礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

本門法華宗僧侶不敬事件の反響(付・横浜事件で国家賠償請求)

2012-12-22 07:56:11 | 日記

◎本門法華宗僧侶不敬事件の反響

 昨日の続きで、内務省警保局保安課『特高月報』昭和十六年七月分(一九四一年八月発行)の「旧本門法華宗僧侶の不敬事件検挙並に処理状況」から。

(五)本事件の反響 既述の如く本事件は本門法華宗僧侶個人を不敬罪に問擬して検挙せりと雖も〈イエドモ〉、其の因由は門祖日隆の所説に在り、従つて本宗全般の思想教学に対する検挙摘発とも見られたる為本事件の検挙は本宗並に之と宗祖を同じくする日蓮各派は勿論一般仏教界を尠からず〈スクナカラズ〉刺戟〈シゲキ〉せるものの如くなるが、極く一部のものを除きては一般に冷静にして本事件に鑑み旧来の教学を再検討して時代相応の新教学を樹立せんとの態度を示しつつあり、即ち法華宗にありては客月〔先月〕一日付宗務総監訓告「神仏混淆〈コンコウ〉及御神号記載禁止に関する件」を闔宗〈コウシュウ〉に発して、従来三十番神と称して皇祖大御神を初め奉り国神を三十番神堂に配祀し、或は過去帳に御神号を記載する等の慣習ありしを禁止せるの外、禊〈ミソギ〉の実行、教学刷新委員会の設置、宗祖遺文の取扱に関する審議会開催等を行ふ所ありたるが、日蓮宗にありても宗門全般に対し経帷子〈キョウカタビラ〉に天照大神、八幡大菩薩の御神号を記載せざること及従来の経惟子(御神号を記載)を着用せざることを通達せるの外宗義綱要の編纂に着手せる模様なり。
 斯〈カク〉の如く本事件は既成宗派の教学に対する最初の検挙事件として相当動揺を予想せられたるに拘らず、結果は極めて静穏にして目下の所格別の事象を認めず寧ろ教学刷新の気運を拍車せる幸に認めらるる状況なり。

 内務省警保局保安課『特高月報』昭和十六年七月分(一九四一年八月発行)は、旧本門法華宗僧侶不敬事件について、「本事件は既成宗派の教学に対する最初の検挙事件として相当動揺を予想せられたるに拘らず、結果は極めて静穏にして」と総括した。
 しかし、これはあくまでも結果論であって、旧本門法華宗側の出方によっては、あるいは日蓮門下の宗派の出方によっては、事態は紛糾する可能性もあった。
 それが、それほど紛糾しなかったのは、ひとつには、宗派側が権力の弾圧に対し、一定程度の譲歩をおこなったという事情があったからであろう。それともうひとつ、権力の側も、大宗派との全面対決を避け、事件を「僧侶個人」の「不敬罪」という形にとどめようとしたという事情もあったと思われる。
 この時代、と言ってもこの二年後の一九四三年(昭和一八)七月のことだが、日蓮正宗系の創価教育学会の牧口常三郎・戸田甚一など本部関係者が、治安維持法違反で検挙されている。権力側は、大宗派である法華宗に対しては「不敬罪」、新興団体に対しては「治安維持法違反」という使い分けをおこなっていたと見るべきであろう。

今日の名言 2012・12・22

◎夫が拷問を受けた悔しさは消えない
 
 元中央公論編集者・木村亨〈キムラ・トオル〉さん(「横浜事件」被害者)の妻・木村まきさんの言葉。木村まきさんは、昨21日、横浜事件の国家賠償を求め東京地裁に提訴した。「夫が拷問を受けた悔しさは消えない。国家賠償法で名誉を回復してほしい」。本日の東京新聞より。

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