練金術勝手連

「練金術」のページへようこそ。

※ 練金術(ねりきんじゅつ)とは『週刊金曜日』練馬読者会的やり方という意味です。

★★ なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 (3)★★

2009年02月01日 | 練馬の里から
反戦の視点・その69 海賊派兵をめぐる各紙の主張を読む<3>

▼1月27日付『北海道』
社説  ソマリア派遣 「積み残し」が多すぎる
 アフリカ東部ソマリア周辺海域の海賊対策のため、海上自衛隊の護衛艦が3月中にも現地へ派遣されることになった。
 ソマリア周辺での海賊被害は深刻だ。国連は共同対処を呼びかける決議を繰り返してきた。日本も手をこまぬいているわけにはいかないというのが政府・与党の言い分である。
 だが、これまでの議論の進め方は拙速だ。そもそも警備行動は日本近海での活動を想定している。海自艦をアフリカ沖へ送り出すことは法の拡大解釈にならないか。
 政府は、海上保安庁の巡視船では装備が不十分で対応できないと説明してきた。
本当にそうか、しっかり検証する必要があるだろう。それがなおざりにされ、多くの課題が積み残されている。その一つは武器使用基準をめぐる問題だ。
 海上警備行動では正当防衛と緊急避難に限って武器使用が認められている。具体的にどんな状況で発砲が可能か。与党は肝心な点を詰め切れず、基準作成を防衛省に委ねた。
 海賊を拘束した後の措置も明確でない。派遣決定の前に政治の側がガイドラインを示すのが筋だ。その議論がないのでは、現場で判断を迫られる自衛官はたまらないだろう。
 しかも、基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。
 その場合も治安活動であり海外での武力行使に当たらないというが、平和憲法の理念に沿うだろうか。
 政府は海上警備行動を「つなぎ」とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。

 『北海道』の「武器使用基準は相手に手の内を見せないため非公開にするという。文民統制の観点から疑問が残る。政府は、昨年十一月にインド海軍が海賊に乗っ取られたタイの船を撃沈し、人質が犠牲になった例も、正当防衛・緊急避難に該当するとの見解だ。海自が外国人を殺傷する可能性が現実味を帯びることになる。」という指摘は適切である。 武器使用基準が非公開なら、実際に戦闘が起きたケースについて、海自がどう事後報告しようと信憑性が疑われる。海上での交戦についてあれこれ正当性が言い立てられても、現場を見ているのは海自隊員と海上保安官だけである。他に誰も見ていないのだから、真相が闇に葬られる可能性は十二分にある。イージス艦・あたごが漁船を沈めたとき、海自の関係者がどう口裏を合わせようとしたか、私たちはよく知っている。しかもそもそもどうやって海賊と認定するのか、漁民や難民という可能性もあるのではないか。海賊らしい、海賊のようだということだけで外国人を殺傷することは犯罪である。
 同紙の「政府は海上警備行動を『つなぎ』とし、海自による海賊対策の新法を今国会で制定する方針だ。自衛隊の海外派遣を随時可能にする一般法制定の地ならしと言えるだろう。」という指摘も重要だ。海賊対処法は海外派兵恒久法(一般法)を制定するためのワンステップにすぎない。すべてはアフガン本土派兵、そしてその次を見据えた動きである。

◆その他の主張  
いくつかの地方紙を短く紹介する。これまでに問題点はあらかた出尽くしているので、コメントはつけない。

▼2008年12月27日付『神戸』「海賊対策/海自派遣を急ぐのでなく」
 〈アフリカ東部ソマリア沖で横行する海賊から日本船舶を守るため、麻生首相が浜田防衛相に海上自衛隊艦船の派遣を検討するよう指示した。自衛隊法に基づく海上警備行動発令を想定しているようだ。/政府は派遣の根拠となる新法案を策定中だが、「ねじれ国会」の下では早期成立は難しい。まずは現行法の範囲で、ということだろう。だが、法的な制約を考えれば、よほど慎重な検討が必要だ。/とりわけ、憲法とかかわる部分は十分な国会論議が不可欠だ。一方で、その間にも可能な貢献策は探れるはずである。/すでに政府は、沿岸国イエメンの海上警備能力を高める支援を検討している。このうち巡視船艇の供与は武器輸出三原則とのからみで議論が要るが、沿岸警備隊員の研修などは具体化しつつあるようだ。/ソマリア沖と同様に被害が多いマラッカ海峡の海賊対策で、東南アジア各国との連携をリードしたのも日本である。こうした経験を生かせる施策はないだろうか。/忘れてならないのは、問題の背景にソマリアの疲弊があることだ。長い内戦の影響で政府がほとんど機能しない状況が続き、職のない若者らが海賊に加わっているとされる。国の再建が根本解決につながることを考えれば、貢献の選択肢も増える。/自衛隊のイラク支援活動は終わり、アフガニスタン本土への派遣は見送られた。だからといって、ソマリア沖への海自派遣に前のめりになるのは禁物だ。日本にふさわしい貢献策を幅広く検討したい。〉

▼2008年12月29日付『徳島』「ソマリア海賊対策 自衛艦派遣は問題が多い」
 〈麻生太郎首相が、ソマリア沖の海賊被害対策として海上自衛隊艦船の派遣を検討するよう、浜田靖一防衛相に指示した。/日本も各国に歩調を合わせるため、海自艦船の派遣に向けて動き出したことになる。/だが、自衛艦と海賊船が戦闘状態になれば、双方に死傷者が出る恐れが強い。海外での武力行使を禁じた憲法九条に抵触しかねない重大な問題である。前のめりにならず、慎重に検討すべきだ。/今回、実現すれば海上警備行動としては、初めての自衛隊海外派遣となるが、隊員の安全確保など問題が多い。/そもそも、日本の周辺海域での活動を想定した海上警備行動をアフリカで適用しようとすることに無理がある。/浜田防衛相は、自衛隊法の海上警備行動に基づく派遣では活動が制約されるとし、新法での派遣が望ましいとの意向をにじませている。/現在、検討されている新法は、自衛隊の護衛対象に外国船舶を含めているのが特徴だ。海賊の取り締まりに当たって、一定の範囲内で武器使用も認めている。これでは、海自艦船が戦闘に巻き込まれる恐れが一層、強まるだろう。/日本は、平和憲法の下で自衛隊の活動が厳しく制限されており、他国とは立場が違う。自衛隊の海外派遣については慎重の上にも慎重を期すべきだ。/ 何より必要なことは、ソマリアの政情を一日も早く安定させ、海賊を生み出す土壌を一掃することである。日本にふさわしい国際貢献の在り方を探ってもらいたい。

▼1月10日付『京都』「海賊対策新法  派遣の検討は超党派で」
〈日本関係船も襲われるなどソマリア沖の海賊が猛威を振るっている。/国連や各国が軍艦派遣など対策に乗り出している中、政府・与党の海賊対策がようやく動きだした。/ことは緊急を要する。海賊対策を早急に実行できるよう野党も含め超党派で検討すべき問題だ。/国連安全保障理事会は各国に海賊対策を強化するよう再三決議し、ソマリアの領海、領空、領土に入って海賊を制圧することを認めた。主権侵犯を容認する極めて異例の措置だが、それほど深刻な事態ということである。/麻生太郎首相は昨年末、防衛省に海上警備活動を発令して海上自衛隊艦船の派遣を検討するよう指示した。/海上警備活動をつなぎとして、今国会で新たに海賊対策法を成立させ本格的に対処する二段構えである。/検討を始めた「海賊行為対処に関する法律案」(仮称)の眼目は海外派遣時の武器使用基準の緩和と外国の船舶・船員も保護対象とすることだ。/具体論になると海外
での武力行使や集団的自衛権の行使を禁じた憲法との整合性で難問が多い。与党内で意見の違いや足並みの乱れが見られる。/野党の対応も不透明で、新法を成立させるには国会情勢が厳しい。/海賊対策はまさに「国際社会が一致して対応すべき重要かつ喫緊の課題」(法案)である。野党も最優先課題として真剣に取り組むべきだ。

▼1月28日付『岩手日報』「海自のソマリア派遣 疑問を積み残した船出」
(署名記事) 〈政府は、アフリカ東部ソマリア沖の海賊対策として現行法による海自艦船を派遣する方針を固めた。日本だけが何もしないでいいという問題ではないが、難題を山積したままの船出となる。/一連の経過を見ると、各国が艦船を派遣している中で、日本も国際社会に存在感を示そうとした見切り発車という印象がぬぐいきれない。しかも、4月にも始まる今回の活動は、法整備がそこそこなままに急いだ「つなぎ」の色合いが強い。海自は『羅針盤』もなく危険な
海にこぎ出すようにみえる。/わが国の人命と財産を守るのは、言うまでもなく国の最大の責務だが、一歩間違えれば集団的自衛権に抵触しかねない問題だけに
緻密(ちみつ)な議論が必要だ。海域の周辺国への海賊対策支援や、海賊を生み出しているソマリアの政情安定など、日本ができる国際貢献も含めて、国会で徹底した論議を求めたい。〉

【終わりに】
 5人に1人も支持されていない麻生首相が、海上警備行動発令で海自艦隊をソマリア海域・アデン湾に出航させようとしている。すでに何十隻もの諸国軍艦が群がっているソマリア海域・アデン湾に押っ取り刀で馳せ参じようというのだが、これは私には「義和団事件」の再現のようにみえる。あのときは8カ国の外国軍隊が北京に突撃して貧しい農民が主体の義和団を追い散らし、今回は約20カ国の軍艦がソマリアの元漁民の「海賊」を制圧しようとしている。ソマリアを「破
綻国家」にしたのは欧米の諸大国だが、国連安保理はその事実を少しも振り返ることなく、国連加盟国にソマリアの領土・領空・領海を侵犯することを要請した。これが「国際の平和及び安全を維持する」(国連憲章)ことであろうか。
 艦隊が群がって「海賊」を抑え込んでも、それでソマリアの経済と社会が再生するわけではない。上のいくつかの主張に表われているように、いかにしてソマリアの復興を支援するか、そこに智恵をしぼるのが国際社会のなすべきことではないのか。
                          (09・1・28 井上澄夫)
★なぜ沿岸漁民が海賊に? ★ ソマリアという国 ()()(3)(


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。