ここはA大学内にある保健室。
そこにあるベッドの上に、淳はキョトンとした顔で座っている。
彼が見つめる先には、慌ただしく動き回る彼女の姿があった。
「薬ぃ!」
「薬!薬どこだっけ?!絆創膏!絆創膏は?!包帯はぁ?!」
保健師不在の保健室内を、雪は薬を求めて走り回った。
しかし淳はというと、のんびりとその室内を見回している。
今自分が座っているベッド。
去年はここに寝ている彼女のことを、静寂の中で見つめていた。
眠る彼女の疲れ果てたその顔を、今もありありと思い出す事が出来る。
あの時淳は、現在へと繋がる第一歩を踏み出したのだ‥。
淳はあの時のことを回想し、どこか懐かしい気持ちになって一人口角を上げた。
見つめる先には、今や自分の為に奔走する彼女が居る。
「そういうのってギブスとかで固定しなきゃじゃなかったですっけ?!
ここにはそういうの無いみたい‥」
「どうしよう~~?!」
心配そうな表情の雪を見つめながら、淳は一人満足そうに微笑んでいた。
やがて薬を見つけた彼女は、傷ついた彼の右手を介抱する。
「あーもう‥」
雪は室内で見つけた軟膏を手に、不満そうにこう漏らした。
「この軟膏、なんか古いみたい‥」
「先生もいないし、ソッコーで薬局行って新しいのを‥」
「え?いいよいいよ」
雪のその提案に、淳はただ首を横に振った。
まるで良いことでもあったかのように、嬉しそうに微笑みながら。
雪はなぜ彼がそんなに笑顔なのか分からなかった。笑ってる場合じゃないはずなのに‥。
とりあえず気持ちを落ち着けるために、「ふぅ、」と一つ息を吐く。
そして雪はその傷ついた右手を、改めて見るよう彼に促した。
「ほら、見てみて」
「全然腫れが引かないじゃないですか。本当に大丈夫なんですか?
どう見ても普通じゃないですよこれ」
「でしょう?」
しかし淳は、自身の右手など見ていなかった。
真剣な表情で言葉を続ける、彼女の顔をじっと見ている。
「今からでも大学病院に行ってちゃんと‥」
「ん?大丈夫だよ」「何が大丈夫なんですか」
大丈夫を繰り返す彼を、雪は少し諭すように注意した。心配そうに見上げながら。
「後ででもいいから、ちゃんと病院行って検査受けて下さい。絶対ですよ?」
「うん。分かった」
そう言ってニッコリと微笑む淳。
雪はそんな彼を見て、やはり納得いかないといった表情を浮かべる。
傷ついた右手に、雪はそっと自身の手を添えた。
そして細心過ぎる程の言葉で、切々と彼にその傷の状態を伝える。
「時計のお陰で傷が殆ど無いのは幸いだけど‥
ぶつかった衝撃で骨に異常が出る場合もあるから‥」
伏目がちに言葉を紡ぐ雪。
しかし雪が紡ぐ言葉は、ほとんど淳の耳には入って来なかった。
小さく動くその口元を、淳はじっと凝視し続ける。
今雪は、淳のことだけを見て、淳のことだけを考えている。
その伏せられた睫毛も、知的そうなその眉も、その柔らかで豊かな髪も、
雪の全てが、その全てが今、淳に注がれている。
彼女の大腿の上に置かれた自身の手。
傷ついたその手を、雪がゆっくりと癒して行く。
優しく自身の手に触れる雪のことを、淳はただじっと見つめていた。
胸の中にあるその考えが、彼女を見つめる内にだんだんと膨らんで行く‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼と彼女・保健室>でした。
終始笑顔か目をくりっとさせて雪を見る淳‥。
夕方の保健室に二人きりのこの状況、普通ならちょっとときめき展開だと思うのですが‥
何だか変な雰囲気ですね。
続きます。
次回は<線の中>です。
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スンキさんが先輩の「ん?大丈夫だよ」の時
口をカットの外にして見せないのがまた
なぜか不気味っていうか・・・
引き続き雪といるときは可愛らしさが際立ちますね。
いつもの客観的な感じかと思いきや、彼女との関係性の進展を喜んでいるようでどこかしてやったり感ややれやれ感も漂う。。
なのに雪の声すら届かない様子を見ていると、淳自身ここまで執着出来る相手に会えたのが自分でも意外、というところなのかしら、、?
どしてもロマンチックな展開ならいいのにーと期待を込めて考えがちですが、まだ分かりませんね。。作者さんの描きたい終点がまだ見えない~ウズウズしますね!
このところの時系列ちょっと混乱してます。亮が柳たちの後をついていって、聡美たちもその後を追った、しばらく後何かエピを挟んでの亮の回想・太一の告白なのかな?
太一たちのハッピーエンドはうれしいけどそれが逆にこの二人に終わりがくるフラグなんじゃないかと不安になりますよ。。
皆様のコメントを読み、理解が深まり、ますます続きが気になります。
淳がニコニコしてて微笑ましいような、、、え、微笑ましいエピソードであってますU+2049って、コメント見にきます。
先の展開が読めないから、ハッピーエンドを願うものとしてハラハラします。中毒性の高い漫画でこわいわあ。
いや、変でしょう(笑)
先輩もいい加減認めて欲しいですね‥。
うめやんさん
ウズウズしますよね~!終着点、予想してみるけど全然違ってたりもしますしね。
くうがさん
時系列、ちょこちょこ戻ったりするので若干わかりにくいですよね。
>亮が柳たちの後をついていって、聡美たちもその後を追った、しばらく後何かエピを挟んでの亮の回想・太一の告白なのかな?
これはもう亮と太一&聡美は同時進行で考えたら良いんだと思いますよ。
つまり亮が回想してる時に太一と聡美が話し合い(去年の雪が倒れた時のことなど)してるって感じなのかと。
123さん
コメ欄は絵文字や記号がすぐ化けますので、ご注意を!
ハッピーエンド、見たいですよねぇ。でも普通のハッピーエンドじゃないような気がしますよね。チートラですもの‥。
ゆうにゃん隊長さん
はじめまして!コメントありがとうございます。
一昨年の秋からですか!結構な期間ですね!ありがとうございます!
これからも頑張ります~!