練金術勝手連

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※ 練金術(ねりきんじゅつ)とは『週刊金曜日』練馬読者会的やり方という意味です。

★★ 『生活第一』がだいいち ★ 読者会で考えた ★★

2009年05月14日 | 読者会定例会
 4月の練馬読者会に参加しました。
景気低迷が深刻になるなかで、“高給”、“身分保障”、“天下り”などで公務員・官僚批判はいままで当会でも取り上げられてきましたが、それらの批判はそもそも行政による公共サービスがいかにあるべきかという議論があって初めて成り立つのではないでしょうか。限られた予算の中で行政に何をしてほしいのか、何をしてほしくないのかを私たちも考える時なのかもしれません。
 私たちは消費活動なしでは一日も生活できません。当然、私たちの消費のあり方は商売のやり方を規定し、そこで働く人の雇用のあり方に反映します。強欲金融バブルの崩壊は、もうモノが今までのように売れなくなるということの前触れではないでしょうか。
(SUZ)

ついに小沢一郎民主党代表が辞任しました。検察権力の恣意的な暴走とマスメディアの世論誘導的小沢おろしのキャンペーンに民主党員も浮き足立ってしまったようです。 それにつけても民主党代表選び。両院議員だけでやるのもおかしいし、カンヌキ(代表代行の出番は?)で、岡田・鳩山2人だけで、というのはもっと変…。民主党は小沢という重しがはずれた今、これまで以上に『生活第一』(「国民の生活が第一」)で一丸とならなければならないのはいうまでもないでしょう。
(イトヤン)

政局は政局として、《検察権力の恣意的な暴走》は徹底的に批判されなければならない。さもなくば、この国は政敵を軟禁・逮捕・暗殺するような国と同列化、さらに“空気を読みたい国民性”はこの流れに身をまかせて“検察=黄門さま”を期待してしまうかもしれない…からだ。
 今回『週金』の小沢秘書逮捕関連記事について読者会有志が行った編集部への質問とその回答の報告。
そして(参考1)国会探検
http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2009/05/post_188.html#more
   (参考2)郷原さん
http://www.youtube.com/watch?v=zCby5qC_0Mc
をお届けする。
(練金術師)

 練馬読者会5月例会

  日  時:2009年5月23日(土) 19時から
  会  場:喫茶ノウ゛ェル(西武池袋線大泉学園駅北口駅前)
  会  費:喫茶代
  問合わせ:nerikinjyutu@mail.goo.ne.jp
       または03-3925-6039 近藤まで。



★ 済州島旅行記 ★

2009年05月11日 | みんなの日記
 この旅に参加しようと決めた一番の理由は4.3事件(1948年)の真相糾明に直接かかわっている方から話を聞くことができるという点。知り合いは誰もいないし、私自身、団体行動に向かないので20代から外国へは1~3人位で出かけていたのだけれど、やはり旅の内容に惹かれた。期待通り2日間の羹さんの説明は聞き取り調査で得た証言、自らの足で歩いた場所の話などとても興味深く聴くことができた。
 行く前に岩波新書『韓国現代史』1冊しか読んでいかなかったので、時間の前後や場所がすぐにはわからないし、何回も質問に答えてもらって納得できた事もたくさんあった。私は自分で小さな済州島の地図を用意していったが、なにせ観光用なので羹さんの案内して下さる場所は載っていず、何回か「ここはこの地図のどこですか?」と尋ねた。旅の始めにこれから廻る場所の地図があるとずい分わかりやすいと思う。(次回への提案1)
 国がお金を出して建設中の済州4.3平和公園内の第1館から第6館の平和記念館。運良く日本語ガイドの女性がいて、ずっと話を聞くことができたのもよかった。前日の羹さんの話とこの女性の話との両方から、資料を見ながら丁寧に廻ることができた。2008年3月の開館なのでたくさんの人に訪れてほしい。庭におかれてある刻名碑は沖縄の「平和の礎」を思い出させる。ここはぐるりと慰霊塔をとり囲むように並べてあった。2万5千人~3万人の犠牲者のうち氏名の明らかになっている方々、これから明らかになるだろう方々の真っ黒いままの石の面。少し離れて慰霊祭壇と位牌奉安所。そして生きのびたが後遺症に苦しむ方々の補償問題もまだ解決していないという。
 1945年以前の日本侵略時代の地下トンネルを自力で修復し記念館を維持しているかたの苦労。これから日韓の研究者たちが調査していこうとしている日本軍司令部トンネルなど、いくつも案内していただいた。
 他方、世界自然遺産のある済州島で映画・ドラマのロケもさかんで「チャングム」や「オールイン」のロケ地の展望も十分楽しんだ。また、通訳・ガイド・運転手として申さんに大変お世話になったが、旅行社のツアーとは違うのだから彼の負担をへらし、参加者が独自で動く時間帯をふやすのも1つのやり方ではないか?(提案2)そのためには参加者の事前の準備も必要。でも多くの参加者は集まらないかな…。また、費用も宿泊ホテルのランクを下げたりして少しでも低価格を目指さないと参加者はふえないだろうな。私は前日に行った場所でもっとゆっくりすごしてみたい所へ次の日行き、お金を使わないというやり方も好きなのだが…。
 とにかく初めての済州島。次回は、私の廻りの4.3事件に関心を持つ友人たちと訪れたいと願っている。
 (小笠原秀子)
 練馬読者会5月例会

  日  時:2009年5月23日(土) 19時から
  会  場:喫茶ノウ゛ェル(西武池袋線大泉学園駅北口駅前)
  会  費:喫茶代
  問合わせ:nerikinjyutu@mail.goo.ne.jp
       または03-3925-6039 近藤まで。

◆ 反戦の視点・その80 ◆

2009年05月06日 | 練馬の里から
文言死守の防御的反改憲運動ではなく、
9条の実現を政府に突きつける攻勢的反改憲運動を創り出そう!
 

井上 澄夫(沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック)


            ※ 本稿では、朝鮮民主主義人民共和国を北朝鮮と略記する。
◆民意を問わない強権政治─「憲政の危機」という危機─
 政権(政治権力)を握った者が政権運営に対する批判を無視して開き直り、野党がその姿勢を正す力をもたないことは、「主権在民原理」を破壊する恐ろしい事態をもたらす。安倍政権以来の日本の政治状況がまさにそうである。総選挙で民意を問うことなく一政党内だけで選出された3人もの「首相」が政権のたらい回しを続けている。
 「憲政」(憲法に基づく政治)という言葉は、最近は主として戦前の歴史を語るときに用いられているが、現在の政治状況を煮詰めて語るなら、「憲政の危機」という表現が最も適切なのではあるまいか。絶対平和主義、主権在民、基本的人権の尊重という日本国憲法を支える3大原理の侵犯と蹂躙が公然と行なわれているからである。
 野党を自称する民主党が自民・公明連立与党を補完する「第2与党」にすぎず、解散権を握る麻生首相が言を左右にして総選挙を先送りする現状は、〈政党政治の機能不全〉を如実に露呈している。戦前であれば、右翼がテロを、軍部がクーデターを起こしてもおかしくはない危険極まりない状況と感じるのは筆者だけではないだろう。
 しかしこうした根本的な危機をもたらしているのは、なにも政府・与党だけではない。麻生内閣打倒の動きが部分的にしか浮上しないことは、私たちの無気力を反映している。「憲政の危機」が十分に意識されないことは、それ自体が危機である。
 2007年9月の安倍首相電撃辞任で政府レベルでの9条改憲の動きが一時凍結されたことは事実である。それは反改憲運動にとって改憲の動きを完全に封じ込める一大好機だった。そうするためには、政府が強行してきた、あるいは強行する違憲立法を含む違憲行為を徹底的に批判し、政府に9条の実現を突きつける努力が必要だった。しかし実際には総じてそうならなかった。

◆最近の世論調査を考える
 日本高等学校教職員組合(高教組)による昨年11月のアンケートによれば、憲法9条を「変えない方がよい」とする高校生は61%で前回2004年の44%から17%高くなった(「変える方がよい」は12%で前回とほぼ同じ)。しかし自衛隊が「9条に違反しない」と答えた高校生は25%と過去8回で最多となり、最少だった1987年の12%の2倍になった。(4月26日付『朝日新聞』)
 このアンケートでは、「変えない方がよい」の理由は「戦争への道を開くおそれがある」が最多の73%だったが、それは一般の世論調査の結果と似た傾向を示している。「9条があれば戦争を防止できる」という思いは、「戦争の20世紀」が終わり新世紀に踏み込んだ今も戦争が止むことなく続く世界の現状から発するものだろうし、その思いは広く共感を呼ぶだろう。しかし「平和国家であってほしい」という期待を無惨にも裏切る事象・事態が次々に生起しているのが、私たちが生きる現実である。本稿の後半で触れるが現在の日本が平和国家であるという認識は幻想である。9条が変えられると戦争になるのではない。日本はすでに戦争国家である。《日本はすでに戦争している》。
 5月2日付『朝日新聞』は翌日の憲法記念日を前に同紙が実施した全国世論調査の結果を報じている。それによると、9条を「変えない方がよい」は64%で、安倍内閣時代の調査(07年4月)では49%、福田内閣時代の調査(昨年4月)では66%だった。同紙の見出しは「9条改正 反対64% 改憲必要は53%」としているが、今年の調査の結果では改憲反対は昨年より微減している。
 どの世論調査にも似た傾向があるが、調査での質問は各社の立場を反映する誘導尋問である。上の朝日新聞社の調査では、9条を「変える方がよい」と答えた人に「では、9条をどのように変えるのがよいと思いますか」と質問しているが、回答は恣意的に設定された2者択一である。結果は「いまある自衛隊の存在を書き込むのにとどめる」が50%、「自衛隊をほかの国のような軍隊と定める」が44%である。
 しかし9条改正を求める根拠はその2つだけだろうか。しかも「いまある自衛隊の存在を書き込むにとどめる」という選択肢は意味があいまいで、「どういう表現で書き込むのか」は示されない。「防衛のための戦力は保有できる」とするのだろうか。また「自衛隊をほかの国のような軍隊と定める」という質問は自衛隊を国軍と規定することだろうか。自民党の憲法草案は自衛軍としているが、それと違うのか、違わないのか。
 だが、この世論調査で最も注目すべきは、「これからの自衛隊の海外活動がどこまで認められるか」という質問への回答である。○は昨年の調査の結果
 ▼海外での活動は一切認めない 9% ○15%
▼武力行使をしなければ、海外での活動を認める 56% ○64%
 ▼必要なら武力行使も認める 32% ○17%
 「海外での活動は一切認めない」が前回の15%から9%に減っていて、「必要なら武力行使も認める」が前回の17%から32%へとほぼ倍増していることは世論の危険な変質を示している。調査結果の解説記事は「同時に実施した世論調査では、海賊対策で海上自衛隊の武器使用の範囲を広げることに賛成が50%で、反対の36%を上回っている」と記している。
 各紙はそれぞれのホンネを有識者の談話に託して表現することが多い。「これからの自衛隊の海外活動」についての岩間陽子政策研究大学院大教授の談話はその典型である。
 〈北朝鮮のミサイル問題に加え、ソマリア沖の海賊対策の影響もあるのだろう。/国民は、国連の平和維持活動など、国家間の戦争以外の場面で軍事力を使う必要性が増大しているのを理解し始めており、調査結果はその反映なのかもしれない。自衛隊の海外活動での武器使用をめぐる法整備は、海賊対策にとどまらず、憲法に規定されている武力行使とは区別して、きちんと議論する必要がある。〉
 朝日新聞社はソマリア沖への海上自衛隊艦隊派遣を容認した。それをベースに上のように岩間教授に語らせているのである。解説記事はこう記している。
 〈私的集団である海賊が相手の「武器使用」は、国や国に準じる組織に対する「武力行使」とは日本の法律上は区別される。〉
 用心深く「日本の法律上は」と記しているが、論述は麻生政権の言い分そのものである。「海賊対処」は警察行動であるから、憲法9条が禁じる武力行使ではない、よって憲法には抵触しないということだ。これは麻生政権に屈服し海賊派兵を支持する同社の弁解である。ところで岩間氏は「自衛隊の海外活動での武器使用をめぐる法整備は、海賊対策にとどまらず、憲法に規定されている武力行使とは区別して、きちんと議論する必要がある。」というのだが、「憲法に規定されている武力行使とは区別」される「自衛隊の海外活動での武器使用」とはいかなるものであろうか。自衛隊の武器使用はいかなる口実によるにせよ、憲法で禁止されている武力行使ではないのか。

◆朝日新聞社の9条からの遁走
 それにしても不思議なのは、「憲法記念日を前に」(世論調査の動機を朝日新聞社はわざわざこう説明している)「9条を変えるか変えないか」と「自衛隊の海外活動がどこまで認められるか」を問いながら、自衛隊が違憲存在と思うか思わないかを問わないのは一体どうしてだろう。自衛隊はすでに「国民」に認知されているという前提に立っているからではあるまいか。同社の社説はかつて旧社会党に軸足を置いていた。しかし戦後史に刻まれる同党の村山大転向で動揺し、どんどん右にずれて、ここ数年は民主党に軸足を置く気配を見せている。軍部のお先棒をかつぎ、戦意高揚に血道を上げた戦前・戦中のありようをいささかも反省することなく、読者離れを恐れ、読者の政治意識の変化に合わせてスタンスを変えているのだ。
 だから現在は自衛隊違憲合法論にさえ触れない。問題を「自衛隊の運用の仕方」のレベルでしか扱わないのである。実際、5月3日の同紙社説は「憲法記念日に 貧困、人権、平和を考える」と題しながら、25条にだけ触れ、9条という言葉はまったく登場しない。

◆高教組と朝日新聞社の調査が意味するもの
 2つの調査は9条の意味をめぐる無理解と混乱を鮮明に露呈している。「9条を守る」ことは9条の文言を変えさせないというにとどまらない。日本国憲法は9条を実現して〈日本を非武装・不戦の国にする〉ことを政府に命じている。しかし政府はその【至上の命令】を無視し、恣意的な解釈改憲によって自衛隊を世界有数の軍隊に肥大させてきた。
 一方世論は大多数がその現実を受け入れてきた。まったく非論理的だが、9条維持派もその多くが、口に出すか出さないかは別にして、「日本が攻撃されるときには、自衛隊に守ってもらいたい」と考えている。自衛隊が海外で戦争するのは困るが、周辺諸国の脅威からは自分や自分の家族を守ってほしいということだ。「日本を海外で戦争する国にさせない」というスローガンは自衛隊に日本を守ってもらうことを暗黙の前提にしている。自衛隊による自衛のための戦争はいいが、海外で戦争するのは困るというのは、9条の核心である非武装を否定する思想である。
 侵略を掲げて行なわれた戦争はない。自衛が常に開戦の大義である。吉田茂首相は1946年5月、帝国議会で「近年の戦争は、多くは国家防衛権の名において行なわれた。正当防衛権を認めることが戦争を誘発する」と答弁した。繰り返し強調せねばならないが、9条は1項で自衛の名による「国権の発動たる戦争」を放棄している。
 〈9条は変えたくないが自衛隊は必要〉というのは解釈改憲論の一変種である。しかしそういう意見が大多数であるという限りでは、自民党と右派勢力、とりわけ政府と防衛省・自衛隊の世論工作は成功しているのである。読売新聞や産経新聞など改憲唱道メディアとは一線を画している全国各紙も、自衛隊が違憲存在であることを問わず、自衛隊の暴走を警戒する姿勢を示すにすぎない。だから焦点化されるのはいつも「自衛隊の運用の仕方」である。

 ここで憲法記念日に先立ち実施された2つの世論調査を参考に紹介しておく。
 ◎日本経済新聞が実施した世論調査によると、現行憲法を「改正すべきだ」との回答が47%で、「現在のままでよい」の38%を上回った。1年前の調査と比べて改憲支持は1ポイント、護憲支持は5ポイントそれぞれ低下。(5月2日付同紙)
 ◎北海道新聞社は憲法記念日を前に、憲法に関する道民世論調査を行った。憲法の全面的または一部改正を求める「改憲派」は前年調査から2ポイント増の73%。改憲派のうち戦力不保持を規定する9条を「変更しなくてもよい」は49%と9ポイント減らしたのに対し、「変更して、戦力を持つことを明記すべきだ」は12ポイント増えて43%と迫った。北朝鮮のミサイル発射問題やソマリア沖の海賊問題などが影響したとみられる。/改憲の是非については、同じ質問を設定した2004年の調査以降、改憲派は70%台で推移。今回の内訳は「全面的に改めるべきだ」が10%、「一部を改めるべきだ」が63%だった。これに対し、「改めず、このまま存続すべきだ」とする護憲派は22%、前年比2ポイント減。/護憲の理由では「世界に誇る平和憲法だから」が54%と、前年から6ポイント増えて過半数を占めた。ほかに「今変えれば9条改正につながる」が29%、「すでに国民に定着しているから」が12%だった。/改憲派のうち9条改正の是非については、年代別で20代と60代以上の過半数が「変更しなくてもよい」としたのに対し、30代と50代は「変更して戦力を持つことを明記すべきだ」が上回り、40代は拮抗(きっこう)。男女別では、男性の54%が9条改正を支持したのに対し、女性の56%は9条維持の回答だった。(4月30日付同紙)
 これまでの世論調査では、改憲か護憲かを一般的に問えば、改憲派が大多数だが、9条については9条維持派が多数という傾向が続いてきた。しかし北海道新聞社の調査では、護憲派が前年比2ポイント減らしている。日本経済新聞社調査に「1年前の調査と比べて改憲支持は1ポイント、護憲支持は5ポイントそれぞれ低下」とあるのも護憲派減少の傾向を示すものだ。さらに北海道新聞社調査の次の記述は無視できない。
 〈改憲派のうち戦力不保持を規定する9条を「変更しなくてもよい」は49%と9ポイント減らしたのに対し、「変更して、戦力を持つことを明記すべきだ」は12ポイント増えて43%と迫った。〉
 改憲派の中で戦力保持明記派が43%に増えたのは、政府・防衛省と改憲唱道マスメディアによる軍事的危機の煽動が効を奏しているのだ。これも決して軽視すべきではない。

◆「9条を守る」ことの意味
 ここで改めて「9条を守る」ことの意味を考えたい。それはふつう「9条を変えさせない」ことと受け止められている。「9条の文言を変えさせない」ということだ。しかし9条は宙に浮かんでいるのではない。9条は前文とともに、憲法という国の最高法規の条文として立国の原理をなすのだから、あくまで日本の現実のありようとの緊張関係において機能すべきものだ。別の言い方をすれば、私たちは9条と前文をこの国の政治的・軍事的現実を検証するための至上の規範として用いねばならない。しかし現在の9条改憲反対運動において、9条に照らして現実を批判し、9条違反の現実を変える努力がどれほどなされているだろうか。改憲派が9条と現実の乖離(かいり)を言い立て、現実に合わせて9条を変える必要があると主張するのに対し、改憲反対運動では「9条を現実に合わせて変えるのではなく、現実を9条に近づけるべきだ」とよく言われる。それはまったく正論だが、そのような努力が実際にどれほどなされているだろうか。
 海上自衛隊の艦隊が「海賊対処」のために海自呉基地から派兵されても、「米軍再編推進協定」にほかならない「グアム移転協定」が沖縄の人びとの頭越しに締結されても、「北朝鮮の脅威」が煽動されて迎撃ミサイルが実戦配備されても、反9条改憲派の運動から大きな抗議の声は上がらない。「9条を守る」思いは総じて、9条から乖離した現実を変える努力にむすびついていないのではないか。言うまでもなく、9条の文言を変えさせてはならないが、9条改憲反対運動にとっては、政府の9条違反政策を徹底的に糾弾し、非武装・不戦の9条実現を政府に強力に要求する活動こそ基盤になるべきではないだろうか。
 9条は護符(お札〔ふだ〕)などではない。9条はそれを実現してこの国を非武装化する努力を私たちに求めているのだ。

◆〈戦争している日本〉を凝視して、攻勢的な改憲反対運動を!
 憲法の前文と9条は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」戦争放棄の決意を世界に明らかにするため、戦力を一切もたないことを政府に命じている。その誓いが破られ、日本が世界有数の戦力を保持している今、日本政府がなすべきは、自ら進んで一方的に武装を解除することだ。だが現在、日本政府が進めていることは、それと正反対のことである。
 9条が守られていないどころではない。坂道を転がる巨大な岩のような勢いで、この国は戦争に突き進み、《すでに戦争を始めている》。
 海上自衛隊はアフガニスタン侵略を続ける米海軍に洋上給油を続け(これは兵站〔へいたん〕作戦という戦争の重要な一部である)、米軍にとって対テロ戦争の一環である「海賊対処」のために艦隊(駆逐艦2隻)をソマリア沖に派遣している。そのうえ、ジブチに海自基地を設け、P3C哨戒機2機を常駐させ、基地警護のため陸上自衛隊を派遣し、軍需物資輸送のため航空自衛隊まで動員する。政府・防衛省は「海賊対処」を名目に中東とアフリカ東部をむすぶ戦略的要地で陸・海・空3軍統合運用を実施しようというのだ。
 最初の海外派兵根拠法であるPKO協力法(恒久法)に加え、テロ対策特措法とイラク復興支援特措法が強引に成立させられ、イラクのムサンナ州サマーワに陸上自衛隊が送り込まれただけではなく(その後撤収)、航空自衛隊がクウェート─イラク間で米軍と一体化した輸送作戦を行なった(作戦継続中の昨年4月17日、イラク派兵差止違憲訴訟控訴審で名古屋高裁が9条1項〔戦争放棄〕違反と判断)。周辺事態法(恒久法)と武力攻撃事態対処法(恒久法)、それらに関連する米軍行動関連措置法、日米物品役務相互提供協定(ACSA)「改正」、国民保護法・特定公共施設利用法などが成立し、さらに自衛隊法が度々「改正」されるなど(防衛庁の省格上げに当たっては海外派兵が本来任務に加えられた)【有事法制(戦争法体系)】が着々と整備され、これから参院で審議される海賊対処法案(衆院では成立、これも恒久法)の先には海外派兵恒久法が姿をのぞかせている。

 〈9条があるにもかかわらず〉、〈9条があっても〉、日本の戦争国家化・派兵国家化は激しく急速に進行している。「このままいけば、いつか戦争になる」のではない。自衛隊は米軍の補助部隊としてすでに米日共同戦争に参加している。その態勢をいっそう強固にしようというのが、自衛隊を米軍の指揮下に組み込む米軍再編なのだ。「グアム移転協定」は「米軍再編強化協定」であり、ハワイ─グアムを西太平洋における防衛線とする米軍は沖縄を対中国・北朝鮮の最前線基地にしようとしている。しかも在日米軍基地は東アジアから中東に至る「不安定の弧」をにらむ出撃拠点にされる……。

 この現状に目をそむける9条維持運動は足をすくわれる。〈9条は変えたくないが自衛隊は必要〉という多数世論を取り込み、とにかく国民投票で勝てばいい、自衛隊の問題を棚上げして、幅広く、幅広く結集を、という発想で運動の主体を維持できるだろうか。
 当面、世論調査で9条維持派が64%であっても、問題はその質である。自衛隊違憲問題を棚上げすることは、その問題が反9条改憲世論の切り崩しに使われることを防止することにならず、かえって論理的自己矛盾による混乱を招くことにつながるのではあるまいか。9条維持派が世論調査で過半数を占めていても、その中で9条の核心(戦力不保持=非武装)を否定する武力行使容認派が増えていくなら、仮に改憲を問う国民投票が強行された場合、深刻な影響を与えることになるのではないかと、筆者は強く危惧する。

 いつ衆院選が行なわれるか予断を許さないが、とりあえず現状を前提とすれば、自民・民主連立の改憲内閣が登場する危険性が大きい。新政権が一気に9条に手をつけるか、政治情勢をみてそれを遅らせるか、あるいは環境権やプライバシ-権など呑み込ませやすい改定で「改憲慣れ」状況を作って本丸9条に迫るかどうかは別にして、9条改憲を戦争国家化・海外派兵大国化の最終完成段階にしたい勢力は、一貫して9条維持派の切り崩しをねらっている。
改憲派は、「中国の大国化・軍拡(軍備拡張)」や「北朝鮮の脅威」を、あらゆる口実をとらえて、あるいは意図して準備して繰り返し繰り返し煽り立てれば、9条維持派を切り崩すことができることを知っている。しかもそれはすでに、口先の単なるキャンペーンではない。北朝鮮の「ミサイル」発射を口実として構築された迎撃態勢は演習ではなく〈実戦態勢〉だった。ロケット打ち上げは4月5日に行なわれたが、北朝鮮は3月31日、日本が「冒険的な迎撃に出た場合、わが軍はこれを戦犯国・日本が第2次世界大戦後60余年ぶりの再侵略の砲声とみなす」として軍事的手段で対応すると宣言していた。迎撃が交戦に発展するかもしれない一触即発の軍事的緊張が生まれていたのだ。麻生政権はそれにもかかわらず、日本国内で地対空迎撃ミサイルPAC3を移動配備し、日本海と太平洋に艦対空迎撃ミサイルSM3を搭載したイージス艦を配備することで、あえて戦争を辞さない姿勢を誇示したのだ。北朝鮮は射程1300キロでほぼ日本全域を射程におさめる弾道ミサイル・ノドン(2008年版『防衛白書』)を150基以上保有しているという説もある。それが事実とすれば、仮に実際にロケット迎撃が行なわれたなら、どういう事態を招来しただろうか……。

 民主党は自民・公明連立与党を補完する「第2与党」であり、それゆえ、いわゆる「2大政党制」はまったく虚構である。それを証明する発言を紹介する。仙石由人民主党衆院議員は「超党派の憲法改正論議ができる環境をどうつくるか」という質問に答え「21世紀型の憲法があり得るとすれば、何なのかという議論から入るべきだ。まず9条論争の棚上げを政治勢力が確認することが望ましいのではないか」。仙石議員はさらにこう語っている。野党共闘では「改憲を言う人はけしからんという議論は払拭しないといけない」(5月4日付『東京新聞』)。民主党は改憲を党是としている。改憲案を条文化していないだけである。
 しかし民主党以外の野党も自衛隊を容認したり、自衛隊と共存し自衛隊を活用するといった立場であり、非武装・不戦の9条を実現して自衛隊を解体することを政府に求める政党は国会に議席をもつ政党の中にはない。

 このままでは、改憲を問う国民投票で仮に9条の文言を変えることを阻止できたとしても、その時点ですでに米日共同戦争が世界各地で展開されているという悪夢のような現実が私たちに突きつけられる危険性は大きい。
 「満州事変」(中国東北部侵略)から敗戦にいたる15年戦争期について、「本当に戦争を実感したのは太平洋戦争末期、食糧難に直面してからだった」という銃後庶民の証言がある。気づくのが余りに遅すぎたのだ。そんな経験を繰り返してはならない。
 9条の文言を守るだけの防御的改憲反対運動ではなく、「戦争している日本」を凝視して、戦争国家化・海外派兵国家化を阻止する具体的な活動を強化しつつ、9条の実現を政府に迫る攻勢的な9条改憲反対運動を呼びかけたい。    (2009年5月5日・記)

【付記】最近、反改憲運動で25条が規定する生存権を取り上げ、生存権が保証されていないことを問題にする主張が増えています。筆者はそれに共感します。9条と25条をむすぶものは、憲法前文に明記されている「平和的生存権」でしょう。それについては、改めて書くつもりですが、本稿ではあえてテーマを9条にしぼって考察したことをお断りしたいと思います。
 ○本シリーズ「反戦の視点・その78」で「NO!AWACSの会」と「人権平和・浜松」が4月1日に麻生首相と浜田防衛相に提出した要請書を引用させていただきました。その中で3月29日、空自浜松基地から東北地方に向け出発した、4基のPAC3を搬送する軍用車両が47台となっていますが、要請書を提出した方から「新聞記事によって台数が違っていますので、現在では50台余としています」というご連絡がありましたので、お知らせします。
 ○〔訂正〕「反戦の視点・その79」の冒頭で、4月8日に海賊に乗っ取られた米船籍貨物船を「マークス・アラバマ号」と記しましたが、これは「マースク・アラバマ号」の誤記です。訂正します。

◆ 済州島4.3事件の軌跡を訪ねて ◆

2009年05月03日 | これだけは言いたい!
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【日没は19時をだいぶ過ぎてから…】

 練馬読者会有志で呼びかけた済州島4.3事件の軌跡をを訪ねるツアーに行ってきました。
今回は少人数の参加者となりましたが、講師の姜さんの案内で複雑で信じられない様な史実(未解明のものも多い)にじっくりと触れることができたツアーとなりました。

 東西73キロ、南北41キロの済州島。人口27万人(当時)の島で、海岸線から5キロメートルを指定し、それより内陸の村落をことごとく殺しつくし奪いつくし焼きつくすジェノサイド(犠牲者25000~3万人)がなぜ、どういう経緯で行われたのか?軍事政権が続いた間封印され続けてきた『済州島4.3事件(抗争)』について識ることは、東アジアの中の日本という連関的視点で戦後の歴史をみることの必要性にあらためて気付かされます。

 今回参加できなかった方も含め共通理解を持つことはたいせつなこと。参加された方のレポートや感想、考えたことなど…をぜひお寄せください。順次当ページで紹介させていただきます。
(イトヤン)