)に2014年までに米海兵隊普天間飛行場の代替基地を作り、その完成とともに海兵隊要員8000人とその家族9000人がグアムに移転する。それが「沖縄の負担を軽減する」というのだが、米海兵隊の戦闘要員(海兵隊本体)は沖縄にそのまま残り、米軍と一体化するため自衛隊は増強されるのだから、沖縄の負担はむしろ加重する。しかもグアム移転のために日本政府が26億ドルの税金を拠出するのである。クリントン長官と中曽根外相が署名したこの協定が国会で承認されれば、条約と同じ効力を持つ(いわゆる日米地位協定も1960年、国会で承認された)。そうなれば、米政府は辺野古への普天間移設─米海兵隊のグアム移転を2014年までに完了することを日本政府に義務づけることになる。この国家間で締結される強力なシバリの下で、日本政府は辺野古新基地建設を沖縄県警機動隊・海上保安庁・自衛隊の力によって強行するだろう。
 ここで私たちは、2006年6月29日、米国の首都ワシントンでブッシュ大統領と小泉首相が発表した共同文書「新世紀の日米同盟」を想起したい。それは「テロとの闘いにおける勝利」を誇示しつつ「地球的規模での日米の協力関係」を鮮明にし、「世界の中の日米同盟」の「建設的な役割」を宣言した。日米安保体制は1996年4月の日米安保共同宣言でアジア・太平洋安保体制へと転換させられ、2006年の「新世紀の日米同盟」によって地球的規模での安保体制に拡大させられたが、米軍再編も日本の海外派兵もまさにその文脈の中に位置づけられている。

◆「海賊対策新法案」についての諸種報道
 政府は「海賊対策新法案」の「3月10日までの国会提出を目指す」という(2月20日付『時事通信』)。麻生首相は3月上旬に海自艦隊を出航させ、艦隊がソマリア沖に到着する3月末までに同法案を成立させようとしている。この新法案の概要を2月21、22日付各紙が報じたが、記事の内容にかなりバラツキがある。
 ▼〈日本政府が海賊対策に本格的に取り組むための新たな法案の概要が固まり、海上警備行動では対象としていない外国籍の商船も護衛の対象とする一方、武器の使用基準の大幅な緩和は見送られることになりました。〉(2月21日付NHKニュース)
 ▼〈政府は2月20日、海賊対策のための新法案を巡り、焦点だった武器使用基準で警察官職務執行法7条を準用する方向で調整に入った。同7条は正当防衛や緊急避難などの要件に該当する場合以外は危害を与える武器使用を認めていない。公海上で警告しても近づく武装海賊船に停船を求める船体射撃などの「グレーゾーン」は、法解釈を明確にするなかで認める。〉(2月21日付『日本経済新聞』)
▼〈政府はソマリア沖などでの海賊対策に随時自衛隊派遣を可能にする新法案に関し、海上自衛隊の護衛艦による外国船の防護は互いに近接している場合に限定する方針を固めた。離れた海域で海賊に襲われた外国船への「駆け付け警護」はしない。海賊対策を警察
活動の一環と位置付け、武器使用も正当防衛と緊急避難を原則とする警察官職務執行法を準用し、大幅緩和は見送る。複数の政府関係者が2月21日、明らかにした。
 現行の海上警備行動は(1)日本と無関係の外国船は防護対象外(2)相手に危害を与える攻撃が正当防衛、緊急避難に限定される-との制約があり、防衛省はこれを解消するため新法案を検討。だが憲法9条との関係から海外での武器使用を限定してきた内閣法制局が慎重姿勢を示し、海上警備行動での活動や武器使用と大差のない内容となった。
 関係者によると、外国船を積極的に警護せず、海上自衛隊が護衛する日本関連船の船団の中に外国船が加わってきた場合や、外国船が海賊の襲撃を受けている現場に遭遇したケースに限る方針。〉(2月22日付『共同通信』)
これらの情報は「複数の政府関係者が明らかにした」もののようだから、各報道機関はそれぞれの受け止め方で伝えているのだろう。しかしこれでは真相は〈藪の中〉である。諸種情報の中では次の2月22日付『読売新聞』の記事に注目したい。
 〈海賊行為を制止するための船体射撃を可能にする規定を設け、現行の自衛隊法の海上警備行動よりも武器使用権限を拡大するほか、自衛隊派遣に関しては国会報告を義務づけるとした。/海賊行為の定義は、国連海洋法条約を踏まえ、「私有の船舶や航空機の乗組
員が私的目的のために行う不法な暴力、抑留、略奪」などとした。/その上で、〈1〉海上警備行動では日本関係の船舶に限られる保護対象をすべての船舶に拡大〈2〉海賊対処
は海上保安庁と自衛隊が担い、海保では著しく困難な場合は自衛隊が対処〈3〉海賊行為の抑止は自衛隊、逮捕などの取り締まりは海保が担当〈4〉武器使用は警察官職務執行法7条を準用〈5〉相手に危害を与える射撃の要件に海賊行為制止のための船体射撃を追加〈6〉自衛艦派遣の実施計画は国会に報告--することなどを盛り込んだ。罰則は、船を乗っ取り、人を死亡させた場合は死刑または無期懲役とする方向で調整中だ。
 武器使用基準は危害射撃の要件を拡大したことが特徴だ。武器使用が可能な場合を警職法7条に基づくとする点は海上警備行動と同じだが、同条は相手に危害を与えられる場合を正当防衛や緊急避難に限っている。海上警備行動の規定では、日本の領海ならば、海上保安庁法を準用し、正当防衛や緊急避難以外の危害射撃が可能だが、新法案が想定するアフリカ・ソマリア沖やマラッカ海峡近辺など領海外では適用されない。/このため、危害射撃の要件を追加した。具体的には、民間船に海賊船が接近した場合、正当防衛に当たらない段階でも、停船命令に応じず、他に手段がなければ、船体を射撃でき、海賊行為を抑止できる。〉

◆保護対象を拡大するケース、武器使用基準の緩和、国会の無視
 (1)外国船を保護するケース
 『読売』は「海上警備行動では日本関係の船舶に限られる保護対象をすべての船舶に拡大」するとしている。しかしそうなれば、海自はおよそ不可能な任務を負わされることになる。この点は『共同』の以下の記述が事実に近いのではないだろうか。
 〈海上自衛隊の護衛艦による外国船の防護は互いに近接している場合に限定する方針を固めた。離れた海域で海賊に襲われた外国船への「駆け付け警護」はしない。/関係者によると、外国船を積極的に警護せず、海上自衛隊が護衛する日本関連船の船団の中に外国船が加わってきた場合や、外国船が海賊の襲撃を受けている現場に遭遇したケースに限る方針。〉
ただしこれでも疑問は生じる。「互いに近接している場合」という表現は非常にあいまいで恣意的な解釈の余地を残す。どの程度の距離を「近接」と判断するのだろうか。その判定は誰が行なうのか。「海上自衛隊が護衛する日本関連船の船団の中に外国船が加わってきた場合」とは、前後を護衛艦に警護され一列に並んで航行する日本籍船の列に外国船が逃げ込むことを指しているのだろうか。「外国船が海賊の襲撃を受けている現場に遭遇したケース」とあるが、「遭遇」と説明すれば「駆け付け警護」ではないことになるのか。そしてそれらのケースを法案にどう書き込むのか。外国船の保護は、それに関する規定が抽象的であればあるだけ、それこそ現場の判断でいかようにも拡大解釈される。
(2)武器使用基準の緩和
 『読売』の記述はこうである。
 〈武器使用基準は危害射撃の要件を拡大したことが特徴だ。警職法7条は相手に危害を与えられる場合を正当防衛や緊急避難に限っている。海上警備行動の規定では、日本の領海ならば、海上保安庁法を準用し、正当防衛や緊急避難以外の危害射撃が可能だが、新法案が想定するアフリカ・ソマリア沖やマラッカ海峡近辺など領海外では適用されない。/
このため、危害射撃の要件を追加した。具体的には、民間船に海賊船が接近した場合、正当防衛に当たらない段階でも、停船命令に応じず、他に手段がなければ、船体を射撃でき、海賊行為を抑止できる。〉
 これが事実とするなら、驚くべきことだ。「危害射撃の要件を追加した」というのである。『共同』は「武器使用も正当防衛と緊急避難を原則とする警察官職務執行法を準用し大幅緩和は見送る」、NHKは「武器の使用基準の大幅な緩和は見送られることになりました」、『日経』は「公海上で警告しても近づく武装海賊船に停船を求める船体射撃などの『グレーゾーン』は、法解釈を明確にするなかで認める」としているが、いかにも感度の鈍い受け止め方ではないだろうか。「危害射撃要件の拡大」は確かに米軍並みの武器使用を認めることと同等ではない。しかし海上保安庁に認められている「危害射撃」とは、相手が停船命令に応じず乗組員が抵抗したり、逃亡したりする場合、海上保安官・海上保安官補は武器を使用することができ、その結果、人に危害を与えたとしてもその違法性は阻却される(しりぞけられる)ということだ。つまり船体を射撃してその船の乗員が死んでも責任は問われないのである。「民間船に海賊船が接近した場合、正当防衛に当たらない段階でも、停船命令に応じず、他に手段がなければ、船体を射撃でき、海賊行為を抑止できる」とは、海賊を殺しても違法ではないということだ。正当防衛に当たらない場合であっても!
 これは武器の使用を緊急避難と正当防衛に限定している現行自衛隊法を改悪することだ。「海賊対策」を名目に武器使用基準の制約に穴を空け、それを既成事実として、武器使用基準の規制緩和を実現しようとしているのである。政府・防衛省は、これは海自の海上警備行動に限定されると釈明するかもしれないが、「部隊行動基準」(ROE=交戦規定)の重要な変更がそんな言い訳で済むはずはない。「危害射撃」容認の根拠(理由づけ)は海自のみならず陸自・空自の活動(作戦)にも援用される可能性がある。仮にアフガン本土派兵に陸自が投入されるとすれば、陸自は海自が設けた先例と同様の武器使用基準の緩和を要求するに違いない。「危害射撃要件の拡大」で空いた穴から「戦闘(交戦)できる自衛隊」という奔流があふれ出すかもしれないのだ。それは憲法9条2項の「国の交戦権の否認」が突き崩される事態だ。
(3)実施計画の国会への報告
 自衛隊法82条〔海上警備行動〕は防衛大臣が内閣総理大臣の承認を得て発令すると規定している。つまり国会の承認を必要としない。しかし一応、実施計画を国会に報告する。これでは国会はいかなる関与もなし得ない。麻生首相の突出を誰も制止できない。 

海自艦隊のソマリア沖派遣に反対し、海賊派兵法案の成立を阻止しようではないか。

【付記 上で検討した海賊対策法案の概要は「複数の政府筋」が漏らした情報だから、世論を瀬踏みするための情報操作と見るべきだろう。しかし政府はまもなく法案の骨子を与党に示す。批判を続けたい。09・2・24記】

◆ 反戦の視点・その72 ◆

2009年02月22日 | 練馬の里から
反戦の視点・その72
  第3回 愚かしい海賊派兵を阻止しよう

                        井上澄夫 市民の意見30の会・東京
                             沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック

◆石原都知事のかかげる「平和」と麻生首相の報復主義 
〈『平和に貢献する 世界を結ぶオリンピック・パラリンピック』。16年夏季五輪の招致を目指す東京都が「大会理念」に掲げたのは「平和」だった。/都庁で立候補ファイルの発表会見に臨んだ石原知事は「平和」を強調。国際オリンピック委員会(IOC)のロゲ会長への書簡でも「私の祖国日本は、第二次大戦の後、自ら招いた戦争への反省のもと、戦争放棄をうたった憲法を採択し、世界の中で唯一、今日までいかなる惨禍にまきこまれることなく過ごしてきました」と記した。/石原知事はかねて憲法改正に意欲的な発言を重ね、靖国神社に00年から昨年まで9年連続で8月15日に参拝している。会見では「日本の平和をもっと確かなものにするために、今の憲法を変えた方がいいと思っている。ただ、その憲法の効果もあって平和でこれたのは歴史の事実として大したもの」と言及した。)(2月14日付『毎日新聞』)
 かつて「東洋平和のためならば、何で命が惜しかろう」という歌があった。そこで言う「東洋平和」は大東亜共栄圏の確立で、それが平和と正反対の事態を意味したことは今や誰でも知っている。「私の祖国日本は、第二次大戦の後、自ら招いた戦争への反省のもと、戦争放棄をうたった憲法を採択し、世界の中で唯一、今日までいかなる惨禍にまきこまれることなく過ごしてきました」という石原都知事の「公的」表明を本心と思う人はまずいないだろう。これはどう見ても「平和の祭典」である五輪を誘致のための巧言令色である。彼の語る「平和」を聞いて、ベルリン・オリンピックが脳裏をよぎるのは筆者だけではあるまい。
 石原都知事が突如「平和」をヨイショする一方で、麻生首相は「海賊にやられたらやりかえす」とぶちあげる。
 〈麻生太郎首相は2月8日、福井県あわら市の講演で、ソマリア沖海賊被害対策での海上自衛隊艦船派遣をめぐり「海賊は強盗であって、戦争じゃない。国(や国に準ずる組織)ではない。強盗にやられたらやり返さないといけない」と述べ、海賊への反撃は、憲法が禁じる海外での武力行使に当たらないとの認識を強調した。同時に「(現場海域には)お巡りさんがいないんだから、さっさと捕まえないとしょうがない」と指摘した。〉(2月8日付『産経新聞』)
 米ブッシュ前大統領は対テロ戦争遂行にあたり「かかってこい」と「米国の敵」を挑発した。米英軍を「十字軍」と呼んで直後に撤回したこともある。麻生首相のメンタリティもブッシュとさして変わらない。ただ彼は「海のお巡りさん」が海上保安庁であり、海保がマラッカ海峡の海賊対策で沿岸諸国にノウハウを提供して成果をあげ、ソマリア周辺諸国の沿岸警備についても同じことができることを、おそらく故意に、忘れている。
 「やられたらやり返す」ことは報復ないし復讐である。海上保安庁法を読めば海保の任務が報復でも復讐でもないことが誰にもわかる。海上警備行動も同様である。かつての西部劇の保安官のような気分で海賊に報復することで何が生まれるのだろうか。
日本テレビの最新の世論調査によると、麻生内閣支持率はついに9.7%に低下したが、同時にソマリア沖海自派遣については49.7%(半数!)が支持している。内政の破綻から目を外に転じさせる麻生首相の古典的な政治手法は一定の効果をあげている。「やられたらやり返せ」という報復感情は死刑存置支持が81%という世論調査にも表われている。百年に一度の大不況への鬱屈した感情が「海賊退治」支持へと向かうことを麻生首相は読んでいる。

◆海賊が元漁民であることについて
 筆者はかつて、本シリーズ「反戦の視点・その59」(軍のおごりと民の怒り―イージス艦「あたご」の犯罪を糾弾する―)でこう記した。
 〈70年代のある日、福井で漁民たちによる海での葬送に参加させてもらったことがある。葬送の一週間前の夜、老いた漁師が一人で操っていたイカ釣り船がタンカーに当て逃げされた。漁民の仲間たちと海上保安庁が捜索を続けたが、現場と思われる海域で船の破片が見つかっただけで、遺体はついに発見されなかった。陸(おか)でも葬儀が行なわれただろうが、漁師たちは自分たちのスタイルで海での告別式を執り行なうことにしたのだ。福井の沖での巨船による夜間の当て逃げは一度や二度ではなかった。潮焼けした漁師たちの顔にはやり場のない憤激が滲(にじ)んでいた。
 風は弱かったが、低い雲が垂れ込める薄ら寒い日だった。十数隻の漁船が次々に港を出て、老漁師が亡くなったと思われる海域に向かった。船団はそこで大きな円を描いて停船した。つぶやきのような弔いの言葉とともに、酒や花束がそれぞれの船から次々に海に投げ込まれた。それから船団を先導した船が汽笛を鳴らし、続いて僚船が少し間を置いて次々に汽笛を鳴らしていった。ボオーッ……ボオーッ……ボオーッ……。
 私が乗せてもらった漁船の船長は必死で嗚咽をこらえていたが、汽笛は漁師たちの慟哭だったのではないだろうか。海の仲間に別れを告げる汽笛は、はるかに海を渡っていった。あの音は今も耳の底に焼きついている。〉
 もうひとつ、体験を記そう。筆者は療養のため、奄美諸島の沖永良部(おきのえらぶ)島に住んでいたことがある。そのとき、1.7トンの舟を持つ漁師、Sさんにたびたび漁に同行させてもらった。ある日、世論島方向に船を進めていたSさんが「ないっ!」と叫んだ。彼は前日、水深500メートルの位置にはえ縄を仕掛け、両端にブイを浮かせていたのだが、そのブイが見当たらないのだ。海上を探し回って判明したのは、かなたに船影が遠ざかるタンカーがはえ縄の仕掛けをスクリューに巻き込んでかっさらったということだった。ブイ一個が引きずられているのがかろうじて見えた。無線もない小舟である。Sさんは唇を噛みしめるだけだった。
 想像してみよう。貧しい国ぐにの漁民たちは、まさにその日暮らしであるが、彼らはとにかく必死で生計を立てるために漁をしている。漁はいやおうなく天候に左右され、漁民たちの暮らしが豊かになることはまずない。ソマリアでは、91年に始まった内戦と旱魃(かんばつ)が生存基盤の破壊に追い打ちをかけた(30万人以上が餓死し100万人以上が難民として近隣諸国に流出したという)。
 タンカーに当て逃げされて殺された漁師の仲間たちや貴重な財産である大事な漁具を奪い去られる漁師たちの気持ちを推し測ることができるなら、自分たちの海に侵入して大型トロール船で漁業資源を根こそぎさらっていく国ぐに(日本・韓国・中国を含んでいる)への恨みが理解できるだろう。欧米の大企業がソマリア沿岸に産業廃棄物を投棄したため、放射性物質で地域住民数万人が発病したという証言もある(1月19日付『東京新聞』、堤未果「本音のコラム・海賊の正体」)。
 ソマリアの海賊問題の根底には、欧米諸国が長期にわたりソマリアを好き放題に翻弄してきたという重い事実がある。米軍を中心とする国連の及び腰の「人道的介入」(統一タスクフォース〔UNITAF〕の展開/第2次国連ソマリア活動〔UNSOM?〕など)はそれまでにも増してソマリア社会に分裂と混乱をもたらし経済は崩壊した。しかも一度は敗退した米軍はその後、対テロ戦争の一環としてアル・カイーダの一部と目する政治勢力をミサイル攻撃してきた。それはなお続く気配なのだ。
 2月10日付『公明新聞』の「海賊対策の論点 Q&A」は、海上警備行動の発令による自衛艦の派遣を正当化するための記事で、タイトルは〈「人類共通の敵」にどう対処するか?〉。内容は政府広報と変わらないが、次の記述は関心を引く。
 【Q 海賊の根城は? A ソマリアが海賊の温床だ。暫定政府しかなく統治能力もない。】
 ソマリアの人びとをいかにも侮蔑した記述だが、このQ&Aは、海賊が生まれた背景を語らない。「人類共通の敵」への対処を語るなら、その「敵」がどういういきさつで登場したのかをきちんと説明すべきである。米ブッシュ前大統領はひたすら「対テロ戦争」を呼号して世界各地に無数の「テロリスト」を輩出させた。世界には善と悪の勢力が存在し、自分を先頭とする善が必ず悪を打ち砕くと宣言したが、「悪の勢力」は増殖するばかりだった。ここで、イラクで米兵たちが何をしてきたかについて、元米陸軍上等兵、ジョシュア・キー氏の証言を聞こう。
 〈ぼくは気づいた。われわれアメリカ兵自身がテロリストなんだということに。ぼくらはイラク人にテロ行為を働いている。脅かしている。殴っている。彼らの家を破壊している。おそらく彼らをレイプしている。だとすれば、われわれが殺さなかった人びとが、この世でテロリストになったとしてもなんの不思議もない。われわれが彼らにしたことを思えば、彼らがわれわれやアメリカ人すべてを殺したいと望んだとしても、誰が非難できるだろう? われわれアメリカ人はイラクでテロリストになってしまったの
だ。〉(『イラク 米軍脱走兵、真実の告発』合同出版)
 朝日新聞元中東アフリカ総局特派員・吉岡一氏はこう記している。
〈大金を投入して開発された高度な装置で防備を固めながら、なお世界最強の軍隊の兵士が次々と殺されていく現実は、何を物語っていのか?/答えは、かなり簡単だろう。/イラクの国中、それこそ、ありとあらゆる地域の、ありとあらゆる社会階層の老若男女が、米軍攻撃のために一致団結しているのだ。/米軍は今なお、米軍に対する攻撃者をテロリストと呼び続けている。しかし、07年のこの現状を見ればわかるだろう。/それはもはや、一部の孤立した武装集団による攻撃ではない。/イラクの国民運動なのだ。〉吉岡著『イラク崩壊』(同)
 20カ国もの軍艦が作戦するのだから、あるいは一時期、海賊を抑え込むことができるかもしれない。しかし海賊を生むソマリアが法秩序が行き渡る国として立ち直らない限り、海賊対策は無期限に続けざるを得ない。

◆迷走する海賊対策・海上警備行動
〈アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、防衛省が検討している海上自衛隊の活動概要が2月15日、明らかになった。商船の護送方法は、日本から派遣する護衛艦2隻が商船を前方と後方から護送し、護衛艦搭載のSH60哨戒ヘリ1機が上空から周辺海域の監視にあたる。/海上警備行動では武器使用が正当防衛、緊急避難に限定される。このため、当面の派遣では海賊船が商船団に近づく前に発見し、進路を変えるなどの回避行動をいかに早く取るかが焦点となる。「300キロ先まで監視が可能」(海自筋)とされるSH60哨戒ヘリが重要な役割を担う。/哨戒ヘリには、7・62ミリ機関銃を積み込む。海賊船が停船命令などに応じない場合、船団からできるだけ離れた海域で警告射撃などにより接近をくい止める任務も担う予定だ。〉(2月16日付『産経新聞』)
 この記事に「海警行動では武器使用が正当防衛、緊急避難に限定される」とあるのは、海上警備行動が自衛隊法第82条に基づくからである。以下の自衛隊の準機関紙『朝雲新聞』の記事も参考にして具体的に考えてみよう。
 〈ソマリア沖で日本船舶の護衛任務を担う予定の海自8護衛隊の汎用護衛艦「さみだれ」と「さざなみ」は2月10日、海賊対処行動の訓練のため呉を出港し、13日までの予定で豊後水道南方の訓練海域で射撃訓練を開始した。現地で海賊を取り締まるため、警告射撃などの練度向上をめざすもので、特別警備隊も加わり、護衛艦からの対水上射撃や飛行中のSH60K哨戒ヘリからの射撃訓練を実施。同訓練について赤星海幕長は10日の会見で、「海賊対策ではあらゆる事態を想定して対処しなければならない。高い能力を持つ特警隊をできるだけ活用したい」と述べた。/護衛艦2隻の派遣時期について増田事務次官は2月9日の会見で、「(海警行動の)要件の下では急迫不正性の判断などいろいろと難しい問題がある」とし、「(海賊)新法の動きの中で、その辺についても十分な配慮がいただければと思う」と述べた。〉
「あらゆる事態を想定して対処しなければならない」(赤星海幕長)のだが、今の海上警備行動の規定では「急迫不正性の判断などいろいろと難しい問題がある」(増田事務次官)ので、海賊対策新法でそこを何とかしてほしいということである。同記事で紹介されている赤星海幕長の発言を見てみよう。
 〈特別警備隊は能登半島沖不審船事案の教訓・反省等から特別に編成された部隊。今回の海賊対応ということを考えた場合、あらゆる事態に備えるという観点から高い能力を持つ特警隊員の活用は十分に考えられる。/海上警備行動が下令された場合の武器使用基準については、まだこれから十分議論されると認識している。その中で想定できるのは、例えば停船、あるいは海賊行為をやめさせるための警告射撃がある。警告射撃をした場合に(相手に)危害をあまり及ぼさないようにするには、(高い)射撃能力が求められる。また、危害射撃が許される状況になった場合も、過大な危害を与えないためには、きちんとした射撃の腕、技量が必要になってくる。〉
 つまり、警告射撃は許される選択肢に入っているが、危害射撃については新法制定が前提で、その場合も「過大な危害を与えないためには、きちんとした射撃の腕、技量が必要になってくる」。しかし警告射撃の場合でも「(相手に)危害をあまり及ぼさないようにするには、(高い)射撃能力が求められる」のである。2月14日付『朝日新聞』「政策ウオッチ」はこうのべている。
 〈「軍艦に向かって襲ってくる海賊船はあまり聞いたことがない」。海賊対策への海上自衛隊派遣を楽観的に語る麻生首相に、疑問を感じている防衛省職員は多い。/英国やインドの海軍が昨年、海賊と実際に銃撃戦になった事実と異なるだけではない。首相が派遣を急ぐあまり、最悪の事態を想定しないかのような言動に危うさを感じているのだ。/防衛省幹部は「かなりの確率で自衛隊が海外で外国人を殺傷する初のケースになる」と語る。/だが首相からは、自衛隊初の犠牲者を出すかもしれないという覚悟や、武器使用基準の拡大に道を開くかもしれない緊張感は感じられない。〉 
 海賊対策新法で焦点が武器使用基準の緩和であることは言うまでもない。しかし法の規定があったとしても、現場でそれが遵守されるとは限らない。次の記事を思い出そう。
 〈イラク特措法に基づき、イラクで空輸活動を行った航空自衛隊がC130輸送機の不時着を想定して、武器使用の手順を非公開の「部隊行動基準(ROE)」で定めていたことが12月16日分かった。/ROEはイラク派遣前の03年11月に定められた。C130の不時着後、「機体を包囲された場合」と「略奪にあった場合」に分けて規定した。/不時着した場合、包囲されているだけでは武器使用できず、隊員自身や機体に危険が及び、包囲を突破するしかない場合は武器使用できると規定。不時着して略奪にあった場合、相手が武器を持っていなくても危険が及ぶと判断すれば武器使用できるとしている。応戦しても機体を守りきれない場合は、機体を放棄して退避すると規定した。〉(08年12月17日付『東京新聞』)
 イラク特措法は自衛隊の活動は「戦闘が行われることがない地域」(非戦闘地域)で実施することになっている(第2条)。それゆえ政府は「飛行経路と空港は非戦闘地域」と説明していた。つまり「非戦闘地域」で輸送活動をするとしたのだから、輸送機が攻撃を受けて不時着することなど想定していなかった。ところが実際には輸送機の派遣前に密かにROE(交戦規定)を決めていたのである。
 この事実は、海外での海自の海上警備行動に際し、海上幕僚監部が「正当防衛・緊急避難」以外の事態を想定して〈密かに〉交戦規定を策定するのではないかと疑う根拠になり得る。「海賊対策だから警察行動であり、武器使用は警職法第7条に従う」というタテマエを信じるべきではない。イージス艦「あたご」が漁船に激突して沈没させ漁民2人を殺したとき、あたごの艦長ら、海上幕僚監部、防衛相らがどのように真相を隠そうとしたか、その組織犯罪を私たちは目の当たりにした。軍隊は欺騙(ぎへん、あざむきだますこと)を不可欠の戦術としている。事実の隠蔽のプロである。
 「やられたらやり返さないといけない」という麻生首相の報復主義は、法のタテマエと「海賊対策」の現場での実際とを大きく乖離(かいり)させる危険性をはらんでいる。現場で事態が切迫したとき、「やり返す」ためには法の逸脱もやむを得ないという心理が生まれるからである。クウェート─イラク間での空自の活動は墨塗りの闇に秘されたままである。海上でも現場の実際を見届けられる第三者はいない。
 (漁船「清徳丸」がイージス艦「あたご」に沈められ、吉清治夫さんと吉清哲
大さんが亡くなってから1年目の2009年2月19日、本稿を記す)


 ★★★ 天下の恥さらしを《劇場観戦》する日本人 ★★★

2009年02月17日 | みんなの日記
 くるまを転がしてて《酒気帯び》で検問に引っかかったら、すかさず『ごっくんはしてない!』と言い逃れようという考えが頭をよぎったヨ。“ごっくん中川のろれつ会見”をみてそう思ったのは、きっとおいらだけじゃな~い、はず…。もちろんおいらは、今のところ「飲んだら乗るな!」「乗るなら飲むな」で生きてる。だって、こんな言い訳、夜な夜なホテルのバー通いの盟友の麻生太郎総理大臣にはきいても、警視庁交通機動隊には通用しないはずだからネ。今のところは…。
 仕事中もこよなくアルコールを愛した中川昭一財務・金融大臣がしでかしたG7での醜態は、酒気帯び運転どころの話じゃなくて、でい酔運転の重大事故犯とおんなじだと、おいらは思う。

不思議なのは天下の恥さらし内閣のこんな国辱にも、ウヨクの人の街宣車実力行動のひとつも報じられないこと。

もっと不思議なのは麻生ヤメロの倒閣デモが国会を取り巻かないこと、労働組合やサヨクの人はなにをしてるんだろ?

もっともっと不思議なのは、“100年に一度の大災害”と報じられる金融崩壊と経済危機なのに、自分のお尻にも火がついているかもしれないのに、危機を引き起こした張本人たちに憤ることを忘れて、張本人たちに金を注入する“経済対策”のなりゆきを劇場観戦してる日本人の心…なんだ。
(在日日本人)

練馬読者会2月例会

  日  時:2009年2月28日(土) 19時から
  会  場:喫茶ノウ゛ェル(西武池袋線大泉学園駅北口駅前)
  会  費:喫茶代
  問合わせ:nerikinjyutu@mail.goo.ne.jp
       または03-3925-6039 近藤まで。


◆ 反戦の視点・その71 ◆

2009年02月16日 | 練馬の里から
反戦の視点・その71
 第2回 愚かしい海賊派兵を阻止しよう


                       井上澄夫 市民の意見30の会・東京
                            沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック
◆すでに始まっている海賊との「戦争」
 あきれるばかりの騒動である。いうまでもなく、ソマリア沿岸・アデン湾での海賊との「戦争」のことだ。まず2月10日付『産経新聞』。
 〈海上自衛隊の護衛艦が3月にアフリカ・ソマリア周辺海域の海賊対策に参加するため、日本の与党プロジェクトチームが2月9日、安全航行などを目指す国連の専門機関、国際海事機関(IMO、本部ロンドン)と欧州連合(EU)の対策本部を視察し、共同作戦や哨戒機派遣の可能性について協議した。/国連安保理決議を受け、EUは昨年12月、ロンドン郊外の英軍常設統合作戦司令部に対策本部を設置し、EU初の海上軍事作戦を開始した。常時、軍艦4隻を派遣、ソマリアへの世界食糧計画(WFP)の支援物資輸送船や一般商船の護衛、パトロールを行うとともに、ウェブサイトで海賊情報を提供している。/先月29日、ソマリア沖のアデン湾でドイツ企業所有のタンカーが海賊に乗っ取られたが、タンカーは航行の事前連絡を怠っていた。一方で、フランスの駆逐艦から飛び立ったヘリが海賊の高速艇2隻に威嚇射撃し、逮捕に成功した。対策本部のジョーンズ英海軍准将は「海賊の襲撃件数は減らないが、商船との連絡が密になり、作戦は成果を上げ始めている」と語る。/今年、3隻が乗っ取られたが、14隻で海賊は撃退され、数十人が逮捕された。/海賊問題に詳しい英王立国際問題研究所のミドルトン研究員は「50%だった海賊の襲撃成功率は20~30%まで減った。いくつかの襲撃は防げても、ソマリアの新暫定政府が国民の不満を解消しない限り根本的な問題は残る」と指摘する。〉
 「海の義和団事件」(「反戦の視点・その70」参照)はいよいよエスカレートし、しかも海賊対策の国際的枠組みが大がかりになりつつある。
 〈アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、海賊情報を共有するために関係各国が設置する新組織「海賊対策地域調整センター」の概要が2月5日、明らかになった。センターを海賊が出没する付近に隣接するイエメン、ケニア、タンザニア3カ国に設置し、日本も参加する。海賊の情報を集約して現地を航行中の船舶に提供する。海域を警備する、米国を中心とした有志連合軍やEU(欧州連合)軍などとの情報交換も想定する。/センターは国連安保理決議1851に基づき設置される。日本や英米、中国など24カ国と国際海事機関(IMO)などの5国際機関で構成する「コンタクト・グループ」が1月14日、米ニューヨークで年内の早い時期でのセンター設置を決めた。先月末には、ソマリア周辺国がジブチに集まって海賊対策を協議し、センター設立を求める行動指針を採択した。コンタクト・グループは今月24~27日にロンドンで作業部会を開き、具体的な情報の共有方法やセンターの運営など詳細を詰める。/センターは、海賊事件の発生に関する情報を参加国が迅速に共有することが主な目的。各国は、地域協力協定を締結して、センターに参加する。/06年11月、アジアの海賊対策で日本が主導してシンガポールに設立した「情報共有センター」が構想のモデルとなっており、今回の設立にも日本政府は積極的に関与する。/ソマリア沖を航行する日本船舶は、EU軍の警護を受けているほか、英国軍が運用する「位置通報システム」にも参加。だが、海賊情報を一元化して各国で共有する仕組みは整っておらず、センター設置が待たれていた。〉(2月6日付『毎日新聞』)
 この事態は一体なんなのか、冷静に考えてみる必要がある。まず諸国艦隊の出動は国連安保理決議1851を錦の御旗にしているが、派兵各国にとっては、紅海の出入り口を扼(やく)する海域への軍事戦略的プレゼンスである。我れも我もと「バスに乗り遅れるな」式のオンパレードに参加することで国威を発揚しようというのだ。この《海軍オリンピック》は、まさに21世紀初頭の世界史的愚挙である。
 同時にこの《海軍オリンピック》には国威高揚だけではなく別の軍事的な意味がある。なにしろ海賊をやっつけるために実戦を経験できるのだ。諸国艦隊にとって、これほどの実践的訓練があるだろうか。英軍は海賊船を、インド軍は乗っ取られたタイの漁船を撃沈した。フランス軍もロシア軍も米軍も海賊を逮捕し戦果をあげた。まさに《海軍オリンピック》である。
 海賊対策には格別のうま味がある。相手は国際指名手配の犯罪集団であるから、船を撃沈しようが、乗員を殺そうが、逮捕しようが、なんでもやりたい放題というわけだ。だが、国連安保理決議をかかげれば何をしてもいいのか。ソマリアに全土の治安を維持できる政権がないからといって、同国の領海のみならず、領空・領土にまで踏み込んで海賊を攻撃することが許されるのか。社会も経済も崩壊して塗炭の苦しみにあえいでいるソマリアの民衆にとって、国連安保理決議1851は公然たる侵略容認決議に他なるまい。
 戦略的要衝であるアフリカの角・ソマリアに国連はかつて米軍を主軸に中途半端に軍事介入し結局、逃げ出した。ソマリア領海は欧米企業の産業廃棄物ですさまじく汚染され、沿岸の漁民たちは外国の大型トロール船が漁業資源を根こそぎさらっていくのを眺めているしかなかった。ソマリアを翻弄してきた国際社会にツケが回ってきたのが海賊問題である。そのツケを国際社会は《海軍オリンピック》で払おうというのだ。
 ソマリア海域・アデン湾で繰り広げられているこの国際競技には、海賊対策とは無関係の国家間のさや当てまで持ち込まれている。2月10日付『産経新聞』にはこうある。
〈米国が仕切ってきた海域に中露の軍艦が展開したことで新たな緊張も起きている。中国メディアによると、中国の駆逐艦がインド海軍とみられるロシア製潜水艦に追跡されており、中印関係の難しさを改めて印象づけている。〉
2月10日付『公明新聞』は「すでに17カ国が海軍艦艇・航空機を派遣してきた」と言う。これに加え日韓両国とシンガポールも馳せ参じるので、実に20カ国の艦隊が集結することになる。これまでにこんな「海賊対処の警察行動」があっただろうか。ソマリア沿岸・アデン湾に駆けつけた諸国艦隊がやっていることは事実上の対海賊海戦である。
 前回の本シリーズで触れたが、米艦船は「海賊対処の警察行動」ではなく、あくまで対テロ戦争をやっていると見るべきである。
 〈米国は中東のバーレーンに司令部を置き、さまざまな海軍作戦を展開。米主導の多国籍軍「混成任務部隊(CTF150)」が洋上監視を続けるインド洋に先月8日、新多国籍軍CTF151を立ち上げ、海賊の取り締まりを始めた。〉(2月3日付『東京新聞』)
 CFT150はアフガニスタン本土で継続されている「不朽の自由」作戦の一部として海上阻止行動(MIO)を担っている。新たに開始されたCFT151が「海賊の取り締まり」を任務としていることは事実だろう。「AP通信によると、米海軍は2月11日、ソマリア沖のアデン湾で商船を襲おうとしていた海賊7人を拘束した。米海軍が海賊を拘束した初めてのケースという。」(2月12日付『共同通信』)。しかしそうであっても、CTF151の主たる標的はソマリアで息を吹き返してきたイスラム法廷会議ではあるまいか。エチオピア軍に支援されたソマリア暫定政権は一時イスラム法廷会議を首都モガディシオから追い出したが、エチオピア軍が撤退すると形勢が逆転した。米軍はこれまでエチオピア軍を支援し、イスラム法廷会議をミサイルでたびたび攻撃してきた。米軍は同会議がアルカイーダと提携していると主張し、あくまで同会議を殲滅しようとしている。CTF151が海賊だけを相手にしているとは到底思えない。

◆「出遅れた」日本政府の動き
 朝日新聞の世論調査では麻生首相の支持率はとうとう14%にまで落ち込んだ。彼は先着の諸国艦隊による海賊対策が成果をあげ始めたと聞いて、心穏やかではないだろう。海自艦隊を一刻も早く「出撃」させたいのだ。百年に一度の大不況への対策がどれも不評である以上、とりあえず31%の支持(NHKの世論調査)を得ている海賊派兵で得点したいのである。右派評論家の櫻井よしこ氏が下のように檄を飛ばして麻生首相を激励していることは、海賊派兵の政治的意義をはしなくも暴露している。
 〈極まる低さの支持率を思い悩んではならない。/首相の使命の筆頭は、9条の実質的改正につながる集団的自衛権の行使以外にない。ソマリア沖の海賊対策こそ、首相に使命を果たさせるべく天が用意した危機だと思えてならない。〉(2月12日付『産経新聞』)
 海賊派兵は「9条の実質的改正につながる集団的自衛権の行使」のためだという。そのものズバリの指摘である。だが、麻生首相の決断は条件を整えることなくなされた。 
 〈浜田靖一防衛相は2月10日午前の閣議後会見で、東アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で海上自衛隊の派遣時期について「誤差はあるが、最悪でも3月上旬から中旬にかけてというのは考えられる」と述べ、3月上旬に海上警備行動を発令して護衛艦を派遣する意向を改めて示した。〉(2月10日付『毎日新聞』)
 3月上旬に呉基地を出るなら、ソマリア沖到着は早くて同月下旬、あるいは4月上旬になると報道されている。しかも海自は海賊対策などまったく眼中になかったのだから、まず未踏の分野の訓練から始めねばならない。泥縄の典型である。
 〈アフリカ・ソマリア沖の海賊対策として、海上警備行動の発令後、来月にも現地に派遣される海上自衛隊呉基地(広島県呉市)所属の護衛艦「さざなみ」(基準排水量4650トン)と「さみだれ」(同4550トン)が2月10日朝、訓練のため同基地を出港し、豊後水道沖の公海上へ向かった。/海上幕僚監部と呉地方総監部によると、両艦には計約350人が乗り組み、速射砲などを使った水上射撃や、搭載ヘリコプターからの機関銃射撃などの訓練を実施、2月13日に帰港する。派遣が検討されている海自の特殊部隊「特別警備隊」も訓練に参加しているが、人数などの詳細は明らかにされていない。〉(2月10日付『読売新聞』)
 2月11日付『毎日新聞』も「海自は、今回の訓練内容について仮想海賊船を標的にした対水上船射撃訓練と、ヘリコプターによる上空からの射撃訓練をする、と説明している。」とのべている。
 報道された訓練内容だけからでも、予定されている海上警備行動が日本籍船を武力を行使せず警護するのではないことがわかる。これまで2度の海上警備行動は日本の領海を侵犯した船が領海の外に出たところで終わった。しかし今度はちがう。場合によっては交戦も想定される。次の動きも見逃せない。
 〈政府は、アフリカ・ソマリア沖の海賊対策のため、海上自衛隊を派遣することにしていますが、その前の今月20日に、広島県呉市沖で海上自衛隊と海上保安庁の合同訓練を行う方針です。/訓練が行われるのは派遣される護衛艦が所属する広島県呉基地周辺の海域で、護衛艦に司法警察権を持つ海上保安官も同乗して行われます。/合同訓練は海賊船が接近するなどの想定で自衛官と海上保安官の連携を中心に行われ、海賊を拘束した場合の対応なども訓練する見通しです。〉(2月12日、TBSニュース)
海賊の拘束は海自隊員にはできないから、権限のある海上保安官を護衛艦に同乗させるというのだが、これは茶番に等しい法的つじつまあわせである。拘束した海賊をどうするのかは決まっていない。ソマリア海域沿岸に引き渡すのか、日本に連れ帰るのか……。

◆海上警備行動と武器使用基準
 〈浜田防衛相は2月10日の閣議後の記者会見で、アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で海上警備行動を発令する前に、政府が海賊対策の新法案を国会に提出すべきだとの考えを示した。/防衛相は「海上警備行動による(海上自衛隊の)派遣は応急措置と言ってきた。新法が出てくるのが当然だ」と述べた。〉(2月10日付『読売新聞』)
 海上警備行動発令前に新法案が今国会に提出されたとしても、成立はおぼつかない。それでも浜田防衛相がこう主張するのは、海自側に武器使用基準が緩和されるのかされないのかが未定のまま、海上警備行動を発令されることに抵抗があるからだろう。今のままでは海賊に遭遇した際の武器使用は、対応によっては個々の隊員の責任が問われる。
 ここで自衛隊の武器使用基準を確認しておこう。武器使用基準は警察官職務執行法(警職法)第7条に準じ「正当防衛・緊急避難」に限られている。しかしPKO(国連平和維持活動)協力法以降、個々の隊員による防衛対象は徐々に拡大してきた。その変遷は以下の通りである。
 PKO協力法(92年)    自己または自己と共に現場に所在する他の隊員   
周辺事態法(99年) 自己または自己と共にその職務に従事する者
 テロ対策特措法        職務に伴い自己の管理の下に入った者
 イラク特措法         職務に伴い自己の管理の下に入った者
 この動きに伴い重要なのは、イラク特措法について内閣法制局が国会でこう答弁していることだ。「かなり離れた場所に所在する他国の部隊に駆け付けて武器を使用することはできない」。いわゆる「駆け付け警護」の禁止である。では、現在策定中の海賊対策新法(仮称)でこの武器使用基準はどうなるのか。
 〈政府は任務遂行の武器使用を「犯罪集団に対する警察活動で武力行使には当たらない」と解釈する。海上保安庁法20条は、海上保安官に対し、停船命令に応じない船舶や逃亡する船舶に対し、日本の領海内に限って、武器の使用を認めている。新法ではこれを公海に広げ、さらに自衛隊にも認める方針だ。〉(2月5日付『朝日新聞』)
 海賊対策における武器使用は「警察行動で武力行使には当たらない」という政府解釈を前提にすると、「駆け付け警護」は許されるのか。諸国の艦隊が遊弋(ゆうよく)するソマリア海域において「かなり離れた場所に所在する他国の部隊に駆け付けて武器を使用すること」は、警察行動だから問題ないということになるのか。駆け付け警護が容認されるなら、武器使用は際限なく拡大するだろう。
 海上保安庁による武器使用をリアルに紹介すると事態の深刻さがわかる。海上保安庁法第20条は2001年「改正」されて第2項が加えられた(同年11月2日公布)。それは大幅な武器使用基準の緩和だった。停船命令に応じず乗組員が抵抗したり、逃亡したりする場合、海上保安官・海上保安官補は武器を使用することができ、その結果、人に危害を与えたとしてもその違法性は阻却される(しりぞけられる)としたのである。つまり船体を射撃してその船の乗員が死んでも責任は問われないことになった。「危害射撃」が公認されたのである。実際、この「改正」直後の12月22日、九州南西海域で不審船が発見され、銃撃戦の結果、同船の乗員が10人以上(海保)が死んだことは記憶に新しい。ただしこれは日本の領海内の出来事だった。
 現在は、海保が「危害射撃」を公海で行なうことは認められていない。上の記事は政府がそれを解禁し、さらに自衛隊(海自)にまで広げるというのだが、事実とすれば、これはむちゃくちゃである。海自艦艇が海賊船とおぼしき船舶に停船を命じそれが無視された場合、あるいは当該船舶が逃亡しようとする場合、海自艦艇は攻撃されなくても「危害射撃」できるようになるからだ(攻撃された場合の武器使用は正当防衛)。その結果、当該船舶の乗員が死んでも責任は問われない。
これは、事実上、海上での交戦(海戦)を海自に許すことである。海自による海賊対策は「犯罪集団に対する警察活動で武力行使には当たらない」という小理屈、いや詭弁で国の交戦権を否認している憲法第9条第2項を突き破ろうとしていることは明らかである。

◆揺れる海賊対策新法策定
 しかし2月5日付『朝日新聞』の報道はそのまま鵜呑みにできない。自民党の「征け征けドンドン」派が、この際一気に武器使用基準を緩和しようとしていることは事実だが、武器使用を「正当防衛・緊急避難」に限るべきという意見は与党内にもある。
海上警備行動の発令はまだなされていない。護衛艦隊の呉基地からの出港は早くて3月上旬である。海賊派兵に反対しよう。海賊対策新法は策定中だが、浜田防衛相が求めるように、海上警備行動発令前に国会に上程されるかどうかはわからない。今回の海賊派兵は海外派兵を新たな段階に引き上げるもので、海外派兵推進派の狙いは、武器使用基準の緩和と事実上の集団的自衛権行使の先例作りである。
しかも海賊対策新法は海外派兵恒久法の下敷きだ。オバマ政権はアフガニスタンに米軍を増派する。パキスタン叩きも隠していない。今でこそ米政府の対日要求は表向き「非軍事分野での復興支援」であるが、オバマ大統領が泥沼のアフガンでのたうち回る事態になれば(それは必至だ)、対日要求はアフガン本土への自衛隊派兵に転じる。海賊派兵新法─海外派兵恒久法の制定はその事態に備えるものだ。  (09・2・15記)

【付記】海賊派兵についてはなお書く。次回を「第3回」とする予定である。

◆ 反戦の視点・その70 ◆

2009年02月12日 | 練馬の里から
 第1回 愚かしい海賊派兵を全力で阻止しよう!

                 井上澄夫 市民の意見30の会・東京
                      沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック
◆我も我もと、まるで義和団事件
 欧米諸国を先頭に20カ国近い国ぐにの艦隊が「アフリカの角」と呼ばれるソマリア沖に馳せ参じている。インドや中国も艦隊を派遣し、韓国と日本もまもなく派兵する。
 そのありさまはまるで義和団事件(1900年)である。義和団事件では、「扶清滅洋」をかかげた貧しい中国農民たちの帝国主義列強に対する反乱を叩きつぶすために、日本を含む8カ国が派兵したが、今回はソマリアのプントランドに拠点をもつ「海賊」が相手である。我も我もと艦隊を送り込む騒々しい動きの底に、アフリカに対する蔑視や差別意識が張りついてはいないか。相手が「海賊」であれば少しもためらうことはない、ソマリアの領海のみならず、領土・領空にも踏み込んでもいいという国連安保理決議1851、堂々たるお墨付きがあるではないか、というわけだ。北京の諸国公使館を包囲する「団匪」を追い散らして何が悪いかという感覚と少しも変わらない。
 ところが驚いたことに、日本政府は「海賊」のことを知らないのである。
 〈政府は2月6日の閣議で、アフリカ・ソマリア沖の海賊について「実態の詳細は把握していない」とする答弁書を決定した。海賊が自動小銃やロケットランチャーを保有していることを「報道等により承知している」と答え、襲撃方法も「具体的内容を逐一把握していない」としている。〉(2月7日付『毎日新聞』)
 これは民主党の平岡秀夫衆院議員の質問主意書への答弁であるが、「海賊」の実態の詳細を把握せず、とにかく海上自衛隊の艦隊を派遣しようというのだ。

◆マスメディアの腰抜けぶり
 マスメディアの論調は総じて、海賊の被害は深刻だから、今回の海上警備行動発令は緊急避難的な対応としてやむを得ないが、海自の艦隊派遣は本来、海賊対処新法(仮称)に基づくべきだというものだ。その腰抜けぶりは本シリーズの前回「その69」でつぶさに紹介した。海自派遣に正面から反対したのは、筆者の知るところ、1月29日付『新潟日報』社説だけである(むろん他にもあるかもしれないし、そうであってほしいが)。
 〈浜田靖一防衛相が海上自衛隊に対してアフリカ、ソマリア沖への出動を準備するよう指示を出した。この海域での海賊被害に対処するのが目的である。遠洋での海賊対策に海自を派遣するための新たな法律制定が間に合わないため、自衛隊法82条に基づく海上警備行動として行われる。論理も筋もない場当たり的な派遣であり、到底容認できない。/そもそも海上交通の安全を確保するのは海上保安庁の任務である。ソマリア沖の海賊被害への対処でも、まず海保派遣が検討されてしかるべきだ。ところが、そうした形跡はほとんど見られない。/すべて海自派遣ありき、で事を運んできたと考えるのが妥当だろう。/浜田防衛相は今回の派遣を「新法ができるまでの応急措置」だと述べる。海外への軍事力展開が応急措置とは恐れ入る。武器使用基準や警護の対象が不明確のままで、不測の事態に対処できると考えているのだろうか。/海賊対策を急ぐなら、なぜ海保の活用を考えないのか。/海自を派遣するとしても、自衛官には逮捕や尋問の権限がないため、海上保安官を同乗させるという。木に竹を接いだような部隊が機能するのか。/陸上自衛隊のイラク派遣の際は「陸自が活動しているところが非戦闘地域だ」とする小泉純一郎元首相の珍説が飛び出した。今度は応急措置だ。憲法軽視も極まれりである。〉

◆韓国の艦隊派遣
 〈アフリカ・ソマリア沖の海賊対策として、日本では海上自衛隊の派遣が検討されていますが、韓国からもこれまで海外に派遣されたことのなかった海軍の艦船などが派遣されることになりました。韓国政府は、4500トン級のヘリコプター搭載型駆逐艦1隻と高速艇3隻を、ソマリアのアデン湾周辺に派遣することをすでに閣議で決定しています。国会の承認後、正式に派遣となりますが、韓国海軍はすでに準備を完了しています。/「今回のソマリア派兵は韓国海軍が初めて国際的な作戦に参加して、海上輸送の安全を守るための活動を展開することになります」(国防研究院 パク・チャングォン研究員)
 しかし初の海軍の海外派遣にもかかわらず、野党から反対の声は聞こえてきません。ソマリア沖にはすでにアメリカ、イギリス、中国などが海軍を派遣しており、韓国国内では国際的な流れに遅れまいとの意識が強いようです。〉
  (1月30日のTBSニュース) 上の記事で国防研究院のパク研究員は「国際的な作戦」に参加するとのべている。韓国の海賊派兵は異常に高揚したムードに後押しされているようだ。次に紹介する韓国紙『中央日報』のコラムには「海賊退治」という言葉が登場する。退治とは、「害を与えるものを殺して、(すっかり)無くすること」である(三省堂『新明解国語辞典』)。桃太郎が鬼ヶ島に乗り込んだのは、鬼を退治するためである。
 〈2006年以降、韓国籍の船舶と船員が被害に遭った海賊事件は9件で、このうち7件がソマリア沖で発生した。したがって韓国籍の船舶と船員の安全を保障するため海軍の艦艇の派遣は避けられない決定だった。/さらに今回の派遣は韓国の国際海洋協力をワンランク高めるよい機会になるという点で意味がある。先月14日に国連本部では米国の主導によりソマリア沖に艦艇を派遣した国が非公式の会合を持ち各国間の協力策が真摯に話し合われた。こうした集まりと構想を通じ、海賊退治と海洋秩序安定のための新たな国際規範と国際協議体が胎動する可能性は少なくない。したがって韓国も海軍艦艇派遣を通じてこうした国際協議体創設過程に主導的に参加できる環境を作る必要があると思う。/合わせてソマリア沖への海軍艦艇派遣は韓中日間の軍事協力も促進する里程標にもなる。すでに韓国海軍と日本の海上自衛隊は数回にわたり海上捜索救助訓練と主要指揮官の交換訪問を通じた信頼と協力体系を構築してきた。韓国の第1艦隊と中国の北海艦隊も相互ホットライン構築を通じた初歩的な段階での軍事的信頼構築措置を取り始めている。しかしまだ微々たる水準だ。したがって、主要海上交通路を共有する3カ国がソマリア沖での艦艇派遣を通じて海賊退治のための情報交換はもちろん、連合訓練などに共同で参加するならば軍事的信頼を深める重要な契機になるだろう。/ソマリアでの海軍艦艇派遣は韓国の海上交通路を保護するのはもちろん、北東アジア域内の国との幅広い海洋協力を増進させるという点で、国益に大きな支えになるものとみられる。〉
   2月4日付『中央日報』の「コラム・ソマリアで韓日中の軍事協力を」
            (朴栄濬〔パク・ヨンジュン〕国防大学)
 海賊退治は「韓中日間の軍事協力を促進する」と言う。韓国初の艦隊派遣が生む異様な高揚感が伝わってくる。

◆日本でも、海自だけでなく空自も陸自もという動き
 2月2日付『産経新聞』「ソマリア沖派遣 防衛省が自衛隊・陸海空の統合運用検討」は重要である。
〈アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、防衛省が陸海空3自衛隊の統合運用を検討していることが2月1日、分かった。中東カタールの米軍司令部に空自連絡官を置く方針を固め、P3C哨戒機部隊が派遣されれば、空自のC130輸送機で日本から物資を定期的に運ぶ。海自の拠点となるジブチでは、陸自による基地警備が可能か検討を始めた。実現すれば、国際平和協力活動で初の統合運用になる。
 海自派遣に伴い、防衛省は、米軍がカタールに置く合同航空作戦センター(CAOC)に空自要員を連絡官として送る。CAOCは米中央軍が管轄する中東やソマリアを含むアフリカ北西部での航空作戦を一元的に指揮する司令部。イラクやアフガニスタンに駐留する英軍や豪軍も要員を派遣している。空自は昨年12月まで10人の要員をCAOCに常駐させていたが、イラクでの輸送任務終了に合わせ、引き揚げさせた。CAOCに復帰することで、イラクやアフガン情勢を把握できるメリットも大きく、派遣時期や要員の規模を詰める。
 海自がP3Cの派遣に踏み切れば、空自は輸送任務も担う。モデルケースになるのは中東ゴラン高原の国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)派遣だ。空自は、平成8年からUNDOFの後方支援を行っている陸自要員に半年に1度の割合で物資を送っており、同様の輸送を行う。C130が日本とジブチを往復する際、給油のための複数の中継地点が必要で、近く候補地の選定に入る。
 陸自も海賊対策に加わることに前向きだ。海自のP3C部隊の拠点には、ジブチの国際空港に近い米軍基地や仏軍基地などが想定される。陸自は駐機場などの警備で要員を派遣できるか検討に着手したが、陸自による警備の必要性については、防衛省内局に慎重な意見もあるという。〉
 今後、事態が、この記事のように、3自衛隊「統合運用」に進むという保証はない。たとえば、ジブチに空自や陸自を派遣するためには、同国との地位協定締結が必要になるはずだ(ジブチに日本大使館はない)。また2月3日、赤星海上幕僚長は特殊部隊「特別警備隊」の乗艦派遣は「検討中」であることを明らかにし、P3C哨戒機の派遣は「隊員が多く、宿舎や治安状況など調査が必要」とし、派遣時期は護衛艦より遅れるとの見通しを示した(2月4日付『東京新聞』)。海自派遣だけでも問題が山積し、「統合運用」となればいくつも問題が噴出しそうである。
 上の『産経新聞』の記事で見逃すべきでないのは、統合運用をイラクやアフガニスタン情勢と関連させていることだ。海自艦隊がインド洋・アラビア海で洋上給油を続けている米艦隊は、アフガンに出撃しているだけでなく、イランを脅しつづけるとともに、記事のようにアフリカ北西部もにらんでいる。クリントン政権下の米国は1993年、ソマリア国連平和維持活動(PKO)を主導し、首都「モガディシオの戦闘」で18人の米兵を失ってソマリアから撤退した。それ以降、地上軍は派遣せず、「アルカイーダの一味」と決めつけるイスラム法廷会議にミサイルを撃ち込んできた。
 この点は重要である。テロ対策特措法成立以来、海自の洋上給油は米軍のアフガン侵略戦争を支援するためだったが、米軍がその燃料をイラク攻撃にも使ったことがNPO「ピースデポ」によって明らかにされた。とすると、同じ燃料がソマリアへのミサイル攻撃のために使用されていた疑いが生じる。もしそうなら、日本は海賊派兵以前に米軍のソマリア介入に加担していたことになる。

◆海自艦隊と多国籍軍との関係
 次の2月3日付『東京(中日)新聞』の記事も非常に重要である。
 〈アフリカ・ソマリア沖の海賊対策に護衛艦やP3C哨戒機の派遣を検討している防衛省は、憲法や自衛隊法の制約から現地で多国籍軍の枠組みに入らず、個別対応する方針であることが2月2日、分かった。/ソマリア沖の海賊対策を行う多国籍軍は、欧州連合(EU)と米国主導の2つある。中国、ロシア、インドなどは個別対応だ。/EUはアデン湾で「アタランタ作戦」(司令部・英国)を展開。英、仏、独、ギリシャの駆逐艦が参加し、(1)世界食糧計画(WFP)の船舶や一般商船の護衛(2)商船への特殊部隊の乗船-という2種類の護衛活動を行っている。/米国は中東のバーレーンに司令部を置き、さまざまな海軍作戦を展開。米主導の多国籍軍「混成任務部隊(CTF150)」が洋上監視を続けるインド洋に先月8日、新多国籍軍CTF151を立ち上げ、海賊の取り締まりを始めた。/海上自衛隊は、新テロ対策特別措置法(給油新法)を根拠に、混成任務部隊で洋上補給を続ける。しかし、CTF151の活動は「攻撃しても武力行使にならない」と日本政府が判断した海賊の制圧が中心とはいえ、憲法9条で禁じた武力行使とみなされる「国または国に準じる組織=一部のテロ組織」との交戦を否定していない。このため、海自の参加は困難と判断した。/EUのアタランタ作戦は海賊対策に特化しているが、海自護衛艦は自衛隊法の海上警備行動を根拠に派遣されるため、可能な活動は「日本関係の船舶を守る」ことだけ。EUのように「護衛を希望するすべての船舶」を守ることはできず、摩擦の原因になりかねないとして、やはり参加を断念する方向だ。〉
 上の記事は「だが、『一般的な情報提供は問題ない』との政府見解に従い、P3C哨戒機が探知した海賊船情報は米軍やEUに提供。多国籍軍司令部への連絡官派遣も計画している。」とも記している。情報の収集と提供は複数の軍隊が共同して事態に対処する際の死活的に重要な作戦であるから、海自が多国籍軍に参加しないと言っても、額面どおり受け取るわけにはいかない。探知した情報を多国籍軍に提供し、しかも部隊の運用調整のため自衛官を多国籍軍に派遣することは、少なくとも多国籍軍への協力であり、海自の艦隊が多国籍軍と共同作戦を展開しないことをもって「多国籍軍に参加しない」と言い切れるのか。しかもそもそもソマリア沖で行なわれる海自による作戦で事実上の「集団的自衛権の行使」がなされたとしても、それを知る者は派遣された海自艦隊以外にはないのだ。

◆「海賊」の正体
 2月3日付『東京新聞』の上の記事には解説がついていて、そこで重要な指摘がなされている。
 〈準備不足は法律面だけではない。政府は近く調査団を派遣するが、日本政府が「民間人」と割り切る海賊たちの正体も不明だ。/大型トロール船を改造した母船に複数の高速ボートを収納し、ソマリア海岸から1千キロも離れた沖合の商船をロケット砲や機関銃で襲撃する姿は、漁民の出稼ぎ感覚でできる海賊行為ではない。/海賊集落のある東海岸のプントランドは、ソマリア暫定政権のユスフ前大統領の出身地だ。同地で外国人による海軍や沿岸警備隊の養成訓練が行われたことと、現在の海賊は無関係なのか。海賊に暫定政権は関与していないのか、本当に民間人の集団なのかとの疑問が浮かぶ。〉
 仮に「海賊」が群雄割拠状態のソマリアで有力な一派をなす勢力を基盤とするのであれば、それは「国に準じる組織」ということになり、海賊対策は「対テロ戦争」と変わらないことになる。
 ソマリア沿岸の漁民の疲弊は、外国の大型漁船(トロール船)が沿岸の漁業資源を根こそぎ奪ったことが原因とたびたび指摘されてきた。また作家の堤未果氏は1月19日付『東京新聞』朝刊に掲載された「本音のコラム・海賊の正体」でこうのべている。
 〈ソマリア海域の海賊事件が急増し、国際海事局が各国に協力を呼びかけている。海上自衛隊派遣の議論が高まる中でふと思う。そもそもこの「海賊」とは何者なのだろう?
UNEP(国連環境計画)の職員ニック・ナトール氏は英紙のインタビューで、1990年代初めに欧米の大企業がソマリアの政治家・軍幹部と交わした廃棄物投棄協定について指摘する。/内容はそれらの企業が今後ソマリア地域沿岸に産業廃棄物を投棄することを認めるというものだ。その後、放射性物質に汚染された地域住民数万人が発病、国連が調査した結果、有害化学物質によるものであることが明らかになった。海域を汚染する外国企業に生活手段を奪われ、いくら訴えても動かない国連に見切りをつけたソマリア漁民は自ら武器をとり、やがて「海賊」と呼ばれるようになったという。〉
海賊の正体についてここでは断定せず、さらに資料を渉猟したい。海賊派兵は迫っている。海自呉基地から護衛艦の「さみだれ」(基準排水量4550トン、76ミリ速射砲などを装備)と「さざなみ」(同4650トン、127ミリ速射砲などを装備)が派遣される(ともに対潜ヘリを一機ずつ搭載。小回りのきく機関銃を置く銃座を新設)。

 しかし海自の艦隊はまだ出港していないのだ。暴挙を止める時間はわずかだが残されている。政府が内容の確定を急いでいる海賊対処新法案が海外派兵恒久法の下敷きであることは言うまでもない。海賊派兵阻止に全力をあげようではないか。(2009・2・8記)

★ 最も効果的な経済対策は戦争?★例会報告と2月の予定 ★

2009年02月06日 | 読者会定例会
 1月の練馬読者会例会では主に、オバマ米新大統領就任に合わせた本誌特集(1/16号オバマの危険)について討論した。
 経済危機を背景に「チェンジ」に対する期待が米国内外で高まるなか、やはり初のアフリカ系大統領ということで期待する声と同時に、本誌記事の指摘のように対外強硬派で固めた政権陣容に対する危惧の声も…。

 イラク撤退を表明しつつアフガニスタンへは戦力を増強し、パレスチナを攻撃し続けるイスラエルにはかたくななまでに支援を続けるオバマ氏。やはり、“世界の期待”には応えられない米国の抱える限界を感じざるを得ない。

戦争が最も効果的な経済対策」は米国では依然常識なの?

 その他に「人は事実や理屈を並べただけでは動かない、情や力に流される」という話から、ではどすればいいかという永遠のテーマへ。。。続きは2月例会で。
(鈴木)

 練馬読者会2月例会

  日  時:2009年2月28日(土) 19時から
  会  場:喫茶ノウ゛ェル(西武池袋線大泉学園駅北口駅前)
  会  費:喫茶代
  問合わせ:nerikinjyutu@mail.goo.ne.jp
       または03-3925-6039 近藤まで。

★★ なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 (4)★★

2009年02月04日 | みんなの日記
いま麻生内閣がやろうとしている“定額給付金のバラマキ”と“海賊退治に自衛隊派遣”は、文字どおりあってはならないみぞうゆう(未曾有)の悪政・愚策だ。

ソマリア沖に日本軍を出すことにネトウヨがはしゃぎ、《阿倍・田保神的劣情人士》(参考)は巻き返しを画策するも、世論は麻生内閣不支持率と同じかそれ以上の割合でソマリア沖自衛隊派遣に反対だろう。(参考)武器使用の拡大で海上自衛隊の隊員が人を殺すという可能性が高まるのだから、多くの自衛隊員だって反対の筈だ。(参考

 「なにが何でも自衛隊派遣」の理由付けに沿岸警備隊たる保安庁の能力的限界が持ち出される。
 ところが海上保安庁は1992年、イギリス(セラフィールド)とフランス(ラアーグ)の再処理工場で、日本の原発から排出されたプルトニウムを含む使用済み核燃料を再処理したMOX燃料を日本に運ぶため、大型艦載ボート、ヘリ搭載、35mm砲など200億円をかけて「しきしま」を建造、運行している。保安庁の大洋遠征能力は証明済み?だ。
http://zerowaste.jp/press/99/release/19990128.html
 また、海上保安庁はインドネシア海域で“海賊退治”の訓練を繰り返してきたようだ。
http://www.jakartashimbun.com/pages/yashima.shtml
 しかし、インドネシア海域に話が行くと海賊退治の「能力の証明」?とは別に、《戦うべき相手は“海賊”か?》、《ODAがらみの武器輸出にならないか?》など、軍の海外派兵とは次元の異なる問題(憲法上の疑義)をもっていることにも気付く。

 では、ソマリアの海賊とはどんな“賊”なのか。

ウィキペディア(09.2.1)によれば、《ソマリア海賊の社会背景》は「海賊たちはもともと漁業に従事していた漁民であった者が多い。モハメド・シアド・バーレ政権時代には欧州や日本がソマリアの漁船や漁港の整備に対して援助を行っていた。ソマリア船の漁獲のほとんどは、魚を食べないソマリア国内ではなく海外への輸出へと回していたが、1991年のシアド・バーレ政権崩壊後は内戦と機能しない暫定政府(無政府状態)が要因で魚の輸出ができなくなり漁民の生活は困窮した。また管理のされていないソマリア近海に外国船が侵入して魚の乱獲や武器密輸を行ったため、ソマリアの漁民は外国船の出没を生活の脅威ととらえて武装を始めた。
2005年ごろから海賊に乗り出す組織はあったが、2007年以降海賊行為の成功率の高さと身代金の高さに目をつけた漁民らが組織的に海賊行為を行うようになり、地方軍閥までが海賊行為に参入し海賊たちから利益を吸収している。
ソマリアの海賊たちには内戦に関わる政治的動機やイスラム過激派などの宗教的動機は見られず、物資押収や殺戮ではなく人質の属する船会社などから身代金を取ることが主な目的である。海賊たちは人質に銃を突き付けるなどの荒々しい行為を行うこともあるが、金銭と交換可能な取引材料である人質に対しての暴力や虐待などはない。海賊は、現在のところ人質にパスタや肉などの食事を与え一応生命を保証しており、たばこや酒などの嗜好品も与えている。2008年4月にフランス軍が制圧した海賊のヨットからは人質に対する虐待や強姦を禁じる『規則書』が発見されている。」WIKIと、説明される。

さらにこれらの点についてマスゴミ情報に流されず自分の頭で考えるための勉強会(フォーラム)が開かれるので、紹介する。この勉強会のコメンテータでもある小林アツシさんのブログは、ソマリアの海賊についてわかりやすくまとまっている。
(練金術師)
ソマリアの海賊問題と自衛隊派兵を考える
3月9日(月)18:30~けんぽう市民フォーラム研究会

1月28日、政府・防衛省はアフリカ・ソマリア沖の海賊対策に、応急措置として自衛隊法82条の海上警備行動を発令して海上自衛隊を派遣する方針を正式決定し、自衛隊にその準備を指示しました。一方で、政府は3月に「海賊対策全般」を定める新法の国会提出を目ざすとしています。国会でのまともな議論もないままに、政府が一方的に強行しております。どうしてかくも急ぐのでしょうか。そもそもソマリア海賊とはなにか、どうすればこの問題は解決するのか。この問題で自衛隊法でいう海上警備行動を適用するのは妥当なのか。憲法第9条との関係で海賊対策新法は問題が大きいのではないか。
いま、私たちが考えるべき多くの問題があります。ご参加下さい。

お話:藤本俊明(神奈川大学:国際法・国際人権法)
コメント:小林アツシ(テレビ・ビデオ・ディレクター)
資料代(会員外):500円
会場は専修大学神田校舎1号館13A会議室(13階)
主催:けんぽう市民フォーラム03(3221)4668

★なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 ()()()(4)


★★ なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 (1)★★

2009年02月02日 | 練馬の里から
反戦の視点・その69
海賊派兵をめぐる各紙の主張を読む<1>

            井上澄夫(市民の意見30の会・東京、
                 沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック) 
【はじめに】 
 ソマリア沖で起きている海賊行為に対処するとして、麻生首相が海上警備行動の発動を急いでいる。浜田防衛相は1月28日、赤星海上幕僚長に海自艦隊の派遣を準備するよう指示した。
 政府の当面の方針は、まず海上警備行動を発令して海上自衛隊の艦隊をソマリア沖に派遣し、その後3月上旬、海賊対処法案(仮称)を国会に提出するというものだ。海上自衛隊はもともと「海賊行為への対処」など想定していなかったから、当然のことながら、そのための訓練などしていない。1月22日付『朝雲新聞』(自衛隊の準機関紙)はこう伝えている。
 〈赤星海幕長は1月20日の定例記者会見で、海賊対策として海上警備行動が発令された場合の武器使用基準について、「海自発足以来、海賊に対しての議論、検討、教育というものはほとんない。どのような状況になるのか想像がつかない」とした上で、「武器使用基準は防衛省だけで議論できるものでもない。知見のある関係省庁の意見を聞きながら検討していかなければならない非常に重要な問題だ。きちんとしないと現場の指揮官が判断に迷ったり、部隊が困惑すること
につながる」と述べた。
 海自の準備状況については「まだ、大臣から指示を受けているわけではない。具体的な派遣の内容により、検討項目も限定されてくる」と述べた。〉
 しかし1月22日に開かれた与党プロジェクトチームは、武器使用基準については警職法7条(正当防衛・緊急避難)によると決めたものの、使用する武器の種類や交戦規定(ROE、自衛隊用語では部隊行動基準)については海上自衛隊に丸投げした。要するに政府・与党はやっかいなことを海上自衛隊に押しつけ「よきにはからえ」というのだ。
 陸上自衛隊は2006年7月にイラクから撤退、航空自衛隊も2008年末、帰還した。しかし、海上自衛隊は2001年12月から今日に至るまで、ほんの一時期の作戦休止をはさんで、インド洋・アラビア海でアフガニスタン侵略を続ける米艦船などへの洋上給油を続けている。そしてそれは今年1月から1年間続く。そこへさらに海賊対処の海上警備行動発令である。長期化する洋上給油に海賊対処が加わるのだ。
 海自の艦隊(補給艦と護衛艦のセット)が疲労の極に達していることはマスメディアでも伝えられているが、実際、現場の海自隊員たちはたまったものではないだろう。つい先日も、現在、呉基地にいる補給艦・とわだの隊員が自殺したが、私たちは個々の隊員の苦境にもっと思いを致すべきではないだろうか。
海上警備行動発令と海賊対処法案にかかわる諸問題については、本シリーズの次回(その70)で詳述する予定だが、ここでは海賊派兵についての各紙の主張をとりあげる。

◆征け征けドンドンの主張

▼2008年11月30日『日本経済』
社説 ソマリア沖の海賊対策に日本も加われ

 アフリカのソマリア沖とアデン湾で急増する海賊被害から民間の船舶を守るために日本も海上自衛隊を派遣する必要がある。
 このための特別措置法の制定を求める超党派の議員連盟も出ている。集団的自衛権をめぐる現行の憲法解釈を見直し、効果的な活動を可能とする法整備が要る。
 国連安保理は10月、この海域での海賊に対する武力行使も含めた対応を各国に認める決議を採択した。北大西洋条約機構(NATO)が監視活動にあたる。米英仏独ロに加えてカナダ、スペイン、インドも艦船を派遣、欧州連合(EU)も軍事面の調整にあたる。
 国際的協力の輪に日本も無関係ではいられない。議員連盟の動きに歩調を合わせて政府も特措法の検討を始めたとされる。
 内容は(1)ソマリア沖を航行するタンカーなどを護衛する(2)海賊船を発見した場合、停船を求め、被害を未然に防ぐ(3)海賊船から攻撃を受ければ、正当防衛に必要な武力を行使する――などが柱とされる。P3C哨戒機による洋上監視も選択肢に挙がっている。
 いずれも危険を伴う活動である。自衛官たちの安全のためには武器使用基準の緩和が必要になる。現場海域では海賊が機関銃やロケット弾を使って先制攻撃を仕掛けてくる例もあるとされるからだ。現場の状況を考えれば、外国船舶も守らないわけにはいかない。その場合、集団的自衛権行使を禁じた現行の憲法解釈
が問題になる。
 政府は「海賊は私的集団なので、外国籍船を守っても集団的自衛権行使には当たらない」とするが、外国籍船や他国の軍艦船が正体不明の集団に襲われた場合はどうか。解釈変更なしに守れるのだろうか。

 『日本経済』はいち早く「集団的自衛権をめぐる現行の憲法解釈を見直し、効果的な活動を可能とする法整備が要る。政府は『海賊は私的集団なので、外国籍船を守っても集団的自衛権行使には当たらない』とするが、外国籍船や他国の軍艦船が正体不明の集団に襲われた場合はどうか。解釈変更なしに守れるのだろうか。」と、海賊派兵にからめて集団的自衛権行使についての憲法解釈の見直しを打ち出した。また「自衛官たちの安全のためには武器使用基準の緩和が必要になる。」と主張した。この2つの主張は他紙に比べて突出しているが、海賊派兵の強行によって麻生政権がたくらんでいることを「正直に」代弁している(むろんほめているのではない)。続けてもう一つの同紙社説を紹介する。

▼2008年12月24日付『日本経済』
社説 なぜ遅れる自衛艦の派遣

 海賊対策のためのソマリア沖への海上自衛隊の艦艇派遣がまだ決まらない。麻生太郎首相が民主党の長島昭久氏らに対する国会答弁で前向きの姿勢を示したのは10月17日である。日本が「検討」を続けているうちに中国が艦艇派遣を発表した。
 自衛艦をソマリア沖に派遣するには(1)海上警備行動の発令(2)特別措置法の制定(3)自衛隊の国際協力活動を定めた一般法(恒久法)の制定――の3つの方法が考えられる。
 最も望ましいのは集団的自衛権の憲法解釈を変えたうえでの一般法制定だが、合意形成が現段階では難しい。特別措置法は一般法よりは合意しやすく政府が検討しているとされるが、実現の見通しは立たない。
 首相答弁から2カ月たっている。まだ検討が終わっていないとすれば遅すぎる。とりあえず海上警備行動を発令し、最低限の行動をするのも一案である。少なくとも海賊に対する抑止力の強化になる。
 中国艦艇のソマリア沖派遣は、歴史的とされる。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は「近代になって初めて」の小見出しをつけて伝えた。中国海軍の活動範囲の拡大が米海軍の行動の障害となると考え、日米両国が神経をとがらせてきたのも事実である。
 仮に日本政府がきょう海上自衛隊の派遣を決めても、出発までの準備に2週間以上かかる。出発からソマリア沖に着くまでにはさらに3週間かかるだろう。その間に、日本の船舶が海賊の被害に遭い、中国艦艇に守ってもらう事態もありうる。海賊封じ込めのための国際協調行動だから当然ではある。同時に、警戒してきた対象に守ってもらうのだから複雑な反応を引き起こす。

 この社説では「最も望ましいのは集団的自衛権の憲法解釈を変えたうえでの一般法制定」と主張しつつも「とりあえず海上警備行動を発令し、最低限の行動をするのも一案である。」とのべている。首相答弁以来、海賊対策が遅々として進まないことに苛立っている。興味深いことは、「中国海軍の活動範囲の拡大が米海軍の行動の障害となると考え、日米両国が神経をとがらせてきたのも事実である。」とのべていることだ。それは、ソマリア沖への中国の軍艦派遣への焦りが、単なるライバル意識によるものではないことを示している。麻生首相による艦隊派遣は海賊対策だけを目的とするものではなく、紅海の出入り口を扼するアデン湾での軍事的プレゼンスを狙っているのだ。

▼1月10日付『産経』
 【主張】ソマリア海賊 海上警備行動で対応せよ    

 アフリカ・ソマリア周辺沖での海賊を抑圧するため、海上自衛隊艦船を派遣することなどを検討する与党プロジェクトチームの初会合が開かれた。現行法活用と「海賊新法」制定の両面を協議し、3月中旬ごろまでに結論を出すとしている。
 麻生太郎首相が海賊被害に対応するため、海上自衛隊の活用を前向きに検討すると表明したのは昨年10月17日だ。3カ月近くの間、与党と関係省庁は一体、何をしてきたのだろうか。
 国連安全保障理事会は昨年、3回にわたり各国に海賊行為制圧を求める決議を採択した。主要8カ国(G8)で艦船を出していないのは日本だけだ。中国艦艇3隻は6日から商船を護衛してる。
 世界が一致して海賊を取り締まる行動を展開しているさなか、日本は「検討中」と、言い続けているだけだ。国際社会の責任ある一員としての役割を果たしているとは、とてもいえない。
 海警行動は、海上の治安維持のために必要な行動をとると自衛隊法第82条に明記されている。外国船を助けるのも人道上の行為であり、国際法的に問題はない。
 何もしないことは日本の国益を損なう。海警行動で迅速かつ有効な対処は可能だ。防衛相に速やかな発令を求める。

 『産経』の「国連安全保障理事会は昨年、3回にわたり各国に海賊行為制圧を求める決議を採択した。主要8カ国(G8)で艦船を出していないのは日本だけだ。中国艦艇3隻は6日から商船を護衛している。国際社会の責任ある一員としての役割を果たしているとは、とてもいえない。」という主張は、麻生首相と外務省の焦りを代弁している。「何もしないことは日本の国益を損なう。海警行動で迅速かつ有効な対処は可能だ。防衛相に速やかな発令を求める。」とは、「初
めに派遣ありき」論調の典型である。
 
▼1月23日付『読売』
社説 海賊対策新法 現行法での対応は応急措置だ

 現行法による海上自衛隊の派遣は、あくまで暫定措置だ。海賊対策新法による対応が依然、急務で、怠るべきでない。
 ソマリア沖では、1日平均5、6隻の日本関連船舶が運航している。いつ重大な海賊被害が発生してもおかしくない。現行法に基づく海自派遣は、迅速性を優先した「応急措置」と言える。
 防衛省は今後、船舶警護と海賊対処に関する部隊運用基準の作成や、それに基く部隊の教育訓練などの派遣準備に万全を期すべきだ。関係国との調整・協力や事前の情報収集も大切だろう。
 一方で、防衛省が従来、現行法での派遣に過度に慎重だったことには、大いに
疑問がある。現行法での派遣は、他国の船を守れず、武器使用に一定の制限がある。現場指揮官が判断に迷う場面があるかもしれない。しかし、日本国民の生命・財産を守ることこそが自衛隊の最大の使命だ。
 現場指揮官の負うリスクと、日本関係船舶が海賊の脅威にさらされ続けるリスクのどちらを優先すべきかは自明だろう。

 『読売』の「日本国民の生命・財産を守ることこそが自衛隊の最大の使命だ。現場指揮官の負うリスクと、日本関係船舶が海賊の脅威にさらされ続けるリスクのどちらを優先すべきかは自明だろう。」という文言は海自に対する脅迫である。自衛隊の任務はそもそも「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つ」ことであり(自衛隊法第3条)、そこで言う「国」は政府の行政機構のことである。そこに私たち一人ひとりは含まれない。自衛隊にとって私たちは治安出動の対象で
しかない(同条「〔自衛隊は〕必要に応じ、公共の秩序の維持に当る」)。
 「日本国民の生命・財産を守る」のは警察、あるいは海の警察である海上保安庁である。同紙は自衛隊の任務を勝手に拡大解釈しているが、これでは防衛省・
自衛隊は面食らうだろう。※この項つづく
(井上澄夫)
★なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 (1)()()(

★★ なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 (2)★★

2009年02月02日 | 練馬の里から
反戦の視点・その69 海賊派兵をめぐる各紙の主張<2>

◆ぐずぐず言いつつ海上警備行動発令やむなし

▼1月24日付『朝日』社説 〔海賊対策〕新法での派遣が筋だが

 政府は来週、方針を正式に定め、早ければ3月中にも護衛艦が現場海域へ向かう。
 ソマリア沖には、すでに欧米や中国など約20カ国が軍艦を派遣し、貨物船やタンカーの護衛にあたっている。だが、海賊行為は増え続け、最近では未遂も含めて2日に1件のペースだ。
アデン湾はアジアと欧州をつなぐ要路だ。1日平均6隻もの商船が航行している日本も何もしないではすまされない。
 海賊行為は犯罪であり、本来は海上保安庁の仕事だ。しかし、日本をはるかに離れたアデン湾で長期間、活動するのは、海上保安庁の装備や態勢では実質的に難しい。また海賊行為からの護衛は、憲法が禁じる海外での武力行使にはあたらない。国際社会に協力を呼びかけた国連安保理決議もある。事態の深刻さを考えれば、護衛艦の派遣はやむを得ない判断だろう。
 ただし、派遣の法的根拠となる自衛隊法の「海上警備行動」はそもそも日本の領海や周辺を想定したものだ。今回は極めて例外的な措置であることを忘れてはならない。
 本来なら、海賊を取り締まることを目的とした法律をつくり、自衛隊のできること、できないことをきちんと規定したうえで派遣すべきだ。
 政府は法案を通常国会に提出すべく準備している。課題は多いが、たとえば武器使用は正当防衛と緊急避難に限った警察官職務執行法を原則とし、かつ効率的な海賊取り締まりができるよう工夫をしてもらいたい。

麻生首相が泣いて喜ぶ主張だろう。「海賊行為からの護衛は、憲法が禁じる海外での武力行使にはあたらない」と言うが、憲法第9条は戦力の不保持を定めているのだから、武力行使に当たるか当たらないかにかかわらず、もともと自衛隊という戦力を海外に派遣すること自体が憲法違反なのである。
 そればかりか、問題の海域では英海軍がすでに銃撃戦で海賊2人を殺している。海自も海賊との交戦は大いにあり得るのだ。ROE(交戦規定、部隊行動基準)があいまいなまま海自の艦隊は派遣される。
それにしても、『朝日』は海賊取り締まり法を制定して自衛隊を堂々と世界の問題海域に派遣せよと主張しているのである。この社説で特徴的なことは海賊派兵が「長期間」にわたると勝手に決めていることだ。政府も与党も海上警備行動の期間に触れていない。海自は驚いているかもしれない。
 ※ 1月28日付同紙声欄に上の社説を批判する投書が掲載された。参考のため、一部を略して引用する。

 ◎海賊対策には海保派遣が筋 会社員 高橋  迪(東京都江東区 64)
自衛官による海賊対策を容認した24日社説を読み、海上保安庁OBの私は納得できません。海賊は誘拐や身代金を要求する刑事犯罪であり、対策は治安官庁である海保の巡視船の責務です。/同庁長官が昨年10月、「総合的に勘案すると(海保の)巡視船を派遣すことは困難」と答弁しました。それが今の海上自衛隊の派遣論議につながっています。/海保の巡視船は世界一周航海ができ、欧州から日本までプルトニウム運搬船の護衛経験があり、北朝鮮不審船対応の武器、防護能力もあります。長官は配下の能力を理解せぬまま責務を回避した格好です。答弁内容をマスコミや国会は精査せず、まず自衛隊派遣ありきとする政治家の言
説に利用されています。(以下略)

▼2008年12月27日付『毎日』
社説:海賊に自衛隊派遣 国会審議経た新法対応が筋だ

 麻生太郎首相がソマリア沖の海賊対策で、浜田靖一防衛相に自衛隊派遣の検討を指示した。首相は、新法制定を目指しつつ、それまでの「つなぎ」として、自衛隊法82条の「海上警備行動」発令による海上自衛隊派遣という「2段階対応」を考えているようだ。
 ソマリア沖やアデン湾は世界貿易の大ルートだ。ここを航行する船舶は年間約2万隻を数え、約1割が日本関係の船舶である。輸入大国・日本にとって海上輸送の安全確保は極めて重要であり海賊対策は国益にかなう。自衛隊派遣も、海
賊対策の有効な方策の一つであろう。
 自衛隊の海外派遣は、武器使用基準など十分な国会審議を尽くしたうえで、新たな法律で対応すべきである。これを先送りし、当面、海警行動で乗り切ろうとする手法には問題もあり、慎重な検討が求められる。
 海警行動は、99年の北朝鮮不審船事件と04年の中国原子力潜水艦領海侵犯事件で発動されたことがある。今回、発動されれば海警行動による初の自衛隊海外派遣となる。「海の治安出動」と言われる海警行動は本来、日本の周辺海域を想定したものであり、与党内にもソマリア沖への派遣を疑問視する声がある。また、外国商船を護衛することもできない。海自には海賊を逮捕するノウハウもない。武器使用基準や、逮捕した海賊の身柄の取り扱いも今後の検討課題である。
 首相が海警行動で派遣を急ぐのは、総選挙を控えて与野党の対立が激化し、新法の成立が見通せない事情に加え、今月の中国の海軍艦艇派遣で「乗り遅れるな」という焦りがあるのだろう。しかし、泥縄的な対応との印象は免れない。
 海賊対策は軍事ばかりではない。日本は、東南アジアの海賊対策で「アジア海賊対策地域協力協定」策定を主導し、マラッカ海峡周辺国に海上保安庁の巡視船を提供するなどして海賊封じ込めに成功した実績がある。こうした経験を生かすべきである。

 『毎日』の「輸入大国・日本にとって海上輸送の安全確保は極めて重要であり、海賊対策は国益にかなう。自衛隊派遣も、海賊対策の有効な方策の一つであろう。」という主張も麻生首相を喜ばせる主張である。『読売』と『産経』は海賊派兵の旗振り役であり、『朝日』も『毎日』も政府に追い風を吹かせているのだ。
 『毎日』は「自衛隊の海外派遣は、武器使用基準など十分な国会審議を尽くしたうえで、新たな法律で対応すべきである。これを先送りし、当面、海警行動で乗り切ろうとする手法には問題もあり、慎重な検討が求められる。」と言うが、これはまさにとってつけた言い訳にすぎず、結局、海賊対処法を制定してしっかりやれと言っているのである。
 「海賊対策は軍事ばかりではない」という主張は同紙が初歩的な常識を欠いていることを示している。海賊には警察行動で対処すべきで、軍艦を派遣すべき問題ではない。初めから海上保安庁の仕事である。

▼1月26日付『愛媛』
社説 海賊対策に海自派遣 解決すべき問題点も多い

 アフリカ・ソマリア沖の海賊対策で、政府は海上自衛隊の艦船を派遣することを決めた。浜田靖一防衛相が明日にも自衛隊に派遣準備を指示、早ければ3月中に現場海域で活動を始めることになる。
 国際海事局(IMB)のまとめでは、昨年ソマリア沖のアデン湾で発生した海賊被害は92件。世界全体の三割を占める。日本の海運会社が運行する船が襲われたケースも3件あった。日本にとってこの海域の安全確保は死活問題。欧米各国や中国、インドが艦船を派遣するなか、日本も何もせずには済まされないだろ
う。
 海賊に対しては、国籍にかかわらず処罰できるとした国連海洋法条約がある。国連安全保障理事会もソマリア領海での海賊制圧を認める決議を採択している。
 本来なら海上航行の安全確保は海上保安庁の職務だが、遠いアフリカでロケット砲などで武装した海賊に立ち向かう装備はない。海自艦船の派遣はやむを得まい。
 派遣の根拠は自衛隊法に基づく海上警備行動だ。しかし、もともと日本の領海を想定したもので、浜田防衛相が「応急措置」と認める通り、見切り発車は否めない。また、韓国とも海賊対策で協力し合うことで合意している。海自艦船は韓国艦船と同じ活動はできない。お互いの役割分担をきちんと詰めておくべきだろう。
 ただ、自衛隊の海外派遣には異論もある。現場では集団的自衛権の行使とのか
ね合いも出てこよう。国会で徹底的に議論すべきだ。

 『愛媛』も「海自艦船の派遣はやむを得まい」と主張するが、『朝日』や『毎日』との違いは「現場では集団的自衛権の行使とのかね合いも出てこよう。国会で徹底的に議論すべきだ。」とのべていることだ。麻生首相が諸国軍艦の群に自衛隊艦船が伍することで、事実上の集団的自衛権行使の先例を作ろうとしていることに気付いているようだ。
 1月12日にソウルで行なわれた麻生太郎首相と李明博大統領の首脳会談で、両国はソマリア沖での海賊対策で協力する方針で合意した(1月26日付『東京』)。協力項目は(1)要請に基づき両国の船舶を相互に警護(2)航行する船舶情報の共有(3)日本が周辺国と協力しているマラッカ海峡の海賊対策に関して日本が情報提供─などが検討されているというが、この「協力」には集団的自衛権の行使にあたる要素が含まれているのではないかを大いに疑うべきである。両
国で艦隊を編成することは想定していないというが、そうしなくても集団的自衛権は行使できる。

◆懸念あり慎重論

▼2008年12月29日付『山陽』
社説 海賊対策 貢献活動は幅広い視点で  

 麻生首相が海賊対策で海自活用に言及したのは10月中旬だった。当初は新法を制定しての派遣案だったが、衆参両院のねじれ国会で成立のめどが立たない。そこで、まずは海上警備行動による派遣となったようだ。
 ソマリア沖や周辺海域では今年、海賊事件が急増、24日現在で109件と昨年1年間の倍以上に達している。各国が艦船を派遣しており、政府としては「ただ乗り」批判を恐れたようだ。加えて先日中国海軍も参加し、外務省を中心に
「日本だけ乗り遅れるわけにはいかない」と焦りが出ているという。
 しかし、首相の指示に対し、浜田防衛相は慎重な姿勢を示した。海上警備行動にはいろいろと制約があるからだ。
 実際に派遣となればロケット砲や自動小銃で重武装した海賊との戦闘を想定しなければならない。だが、海上警備行動には警察官職務執行法が準用され、武器使用は原則として正当防衛か緊急避難に限られる。「ためらえば自分たちの命が
危ない」「護衛艦の武器で応戦すれば過剰防衛にならないか」など、海自隊員には不安の声が強い。
 ある自衛隊幹部は「国会で新法が通らないから取りあえず海上警備行動で、という発想自体に疑問が残る」と話している。こうした無理が出るのは海上警備行動がそもそも日本周辺海域での活動を前提とし、さらにいえば日本の法体系が基本的に今回のような事態を想定していないからだ。現行憲法に基づく戦後の歩みからしていうまでもないことで、だからこそ今回も最初に新法制定案が出てきた。
 海上警備行動であっても、自衛隊の海外派遣のなし崩し的な拡大につながりかねない点ではこれまでと同じだ。海外での自衛隊の活用には、抑制的な姿勢が求められる。
 自衛艦派遣以外にも日本ができる貢献策はある。国会の場で、幅広い視点に立った与野党の建設的議論が望まれる。

 『山陽』の「海上警備行動であっても、自衛隊の海外派遣のなし崩し的な拡大につながりかねない点ではこれまでと同じだ。」という主張は重要である。麻生首相はこの点こそ隠したいのだ。オバマ政権は予想されたとおり、アフガニスタンで日本がもっと大きな役割を果たすべきだと迫っている。福田前首相は昨年のG8洞爺湖サミットの際、アフガン派兵を目玉にしたかったが、結局、全土が戦闘地域であるアフガンに陸自や空自を送り込むことは断念した。
 しかしオバマ政権が諸種の復興支援ではなく、自衛隊が米軍やISAF(国際治安支援部隊、NATO〔北大西洋条約機構〕)の作戦に参加することを求めているのは明らかだ。麻生首相にはそれに応える心の準備があると見ておくべきだろう。 

▼1月26日付『西日本』
海賊対策へ海自 危うさ残す見切り派遣だ

 アフリカ東部ソマリア沖の海賊取り締まりに、自衛隊法82条の海上警備行動を発令して海上自衛隊艦船が派遣されることになった。政府方針を自民、公明の両与党も了承した。
 現行法での派遣は、海賊対策への自衛艦派遣を定める新法制定までの「応急的な措置」というが、武力行使も想定される自衛隊の海外派遣である。十分な議論を踏まえた慎重な判断が必要だ。
 国会の議論をほとんど経ないままの今回の派遣は「見切り発車」の感を否めない。このような自衛隊海外派遣が国会のチェックなしにまかり通るようでは、文民統制を危うくしかねない。実際の派遣までにはまだ時間がある。いまからでも国会で与野党の本格的な論議を求めたい。
 とはいえ、ソマリア海域での海賊被害の深刻さ、国連安全保障理事会の制圧決議などを考えれば、日本が海賊対策に協力するのは当然だろう。同海域を年間2000隻前後の船舶が通航する日本が傍観しているわけにはいかない。その点では、政府が海賊対策を急ぐのは理解できる。
 しかし、なぜいきなり自衛艦なのか。海上の安全と秩序を守るのは本来は警察機関である海上保安庁の任務である。海上警備行動は海保の巡視船では対処が難
しいなど特別の事情がある場合に、自衛隊に発令される。しかし、海保ではなぜだめなのか、その検証が国会で十分に論議された形跡はない。「海保では無理だから海自を」では説得力を欠く。
 政府は武装した海賊との銃撃戦も想定されるという説明をしている。人命損傷の危険があるからということだろう。そうであるなら、なおのこと慎重な判断が求められる。
 例えば武器使用。警察官職務執行法を準用して正当防衛と緊急避難に限るとしているが、その判断をどういう基準で行うのか、海賊船が警告を無視するなど正当防衛や緊急避難では対処できない不測の事態にどう臨むのか。
 具体的な基準は防衛省が作成するというが、文民統制の本旨からすれば、好ましいことではない。やはり国会の場で議論して詰めておくべきだ。
 今回の派遣指示が、政府・与党が今国会に提出を予定している海賊対策法案に向けた自衛隊派遣の実績づくりだとすれば、そんな理由で派遣される海上自衛隊こそ不幸である。

 『西日本』の「しかし、なぜいきなり自衛艦なのか。海上の安全と秩序を守るのは本来は警察機関である海上保安庁の任務である。海上警備行動は海保の巡視船では対処が難しいなど特別の事情がある場合に、自衛隊に発令される。しかし、海保ではなぜだめなのか、その検証が国会で十分に論議された形跡はない。『海保では無理だから海自を』では説得力を欠く。」という指摘はもっともである。海自に海賊対処の準備がないのに、「海保では無理だから海自を」と政府が強弁
するのは、くりかえし指摘したように「初めに海自派遣ありき」だったからである。「とにかく一刻も早く海自艦隊を出せ」と麻生首相が焦っているからである。既成事実をまず造り上げれば、法律はあとからついてくるという、小泉元首相が
2001年の〈9・11〉に対応してとった姿勢が、麻生首相に受け継がれているのだ。
※この項つづく(井上澄夫)
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★★ なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 (3)★★

2009年02月01日 | 練馬の里から
反戦の視点・その69 海賊派兵をめぐる各紙の主張を読む<3>

▼1月27日付『北海道』
社説  ソマリア派遣 「積み残し」が多すぎる
 アフリカ東部ソマリア周辺海域の海賊対策のため、海上自衛隊の護衛艦が3月中にも現地へ派遣されることになった。
 ソマリア周辺での海賊被害は深刻だ。国連は共同対処を呼びかける決議を繰り返してきた。日本も手をこまぬいているわけにはいかないというのが政府・与党の言い分である。
 だが、これまでの議論の進め方は拙速だ。そもそも警備行動は日本近海での活動を想定している。海自艦をアフリカ沖へ送り出すことは法の拡大解釈にならないか。
 政府は、海上保安庁の巡視船では装備が不十分で対応できないと説明してきた。
本当にそうか、しっかり検証する必要があるだろう。それがなおざりにされ、多くの課題が積み残されている。その一つは武器使用基準をめぐる問題だ。
 海上警備行動では正当防衛と緊急避難に限って武器使用が認められている。具体的にどんな状況で発砲が可能か。与党は肝心な点を詰め切れず、基準作成を防衛省に委ねた。
 海賊を拘束した後の措置も明確でない。派遣決定の前に政治の側がガイドラインを示すのが筋だ。その議論がないのでは、現場で判断を迫られる自衛官はたまらないだろう。
 しかも、基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。
 その場合も治安活動であり海外での武力行使に当たらないというが、平和憲法の理念に沿うだろうか。
 政府は海上警備行動を「つなぎ」とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。

 『北海道』の「武器使用基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。」という指摘は適切である。 武器使用基準が非公開なら、実際に戦闘が起きたケースについて、海自がどう事後報告しようと信憑性が疑われる。海上での交戦についてあれこれ正当性が言い立てられても、現場を見ているのは海自隊員と海上保安官だけである。他に誰も見ていないのだから、真相が闇に葬られる可能性は十二分にある。イージス艦・あたごが漁船を沈めたとき、海自の関係者がどう口裏を合わせようとしたか、私たちはよく知っている。しかもそもそもどうやって海賊と認定するのか、漁民や難民という可能性もあるのではないか。海賊らしい、海賊のようだということだけで外国人を殺傷することは犯罪である。
 同紙の「政府は海上警備行動を『つなぎ』とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。」という指摘も重要だ。海賊対処法は海外派兵恒久法(一般法)を制定するためのワンステップにすぎない。すべてはアフガン本土派兵、そしてその次を見据えた動きである。

◆その他の主張  
いくつかの地方紙を短く紹介する。これまでに問題点はあらかた出尽くしているので、コメントはつけない。

▼2008年12月27日付『神戸』「海賊対策/海自派遣を急ぐのでなく」
 〈アフリカ東部ソマリア沖で横行する海賊から日本船舶を守るため、麻生首相が浜田防衛相に海上自衛隊艦船の派遣を検討するよう指示した。自衛隊法に基づく海上警備行動発令を想定しているようだ。/政府は派遣の根拠となる新法案を策定中だが、「ねじれ国会」の下では早期成立は難しい。まずは現行法の範囲で、ということだろう。だが、法的な制約を考えれば、よほど慎重な検討が必要だ。/とりわけ、憲法とかかわる部分は十分な国会論議が不可欠だ。一方で、その間にも可能な貢献策は探れるはずである。/すでに政府は、沿岸国イエメンの海上警備能力を高める支援を検討している。このうち巡視船艇の供与は武器輸出三原則とのからみで議論が要るが、沿岸警備隊員の研修などは具体化しつつあるようだ。/ソマリア沖と同様に被害が多いマラッカ海峡の海賊対策で、東南アジア各国との連携をリードしたのも日本である。こうした経験を生かせる施策はないだろうか。/忘れてならないのは、問題の背景にソマリアの疲弊があることだ。長い内戦の影響で政府がほとんど機能しない状況が続き、職のない若者らが海賊に加わっているとされる。国の再建が根本解決につながることを考えれば、貢献の選択肢も増える。/自衛隊のイラク支援活動は終わり、アフガニスタン本土への派遣は見送られた。だからといって、ソマリア沖への海自派遣に前のめりになるのは禁物だ。日本にふさわしい貢献策を幅広く検討したい。〉

▼2008年12月29日付『徳島』「ソマリア海賊対策 自衛艦派遣は問題が多い」
 〈麻生太郎首相が、ソマリア沖の海賊被害対策として海上自衛隊艦船の派遣を検討するよう、浜田靖一防衛相に指示した。/日本も各国に歩調を合わせるため、海自艦船の派遣に向けて動き出したことになる。/だが、自衛艦と海賊船が戦闘状態になれば、双方に死傷者が出る恐れが強い。海外での武力行使を禁じた憲法九条に抵触しかねない重大な問題である。前のめりにならず、慎重に検討すべきだ。/今回、実現すれば海上警備行動としては、初めての自衛隊海外派遣となるが、隊員の安全確保など問題が多い。/そもそも、日本の周辺海域での活動を想定した海上警備行動をアフリカで適用しようとすることに無理がある。/浜田防衛相は、自衛隊法の海上警備行動に基づく派遣では活動が制約されるとし、新法での派遣が望ましいとの意向をにじませている。/現在、検討されている新法は、自衛隊の護衛対象に外国船舶を含めているのが特徴だ。海賊の取り締まりに当たって、一定の範囲内で武器使用も認めている。これでは、海自艦船が戦闘に巻き込まれる恐れが一層、強まるだろう。/日本は、平和憲法の下で自衛隊の活動が厳しく制限されており、他国とは立場が違う。自衛隊の海外派遣については慎重の上にも慎重を期すべきだ。/ 何より必要なことは、ソマリアの政情を一日も早く安定させ、海賊を生み出す土壌を一掃することである。日本にふさわしい国際貢献の在り方を探ってもらいたい。

▼1月10日付『京都』「海賊対策新法  派遣の検討は超党派で」
〈日本関係船も襲われるなどソマリア沖の海賊が猛威を振るっている。/国連や各国が軍艦派遣など対策に乗り出している中、政府・与党の海賊対策がようやく動きだした。/ことは緊急を要する。海賊対策を早急に実行できるよう野党も含め超党派で検討すべき問題だ。/国連安全保障理事会は各国に海賊対策を強化するよう再三決議し、ソマリアの領海、領空、領土に入って海賊を制圧することを認めた。主権侵犯を容認する極めて異例の措置だが、それほど深刻な事態ということである。/麻生太郎首相は昨年末、防衛省に海上警備活動を発令して海上自衛隊艦船の派遣を検討するよう指示した。/海上警備活動をつなぎとして、今国会で新たに海賊対策法を成立させ本格的に対処する二段構えである。/検討を始めた「海賊行為対処に関する法律案」(仮称)の眼目は海外派遣時の武器使用基準の緩和と外国の船舶・船員も保護対象とすることだ。/具体論になると海外
での武力行使や集団的自衛権の行使を禁じた憲法との整合性で難問が多い。与党内で意見の違いや足並みの乱れが見られる。/野党の対応も不透明で、新法を成立させるには国会情勢が厳しい。/海賊対策はまさに「国際社会が一致して対応すべき重要かつ喫緊の課題」(法案)である。野党も最優先課題として真剣に取り組むべきだ。

▼1月28日付『岩手日報』「海自のソマリア派遣 疑問を積み残した船出」
(署名記事) 〈政府は、アフリカ東部ソマリア沖の海賊対策として現行法による海自艦船を派遣する方針を固めた。日本だけが何もしないでいいという問題ではないが、難題を山積したままの船出となる。/一連の経過を見ると、各国が艦船を派遣している中で、日本も国際社会に存在感を示そうとした見切り発車という印象がぬぐいきれない。しかも、4月にも始まる今回の活動は、法整備がそこそこなままに急いだ「つなぎ」の色合いが強い。海自は『羅針盤』もなく危険な
海にこぎ出すようにみえる。/わが国の人命と財産を守るのは、言うまでもなく国の最大の責務だが、一歩間違えれば集団的自衛権に抵触しかねない問題だけに
緻密(ちみつ)な議論が必要だ。海域の周辺国への海賊対策支援や、海賊を生み出しているソマリアの政情安定など、日本ができる国際貢献も含めて、国会で徹底した論議を求めたい。〉

【終わりに】
 5人に1人も支持されていない麻生首相が、海上警備行動発令で海自艦隊をソマリア海域・アデン湾に出航させようとしている。すでに何十隻もの諸国軍艦が群がっているソマリア海域・アデン湾に押っ取り刀で馳せ参じようというのだが、これは私には「義和団事件」の再現のようにみえる。あのときは8カ国の外国軍隊が北京に突撃して貧しい農民が主体の義和団を追い散らし、今回は約20カ国の軍艦がソマリアの元漁民の「海賊」を制圧しようとしている。ソマリアを「破
綻国家」にしたのは欧米の諸大国だが、国連安保理はその事実を少しも振り返ることなく、国連加盟国にソマリアの領土・領空・領海を侵犯することを要請した。これが「国際の平和及び安全を維持する」(国連憲章)ことであろうか。
 艦隊が群がって「海賊」を抑え込んでも、それでソマリアの経済と社会が再生するわけではない。上のいくつかの主張に表われているように、いかにしてソマリアの復興を支援するか、そこに智恵をしぼるのが国際社会のなすべきことではないのか。
                          (09・1・28 井上澄夫)
★なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 ()()(3)(