開腹して子宮捻転を整復した繁殖雌馬は、その後も不調が続いたが、徐々に回復し、
予定日よりかなり遅れて正常分娩したそうだ。
子宮捻転を診断して、母馬も仔馬も助かることはこの地域ではマレだ。
私の所へ送られてくるときにはたいてい子宮捻転の末期症状で、胎仔は死んでいることが多く、ときには子宮も壊死している。
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今年のEquine Veterinary Journal にオランダでの馬の子宮捻転の回顧的調査成績が載っている。
Mare and foal survival and subsequent fertility of mares treated for uterine torsion
子宮捻転で治療を受けた母馬と仔馬の生存とその後の繁殖成績
Equine Vet J. 48 (2016) 172-175
要約
研究実施の理由:
子宮捻転の整復後の母馬と仔馬の生存は、今までの調査では、それぞれ60-84%、30-54%と報告されている。
さらに立位での膁部切開による整復により仔馬の生存性は良好だが、母馬についてはそうではないとされてきた。
目的:
立位膁部切開の成功率を他の方法(全身麻酔下での正中切開、あるいは膁部切開、径膣整復)と比較すること。
研究のデザイン:
臨床記録の回顧的調査。
方法:
手技、妊娠日齢、捻転の程度、生存とその後の繁殖成績を、1987-2007年にオランダの3つの馬病院で子宮捻転で治療を受けた189頭について分析した。
結果:
診断された平均妊娠日齢は283日(範囲153-369日)で、子宮捻転の大半(77.5%)は妊娠320日以前に起きていた。
子宮捻転の整復後、90.5%の母馬と、82.3%の仔馬が生存して退院し、分娩した。入院期間は3-39日間であった。
多変量解析では、整復方法と妊娠日齢が子宮捻転後の仔馬と母馬の生存に影響していることが示唆された。
立位膁部切開後の仔馬の生存は88.7%で、他の方法では35.0%であった(P=0.001)。
妊娠320日未満で子宮捻転が起こると、生存した子馬は90.6%であり、320日以上では56.1%であった(P=0.007)。
母馬の生存では、妊娠日齢と整復方法の間に相互関係があり(P=0.02)、妊娠320日未満では、立位膁部切開後はより高く(97.1%)、他の方法では低かった(50.0%)(P<0.01)。
妊娠320日以降に起こったときには、母馬の生存は手技による差はなかった(76.0 vs 68.8%; P=0.6)。
再交配された123頭のうち、93.5%は妊娠した; 繁殖成績は立位膁部切開で治療された母馬(93.9%)と、他の手技(87.5%; P=0.9)で差が無かった。
結論:
妊娠320日を越えている場合を除いて、併発症(例えば、消化管病変の存在)がない馬の子宮捻転の整復では、立位膁部切開が選択すべき外科手技である。
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ずいぶん、立位膁部切開にこだわった調査になっている。
それというのも、169頭は立位膁部切開で整復され、分娩中だった10頭は経膣で整復され、全身麻酔下での正中切開での整復は5頭、全身麻酔下での膁部切開での整復が2頭、
1頭は保存的に治療され(子宮捻転は自然に整復された)、残る2頭は整復されずに安楽殺された。
これだけ立位膁部切開ばかりやっていたのでは、手技による結果を比較するには無理があると私は思う。
だいたいサラブレッドでは立位膁部切開による子宮捻転整復なんてできそうにないし;笑
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この報告にある馬の種類は、
Dutch warmblood (111, 59.7%), Friesian (27, 14.5%), Arabian (12), Welsh pony (7), draught horse (6), Hflinger (3), Fjord horse (3), 残り17頭はその他13種の馬だった、となっている。
サラブレッドは1頭もいないか、あるいは含まれていても2頭以下だったようだ。
こんなに様々な種類の馬が繁殖されている点でオランダの馬産を羨ましくも思う。
3つの馬病院での症例の寄せ集めとは言え、20年間に189頭も子宮捻転を診療していることは感心する。
どうも、ここに示された種類の馬は子宮捻転を起こすことが多いのではないだろうか。
日高で毎年4500頭以上が生産されてきて、この調査成績ほど多くの率で子宮捻転を起こしているとは思えない。
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この調査成績では、妊娠320日未満での発生が77.5%、320日以降が22.9%ということになっている。
妊娠中の馬の疝痛の診断では、子宮捻転を頭において、必ず直腸検査して子宮広間膜の捻れや緊張をチェックすべきだ。
子宮捻転による疝痛はひどく痛いわけではない。
子宮が変色したり、ひどく水腫を起こしたり、胎盤が機能しなくなったり、胎仔が死んでしまったりする前に運んでくれれば、母仔ともに助けられる可能性が大いにある。
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