雪は思わず地面に手を付いた。
通りから見えるその場所に。
今まで忘れていたその記憶が、雪の心の襞を揺らす。
骨ばった祖母の白い手を、振り払った小さな自分。
雪の心は、千切れそうなくらい締め付けられるー‥。
「雪ちゃん‥?」
無言で座り込む雪の元に、音も無く淳が現れた。
そこに言葉は無い。
淳は暫く目を丸くしていたが、やがて静かにこう聞いた。
「居たの?」
「ここで何して‥」
手を伸ばし身を屈める彼を、無意識に雪は避けた。
早口で言い訳する。
「あ‥ごめんなさい、うっかり聞いちゃって‥わざとじゃないんです‥」
「雪ちゃん」
「お二人、まだお話の途中みたいなんで、
私はこれで‥先家に帰ってますね」
淳と目を合わせずに、雪はそのまま背中を向けた。
淳は咄嗟に手を伸ばす。
「雪ちゃん、今のは‥!」
ガシッ
バッ!
突然強い力で掴まれたその手を、雪は反射的に振り払った。
「あ‥」
「あ‥」
二人の間に沈黙が落ちる。
どちらからも動けなかった。
聞こえるか聞こえないかのような小さな声で、雪はごめんなさいと口にし、
淳は彼女の口元がそう動くのをただ見ている。
雪は両手を握り締めながら、定まらない視線のまま口を動かした。
「あの‥今度じゃダメですかね」
「今日はもう‥」
「雪っ‥!」
そう言って、雪はそのまま淳に背を向け走って行った。
一度も振り返らずに。
走れば走るほど、胸に不安が広がって行く。
思い出した古い記憶と振り払った手の感触が、心臓の鼓動を加速させるー‥。
淳はその場で自身の手を見つめていた。
振り払われた、自分の手を。
彼女を繋ぎ止めていたその楔は、自身が漏らしたその一言で外れてしまった。
彼女は背を向け去って行く。
胸の中に不安の芽が、その蔦と葉を伸ばして茂る。
開かれた扉の隙間から入ってくる光が、だんだんと閉ざされて行くー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<手の楔(2)>でした。
短めの記事で失礼しました!
あ〜手を振り払われちゃった。。最後の手を握る淳が切ない!
次回は<因果>です。
☆ご注意☆
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雪が淳を突き放す(?)展開がいつかあるだろうと思っていましたがついにきてしまいました
なんだか別れちゃいそうで不安ですがどうなるかは分からないですね!
トラウマごと愛されてるっていう風にもとれるかなぁ。
トラウマとか、コンプレックスもそうだけど、誰にでもあって、彼がそれも分かった上で受け入れてくれてるのなら、
ましてやそれを自分に対して冷かさず、嫌な思いをさせまいとしてるのなら。自分の弱みをわかってる相手ってそれほど心強いものはないし、
俺に甘えてていいんだよ。ゆだねていいんだよ。トラウマに思わなくていいんだよ。いい思い出でいっぱいにしよう。
って言われてるみたいでありかもしれない。
それに淳くん。強がりで亮さんにああいうふうに言い切っちゃったけど、
相変わらず言葉足らず…
雪ちゃんが全て思い通りになってるみたいに亮さん雪ちゃんに聞こえてるけど、
思い通りになってることばかりじゃないじゃない!雪ちゃんが先輩のことを好きなのは、手のこと抜きで色々先輩が雪ちゃんのために頑張ってくれたからだと思う。
ってたまには淳くんを擁護するみこたでした。笑
淳と太一を間違えて、ちょっとだけお金貸してくれる?って時。
これってシチュエーションを換えた(変えた?)リピート?と思ったのですが...。
「楽興の時」をいろいろ調べたりしているのですが、やはり音楽全般に関する知識が全く無くて、解説を読んではみるも、チンプンカンプン。
「知識は人生を豊かにする」って教訓を読んだ事がありますが、ホント、実感します。
これ、
・このサブタイトルの話しの中で楽興の時の1番から6番を表現しているのでしょうか?
・それとも、チートラの作品全体を表現しているのでしょうか?←だとしたら今は4番目?(今4部だからとかではありません)
・それとも、変調だか転調だかをして繰り返した瞬間って事でしょうか?
・それとも全く別の意味?
もう、私の頭の中、どれなのどういう事なのどう考えたらいいの?でぐるぐるです。
ピアノには余り詳しくない者の戯れ言ですが。
このお話の中で度々鍵を握る曲として登場する「楽興の時」。ラフマニノフや色んな作曲家が同じタイトルの曲を持っていますが、ここでは亮が愛していたシューベルトの曲と考えるのが自然かと。時系列で最初にこの曲が出たのは高校時代、XOYだと167話になります。このとき、ショパンが好きでシューベルトは亮の影響で聴いているという淳が「あの曲は好き」と言ったのがシューベルト「楽興の時3番」。その日に亮が周囲を圧倒しながら練習室で弾きまくるのも、おそらく同じ曲でしょう。
そう考えると、このお話で「楽興の時」と言うときは、私見ですが一番著名でもあるシューベルトの3番を指しているのかと思います。
淳が亮の代わりにサインをもらう場面、ピアニスト自身が「私の楽譜だ」淳が「このアレンジの方が好きなんです」と言う会話があります。淳がわざわざ楽譜を用意したのは亮のためなので、このアレンジを好きなのは亮なのでしょう。
シューベルトの楽興の時6曲の中で、ピアニストのアレンジが有名なのは、3番のみ。ゴドフスキーと言うロシアのピアニストが編曲しています。シューベルトのそれよりもかなり重厚になっていて、私の感覚では若くて力強い亮の演奏にはシューベルトの原曲よりゴドフスキー版の方がしっくり来ます。ただし、ゴドフスキーは戦前に無くなっているので、淳がコンサートに行くのは無理がある…実際はまた違うピアニストを想定しているのかもしれません。
いずれにしても、話の流れの中では「楽興の時」とはシューベルトの3番。でもこの曲自体はとても物悲しく軽やか。対する亮のピアノのイメージはもっと技巧的でパワーとスピードのあるイメージだったのですが、もしもゴドフスキーの編曲を弾いていたなら、全てがカッチリとはまるなあ、なんて思いました。
サインの楽譜に「シューベルト」ってしっかり入っていますね。作曲家はシューベルトで決まりでした。スミマセン!
でも、確かに4番に白羽の矢が立つのは無理もないかと。楽譜も「楽興の時」としかタイトルが無いので、全曲入ってると考えるのが自然なんですよね。うーん。
ちなみに、この6曲は4番を中心に調性が鏡のようになっているのですが、そこに意味があると考察する意見もあります。
そして出版は3番を最初に、翌年4番、数年後に他の4曲という順で発表されています。時系列の混乱も、チートラに似ているな、なんて思いました。
YOUTUBEで聴いてみました!
XOY167話読み直ししてきました。(LINE漫画と1番ずれてるんですね)
「楽興の時」って言ってる!シューベルトだ!
私の間違い…ラフマニノフだと思っていました。
というか、シューベルトもラフマニノフも弾き方とかアレンジがほんのちょっと違うのだろうと勝手に判断してました。
それで、ラフマニノフの「楽興の時」の4番がとても激しくて、今の淳と亮のやり取りが激しいので4番なのかと単純に思ったのです。
全然ちがうじゃーん。
きゃーもう、穴があったら入りたい。安倍マリオみたいに穴(土管)に入ってブラジル行って帰ってくるなレベル。
聴き比べてみて私もシューベルトの方が好きかもです。
でも、シューベルトの方だと5番が一番激しいんですね。
今の私には、なべぞうさんが説明くださってる内容を全て理解するにはあまりにも知識がなさすぎる(知識だけじゃない)のですが、XOY167話のあの場面、実際曲を聴いてみて、読み返すと、ほんとに今までと印象が違う!
もうね、それだけでも感激です!
本当にありがとうございます。
なべぞうさんのコメント何回も読み直して、もっと理解できるようにしたいです。
それにしても、ピアノお詳しいんですね。
亮の性格でどういう弾き方をして、どういうアレンジが好きだろうとか。
そしてね、実際ピアノを弾いている方にとって、やはり大事な手を壊されたというのは、私のようにピアノに縁遠い者とは違った、より強い怒りが湧くものですよね。
あぁ、本当にありがとうございました。
いつも読んで下さってありがとうございます!
本家はまだ完結してませんよ〜。でもかなりの佳境っぷりです!
ふわふわさん
雪にしろ淳にしろ、今まで見て見ぬふりを続けてきたツケが回って来てしまった展開ですもんね‥。でもまだどうなるかはわかりませんよー!
みこたさん
本当皆言葉足らずですよね〜〜。モノローグを読める読者から見たら、もう本当もどかしいですよ。
スヌーピーさん
あ、ホントですね‥手を振り払ったのはあのお金貸して事件の時もそうでしたね(汗)
ちょっと文章修正します〜。最近日々の生活に追われすぎていて考察が甘くなってます‥。
私見ですが、本家の「楽興の時」がタイトルになっているあの二話は、もちろん曲の構成や成り立ちに物語をリンクさせてるのもあると思うのですが、もっとざっくり、亮の象徴としてこの曲のタイトルを使ってるのかな、という印象を持ちました。
ここまで淳の行動や生まれながらの環境に翻弄されてきた亮が、初めて自分の手でタクトを振って物語を動かしたことの象徴というか。。なんだか上手く言えませんが、私はそんな気がしましたよ〜
なべぞうさん
おおお!すごいですね!なんというお詳しさ!
私も一から勉強しなおさねば‥。
きっと亮が淳を呼び出す前に弾いていたのも「楽興の時」なんでしょうね。
「最初の出版は3番、その次は6番」でした。ごめんなさい。ちなみに楽興の3番は、私はホロビッツの演奏が好きです。でもこの演奏は、亮にはまだ無理だと思うんですよね。音楽を豊かにするだけの人生経験がまだまだなので。
余談はこれくらいにして(←長いわ!)、亮がタクトを振り始めたとのyukkanenさんのコメントを受けて。
「楽興の時」の最初の原題は「6 Moment musicals 」直訳すると「6曲の音楽の瞬間たち」だそうです。これは「音楽が生まれる瞬間」を6つ集めた小品集という意味だ、との解説を見つけました。
亮が初めて自ら音楽を紡ぎ出す瞬間。そう考えるとこの曲がこの場面のタイトルとして、すごくシックリクルかな、と。
そして、ここで音楽が始まるのは亮1人ではありません。雪も、淳も、音楽が動き始めます。もしかしたらその他にも…。
スンキさんがここまで考えていたのか、ただの偶然なのかは分かりませんが、作者様も、題名に拘ってくれたスヌーピーさんも、スゴいなあと改めて思ったりしました(笑)
長々と失礼しました。終わり!
すみません、内容変更させちゃって。
間違えてる..という意識はなくて、どちらかというと、私が「リピート」に拘ってしてまった為に「前にもあった」と持ち出してきたので、Yukkanenさんの書かれた内容が間違いというつもりではなかったです。
本当に申し訳ありません。
そして「リピート」に拘るあまりに目に蓋がされていた事に気がつきました!
Yukkanenさん、なべぞうさん。
>初めて自分の手でタクトを振って物語を動かした
すごいステキな言葉!
そして、なべぞうさんの補足説明で、よりその言葉の意味が理解できました。
>「6曲の音楽の瞬間たち」
これ、私も同じ解説のサイトを見たと思います。
ただ、その時それを読んでも「ん?それで?」で、またどん詰まり。
これまたYukkanenさんとなべぞうさんの解説を併せてみると、パーッと視界が広がるように納得しました。
確かに、スンキさんがどれだけ意識されたのかご本人に聞かないとわかりませんが、XOY167話でこの曲を出してきた段階でここの話しの構想を考えられていたのかなぁ(要するに伏線?)と想像すると鳥肌が立ちます。
本家の方は、本当に佳境に入ってますが、淳が亮の為に亮の名前入りのサインをもらったこの楽曲の楽譜が今後出てくるのか出てこないのか?格段と興味が湧きました。
ええと、最後に、雪の手がごっついなぁ…で締めくくりたいと思います。