コンサートからの帰り道、空を見上げると細い月が出ていた。
亮の代わりに聴きに行った、有名ピアニストのコンサート。
サイン入りの楽譜を鞄に入れて、淳は一人家路へと急ぐ。
家の前の通りを歩いていると、不意に門が開くのが見えた。家族が通る為の、小さい方の門が開く。
淳は思わず「あ」と声を漏らした。
そこから出てきたのは、河村亮と河村静香だった。
姉弟は会話をしながら、実に自然に淳の家から姿を現す。
淳は二人の姿を前にして、思わず立ち止まった。
最近よく家に来るな。
コンクールが終わってその足で来たのか?
今日は亮のピアノコンクールがあったので、その結果報告だろうか。
淳はそんなことを考えながら二人を見ていた。がしかし、今日は彼らの雰囲気が幾分いつもと違っている。
「?」
何やら言い争っているのだ。そんな二人を見て、不思議そうな顔をする淳。
あ、そうだ楽譜‥。
そして淳は、鞄の中に入れてある楽譜のことを思い出した。片手を上げ、亮の名を呼ぼうとする。
「りょ‥」
しかし淳は、その名前を最後まで口にすることが出来なかった。
なぜならば亮が、ある箇所をじっと見つめて立ち止まっていたからだ。
亮は外壁のある部分を、一人凝視していた。
静香は弟の見ている場所を追って、そこへ視線を落とす。
姉弟はその場所を見ながら話をした。
淳の耳に、その会話が切れ切れに聞こえてくる。
「ここんとこさぁ‥」「あーそこ前からよ」「また塗り直して‥」
すると亮は二三歩下がり、下がった場所から壁を見上げた。
先程の場所のように塗装の剥げたところが、他にも無いものかと。
そして今度は壁に近寄り、その剥げた部分にそっと手を這わせた。
まるで古くなったその場所を、労るかのような仕草で。
それは何てことのない一場面だった。
青田淳以外にとっては、本当に何気ない平凡な一場面。
古い家だからしゃーねーな
てかオレさぁ‥
亮と静香の声が、徐々に小さくなって行く。
淳は消え入る声を聞きながら、じっとその場に立ち尽くしていた。
辺りは静かで誰一人居ないというのに、耳の内側でノイズが聞こえる。
ザワザワザワザワと、神経に障る音が聞こえる。
「あ、楽譜」
そんな感覚に気を取られて、サイン入り楽譜を渡しそびれてしまった。
もう二人の姿は見えない。
ま、いいか。明日渡せば
そう自らを納得させて、淳は家に入ろうとした。
そして目に入って来たのだ、大きな門と小さな門が。
家族用の小さな門から、河村姉弟は出て行った。
まるで当然のような顔をしてー‥。
心の中で、小さなノイズが鳴っている。
ノイズはじりじりと、心の一箇所を侵食して行く。
「‥‥‥‥」
先程亮が、労るように手を添えていた場所。そこは確かに剥がれていた。
いつも目にしていないと分からないくらい、ほんの小さな箇所だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーでした。
今回の箇所は絵だけでは分からなくて、亮が何しているのか最初かなり謎でした‥。
ハングルがパッパッと読めたらいいのに‥!とジリジリします^^;
でも文字を翻訳機にかけ、翻訳ボタンを押す瞬間のドキドキも、かなりクセになります(笑)
こんなことが出来るのも最終回までと思うと、寂しいです(涙)
次回は<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー です。
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亮の代わりに聴きに行った、有名ピアニストのコンサート。
サイン入りの楽譜を鞄に入れて、淳は一人家路へと急ぐ。
家の前の通りを歩いていると、不意に門が開くのが見えた。家族が通る為の、小さい方の門が開く。
淳は思わず「あ」と声を漏らした。
そこから出てきたのは、河村亮と河村静香だった。
姉弟は会話をしながら、実に自然に淳の家から姿を現す。
淳は二人の姿を前にして、思わず立ち止まった。
最近よく家に来るな。
コンクールが終わってその足で来たのか?
今日は亮のピアノコンクールがあったので、その結果報告だろうか。
淳はそんなことを考えながら二人を見ていた。がしかし、今日は彼らの雰囲気が幾分いつもと違っている。
「?」
何やら言い争っているのだ。そんな二人を見て、不思議そうな顔をする淳。
あ、そうだ楽譜‥。
そして淳は、鞄の中に入れてある楽譜のことを思い出した。片手を上げ、亮の名を呼ぼうとする。
「りょ‥」
しかし淳は、その名前を最後まで口にすることが出来なかった。
なぜならば亮が、ある箇所をじっと見つめて立ち止まっていたからだ。
亮は外壁のある部分を、一人凝視していた。
静香は弟の見ている場所を追って、そこへ視線を落とす。
姉弟はその場所を見ながら話をした。
淳の耳に、その会話が切れ切れに聞こえてくる。
「ここんとこさぁ‥」「あーそこ前からよ」「また塗り直して‥」
すると亮は二三歩下がり、下がった場所から壁を見上げた。
先程の場所のように塗装の剥げたところが、他にも無いものかと。
そして今度は壁に近寄り、その剥げた部分にそっと手を這わせた。
まるで古くなったその場所を、労るかのような仕草で。
それは何てことのない一場面だった。
青田淳以外にとっては、本当に何気ない平凡な一場面。
古い家だからしゃーねーな
てかオレさぁ‥
亮と静香の声が、徐々に小さくなって行く。
淳は消え入る声を聞きながら、じっとその場に立ち尽くしていた。
辺りは静かで誰一人居ないというのに、耳の内側でノイズが聞こえる。
ザワザワザワザワと、神経に障る音が聞こえる。
「あ、楽譜」
そんな感覚に気を取られて、サイン入り楽譜を渡しそびれてしまった。
もう二人の姿は見えない。
ま、いいか。明日渡せば
そう自らを納得させて、淳は家に入ろうとした。
そして目に入って来たのだ、大きな門と小さな門が。
家族用の小さな門から、河村姉弟は出て行った。
まるで当然のような顔をしてー‥。
心の中で、小さなノイズが鳴っている。
ノイズはじりじりと、心の一箇所を侵食して行く。
「‥‥‥‥」
先程亮が、労るように手を添えていた場所。そこは確かに剥がれていた。
いつも目にしていないと分からないくらい、ほんの小さな箇所だった。
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<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーでした。
今回の箇所は絵だけでは分からなくて、亮が何しているのか最初かなり謎でした‥。
ハングルがパッパッと読めたらいいのに‥!とジリジリします^^;
でも文字を翻訳機にかけ、翻訳ボタンを押す瞬間のドキドキも、かなりクセになります(笑)
こんなことが出来るのも最終回までと思うと、寂しいです(涙)
次回は<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー です。
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結局亮も淳も、互いよりも会長のことを見ていたって感じですよね‥。
そして更に静香が会長に何か言うのかな‥?
(以前淳が電話で「静香の言うことばかり信じて」みたいなことを父親に言っていたような‥)