山梨百名山から見る風景

四方を山に囲まれた山梨県。私が愛して止まない山梨の名峰から見る山と花と星の奏でる風景を紹介するページです。

梅雨に咲く花たち 八ヶ岳  平成28年6月26日

2016年06月27日 | 山梨百名山
 中・低山の植物ばかりを追いかけていたので、森林限界を超えた高山植物を見に行くのはずいぶんと久しぶりのような気がする。天気予報は晴れのはずだったが見上げる八ヶ岳の山腹から上は黒い雲がかかっている。おそらくは霧か小雨が降っている状態だろう。足が遅いうえに花を探しながら登るので相当時間がかかると予想され、朝6時から歩き始める。


    八ヶ岳の中腹から上には黒い雲がかかっている。


    笹原の急登。傾斜がきついうえに斜面が滑る。えらいこっちゃ!


    ミヤマカラマツがたくさん。


    これは痛そう、ハリブキ。


    カモメ様は葉はあるものの、今年は1株しか咲いていなかった。


    展望地に出た。富士山はなんとか見えている。

 標高2,200mあたりから高山植物が次々と現れる。しかし、その後はずっと霧の中、しかも風が強くて時折小雨が降り、かなり寒い。カッパを着てレンズの結露を拭き取りながら、時として草むらの中やザレた斜面の上を歩いて花を探しては撮り、思う存分に花と戯れながら歩く。


    キバナノコマノツメはあちらこちらに咲いている。


    ハクサンチドリのお出まし。


    ミヤマハンショウヅル。強風で揺れまくり、ほとんどのカットはブレブレ。


    緑色のゴゼンタチバナ。


    露に濡れるミヤマシオガマ。若干早かったかと思ったが・・・


    たくさん咲いている。しかも咲き始めたばかりでどれも新鮮。


    う~ん、露に濡れた花も美しい。


    ミヤマキンバイはもう終わりかけ。


    ミヤマダイコンソウはもうすぐ満開。


    ハクサンイチゲは見ごろだが、悪天候と風に揺れてなかなか撮らせてくれない。


    匂ってきそうな満開のミヤマクロユリ。


    イワベンケイ(雄株)と山頂付近の岩。


    3種揃い咲き。


    岩の間に咲くムシトリスミレ


    良い場所に数株咲いていた。この山のムシトリ君は岩にへばり付くように咲いている。

 普通に歩けば山頂まで4~5時間ほどだろうが、到着したのは午後2時過ぎ、なんと8時間もかかった。山頂付近に咲くと聞いていた珍しい花をうろうろと探してみたがとうとう発見できず残念。まだ時期が早かったようだ。そしてもう一つ探していたのがこの花。図鑑やインターネットの記事では南アルプス特産と記されているのだが、5年ほど前の八ヶ岳で偶然発見してずっと正体がわからずにいた花だ。富士山麓の植物観察会の際に偶然にこの花を知っている方と出会い、ようやく決着がついた。残っているかどうか心配だったが、数はかなり少ないながらも残っていてくれた。


    これか?いや、ちと違う。これはキソチドリだろう。


    発見。草むらの中に隠れるようにひっそりと咲いている。


    久しぶりのご対面。残っていてくれて良かった。


    唇弁の先が3つに割れており、アオチドリの仲間。これは唇弁が赤紫色のタイプ。


    こちらは緑色のタイプ。


    ヒメムヨウランと仲良く並んで

 この花の正体はラン科アオチドリ属の高嶺ア・オ*チドリ。南アルプス特産と言われてきたが、八ヶ岳にも生育していることがわかった。そしてさらに、私の花仲間が日本海側にある山でこれと同じものと思われる花を探してきた。全体的に緑色で目立たないだけに、意外と見つけられていないだけなのかも知れないが、かなり数が少ない花であることは間違いない。今後分布域は書き換えられることが予想される。この場所も笹がはびこりつつあり、今後の存続が危ぶまれる。
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富士山麓の森再び  平成28年6月25日

2016年06月26日 | 花・花・花
 先日のヒトツボクロはいまひとつ消化不良だった。もう少し標高の高い場所ならば見ごろを迎えているかも知れない。そしてもう一つ、例年ならばまだ花期に早いであろうが、今年はかなり花の開花が早く、ひょっとしたら咲いているかも知れないので確認に行ってみたい花がある。早出してゆっくり撮影したいところだが、午前中は職場に行かなければならず、出発は12時ごろになってしまう。別の要件で偶然電話した花見隊隊員の一人がこれまた偶然にも富士山麓の森を歩いているそうで、ならが現地合流ということで出かけることとなった。


    この視野で8本の花帆を出しているが、花が小さくて目立たないため葉で探したほうが見つけやすい。これは葉が紫色のタイプ。


    ちょうど満開の良いタイミングだった。


    お見事。しかし風で揺れてきっちり撮らせてくれない。


    こちらが通常の葉が緑色のタイプ。どちらも葉の裏は紫色。


    昨年の夏にこれを探してこの界隈を歩き回ったが、一株も見つけられなかった。


    今回は事前にsanaeさんから情報をいただいていたので、簡単に探し当てることが出来た。感謝!


    「なんで見つけられないの?」とあざ笑うかのようにたくさんある。2度歩いたはずなのに、何で見つけられなかったのだろう?

 場所を移動して次の森に向かう。まだ時期が早いのではないかと思っていたのだが、想定外に見ごろを迎えていた。


    木の高いところに着生している富岳のスズムシソウ。200㎜望遠レンズ。


    300㎜望遠レンズ。10カット以上撮影してまともに見られるのは2~3カットだけ。どうしてもブレてしまう。


    こちらは白花。


    1株だけ手の届きそうな位置に咲いていた。不届き者がいるようで、木に登って撮影したらしい。木の根元にある苔が剥げ落ちてしまっていた。

 他の木に着生している株も見ておきたかったがスタートが遅かったので時間は5時を回り樹海の森の中は暗くなってしまった。もはや撮影は困難なので撤退することにした。

 とにかく今年は花期がやたらと早く、雪の少なかった北岳では開山を前にしてもうキタダケソウは終わってしまっているらしい。例年よりも10日から2週間早く見て行動したほうが良さそうだ。

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ヒトツボクロ 富士山麓の森

2016年06月26日 | 花・花・花
 昨年訪れた時には既に花が散って結実していたこの花。今年はどうしても花が見てみたいと思っていた。天候が不順で夕方から雨の予報だが、最短の場所ならばなんとか持ち堪えてくれそうなので、傘を持って出かけてみた。昨年発見した位置をGPSに登録してあるので、真直ぐにその場所に向かう。


    咲いている。しかし、既に若干遅く下のほうの花は結実している。


    思ったより背高ノッポな花。天候が悪くて森の中が暗いうえに風で揺れてなかなか撮らせてくれない。


    カゲロウが飛んでいるかのような半透明の薄緑色の花。


    長い距を持っている。


    確かに、顔はランの花。


    樹海の中の森に溶け込んでひっそりと咲いている。

 出来ればもう1ヶ所と思ったのだが、向かっている途中で雨が降り出し、かなり本降りになってきてしまった。ひとまず花を見ることが出来たので今回は良しとしよう。撤退。
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関東地区自然保護グループ勉強会のため再び三ツ峠へ  平成28年6月18日‐19日

2016年06月22日 | 山梨百名山
 今年は山岳連盟の関東地区自然保護グループ勉強会の担当が山梨県だそうで、三ツ峠山荘1泊で会合が開かれた。今年の山岳連盟主催による三ツ峠清掃登山が開催されなかった(開催できなかった)のはこの会合があったためと言っても良いが、来年はきっと例年通りに一般募集も含めて開催できると思う。関東地区から集まったのは総勢40人、山梨県も私を含めて9人参加した。三ツ峠はいちはやく保護柵を設置して自然環境を守り、さらにはテンニンソウなどの雑草を除去して積極的に環境の回復にも取り組んで成功している全国でも数少ない場所である。勉強会を開催するには絶好の場所であるわけである。

 午後3時に三ツ峠山荘集合だったが、所用で1時間遅れで到着した。ちょうど山荘前で中村さんの富士山形成の歴史や三ツ峠の歴史と植生の変化などの説明が終わったところで、室内に入ってビデオによる解説が始まるところだった。このビデオを見るのはこれで3度目だが、何度見ても三ツ峠の取り組みは素晴らしいと思う。

 勉強会の後に夕食、さらに懇親会と続く。どこの地区でも鹿の食害に悩まされているようで、既に手がつけられないほどにやられてしまっているところも多いようだった。この日は明るい月が空に輝いて星は期待できない夜だったが、月と火星と土星、さらにさそり座のアンタレスが接近していて月の周辺は賑やかな空だった。雲がかかってはいるもののなんとか富士山は姿を現してくれている。富士山頂に月がやって来るのは夜の11時ごろで、寝る時間を削ってこの夜は撮影するつもりでカメラ機材(ついでに懇親会用の酒とつまみも)を持って来た。


    深夜11時ごろ、富士山の山頂あたりに月がやって来た。機材セットして撮影開始する。


    雲で霞んでしまったがなんとか富士山は見える。月の右下の明るい星が火星、すぐ左にあるのが土星、その下に輝くのがアンタレス。


    フラッシュ調整発光して前景にヤマツツジを配して撮影した月と富士とヤマツツジ。今回狙っていた構図がこれで、この季節でこれだけ撮れれば上出来。


    17㎜レンズに変えた頃には雲が増えていまいち。

 深夜12時半まで撮影を行ったがその後は富士山から月が離れてしまい、雲も増えて富士山が見えにくく終了となる。栃木県から参加された方が私と同じく写真大好きで、12時過ぎまで付き合ってくれた。1時就眠、3時45分に目覚ましをかけて一旦寝る。

 未明3時に目が覚めた。日の出にはまだ早いのでもう少し寝ていようと思ったのだがもはや寝付けず、3時半に三脚とカメラを持って外に出る。富士山が見えてはいるが霞んでいる。しかしこの季節でこのくらい見えてくれれば良いほうだろう。山荘の前で撮影後、山頂に一番乗りで向かう。


    夜明け前の富士山。フラッシュ調整発光。


    夜明け前の三ツ峠山頂。


    山頂下のヤマツツジと富士山


    朝焼けの山頂。残念ながらあまり焼けない。


    日の出前の富士山。霞が多くて鮮明では無い。


    朝日が射す富士山。東の空の雲と霞でやはりあまり焼けない。


    季節が季節だけにこんなものでしょう。

 他県の山岳連盟の人たちはほとんど日の出前の山頂に登って来ていたが、山梨県だけ、皆二日酔いなのか数人しか来ていない。山頂から御巣鷹山界隈にかけて案内しながら花散策し、三ツ峠山荘に戻った。

 朝食後、中村さんの案内で保護地区に入り、説明を受けながら植物を観察させていただく。なにせ40人という人数なので一度ではとてもではないが説明しきれず、2~3組のグループに分かれて説明を受けるのだが中村さんも大変である。私は最後尾のグループで十分に説明を受けられなかった人のフォローに回る。


    なにせ大人数だけに案内と説明をする中村さんも大変である。


    何度見てもこの景観は素晴らしい。ここでしか見ることが出来ない昔ながらの自然の景色だろう。


    花だけでは無くて周りにまだ花を付けていない若い葉があることがとてもうれしい。


    最後に全員で草刈り作業。皆さん熱心でした。

 草刈り終了後、中村さんと山梨県自然保護グループリーダーの磯野さんからのご指名で何かしゃべれと言われ、僭越ながら10分ほど話をさせていただいた。保護の行き届いている三ツ峠のカモメランと無法地帯になっている別の山のカモメランでは大きな違いが出てきていること、保護のために自主的にロープ設置などの作業を行っており、もはや待った無しの状態に陥っていることなどをお話しさせていただいた。さらに最近櫛形山で発見された希少植物の保護に積極的に取り組むことなども話した。

 実りの多かったこの会合は三ツ峠山荘で昼食をいただいた後解散となった。中村さんの特別サービスで超大盛りカレーをいただいた私は、下山するまでは良かったが寝不足の疲れが一気に出て車の運転が眠くて大変だった。眠気覚ましのドリンクとガムと柿の種をほおばりながら運転してなんとか無事に帰宅した。
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三ツ峠清掃登山(その2) ~植生保護と維持のための清掃と花たち~  平成28年6月12日

2016年06月16日 | 番外編
 昨年・一昨年と山梨県山岳連盟主催の三ツ峠清掃登山に参加させていただいており、今年も花見隊をはじめとする知人の方たちをお誘いするつもりでいたのだが、今年は山岳連盟の別の会が三ツ峠で開催される運びとなり一般募集の清掃登山は日程的に困難となってしまった。そこで今回は私が個人的に声をおかけして混成チームで出かけることとなった。もちろん、花見隊を含めて花好きの人たちばかりであるが、花を観察するだけで無くて花の咲く植生を理解すること、そしてその植生を維持するためにはどのような取り組みが必要なのかということを知ることは、これからどのように花たちが変わって行くか、花たちを守るためにはどんな取り組みが必要なのかを知るうえで大変重要なことである。鹿の保護柵を全国に先駆けていちはやく設置し、テンニンソウや笹の除去を行うことで植生の保護と維持に取り組んできた三ツ峠は、それらを勉強するには絶好の場所であり、中心人物である三つ峠山荘の中村さんのお話はこの上ない参考となりこれからやるべき道を示唆してくれる。

 御坂側の三ツ峠登山口に8時半集合し出発。今回は数日後に5歳の誕生日を迎える幼稚園年中さんの子供と小学生の参加もあり、途中でおんぶして登るのを想定していたのだが、以外にも元気で、自力で山頂まで歩いてくれた。とにかく花好きのメンバーばかりが集まったので、全く急ぐことも無くわいわいがやがやと雑談しながらの楽しい登山で、ほとんど疲れることなく2時間ほどで三ツ峠山荘に到着した。


    登山道では咲き始めた矢車草がお出迎えしてくれた。


    三ツ峠山荘前から見る富士山。心配していた天候も大丈夫そうだ。


    アヤメは踏み付けに強いそうで、道の脇に元気に咲いている。

 小休憩してさっそく中村さんの案内で富士山形成の歴史や植生の変化、そして保護柵の中に入れていただき、マルハナバチによるアツモリソウの受粉の仕組みやツラスネラ菌とアツモリソウの共生関係、盗掘によって山にどのような変化が起きたか、さらには植生保護のために行っているテンニンソウや笹の除去とその効果などについてお話を伺った。今回は花好きで熱心なメンバーが多かったこともあり、中村さんのお話も熱が入っていたように感じた。


    ここに咲く花たちは本当に皆元気そうだ。


    大きな葉を出してみずみずしいオオバギボウシの群落。


    このような環境の中にあってこの花が元気に咲いてくれる。


    オオバギボウシとは仲が良いらしい。


    笹が茂っているところもあるが、この中にもまだ若い葉がいくつか生えていた。菌の活性が保たれる環境があれば育ってくれるようだ。


    お話を聞いた後に参加者全員でテンニンソウの除去作業を行う。根がはびこるテンニンソウは地下茎まで除去するのはかなり大変。

 清掃作業で軽く汗をかいた後、三ツ峠山荘前のベンチをお借りして昼食となる。わいわいがやがや、話は尽きない。その後、山頂に登ってみんなで記念撮影を行った。


    山頂で咲かせたバンザイの花。皆さん満足気な良い表情をしています。

 

    ツツジもいろいろ咲いている。サラサドウダンツツジ。


    シロバナ🎐ツツジ


    ムラサキ🎣がねツツジ

 今回もたいへん勉強になり、いろいろと刺激を受けた三ツ峠清掃登山だった。来年は山岳連盟主催で開催できると思うのだが、もし出来ないとしても今回のように有志を集めての清掃登山は行って行きたいと思う。

 参加してくださった皆様、ご苦労様でした。そしておつきあいいただいてありがとうございました。
    
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三ツ峠清掃登山(その1) ~富士山の形成と三ツ峠~  平成28年6月12日

2016年06月14日 | 番外編
 今から500万年ほど昔、人類はまだ誕生しておらず、アウストラロピテクスという猿人の化石が見つかったころの時代である。富士山はまだ形成されておらず、海の中に沈んでいた。しかし、その頃には既に三ツ峠をはじめとする御坂山塊は形成されており、毛無山などの天守山塊や丹沢山塊も既に出来上がっていた。三ツ峠から見る富士山の方向には海が見えていたということになる。8000万年もの長い歴史を持つとされるラン科植物は今とは違う形態を持っていたかも知れないが、その時代には既にこの山塊に生育していたと推定される。
 100万年ほど前にかつては島だった伊豆半島が太平洋プレートに乗って移動し、これらの山塊と衝突して陸続きとなり伊豆半島が形成された。衝突の際に生じた膨大なエネルギーは大きな地殻の変動をもたらし、古箱根山、小御岳山、愛鷹山の噴火が起こり、海底から隆起した。その後しばらくは火山活動は落ち着いていたのだが、10万年前に再び古御岳山と愛鷹山で大規模な噴火が起こり、この時に富士山の原型が形成された。そしてさらに1万年ほど前に、今度は小御岳山付近で繰り返し大きな噴火が起こり現在の富士山が形成された。このような高くて形の良い山になったのは先に形成されていた愛鷹山塊と小御岳山によって溶岩流の流れが堰き止められ、溶岩があまり流失しなかったことが要因の一つと考えられている。さらに西暦864年、富士北麓の長尾山付近で大規模な噴火が起こり大量の溶岩が流失した。当時はせの湖という一つの湖だったものが溶岩流によって分断されて精進湖と西湖の2つの湖に分かれ、溶岩流は広大な青木ヶ原樹海を形成するに至った。さらに1707年、宝永火口の噴火を最後に富士山の噴火は起こっていない。


    三ツ峠から見る富士山。100万年ほど前まではここには海が広がっていた。

 御坂山塊に咲いていたアツモリソウをはじめとする多くのラン科植物は、このような活発な噴火活動を繰り返してきた富士山を目の当たりに見てきたに違いない。火山礫や火山灰も降り注いだであろうし、空を覆う噴煙で不順な天候にも見舞われたであろう。しかしそのような激動の変化の中にあってもこれらの花たちは果敢に生き延びてきたわけである。ある花は動物の食害を避けるために木の上に棲み処を変え、あるものは葉緑素を持たずに他の植物や菌類から栄養を得る手段を選び、あるものは根を延ばして株分けで増殖する方法を選び、あるものはある種の菌と共生することによって成長する道を選んだ。さなざまに生き方を変え、形を変えてこれらの植物は生き抜いて行く術を身につけてきたわけである。それらの植物の中にあって、アツモリソウ属はもっとも長い歴史を持ち、植物の頂点に立つものだと言われている。


    葉緑素を持たないヒメムヨウラン


    ツラスネラ菌という共生菌とともに成長するアツモリソウ

 ラン科植物は8000万年もの長い歴史を持つ花であるにもかかわらず、ここ50~60年で大きな危機を迎えることとなる。それは戦後の園芸ブームに乗って山の上に咲くこれらの貴重な花たちが人の手によってことごとく持ち去られてしまったことである。植物の頂点に立つアツモリソウ属の花を持ち去るということは当然生態系のバランスを崩すという結果をもたらすわけである。それらの花が無くなることで共生していた菌類も消滅し、その場所には今まで生えることが出来なかった植物がはびこることなり、緑豊かだった草原は大きな変貌を遂げてしまうことになる。さらには地球温暖化と鹿の爆発的な増殖が拍車をかけて、ここ10年で山上の環境は大きく変わってしまっている。

 三ツ峠はこのような激動する植生の変化を防ぐために早い時期からさまざまな取り組みを行ってきた。盗掘の防止はもちろんだが、全国に先駆けていちはやく防護柵を設置して鹿の食害から山を守って来た。さらには積極的に植生を取り戻す取り組みも行われており、はびこってしまったテンニンソウや笹を取り除く作業をボランティアを募って行っている。昨年・一昨年は山梨県山岳連盟主催の三ツ峠清掃活動に参加させていただいたが、今年は山岳連盟で日程がとれない状況となってしまい、個人的に有志を募っての清掃活動を行うこととなった。(その2に続く。)
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山梨県山岳連盟自然保護グループ主催による櫛形山調査会  平成28年6月5日

2016年06月07日 | 山梨百名山
 予定ではバリアンスルートの沢から尾根にかけての稀少植物調査だったのだが、この日は朝から想定外の雨となってしまい、とてもではないが道の無い沢を尾根まで登り詰めることは出来ない。そこで当日参加メンバーと相談の上ルートを変更し、悪天候でも歩けそうな櫛形山山頂からアヤメ平の周回コースに変更した。午後からは回復してくれそうなので、カッパを着て傘を差して雨と霧の中を出発する。


    雨と霧の中を出発。一人だったら絶対に行かないが、今回は山岳レインジャー活動の一環なので少しの悪天候ならば決行・・・なのだ。


    櫛形山山頂。昔からの櫛形山を知る人の話では、腰から胸のあたりまで草が生い茂る森だったそうだ。今ではほとんど森の中の禿山。


    ツガの林床で一株だけ見つけたイチヨウラン。


    カラマツに着生したサルオガゼが美しい。


    裸山に到着。たくさん出ている穂は昨年のアヤメ。すらりと伸びた下草はアヤメで、かなり復活してくれている。


    白い花はミヤマハタザオ。私が山に登るきっかけを作ってくれたクモマツマキチョウの食草。残念ながら蝶は飛んでいない。


    裸山山頂から見下ろす。昨年秋にボランティアを募集してこの山頂付近の斜面も保護柵で囲まれた。いつか復活してくれることと思う。

 時間はお昼近くとなり裸山の山頂で昼食となった。空はだいぶ明るくなってきたがまだ小雨がぱらついている。昼食後アヤメ平に向かう。


    アヤメ平。まだキンポウゲは蕾だが、いずれこのあたりは黄色い絨毯が敷かれたようなお花畑に変わる。


    完全復活とは言えないが、だいぶ下草が増えたアヤメ平。


    しかし一歩保護柵の外に出るとそこは別世界。鹿の食害跡。


    これはアオスズラン(別名エゾスズラン)の葉。鹿の大好物だけに無事に咲いてくれると良いのだが・・・。


    きわめて貴重な櫛形山のカモメラン。下に小葉があり、見つかったのはこの2株のみ。


    トンボソウの仲間らしき葉。先端が丸まっており、おそらくはオオヤマサギソウと思われる。


    ヒメムヨウランは随所で観察された。


    こちらはちょっと変わったヒメムヨウラン。アルビノの株と思われる。


    昨年は1ヶ所しか見つからなかったが、今回は別の場所も発見できたタカネフタバラン。穂が出始めたばかり。


    アヤメ平の辺りで雨が止んだ。展望台からは北岳が見えた。


    誰かがかじった跡。誰かって?それは熊おやじ。別の場所の標柱はまだ熊の毛が残っていた。散策される方は十分にご注意を!

 5月に入ってから何度も調査に入っている櫛形山だが、保護柵で囲まれた場所以外は食害著しく目ぼしい花や稀少植物は絶滅に瀕している悲しい山である。また国立公園から外れて県立公園の扱いのため無法地帯になっており、盗掘も著しいと聞く。保護柵の外に咲く花たちも守ってやれるような何か良い手立ては無いものだろうか。
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「花咲かじじい作戦」失敗か?  平成28年6月初旬

2016年06月07日 | 番外編
 咲かなくなってしまった某所のラン科植物を咲かせるために昨年から作戦を展開している。原因は鹿の食害とそれによるテンニンソウやスゲの仲間の植物の増殖による林床の変化、さらにはそれによって引き起こされた共生菌の活性低下が原因と思われる。まずはテンニンソウなどのはびこった雑草を取り除き、日当たりを良くするために周辺に伸びた木の枝を除去し、さらにはラン菌活性化のために天然素材の肥料を散布した。果たしてその成果は上がっているのか?


    途中に生育しているクモキリソウ属を観察しながら現地に向かう。


    葉が数株出ているのを発見したが咲いているものは一株も見当たらない。こちらも食害によるものと思われる。


    昨年は立派な花を咲かせていたはずの株も今年は小さな葉しか出していない。なんとかしないと絶えてしまいそうだ。


    現地到着。テンニンソウは大部分を除去したのでわずかに残っているのみ。スゲも約半分になっている。


    しかし・・・肝心の草の葉が見つからない。どうやら出ていないようだ。


    肥料を散布して他の草が増えたが、折角生えた草は鹿に食われている。これでは鹿の餌を増やしているようなもの。


    それっぽい葉が出てはいるが、これは世話している草の葉では無い。


    花咲かじじい作戦、赤信号!

 昨年の秋から作戦を始動したが、その時には春に確認したはずの葉が消失していた。鹿に食べられた跡があることからおそらくはその時には既に鹿に食べられていた可能性がある。草むしりや木の枝の処理の前に、ネットを張るべきだったかもしれない。しかしネットを張ることによってその場所に何かの植物が保護されていることがバレてしまうわけで、これもまたあまり良いこととは思えない。もしも根が残っていれば数年後にまた芽を出す可能性が残っているので、これは保護ネットを張るのも止む無しかと考えている。今回は葉が確認できなかったが作戦は引き続き続行する。
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逆転の一突き  平成28年6月4日

2016年06月04日 | 番外編
 再三探したが見つからなかった花。遂に逆転の一撃か?? いや、突き抜けた草だから一突きだろう。


    これじゃないか??


    なにせ本とネットの記事でしか見たことが無い代物。


    葉を突き抜くように花穂が出る。


    面白い形をした花。


    喉仏のような突起を持っている。


    根元は一つなので一株なのだろう。近くに幼弱な株が2つ。どうやら株分けで増殖したらしい。

 周辺を探したが見つかったのはこの株だけだ。おそらくは自家受粉になっているだろうから、成った種子が有効に芽を出してくれるかどうかはかなり疑問がある。できればもう1株探し当てて他家受粉させ、元気な種子を付けて欲しいところだ。自力では発見できず、花の師匠を頼りになんとか探し出していただいた貴重な株である。この恩にどのように報いれば良いのか?花を守ることだろう。

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御坂山系のカモメたち  平成28年6月1日

2016年06月02日 | 番外編
 御坂山系の山に咲くカモメの花が激減しているとの連絡を受けた。昨年踏み荒らしが酷く、盗掘にも遭ったということで今年から一部だけではあるがロープが張られたはずだ。どれだけ効果があるのかは不明だが、踏み荒らしの防止には少しは効果があると思うのだがいかがなものか?見に行ってみることにした。


    ミツバツツジはもう終わりかけている。


    一見緑豊かな林床のように見えるのだが、生えているのはトリカブト、ヤブレガサ、ヤグルマソウなど、あまり鹿が好まない植物ばかり。


    山の斜面を覆い尽くすようなヤブレガサの大群落。さすがにこの下では日照が悪く、カモメたちは生き延びて行けないだろう。


    数年前はカモメたちの葉がびっしりと生えていたはずだが、だいぶ数を減らしてまばらになってしまっている。


    花咲くカモメたち


    こんなところが快適なのか?


    数株並んで咲いているが、写真を撮り易くするためか周辺の草が取り払われて花が斜面にさらけ出されている。


    踏まれてしまっているカモメ。可哀そう。


    ここはあまり人に気付かれずに快適に過ごしているらしい。


    元気なカモメたち


    今年から保護ロープが設置された場所。中央部に大きな通路が出来てしまい、その周辺のカモメたちは激減してしまった。


    ロープのギリギリのところまで葉が出ており、数株踏まれたものもあった。勝手ながらポールの位置を10㎝ほど外にずらした。


    これからも元気に咲いて欲しい、カモメたち。

 報告を受けた通り、かなり減少しているように見受けられる。その一つは人が入ることによって起こる踏み荒らしと、踏んではいなくとも地面が圧縮されて固くなり花が生育できなくなることだろう。そしてもう一つは鹿の食害による山の植生の変化と、それによって起こる山肌の乾燥化だろう。かつてはカイフウロやクガイソウ、フシグロセンノウなどのお花畑が広がっていた山頂付近は今ではすっかりテンニンソウやヤブレガサなどの斜面になってしまっており、ユキザサの群落もすっかり消失してしまった。花を守るには、保護柵の設置が必要だろう。しかし、貧乏な山梨県がどれだけの予算を付けられるか、かなり難しい問題だろう。


    この山にはちょっと変わったカモメも住んでいる。

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引き続き南アルプス前衛の山の花調査  平成28年5月28日・29日

2016年06月02日 | 山梨無名山
 見つからない花の調査を引き続き行い、2日間道無き山腹を歩き回ってみた。今回は新たな情報をいただき、数は少ないながら昨年までは確実に花が存在していたという場所を集中的に調査してみた。しかし結果は・・・

 5月28日

 当直疲れが抜け切らず10時過ぎまで寝て遅めの出発となる。かつ、夕方から集会が入っており、入山できる時間は4時間ほどに限られてしまう。情報をいただいた斜面をジグザグに歩いて花探しするが・・・。


    急斜面をジグザグに歩いて花探し。先週は沢の源頭を歩いたが見つからず、今回は雑木林の林床を探る。


    ササバギンランは比較的多く見かける。


    そして相変わらずたくさんあって、花が咲き始めたクサタチバナ。


    イカリソウはもう終わりだが、食害に遭っているのか数は少ない。


    フタリシズカとクサタチバナ。


    少し薄暗い林床の中も生えているものはあまり変わらない。


    クサタチバナ群落


    古木(ブナ?)の周辺


    日当たりの良い斜面


    平坦な草地


    ヤマツツジとウツギ

 いずれの斜面を探しても同じような草ばかりで、探し物は見つかる気配が無い。時間切れで撤退。


 5月29日

 前日よりは若干早くスタートして、前日探した斜面の尾根を隔てた反対側とさらにその上を歩いてみた。


    本日は沢を登って斜面に取り付く。


    日当たりの良い雑木林の林床


    ヤマブドウのツルが絡み合うジャングルのような森


    やや日当たりの悪い少し湿った林床


    枯れた沢のいちばん上で見つけたミゾホオズキ(ハエドクソウ科 ミゾホオズキ属)。


    ミゾホオズキ

 前日と反対側の斜面でも見つけることは出来ず、ちょっと珍しいと言えばミゾホオズキくらいだ。尾根に取り付いてさらに高度を上げて、昨日歩いた斜面の上を大きくトラバースしながら歩いてみた。


    相変わらずのクサタチバナ群落


    日当たりの良い斜面に群生


    満開のクサタチバナ


    バイケイソウ咲く斜面


    岩ゴロゴロの斜面


    クワガタソウがちらほら


    フタリシズカ


    元気の良いバイケイソウ


    下の谷も、向こうの尾根も、その向こうの谷も探したはずだが・・・

 残念ながら2日間探したが探し物は見つからず、稀少植物も何も出会うことが出来ない。かつては植生豊かな山だったはずなのだが、今ではほとんど何も無い山に変わり果てているような気がする。

 次週はいよいよ山梨県山岳連盟の有志が集い、この山の探索調査が行われる。その前になんとか探し出しておきたかったのだが、ありそうな斜面の目途すら立たずに調査の日を迎えることとなりそうだ。しかし、かなりの精鋭部隊が集まる調査会なので、ひょっとしたら最後の最後で逆転劇が待っているかも知れない。
    

 



コメント (2)
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