[キックオフ前の雑感]
優勝を狙うような強豪チームに力を与えるのは、実は強力なライバルの存在。練習での頑張りも必要だが、実戦を通じて体験することになる厳しいプレッシャーに勝る「強化剤」はない。現時点では東海大の「一人旅」となりかねない状況を救っている存在は流経大と言える。しかしながら、前節に法政がその流経大に僅か1点差で敗れたというニュースは、関東リーグ戦Gのファンに大きな衝撃(と希望)をもたらした。とくにこの試合で法政と対戦する東海大にとっても、大きなインパクトを与えたものと思われる。「法政は去年や一昨年の法政ではない」といった(いい意味での)危機意識が練習を行う選手達の頭の中を駆け巡っていたかも知れない。いずれにせよ、法政がかつての輝きを取り戻しつつある状況は、リーグ戦Gを応援するものとしても励みになる。
さて、今週も先週に引き続きキャノンスポーツパークでの観戦となった。規模こそ大きくないが、ラグビーをプレーするものと観るものの間に一体感をもたらす素晴らしい競技場だと思う。上で書いたような状況もあってか、ピッチに登場した東海大のメンバーからは先週(拓大戦)とは明らかに違った雰囲気が感じ取れる。おそらく、強力なライバルへと復活を遂げつつある法政を強く意識して、1週間の間、緊迫感を持って練習に取り組んできたものと思われる。その東海大メンバーはFW1列にPR阿部とHO崩がスタメン復帰。また、BKではCTBに湯の迫が戻ってきた。SHは本日も1年生の小泉がスタメンで松島はリザーブ。ほぼベストの陣容で法政のチャレンジを受ける。
法政のメンバーもおそらく現状でのベストと思われる。悔しい思いと同時に手応えも感じさせたであろう流経大戦を経て、選手達は自信を取り戻したかのようだ。去年や一昨年に観た法政とは別のチームになっていることはピッチに登場した選手達の表情からも読み取れた。とくにFWの選手に東海大の選手ほどの身体の厚みがないことが気にならないでもないが、FWとBKに優れたランナーを配する陣容であることは間違いない。あとは、過去の試合では殆ど不発に終わっている、BKに展開してトライを重ねる法政が持ち味とするラグビーの復活を待つだけだ。FW戦に自信を持つ東海大も展開ラグビーで勝負してくることが予想されるだけに、ボールが大きく動くラグビーを期待したいところ。
本日はあいにくの小雨模様。試合を観ながらメモを取らなければならないので、傘をさして観戦できそうな場所を探した。さすがに注目カードとあって中央部の座席は殆ど両校のファンで埋まっている。結局、オープンスペースになっていた東海大サイドの22mライン付近の前の方に落ち着いた。すぐ左隣には東海大の部員達が大挙陣取っていて、ピッチに登場したメンバー達に元気に声援を送っている。ちょっと賑やか過ぎるかなとも思ったが、試合が始まれば彼らが熱心で節度をわきまえた観戦者に変わることを知っているのでそのまま落ち着くことにした。(事実、試合が始まると左側からの声援は殆ど気にならなくなっていた。)
[前半の闘い]
激戦となることが期待された中で、右側に陣地を取った法政のキックオフで試合開始。拓大の例を挙げるまでもなく、今シーズンはキックオフ(とくにマイボールの場合)に工夫を凝らして積極的にボール獲得を目指すチームが多い。法政は浅めに蹴って競り合う方法を選択したようだ。上背はなくても法政は伝統的にハイボールに強い選手が居るチームで、意図したとおりボール確保に成功する。が、惜しくもノックオンがありスクラム。ここで法政がコラプシングの反則を取られてから前半の半ばくらいまで、法政は東海大の圧力の前に殆ど自陣での戦いを余儀なくされる苦しい展開となる。
2分、東海大は法政陣22m内でのラインアウトからモールで前進した後、オープン展開主体の連続攻撃で左右にワイドに攻めるがノックオン。本日の東海大はBK展開勝負の方針のようだ。5分には法政のキックがラッキーバウンドになって東海大のノックオンを誘い、法政が東海大陣22m手前付近でスクラムのチャンスを掴む。しかしながら、東海大FWの強力なプレッシャーの前にターンオーバーされて蹴り返しに遭い自陣深くまで大きく陣地を戻されてしまう。実は前半20分の間に法政が東海大陣に入ったのはこの1回のみという予想外の一方的な展開となってしまった。ただ、東海大も肝心なところでミスを犯すなど攻めきれない。また、法政の粘り強いディフェンスの前に東海大が得点を奪えないまま時計が進んでいく。
6分の法政陣22m付近でのラインアウトのチャンスでは、東海大はモールを押し込んでサイドアタックでゴールを目指すがオーバー・ザ・トップ。11分の22m付近でのラインアウトからの攻撃はオープンキックで攻めるが法政がゴール前で辛くもタッチに逃れ、14分のゴール前ラインアウトのチャンスはノット1m(間隔を1m開けていなかった)。さらに17分には法政のハイパントに対するカウンターアタックからNo.8村山が大きく前へボールを運ぶものの、オープンに展開したところで(またしても)ゴールを目前にしてノックオン。東海大が圧倒的に攻めているにも拘わらず、試合が落ち着いて見えるのが何とも不思議。これが法政の潜在的な底力なのかもしれない。
しかし、そんな膠着状態の中で19分、東海大にようやくトライが生まれる。ゴールをこじ開けたのは大学屈指のエースのひとりWTB小原。東海大は、法政陣22m付近でのセンタースクラムから左に展開して決めるべき人が決めた。リスタートのキックオフでは、法政にアーリーチャージ(東海大選手がジャンプした状態の時にタックルに入る)があり、法政は敵陣になかなか行けない時間帯がさらに続く。キックオフで浅めにボールを蹴る場合のリスクとも言えるが、マイボールキックオフでのミスは失点に繋がりやすいので慎重に行くべきだろう。24分、法政は自陣22m付近でのラインアウトを起点としたアタックからSO猪村がウラに抜け出てビッグチャンスを掴むが、WTBを走らせようとしたキックが東海大陣22m付近でタッチを割ってしまう。その後も何度か猪村がFW周辺のディフェンスの甘さ?を突いてあっさり抜けるシーンが見られたことは、東海大の反省材料。
得点板が5-0から動かないままだった30分に東海大はPGでようやく3点を追加する。東海大がリードを8点に拡げたところで、ようやく法政のアタックにリズムが出てきた。しかし、そんな法政に落とし穴が待っていた。東海大が法政陣22mにキックを蹴りこんだところで法政はカウンターアタックを試みるが、無理に繋ごうとしたことが徒となり東海大のCTB湯ノ迫にインタセプトを許して東海大のリードが13点に拡がる。波に乗り始めた法政にとっては本当に痛い失点だった。ただし、法政は前半終了間際にPGで3点を返して後半に望みを繋いだ。
前半の法政は35分以降の僅かの時間帯を除いて自陣深くでの戦いを強いられる非常に苦しい展開。点差が10点しかついていないのが不思議なくらいだった。選手個々のパワーの違いもさることながら、それ以上に両校の組織力の差が顕著になったのが前半の戦い。法政は時折目の覚めるような鮮やかなアタックを見せるものの、結局「個人突破」で終わって最後まで完結せず、フェイズを重ねるごとに組織に乱れが生じる形が多い。逆に東海大は組織が破綻することは少なく、ミスが起こってもカバーリングがしっかりしているので傷が深くならない。法政の個人能力の高さが組織的に活かされたらどれだけ強いチームが出来るだろうかと思ってしまうのだが...
[後半の闘い]
前半は殆どいいところなく終わった法政だが、後半は開始早々から気持を切り替えて勝負に出る。東海大のキックオフに対するカウンターアタックからオープン展開で東海大陣内に攻め入る。東海も逆襲。オープン展開からの絶妙のゴロパントを追って二人のランナーが法政選手を追い越してインゴールに到達するが相次いでグラウンディングに失敗して追加点のチャンスを逃してしまう。法政はアタックのリズムを掴み始めたところでSO猪村が持ち前の「スーパーブーツ」を披露する。ゴール正面だが距離にして約45mのPGを鮮やかに決めた。法政のビハインドは1トライ1ゴールで追いつく7点となり、法政の応援席は一気に活気づく。
(なお、法政は後半からSHに本村に替えて中村を、LO石川に替えて西を投入。SHの交代は球捌きの面もあるのだろうが、トリッキーなプレーは必要ないはず。春シーズンから感じていたことだが、後半から登場した選手の場合は、どうしてもプレーが軽く見えてしまう点が気になってしまう。BK展開勝負の法政にとって、攻撃の起点となるSHになかなか決定打が出ないことは「らしさの復活」に向けてのマイナス要因のように思われる。)
後半は、前半とはうってかわって、両チームによる激しい攻防が繰り広げられる展開となったものの、15分に東海に待望の追加点が生まれる。法政陣22m手前のスクラムを起点としてNo.8山村がタテをつき、オープンに展開して最後はライン参加したFB高平がゴールラインを越えた。GKも成功し、東海大は20-3とリードをさらに拡げる。20分には法政陣ゴール前でのラインアウトからモールを押し込みHO崩がトライ。さらに25分にはほぼ同じ位置でのラインアウトからモールを作ると見せかけてFL扇が巧みに回り込んでボールを受け取りサイドを抜けるサインプレーが鮮やかに決まってトライを追加。34-6と東海大の勝利を決定づける貴重な得点となった。ここで両チームややテンションが緩んだためか、プレーが少し雑になり始める。プレッシャーが厳しいので急ぎたい気持は分かるのだが、下のボールは手と身体を使って落ち着いて確実に処理したいところ。
後半になって一気に力の差を見せつけられた形の法政だが、このままノートライで終わるわけにはいかない。32分には東海大陣22m手前のラインアウトからの鮮やかなオープン展開でライン参加したFB森谷がトライ。続く35分には再びラインアウトからのオープン展開でCTB岡本がトライを奪い法政は18-34と追いすがる。しかし時は既に遅く、もう少し早く仕掛けることができていればと一瞬思ったが、ボール支配率から考えれば仕方がない面がある。やはり、思ったようにボール支配ができなかったことが大きく、そのことが東海大との力の差といえる。終了間際の39分に東海大が法政陣ゴール前でのスクラムからの8→9を起点としてNo.8村山がリターンとなるラストパスを受け取りトライ。GKは失敗するものの東海の39-18のダブルスコアでの圧勝となった。
前節までの勢いから見て、法政が東海大に肉薄することも予想されたが、終わってみれば実力差がそのまま出た形で東海大が勝利を収めた。しかしながら、得点差はついたものの、最後はBK展開で2連続トライを奪うなど、法政がかつての勢いを取り戻しつつある状況を観ることができたのは嬉しい。やはりリーグ活性化のためには強いチーム同士の切磋琢磨が必要。違った特徴を持ったチーム同士がマッチアップすることでファンも増えていくはずだ。いずれにせよ、今シーズンのリーグ戦Gにまたひとつ明るい材料が加わったことは間違いなさそうだ。
[試合後の雑感]
東海大はまだ細かいミスが目立つ状態だが、FWで力強くボールを前に運び、決定力のあるバックスリーで取る形ができあがりつつあるように感じた。ただ、ひとつ気になるのは、タックルが総じて高いように感じられること。身体の強さを活かしてボールを抑え込もうとする意図はわからないでもないが、結果的にゲインを許してボールを前に運ばれていることが多い。帝京や筑波をはじめとする対抗戦Gの上位校は執拗にFWでタテをついてくる面があるため、前進を許していたら大量失点を覚悟しなければならない。ケースバイケースだと思うが、相手に攻撃のリズムを与えないためにも確実に前進を止めるという意識が必要ではないかと感じられた。
法政は春シーズンの迷走状態のことを思えば、別のチームになったかのようだ。前節では流経大にミスが多かったとは言え、優勝候補の一角を追い詰めたことはけして偶然ではなかったようだ。だからこそ思うのだが、春の段階である程度チームができていれば、今頃は間違いなく3強の一角として残り2校(東海大と流経大)と堂々と優勝争いを演じることになったはず。そろそろ法政も、「毎年リセット型」ではなく東海大や流経大のように「積み上げ型」のチームへと変わって欲しいところ。他のチームが持っていないものも含めて、積み上げるものをたくさん持っているはずのチームだけにもったいなく思えてしまうのだ。
[閑話休題]
例によって試合終了後、東海大の主将と副将の3人が法政ベンチに挨拶に向かった。それと並行するような形で法政からは武者主将が一人で東海大の木村監督のところにやってきた。簡単な挨拶で終わりかなと思ったら、なにやら熱心に木村監督に問いかけを始めた。木村監督もいやな顔一つせず、真摯に対応。武者主将はおそらく対戦する側から見て、法政がどんなチームに見えたかを聞きたかったのだと思う。武者主将はかなり長い時間の対話を経て自陣へと戻ったのだが、大学ラグビーらしいいい場面だなぁと思った反面、それだけ彼もいろいろと悩みを抱えているのだろうなと感じた。ここで直に見た武者主将の真剣なまなざしと木村監督の真摯な対応は、けして忘れることのできない1コマとなりそうだ。
優勝を狙うような強豪チームに力を与えるのは、実は強力なライバルの存在。練習での頑張りも必要だが、実戦を通じて体験することになる厳しいプレッシャーに勝る「強化剤」はない。現時点では東海大の「一人旅」となりかねない状況を救っている存在は流経大と言える。しかしながら、前節に法政がその流経大に僅か1点差で敗れたというニュースは、関東リーグ戦Gのファンに大きな衝撃(と希望)をもたらした。とくにこの試合で法政と対戦する東海大にとっても、大きなインパクトを与えたものと思われる。「法政は去年や一昨年の法政ではない」といった(いい意味での)危機意識が練習を行う選手達の頭の中を駆け巡っていたかも知れない。いずれにせよ、法政がかつての輝きを取り戻しつつある状況は、リーグ戦Gを応援するものとしても励みになる。
さて、今週も先週に引き続きキャノンスポーツパークでの観戦となった。規模こそ大きくないが、ラグビーをプレーするものと観るものの間に一体感をもたらす素晴らしい競技場だと思う。上で書いたような状況もあってか、ピッチに登場した東海大のメンバーからは先週(拓大戦)とは明らかに違った雰囲気が感じ取れる。おそらく、強力なライバルへと復活を遂げつつある法政を強く意識して、1週間の間、緊迫感を持って練習に取り組んできたものと思われる。その東海大メンバーはFW1列にPR阿部とHO崩がスタメン復帰。また、BKではCTBに湯の迫が戻ってきた。SHは本日も1年生の小泉がスタメンで松島はリザーブ。ほぼベストの陣容で法政のチャレンジを受ける。
法政のメンバーもおそらく現状でのベストと思われる。悔しい思いと同時に手応えも感じさせたであろう流経大戦を経て、選手達は自信を取り戻したかのようだ。去年や一昨年に観た法政とは別のチームになっていることはピッチに登場した選手達の表情からも読み取れた。とくにFWの選手に東海大の選手ほどの身体の厚みがないことが気にならないでもないが、FWとBKに優れたランナーを配する陣容であることは間違いない。あとは、過去の試合では殆ど不発に終わっている、BKに展開してトライを重ねる法政が持ち味とするラグビーの復活を待つだけだ。FW戦に自信を持つ東海大も展開ラグビーで勝負してくることが予想されるだけに、ボールが大きく動くラグビーを期待したいところ。
本日はあいにくの小雨模様。試合を観ながらメモを取らなければならないので、傘をさして観戦できそうな場所を探した。さすがに注目カードとあって中央部の座席は殆ど両校のファンで埋まっている。結局、オープンスペースになっていた東海大サイドの22mライン付近の前の方に落ち着いた。すぐ左隣には東海大の部員達が大挙陣取っていて、ピッチに登場したメンバー達に元気に声援を送っている。ちょっと賑やか過ぎるかなとも思ったが、試合が始まれば彼らが熱心で節度をわきまえた観戦者に変わることを知っているのでそのまま落ち着くことにした。(事実、試合が始まると左側からの声援は殆ど気にならなくなっていた。)
[前半の闘い]
激戦となることが期待された中で、右側に陣地を取った法政のキックオフで試合開始。拓大の例を挙げるまでもなく、今シーズンはキックオフ(とくにマイボールの場合)に工夫を凝らして積極的にボール獲得を目指すチームが多い。法政は浅めに蹴って競り合う方法を選択したようだ。上背はなくても法政は伝統的にハイボールに強い選手が居るチームで、意図したとおりボール確保に成功する。が、惜しくもノックオンがありスクラム。ここで法政がコラプシングの反則を取られてから前半の半ばくらいまで、法政は東海大の圧力の前に殆ど自陣での戦いを余儀なくされる苦しい展開となる。
2分、東海大は法政陣22m内でのラインアウトからモールで前進した後、オープン展開主体の連続攻撃で左右にワイドに攻めるがノックオン。本日の東海大はBK展開勝負の方針のようだ。5分には法政のキックがラッキーバウンドになって東海大のノックオンを誘い、法政が東海大陣22m手前付近でスクラムのチャンスを掴む。しかしながら、東海大FWの強力なプレッシャーの前にターンオーバーされて蹴り返しに遭い自陣深くまで大きく陣地を戻されてしまう。実は前半20分の間に法政が東海大陣に入ったのはこの1回のみという予想外の一方的な展開となってしまった。ただ、東海大も肝心なところでミスを犯すなど攻めきれない。また、法政の粘り強いディフェンスの前に東海大が得点を奪えないまま時計が進んでいく。
6分の法政陣22m付近でのラインアウトのチャンスでは、東海大はモールを押し込んでサイドアタックでゴールを目指すがオーバー・ザ・トップ。11分の22m付近でのラインアウトからの攻撃はオープンキックで攻めるが法政がゴール前で辛くもタッチに逃れ、14分のゴール前ラインアウトのチャンスはノット1m(間隔を1m開けていなかった)。さらに17分には法政のハイパントに対するカウンターアタックからNo.8村山が大きく前へボールを運ぶものの、オープンに展開したところで(またしても)ゴールを目前にしてノックオン。東海大が圧倒的に攻めているにも拘わらず、試合が落ち着いて見えるのが何とも不思議。これが法政の潜在的な底力なのかもしれない。
しかし、そんな膠着状態の中で19分、東海大にようやくトライが生まれる。ゴールをこじ開けたのは大学屈指のエースのひとりWTB小原。東海大は、法政陣22m付近でのセンタースクラムから左に展開して決めるべき人が決めた。リスタートのキックオフでは、法政にアーリーチャージ(東海大選手がジャンプした状態の時にタックルに入る)があり、法政は敵陣になかなか行けない時間帯がさらに続く。キックオフで浅めにボールを蹴る場合のリスクとも言えるが、マイボールキックオフでのミスは失点に繋がりやすいので慎重に行くべきだろう。24分、法政は自陣22m付近でのラインアウトを起点としたアタックからSO猪村がウラに抜け出てビッグチャンスを掴むが、WTBを走らせようとしたキックが東海大陣22m付近でタッチを割ってしまう。その後も何度か猪村がFW周辺のディフェンスの甘さ?を突いてあっさり抜けるシーンが見られたことは、東海大の反省材料。
得点板が5-0から動かないままだった30分に東海大はPGでようやく3点を追加する。東海大がリードを8点に拡げたところで、ようやく法政のアタックにリズムが出てきた。しかし、そんな法政に落とし穴が待っていた。東海大が法政陣22mにキックを蹴りこんだところで法政はカウンターアタックを試みるが、無理に繋ごうとしたことが徒となり東海大のCTB湯ノ迫にインタセプトを許して東海大のリードが13点に拡がる。波に乗り始めた法政にとっては本当に痛い失点だった。ただし、法政は前半終了間際にPGで3点を返して後半に望みを繋いだ。
前半の法政は35分以降の僅かの時間帯を除いて自陣深くでの戦いを強いられる非常に苦しい展開。点差が10点しかついていないのが不思議なくらいだった。選手個々のパワーの違いもさることながら、それ以上に両校の組織力の差が顕著になったのが前半の戦い。法政は時折目の覚めるような鮮やかなアタックを見せるものの、結局「個人突破」で終わって最後まで完結せず、フェイズを重ねるごとに組織に乱れが生じる形が多い。逆に東海大は組織が破綻することは少なく、ミスが起こってもカバーリングがしっかりしているので傷が深くならない。法政の個人能力の高さが組織的に活かされたらどれだけ強いチームが出来るだろうかと思ってしまうのだが...
[後半の闘い]
前半は殆どいいところなく終わった法政だが、後半は開始早々から気持を切り替えて勝負に出る。東海大のキックオフに対するカウンターアタックからオープン展開で東海大陣内に攻め入る。東海も逆襲。オープン展開からの絶妙のゴロパントを追って二人のランナーが法政選手を追い越してインゴールに到達するが相次いでグラウンディングに失敗して追加点のチャンスを逃してしまう。法政はアタックのリズムを掴み始めたところでSO猪村が持ち前の「スーパーブーツ」を披露する。ゴール正面だが距離にして約45mのPGを鮮やかに決めた。法政のビハインドは1トライ1ゴールで追いつく7点となり、法政の応援席は一気に活気づく。
(なお、法政は後半からSHに本村に替えて中村を、LO石川に替えて西を投入。SHの交代は球捌きの面もあるのだろうが、トリッキーなプレーは必要ないはず。春シーズンから感じていたことだが、後半から登場した選手の場合は、どうしてもプレーが軽く見えてしまう点が気になってしまう。BK展開勝負の法政にとって、攻撃の起点となるSHになかなか決定打が出ないことは「らしさの復活」に向けてのマイナス要因のように思われる。)
後半は、前半とはうってかわって、両チームによる激しい攻防が繰り広げられる展開となったものの、15分に東海に待望の追加点が生まれる。法政陣22m手前のスクラムを起点としてNo.8山村がタテをつき、オープンに展開して最後はライン参加したFB高平がゴールラインを越えた。GKも成功し、東海大は20-3とリードをさらに拡げる。20分には法政陣ゴール前でのラインアウトからモールを押し込みHO崩がトライ。さらに25分にはほぼ同じ位置でのラインアウトからモールを作ると見せかけてFL扇が巧みに回り込んでボールを受け取りサイドを抜けるサインプレーが鮮やかに決まってトライを追加。34-6と東海大の勝利を決定づける貴重な得点となった。ここで両チームややテンションが緩んだためか、プレーが少し雑になり始める。プレッシャーが厳しいので急ぎたい気持は分かるのだが、下のボールは手と身体を使って落ち着いて確実に処理したいところ。
後半になって一気に力の差を見せつけられた形の法政だが、このままノートライで終わるわけにはいかない。32分には東海大陣22m手前のラインアウトからの鮮やかなオープン展開でライン参加したFB森谷がトライ。続く35分には再びラインアウトからのオープン展開でCTB岡本がトライを奪い法政は18-34と追いすがる。しかし時は既に遅く、もう少し早く仕掛けることができていればと一瞬思ったが、ボール支配率から考えれば仕方がない面がある。やはり、思ったようにボール支配ができなかったことが大きく、そのことが東海大との力の差といえる。終了間際の39分に東海大が法政陣ゴール前でのスクラムからの8→9を起点としてNo.8村山がリターンとなるラストパスを受け取りトライ。GKは失敗するものの東海の39-18のダブルスコアでの圧勝となった。
前節までの勢いから見て、法政が東海大に肉薄することも予想されたが、終わってみれば実力差がそのまま出た形で東海大が勝利を収めた。しかしながら、得点差はついたものの、最後はBK展開で2連続トライを奪うなど、法政がかつての勢いを取り戻しつつある状況を観ることができたのは嬉しい。やはりリーグ活性化のためには強いチーム同士の切磋琢磨が必要。違った特徴を持ったチーム同士がマッチアップすることでファンも増えていくはずだ。いずれにせよ、今シーズンのリーグ戦Gにまたひとつ明るい材料が加わったことは間違いなさそうだ。
[試合後の雑感]
東海大はまだ細かいミスが目立つ状態だが、FWで力強くボールを前に運び、決定力のあるバックスリーで取る形ができあがりつつあるように感じた。ただ、ひとつ気になるのは、タックルが総じて高いように感じられること。身体の強さを活かしてボールを抑え込もうとする意図はわからないでもないが、結果的にゲインを許してボールを前に運ばれていることが多い。帝京や筑波をはじめとする対抗戦Gの上位校は執拗にFWでタテをついてくる面があるため、前進を許していたら大量失点を覚悟しなければならない。ケースバイケースだと思うが、相手に攻撃のリズムを与えないためにも確実に前進を止めるという意識が必要ではないかと感じられた。
法政は春シーズンの迷走状態のことを思えば、別のチームになったかのようだ。前節では流経大にミスが多かったとは言え、優勝候補の一角を追い詰めたことはけして偶然ではなかったようだ。だからこそ思うのだが、春の段階である程度チームができていれば、今頃は間違いなく3強の一角として残り2校(東海大と流経大)と堂々と優勝争いを演じることになったはず。そろそろ法政も、「毎年リセット型」ではなく東海大や流経大のように「積み上げ型」のチームへと変わって欲しいところ。他のチームが持っていないものも含めて、積み上げるものをたくさん持っているはずのチームだけにもったいなく思えてしまうのだ。
[閑話休題]
例によって試合終了後、東海大の主将と副将の3人が法政ベンチに挨拶に向かった。それと並行するような形で法政からは武者主将が一人で東海大の木村監督のところにやってきた。簡単な挨拶で終わりかなと思ったら、なにやら熱心に木村監督に問いかけを始めた。木村監督もいやな顔一つせず、真摯に対応。武者主将はおそらく対戦する側から見て、法政がどんなチームに見えたかを聞きたかったのだと思う。武者主将はかなり長い時間の対話を経て自陣へと戻ったのだが、大学ラグビーらしいいい場面だなぁと思った反面、それだけ彼もいろいろと悩みを抱えているのだろうなと感じた。ここで直に見た武者主将の真剣なまなざしと木村監督の真摯な対応は、けして忘れることのできない1コマとなりそうだ。