【自民党裏金問題】二階派のキーマン「派閥の会計責任者」が10月に辞めていた!全容解明への影響は
配信 ポストセブン
パーティー券利用の裏金づくりの手口は共通しているが、安倍派の政務三役10人を交代させた岸田文雄首相は、不可解なことに二階派の2閣僚は続投させた。この取り扱いの「差」は何か。その境界を探ると、長年、二階派の会計責任者を務めた人物が最近になって事務所を去っていた事実にも突き当たった。 捜査が進む安倍派と二階派は年に1度、派閥のパーティーを開催している。所属議員には当選回数や役職経験によってパーティー券(1枚2万円)の販売ノルマが設けられ、各議員がノルマを超えて集めた販売収入分は議員側に還流(キックバック)していた。大手紙社会部記者が語る。 「両派とも議員ごとのノルマやキックバックの金額を記載したリストを作成していた。その総額は安倍派では5年間で5億円、二階派でも数億円単位に上ると見られています。両派の会計責任者はいずれも還流の事実関係は認めていて、とくに安倍派の会計責任者は『記載しなければいけないことはわかっていた』と違法性の認識を供述している」 違法な不記載の判断を国会議員でもない職員が独断で決めるとは考えにくい。派閥の会長や事務総長といった国会議員の共謀まで認められるのかに注目が集まる。
会計責任者は「政界の事情に明るい人ではなかった」
その事実関係を握るキーマンとなる安倍派の会計責任者はNTT出身で子会社の役員や監査役を務めた人物だった。同じNTT出身の世耕弘成・自民党前参院幹事長の紹介で、4年ほど前に事務局長として迎えられていたことが明らかになっている。 では、もう一人のキーマン、二階派の会計責任者はどんな人物なのか。ある二階派関係者はこう言う。 「(会計責任者の)A氏は、約20年前、現在の志帥会ができて間もないころに議員秘書の紹介で事務局に迎えられた人物です」 志帥会は、「参議院の法皇」と恐れられた村上正邦氏を会長とする政策科学研究所(旧中曽根派)と、三塚派(現・安倍派)から離脱した亀井静香氏のグループが合併して1999年に結成された。その後、江藤隆美氏を会長、亀井氏を代表代行として江藤・亀井派と呼ばれたが、A氏はそれと前後した時期に着任したという証言だ。ちなみに、二階俊博・元幹事長が会長となったのは、その約10年も後になる2012年になってのことだった。 「A氏は苦労してきた人だと聞いています。『派閥の事務局に来る前は運転手や生花店勤務などさまざまな仕事を経験したんだ』と話していたのを聞いたことがある。政界の事情に明るいわけではなく、政治資金パーティーの会場取りや当日の段取りなんかは秘書経験のある別のスタッフに任せ、そこでまとまってきたものを会長や事務総長に決裁を取るのがA氏の役割でした」(前出・二階派関係者) ちなみに、安倍・二階の両派では、不記載のありようが微妙に異なる。安倍派ではノルマ超過分の収入だけでなく議員側への支出も不記載なのに対し、二階派では議員側への支出は派閥の収支報告書に載せ、議員側の報告書にも記載していた。 ノルマ超過分に着目すれば、その支出だけが載って収入が不記載なら収支報告書に掲載されている数字が「赤字」になりそうだが、前出の二階派関係者が「何年か前の記憶」と断わったうえで、こう読み解く。 「パー券のノルマというのは議員の事務所にとっては負担で、ノルマ以上に売ってくれるのはごく一部の幹部だけ。安倍派のように何人もいなかったと思います。単年度で還流させる“赤字”は、おそらく数千万円ですが、2億?3億円という計上している分のパーティー収益や繰越金といった“黒字”で相殺することで飲み込めたのではないか」
退職の理由は「わかりかねます」
パー券のノルマ負担といえば、11月22日に二階派に退会届を出した桜田義孝・元五輪担当大臣が、その理由として「パーティー券を売ることが大変」と語り、300枚の販売ノルマを達成するのが難しいことを理由に挙げたことが報じられた。 「ノルマは1回生議員で50枚(100万円)、2回生で100枚、3回生で150枚といった具合に重くなるルールでした。所属議員の人数が少ないだけ、安倍派より一議員にかかるハードルが高かったかもしれません。それに超過分を戻す際には寄付金として収支報告書に載せているわけで、受け取っている議員側からすれば“私の何がいけないの?”と感じているかもしれません」(同前) こうなると焦点が絞られてくるのは、会長の二階俊博・前幹事長や事務総長の武田良太・元総務大臣といった派閥幹部から“不記載にしろ”といった指示や共謀があったかどうか。その事実関係によって捜査の進展が左右されそうだ。 この点についてA氏はどう認識しているのか。12月20日、二階派事務所に問い合わせてみると、驚いたことに事務所の担当者は「Aさんは10月にもう退職しています」と回答した。事情聴取を受けていることを理由にした退職かを聞くと、「こちらではわかりかねます」との返答だった。 自民党派閥の裏金問題は11月下旬以降になって一気にクローズアップされたが、その直前のタイミングでの退職。派閥の不記載が刑事告発されたのは約1年前のことになるが、法令違反の責任を現場の職員に押し付けて辞めさせたのだろうか。トカゲの尻尾切りの結末となるシナリオありきで、岸田首相は二階派所属の小泉龍二・法務大臣は交代なし、派閥離脱だけで続投を了としたのか。疑念はさらに深まるばかりだ。 ■取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)