2021/01/12
『その後の不自由 嵐のあとを生きる人たち』（医学書院）は、ダルク女性ハウス代表の上岡陽江さんとNPO法人リカバリー代表の大嶋栄子さんの共著です。
 | その後の不自由―「嵐」のあとを生きる人たち (シリーズ ケアをひらく) 上岡 陽江 医学書院 |
2010年の出版ですから、もう10年前の本ですが、この本に書かれたことは未だに変わっていないと思うのです。
以前に、ここでも紹介したことのあるカリーナさんのブログで紹介されていた本です。
ダルク女性ハウスは、薬物・アルコール依存症を持つ女性をサポートする施設。代表の上岡さん自身も処方薬・アルコール依存症でした。
リカバリーは札幌で、さまざまな被害を生き延びた女性をサポートするシェルターです。理事長の大嶋さんは精神科ソーシャルワーカー、大学講師です。
成長期に過酷な体験をして生き延びてきた女性たち、その人たちの過酷な体験を「嵐」と呼び、シェルターや施設で自分を見つめることができるようになった当事者の「それから」の話。
考えさせられることが多くありました。
上手な感想を書くこともできないので、本書から抜き書き・引用させていただくのが一番伝わるかと思います。
〈引用〉
１・私たちはなぜ寂しいのか
〈境界線を壊されて育つということ〉
家庭に問題がないわけじゃないのに、そこそこ乗り越えていっている友人たちの家庭はどうなっているのかと思っていた。
観察してみると、そういう人たちは家族内だけで問題を解決するわけでなく、外側に応援団を持っているように見えた。
(図は本書より借用）
大きな問題になればなるほど家族だけで解決できなくなる。誰かが外にSOSを出したり、おそらく家族以外のところともつながりながら、乗り越えていくものだろう。
「私」→「父・母・きょうだい」→「祖父・祖母・いとこ」という順番や、それぞれの境界線も大切。依存症を持つメンバーの話を聞いていると、この境界線と順番がごちゃごちゃ。
いい嫁をやりたい人ほど自分の子どもには我慢させて、夫の実家や親戚に尽くす。一見親戚と仲良くやっているようでも、家族の中で自分の子は二の次になってくる。子どもはずっと我慢し、絶えず人のことを優先するという形で育つ。(P.15～18)
回復というのは、他人を優先していたことが、「自分を真ん中にして考えること」へとかわっていくこと。特にボーダーラインとよばれる境界性パーソナリティ障害の人ほど他人を中心にしています。彼らは自分中心の極みのように思われているが、真ん中に「自分」じゃなくて「他人」がいる人たちなんです。（p.18）
特に薬物やアルコール依存の女性は、原家族の中に問題があった例が多い。自分の家で起きていることは友だちにも言えない。お父さん・お母さんに恥をかかせるかもしれない。バレることが一番マズいと考える。
誰にも言わず自分で守る、というふうになる。大人になっても応援団は持たず孤立して社会に出ていく。
私（上岡さん）は3歳ころから不幸な母を背負ってきた。でも3歳から頼りになっちゃあいけない。思春期でもけんかをしたことがない。
私は母を背負い、双子のような関係で、何も言われなくても母の日々の手伝いから感情的なものまですべてを支えるということで生きてきました。（p.22）
〈境界線を壊された子供は何を感じるようになるか〉
お父さんがアルコールで問題があるとか、お母さんがいつも怒っているとか、いろいろ問題があった時、子どもは幼ければ幼いほど「自分のせいだ」と考えてしまいます。
お父さんとお母さんの問題を自分のものとして背負っているので、いつもお父さんとお母さんの痛みも感じている。そうすると、やがてそれが自分の痛みなのか、お父さんとお母さんの痛みなのかがわからなくなるんです。
人の痛みに対してもすごく敏感なので、ある意味で薬物依存の人たちは優しいです。大変な人をみると、なんとかしてあげなきゃいけないという気持ちになってしまうんです。
家族の中で問題が大きかった人ほど、このように大人になってからも、しょっちゅう自分からトラブルのなかに入っていってしまいます。
「家よりも外のほうが安全」という感じがあるのです。つまり日常が危険で非日常が安全なんです。さらに攻撃と密着を愛情と勘違いして教えられてしまった人たちですから、ヤクザや暴走族のほうを安全と感じてしまう。（p.24 ～29）
ここまでが1章で、2章の「自傷からグチへ」も大変深いものですが、次回にします。
| その後の不自由―「嵐」のあとを生きる人たち (シリーズ ケアをひらく) 上岡 陽江 医学書院 |
