「ゲホッ‥ゲホッ‥」
猛ダッシュで青田淳から逃げて来た雪は、急に猛烈な吐き気を感じて嘔吐した。
壁に手をつきながら、嗚咽と咳を繰り返す。
「ゲホッ‥」
「はあ‥」
その場で暫く休んだ後、ようやく落ち着いた。ふぅと深く息を吐く。
驚きすぎたからか?どうして吐き気が‥
でも食べてないから何も出てこないや‥掃除せずに済んだな‥
急に全ての力が抜けた気がした。
雪はその場にへたり込むと、額や頬を壁に付けた格好で目を閉じる。
「はぁ‥ひんやりする‥」
身体全体が熱っぽかった。
しかも先程のことを思い出せば出すほど、顔から火が出るようだ。
それでなくても熱あるのに、何たる失態‥。あの人の前で真っ赤になっちゃって‥
「‥‥‥‥」
恥ずかしかった。
繰り返し思い出すのは、目を丸くして紙幣を差し出すあの人の顔‥。
その手に握られた千円札四枚を見て、わけもなく苛立った。
雪の心が皮肉に歪む。
お金いっぱい持ってるわけね。羨ましいですこと‥
似たようなことが前にもあった。
あれはグループワークのメンバーで飲みに行った時、会計を全て彼が出すという雰囲気になった時‥。
「お、おごりですか?皆で飲んでるのになんで一人で‥」
あの時の彼の顔が忘れられない。
まるでお金の心配など無いであろう彼の、変なものでも見るかのようなあの目付き‥。
あの時のことを思い出すと、ふと冷めた気分になる。
私のこと、さぞバカみたいに思ったでしょうね‥
彼と相対する度に思い知らされる、この圧倒的な劣等感。
あの人は私に‥
地面をカサカサと這う落ち葉のように、心が乾いて虚しくなる。
恥辱を与え、
踏み付けられた書類。あの時雪のプライドさえも、粉々に踏み潰された。
屈辱を与え、
ペンを落としたあの時も、無視されたあの時も、
その後姿を見る度に、いつも心は屈辱に歪んだ。
当惑させ、
意図の分からない行動も、衆人環視の中での言動も、常に雪を当惑させた。
どうしてこの人は、いつも私をこんな気持ちにさせるのだろう?と。
そして先程差し出された、あの同情。
惨めにさせる
悔しかった。
その手に握られた紙幣を見た途端、カッと燃えるように心が燃えた。
あんな状況で、私の最後のプライドまでも、
躊躇いもなく粉々にしてしまうような人間
彼と相対するといつも、自身の弱さを自覚させられる。
目を背けたい脆弱な面を、嫌でも見せつけられるのだ‥。
雪はぎゅっと口元を結んだ。
様々な感情が胸の中を駆け巡っている。
「‥‥‥」
広いキャンパスの一角で、一人ぺしゃんこになっている自分自身。
耳を澄ませば、楽しそうに会話する学生達の声が聞こえてくるというのに‥。
皆と同じ立場のはずなのに、まるで余裕の無い自分自身に、雪は改めて向き合っていた。
いや、向き合わされていた。
空は広いのに、世界は明るいのに、今の雪の目には、何も入っては来なかった‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>彼女の劣等感 でした。
まるで走馬灯のような今回‥。雪と淳の黒歴史を遡るような展開になりました。
こうやって見ると、雪ちゃん本当に先輩が嫌い‥というか苦手なんだなと思いますね。
でもこれら過去の出来事は全部真実ではなく、全ては雪の視点なんですよね。劣等感に苛まれている雪の。
一年後の淳と雪を知っているからこそ、彼らの互いへの誤解が見て取れますね。。
次回は<雪と淳>彼らの距離 です。
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Mr.パーフェクトの前では誰しもが感じる劣等感。
雪ちゃんにとって、1番反応してしまうのは彼の経済的余裕。
なぜなら、自分はそこに努力では埋まらない理不尽さを感じているから。
難なく手に入れている彼にどうしても嫉妬してしまう。
青田先輩は差し出したお金に手をつけず、赤面して走り去った雪にそれを感じ取ったのかもしれませんね。
現金を差し出すことは、彼女のプライドを傷つけ、逃げていってしまう。
彼女のプライドを傷つけず、「彼女の大好物のチーズ」を与えるには…
ニヤリ。
そこから先輩のうっかり奨学金逃しちゃったよ攻撃や、「雪ちゃん、おごるよ(ニコッ)」攻撃が始まるんだな~~。
うんうん…と、1人で納得してしまいました(笑)
雪ちゃん、そしてスンキさんの体調が早く良くなりますように。
それまではYukkaenさんのブログと昨日見つけたノブレスを読みながら待ってます。
色んな青田先輩の差し出してきたものを思い出しながら、ほわんとして。
ふと、この物語のタイトルが「チーズ・イン・ザ・トラップ」であることに気づき、背中がぞわりとして…
か~ら~の~
スンキさん、…恐ろしい子!(白目)
「し、失礼しました~」
ダダダダダッー。
好悪にかかわらず彼が誰かに行動を起こす時、感情をぶつけるのでなく、ネズミを誘導するように餌を撒いて置き思う方向に彼らを動かす。
雪ちゃんに対しても、きっと最初もそうでしたし、付き合ってもずっと同じスタンスだったということに私けっこうショックを受けましたですよ。
3部の始まる前でしたっけ?雪ちゃんのモノクロの回想回で「近づこうとしても結局できなかった。私たちは違う人間だから」っていうモノローグが真実味を帯びてきたような。
そうですよね、あのとき違う人間だと自覚してましたよね。
人間だからみんな違うのなんて当たり前~なんだけど、雪ちゃんが感じたのは先輩との核(コア)の違いなのかなと思いました。
個人的な意見なのですが、子どもを育てるようになってから感じるのは、
人の核を決めるのは親からの愛情だと思っていて。
その中でも最深部を占めるのは母親の愛情なのではないかと思うのです。
雪ちゃんは、なんだかんだでお母さんや、足りない分はおばあちゃんから、ちゃんと母の愛を受けて育ってる。
でも先輩は違う。
母から愛を十分に受け取って育てば、コアは解放、放射、+の働きを示す。
しかし、コアが渇望していると、他者から奪うような、マイナスの相を呈する。
先輩はコアに「不足」があるから、誰かから自分のものを奪われることに嫌悪感(むしろ恐怖)がある。
このコア最深部が先輩と雪との違いだと思いました。
でも、2人とも父親から受けたコアの形はなんとなく似ていて。
だから最初「同類」だなんて思ったのかなって思いました。
雪ちゃんの無償の愛は、先輩のコアの最深部に触れることができるのか?
乞うご期待!ですね。
雪ちゃんは自分が傷つくことも構わず全力でぶつかってくるから、先輩の壁をぜひとも壊してほしいなあ。
保健室でニコニコしてたのは、自分のいつものやり方で間違いなかったでしょ、ということだったんですよね。
本当にイチャイチャシーンなのにホラーという名場面。
雪ちゃんが勘よく何かしら気付いたような描写でもありました。これまでの、流れに気付いたら雪ちゃんがどうでるかが、気になります。待ちきれないけど、待ちます!!
そして、子供に愛情が伝わるように頑張ろうとも思いました。
付き合いが深くなった今でも、経済面に関してはコンプレックス感じてますものね、雪ちゃんは‥。
淳の立場になって考えれば彼なりの苦労が分かるんだろうけど、コンプレックスと余裕の無さ故に卑屈になってしまうというか。
「施し」にならないように手を差し伸べる算段を、これからの淳はずっとしていましたよね。まさにチーズインザトラップ‥。
スンキさん、恐ろしい子‥。
くうがさん
ショックを受けた、というくうがさんのご意見、分かります。
以前(健太と香織と直美と一緒のグルワでDもらった後あたりの話で)雪ちゃんが「優しい態度をされてもどこかチグハグな感じがする。何かが欠けてるというか‥」とモヤモヤしていたのは、真実だったんですよね。
その鋭い鷹の目と全力でぶつかる勇気で、雪ちゃんに先輩の壁を突破して欲しいですね、ホント‥。
123さん
保健室のニコニコは、もうちょっと先の話のことを回想しての笑いだと思うので、楽しみにお待ちくだされ!
でも雪ちゃんが何かに気付いたのは事実‥。
休載明けが楽しみです!