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流通経済大学 vs 大東文化大学(関東大学ラグビーリーグ戦G-2014.11.15)の感想

2014-11-22 09:56:27 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


第1試合の日大の劇的な逆転勝利の興奮冷めやらぬ中で第2試合のキックオフを待つ。しばらくしてこの試合がラグビー初観戦という甥っ子が弟に連れられてスタジアムに到着した。部活では野球をやっているのだが、高校でラグビーのことが話題になったらしく、実際に試合を観てみたいと思ったのだとか。学校が終わってからなので第1試合には間に合わなかったが、結論から言うと優勝争いに絡む第2試合を観てもらえてよかったと思う。カウントダウンが始まっているはずの2019年のことを考えたら、ラグビーはもっともっと若いファンを増やさなければならない。友が友を呼ぶといった形でファンが増えていけばラグビー観戦者の平均年齢もぐっと下がっていくのではないだろうか。



◆キックオフ前の雑感

第1試合がサバイバルマッチなら第2試合もサバイバルマッチ。ただし、第1試合は入替戦回避のためであったのに対し、第2試合は優勝争いのため。しかし、シーズン6戦目ともなると負傷者が少なからず出てくることは避けられない。とくに、大東大はFB大道に続き、CTBのクルーガーも戦線離脱。もちろん、過去数シーズンのことを思ったら負傷者は画期的に減っているのだが、昨シーズン躍進の立役者と今シーズン期待を一身に集める選手の欠場は痛い。事実、前節では覚醒した中央大の前にいいところなく敗れているので、ここは結束力で乗り切りたいところ。サウマキのCTB起用は春にテスト済みだが、負傷者対策かどうかが気になるところ。また、碓井のSOは川向の負傷対策としての一時的なものだったようだ。アタックの組立やキック力など大東に必要な武器を持っているだけにベンチに置いておくのはもったいないような気がする。

翻って流経大はリリダム・ジョセファの欠場(リザーブにも不在)が気になるが、基本的にはベストの陣容と言ってよさそう。合谷はFBで出場だが、攻守や状況に応じて自由にポジションチェンジしてくるものと思われる。昨シーズンは局面局面で戸惑いが感じられ、一昨年のような奔放な動きができなかった感がある。はたして、今シーズンは再び相手を混乱に陥れるようなランができるかどうか。学生最強のFWジョージ・リサレを中心としたFWの強さはおそらくリーグ戦Gで東海大と双璧と思われるだけに、BKに活きたボールを供給し、合谷らの奔放なランを引き出したい。不安材料は、昨シーズンから目に付くようになってきたプレーが雑になりがちなところ。ミスでボールを失うことは、決定力がある選手が揃う大東大に対しては致命傷になりかねないだけに注意したいところ。



◆前半の戦い/キックオフからエンジン全開の流経大にタジタジの大東大

風下に立つ流経大のキックオフで試合開始。と同時にボールをチェイスする流経大のFWの選手達が猛然と大東大選手達に襲いかかる。2ヶ月前の緒戦で山梨学院にゲームをコントロールされる時間帯が多かった、消極的にも見えた流経大の面影はここで完全に払拭された感がある。個々の突破力が高い大東大も応戦して激しい攻防となるが、組織的に固まっている流経大の方により迫力が感じられる。第1試合は大接戦で劇的な幕切れとなったが、スピーディーかつパワフルなラグビーが展開されている。リーグ戦Gは乱戦模様で上下間格差が小さいとは言っても、ラグビーの内容に明確な差があることは否定できない。

前半、風上に立った大東大だが、基本的にはキックを使わずにパスとランで攻めるラグビーのようだ。流経大の強力なプレッシャーに立ち向かう形で突破を試みるが、際どくボールが繋がっているようなスリリングな印象を受ける。サウマキのCTB起用は少しでもボールを触る機会を増やすという意図があったのかも知れない。2分には大東大のSO川向がウラに抜けてビッグゲインのチャンスを掴むものの、流経大陣22m付近でアタックを止められる。

キックを控えめにした大東大に対し、流経大はキック主体でエリア獲得を目指す。8分、流経大は大東大ゴール前で相手ボールラインアウトでのスローイングミスを見逃さず、鋭く反応したFL大塚がボールを一気に大東大ゴールまで運ぶ。合谷のゴールキックも決まり、流経大が幸先よく7点を先制した。相手のミスによる「タナボタ」の感もあるが、前に出る強い気持ちが生んだトライとも言える。

最初にも書いたとおり、この試合は優勝決定ラウンドの1回戦でもあるサバイバルマッチ。流経大の気迫に押され気味だった大東大もスイッチが入った状態となる。キックオフからプレッシャーをかけたところで流経大にノックオンがあり、22mライン手前でスクラムもチャンスを掴む。大東大はここから右オープンに展開して右WTB戸室がゴールを目指すものの、惜しくも直前でタッチに押し出される。大東大のチャンスは潰えたかに思えたが、今度は流経大がラインアウトでミス。投入されたボールがオーバースローとなったところを大東大のFL篠原主将が拾ってゴールラインを越えた。相馬のGKは失敗するが、大東大が5点を返す。

大東大は畳みかける。リスタートのキックオフで流経大に反則があり、大東大はHWL付近でのラインアウトから攻める。ボールがオープンに2回展開され、左WTB岡から絶妙のリターンパスを受けたCTBサウマキがトライ。GKも成功し大東大が12-7と逆転に成功した。序盤から激しいボールの争奪戦をまじえたダイナミックなラグビーが展開され、第1試合を戦った選手達には申し訳ないがビデオの再生速度を1.3倍速にしたような感じ。隣に座っている甥っ子は、予習もばっちりのようで初観戦ながらゲームを楽しめているようだ。

大東大の得意な形でのトライが生まれたことで、試合はシーソーゲーム(点の取り合い)の様相を見せる。17分、流経大は大東大陣10m付近のスクラムからオープンに展開するが22m手前までボールを運んだところで惜しくもスローフォワード。しかし、流経大はスクラムで強力なプレッシャーをかけてターンオーバーに成功し、左WTB八文字がトライ。合谷のGKは今日も安定しており、14-12と流経大が再逆転に成功。ここからしばらくゲームは膠着状態となる。

しかし前半も終盤に近づいた30分、大東大は流経大ゴール前でのラインアウトからFWでボールをゴールライン手前まで運ぶ。ここからFL長谷川がインゴールにボールを運びトライ。GKも成功し、大東大が19-14とゲームを再度ひっくり返す。バックスタンドから見ていると、メインスタンドの左サイドに大東大、右サイドに流経大の部員達がそれぞれ陣取っているわけだが、交互に盛り上がりを見せる状況になっていて実に賑やか。前半の終了間際の37分、大東大は再び流経大ゴール前でのラインアウトのチャンスからSH小山が抜け出し、パスを受け取ったSO川向がゴールラインを越えた。GKは失敗するものの大東大は24-14とリードをさらに拡げる。

リーグ戦Gナンバー1のSH小山は当然のことながらマークされており、相手の強力なプレッシャーを受ける。しかしながら、そんな状況をものともせずボールを際どいタイミングで正確に捌き続ける。もちろん、中央大戦の序盤で見せたタッチラインギリギリのゼロスペースをかいくぐって走りきったトライのように、独自の感覚で(幅は関係なく)スペースを見つけて突破を図るサーカスのようなアタックも健在。また、昨シーズンはディフェンス力を買われてレギュラーを掴んだ川向は、今シーズンはアタックでの成長が著しい。もしかしたら、首脳陣に碓井の起用をためらわせている部分はここにあるのかも知れない。

このまま前半を終えたい大東大だったが、流経大も粘りを見せる。大東大が自陣22m内で反則を犯したところで、流経大のSH黒木が間髪入れずにタップキックから一気にゴールラインを越えた。ここも合谷がGKを成功させ21-24と流経大はビハインドを3点に縮める。リードを許してはいるものの、ペースを掴んでいるのはいつになく纏まりのよい流経大。後半のことを考えれば、終了間際に得点できたことは大きかったに違いない。



◆後半の戦い/さらに増す流経大のプレッシャーで持ち味を消された大東大

リードしているとは言え、チームの勢いは流経大の方にある。流経大には超強力なリサレが居るとは言え、FWの個々の力を見ると、No.8テビタ、FL長谷川、LO鈴木といった突破力のある選手が居る大東大の方がむしろ強力に見えてくる。しかし、「FWは塊で勝負」と考えると、伝統的にユニットを組んで戦うことに長けている流経大に軍配が挙がる。そんなことを感じさせた前半の両チームの戦いぶりだった。

大東大で気になった点はもうひとつ。局面局面で個の力が活きるラグビーとは言え、昨シーズンからパスの配球など組立を意識したアタックで「復活」を果たしたのが昨シーズンだった。今シーズンも春の戦いではさらにアタックのオプションを増やした感がある。戦術用語で言えばシェイプからポッドへの転換で、春はSH小山が中心だったが、SOに碓井が起用された山梨学院戦のように10番を中心としたアタックへとバリエーションを拡げているようにも見えた。一方で、前半は相手の速い展開について行けなかった法政戦のように、伝統と言ったらいいのか(悪い意味での)個人頼みラグビーが顔を出すような状況も見られた。

ともかく一度は完成に向かっていた個の強さや巧さを活かした全員ラグビーを大東大は思い出して欲しいところ。しかし、大東大のキックオフで始まった後半も流経大のFWの強固な塊に揺るぎはない。序盤から大東大は自陣からなかなか脱出できないピンチの連続となる。風下に立つとは言え、やはり局面を一蹴りで打開できるロングキッカーの不在は痛い。大東大陣22m内での攻防が続く中での5分、流経大はゴール前ラインアウトからモールで前進。ラックからSH黒木のパスを受けたFL大塚がゴールラインを越える。合谷のGKは完璧で28-24と流経大が再々々逆転に成功。

流経大の勢いは止まらない。全般的にFW戦で優位に立っている流経大だが、この日とくに威力を発揮したのはスクラム。10分、流経大はゴール前での5mスクラムからリサレが8単でトライを奪いリードをさらに拡げる。何とかトライを奪い返して流れを自分達に引き戻したい大東大だったが、逆にそれが焦りに繋がる。リスタートの12分、大東大は長短織り交ぜたパスによりアタックを試みるが、繋ぎを意識したパスが流れて流経大のWTB八文字の前に転がる。場所はHWL付近だったが、大東大が前掛かりになっていたこともあり、八文字は真っ直ぐにゴールポスト直下に向かうだけでよかった。ミス絡みとは言え、大東大にとってはキックオフからの強烈なトリプルパンチは想像以上に効いたものと思われる。その後も得点板こそ動かないものの、大東大がなかなか敵陣に行けない劣勢を強いられる状況の中で時計がどんどん進んでいく。流経大は攻め疲れで大東大は守り疲れという面もあったのかも知れないが、18点リードの流経大は無理をする必要がない。

後半は得点ゼロが続く中で38分、大東大がようやく一矢報いる。流経大のミスからボールを確保したサウマキが豪脚を飛ばしてインゴールへ。GK失敗で29-42となるが、残り時間とチームの勢いから考えても逆転は難しい状況。終了間際の42分、流経大が大東大ゴール前での相手ボールのラインアウトで途中出場の18小倉がこぼれ球を拾いトライを奪う。ここまでGK成功率100%の合谷がここも難なく決めて49-29と流経大の圧勝で試合は終わった。前半は競った展開になったものの、必ず勝利を掴み取るという強い意志のもと、一貫して15人が結束して戦うことができた流経大が順当に勝利を収めたと言えそうだ。



◆連覇に向けて大きく前進した流経大/勝因は?

緒戦の山梨学院戦は不安を抱かせる立ち上がりとなり、法政戦で大きく躓いた流経大。だが、連覇に立ちはだかる東海大との接戦を制し、大きな壁として立ちはだかると予想された大東大を撃破したことで連覇に大きく近づいた。本日の勝因はここ数シーズンでもおそらく最高レベルではないかと思わせるチームとしての一体感にあったとみてよさそうだ。中でも光っていたのは、塊となって戦ったFWが中心となって、最後まで大東大に強力なプレッシャーをかけ続けたことだと思う。このことが、大東大の選手個々のパワーや巧さを分散させることに成功し、焦りからミスを誘う形で勝利をもぎ取ることができた。

また、この試合では去年の日大戦(結果は圧勝)や緒戦の山梨学院戦でも気になっていた結果オーライの無理なオフロードパスなどの雑なプレーが最後まで殆ど見られなかったことも印象に残る。流経大はどうしても相手を見てしまうようなところがあり、そのことが安定したパフォーマンスを示すことができないでいる原因のようにも思われるのだ。そう考えると、ここで引き締まったことをプラス材料として。そのままシーズンを乗り切って欲しいところ。だが、手負いの状態でも中央大が難敵であることは(流経大の1部昇格時からずっと)変わらなし、何度かそんな場面を目撃している。近い例では先日の大東大を撃破した試合がそうだった。ムラは多くても固まったときに中央大はリーグ戦Gで一番の強さを発揮する力を秘めている。今年こそは選手権で結果を出すためにもテンションを緩めることなく頑張って欲しい。

◆4連勝のあとの2連敗で顕著になった大東大の課題

前節で中央大に敗れたものの、この試合に勝てば優勝に大きく近づく大東大だったが、またしても返り討ちに遭うような形で敗れてしまった。流経大の強力なプレッシャーに苦しみながらも、何とかリードして前半を折り返したところまではよかったが、後半はFW戦での消耗がボディブローのように効いたのかも知れない。FB大道に続き、期待を一身に集めたクルーガーも戦線離脱の状況でなかなかCTBとFBを固定できないのが戦術面でも痛い。しかし、大東大は現有戦力でもリーグ戦Gでは十分以上に戦える戦力のはずだ。この試合の敗因は別の所にあると思う。一言で言えば、「組織」をベースにずっとチームを作り上げてきている流経大との差が顕著に表れたのではないかということ。流経大も強力な選手達の台頭でバラバラになったりプレーが雑になったりする面があるが、「組織」の積み上げがあるからチームの建て直しがすぐにできる。

翻って大東大は元来個々の強さ、速さ、巧さで勝負するチームだった。選手達がうまくかみ合えば最高に面白いラグビーになるし、バラバラになれば精彩を欠くラグビーにもなってしまう。そんなチームに個の力で勝負させて選手に自信を持たせることで復活を成し遂げたのが昨シーズンの大東大だったと思う。WTBが1対1の状況でも勝負せずにウラに蹴ってしまうような消極性が一掃されたことで大東大の得点力は飛躍的にアップした。しかしながら、個々の力を束ねるラグビーは相手のプレッシャーを受けると個人個人が無理してしまうラグビーと表裏一体とも言える。法政戦でも感じたことだが、2年目の今シーズンはそのような悪い面が少しずつ散見されるようになってきた感がある。組織的な攻撃の組み立てでも、ほぼ完璧に見えた春の慶應戦とは別のチームを見ているような感じだった。

といった感じで反省材料は多々あると思うが、去年の東海大戦のように大ピンチを15人のまとまりで乗り切ったことを今一度思い出して欲しい。個人個人での頑張りは必要だが、逆に頑張りすぎて廻りのプレーヤーとうまくかみ合わないとせっかくのパワーが分散されてしまう。今の大東大に必要なものは、ひとつ前の中央大の戦い方であり、そして今日の流経大の戦い方ということになる。今一度全員ラグビーでリーグ戦最後の戦いを乗り切って欲しい。

◆2019年に向けて/若きファンを増やすために

2019年に向けてようやくいろいろな動きが見えてきた日本のラグビー界だが、代表チームの強化はもちろんのこと、いかにして各スタジアムに足を運ぶ観客数を増やすかがとくに重要な課題になっている。世界に向けて日本でのラグビー不人気を発信してしまわないためにも、新たなファン獲得が喫緊の課題になっていると思う。

そんなわけで、野球をやっていて駅伝を見るのも大好きな高校2年生の甥っ子がラグビーに関心を持ってくれたことがすごく嬉しかった。この試合も最後までじっくり楽しむことができたようで、終わった後「今度は社会人の試合も観てみたい。」と言ってくれた。やっている種目は違っても、スポーツに打ち込んでいると他のスポーツの楽しみを理解できるのはいいことだと思う。それがラグビーになって欲しいというのがオールドラグビーファンの願いでもある。

ラグビーの人気拡大を妨げている要因として、「ルールが難しいから。」という感想がよく聞かれる。確かにルールブック自体が文庫本みたいに厚くて、それも毎年変わるとなればそう思われても仕方がない。しかし、ラグビーの細かいルールは分からなくても、選手同士の激しいぶつかり合いや華麗なパス回し、そして巧みなステップワークを活かしたランニングは十分に楽しめるはずだ。まずは「ラグビーは面白い。」が先に来るべきだろう。そう思えば、ルールだって自分で勉強しようとする気持ちが出てくる。事実、甥っ子は参考書を持って競技場の現れ、予習も十分に行っている状況で初心者的な質問はしてこなかった。願わくば、友が友を呼ぶ形で高校生や大学生が競技場に詰めかけるような状況になったらラグビーの観戦モードも随分と変わってくるだろう。

あとひとつ気になることは、スポーツに興味を持っている若い世代の人達は自身でも何らかのスポーツをしており、週末には競技を観る立場ではなくプレーする立場にある場合が多いこと。秋のラグビーシーズンは野球は終わっているとしても、球技などのレギュラーシーズンであり、土日はどこかで試合というヤングアスリートは多いと思う。オールブラックス来日時のように関西では協会を挙げて観客を集めるようなことは難しいかも知れないが、せめてラグビーがスポーツファンにとって身近な存在になるような努力をすべきではないかと思った。

年末に向けて、部活に塾と忙しい甥っ子からの連絡を心待ちにしている。
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立正大学 vs 日本大学(関東大学ラグビーリーグ戦G-2014.11.15)の感想

2014-11-16 22:35:42 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


開幕から2ヶ月を経てリーグ戦もいよいよ大詰め。快晴で絶好のラグビー日和に恵まれた江戸川区陸上競技場では、「入替戦回避」と「優勝争い」という意味は違うが「サバイバルマッチ」が2試合組まれている。ここは陸上トラックがあるもののバックスタンドは球技専門の競技場並に観やすいし、芝生の状態もよさそう。第1試合を戦う立正、日大ともに前節は後味の悪い試合をしているだけに気持ちを切り替えて試合に臨みたいところ。競技場に入ってからスコアボードのある側を歩いてバックスタンドに向かったが、立正大が気合の入った練習を行っている様子が目に留まりひとまず安心した。



◆キックオフ前の雑感

前節山梨学院に敗れ、後がなくなった日大は必勝態勢で臨むはず。と思ったが、メンバー表を見る限りはまだまだ試行錯誤が続いているように見える。前節No.8で出場した高橋優は再びベンチに下がり、キテがNo.8に座った。また、終了間際の出場で秒殺トライ(+ドロップキック)で気を吐いた有久の先発起用もなくベンチスタートになっている。全般的に大人しい選手が多い日大にもっとも必要なのは(勝利への)気持ちが強い選手のはずなのだが、首脳陣はどう考えているのだろうか。また、試合ごとに背番号が変わるエースのマイケル・バー・トロケも本日は12番で登場。本日こそは迷走状態を脱しないと日大は崖っぷちに立たされることになる。

立正大は前節の法政戦でレッドカードをもらい退場処分となったフィララ・レイモンドが出場せず、代わりに出場が予想されたブライス・テビタ・エドウィンはベンチスタート。春シーズンはレイモンドと強力なタッグを組んでいた印象が強いので、よほどフィットしていないのだろうか。また、終盤の大切な試合でエース早川の名前がリザーブにもないのが痛い。FBの新人アライアサ・ローランド・ファアウィラはキック力よりもランニング能力を期待されているはずなのだが、現状ではそうなっていないのも気になる。と不安材料はいろいろとあるが、過去のチームに比べても地力が上がっていることは確か。メンタル面の進化とつまらない反則などの凡ミスを減らすことができれば、もっと上に行けるはずだ。



◆前半の戦い/戦術は明快ながらもお互いにミスが多く決め手を欠く展開

バックスタンド側から見て左から右にやや強い風が吹くコンディションの中、風下に立つ日大のキックオフで試合が始まった。立正大がボール確保に失敗したところから日大のアタックが始まる。本日はFWに近いインサイドCTBの位置に立つマイケルを活かす形で日大はオープン展開主体で攻める。順目から逆目とボールを散らすことで日大の目指す戦術はポッドと分かる。ボールが右に左にと大きく動く中、立正大が自陣22m手前で反則を犯し、日大はSO市川が正面30mのPGを狙うが外れる。この位置ならマイケルがしっかり決めていたはずと思うとちょっと複雑な心境だ。

日大はリスタートのドロップアウトからのカウンターアタックも攻めきれずに反則を犯し、立正大は風上に立っていることにも助けられ自陣からの脱出に成功する。5分、日大陣10m/22mの位置からのラインアウトで日大がノックオン。立正大スクラムからのアタックはブレイクダウンでのターンオーバー合戦を経て、立正大がエリア獲得のキックに成功。日大のポッドに対し、立正大はFWのシェイプを主体として手堅く攻める。アタックが拡散気味の様相を見せる日大に対し、FWのまとまりのよさで立正大のアタックの方に迫力を感じるのだが、いかんせんミスが多いのが残念。

8分、今度は立正大が正面22mの位置でPGのチャンスを得るが、日大にお付き合いする形でSO原嶋が外してしまう。立正大もFBアライアサがプレースキッカーを務めているはずだが、(彼が蹴らないのは)ロングキックでないためなのだろうか。両チームとも決めなければならないキックを外してしまったことに対し、キッカーの選択に疑問が残った。しかし、日大はボールを動かし続けることでペースを握る。14分の立正大ゴール前ラインアウトからのチャンスはモールを形成して前進。FWがサイドを攻めるものの、ノックオンでチャンスを潰す。

立正大はスクラムからのタッチキックでピンチを脱したかに見えた。しかしながら、日大は立正大陣10m/22mでのラインアウトからBKのラインアタックで前進を図り、最後はエースのマイケルゴールラインを駆け抜ける。GKも成功し、日大が7点を先制する。マイケルは当然立正もマークしており、日大がオープンに展開するごとに「トロケ(警報の)」コールが立正大側から連呼される。しかし、マークが集中してもマイケルはFWに近い位置に立った方が機能するようだ。あとは決められる選手がもうひとり欲しいところ。

このまま日大がペースを掴むかと思われたのも束の間、立正大は直後のキックオフの蹴り返しに対するカウンターアタックからボールを前に運ぶことに成功し、日大陣に入って左WTBがタッチライン際をゴールに向かってひた走る。フォロワーも居るからパスワークで思ったら、裏へのチップキックが飛び出し、一瞬「あ~あ、蹴ってしまったか」とガッカリモードに陥る。しかし、フォロワーが複数いたこともあり、ラッキーバウンドを拾ったFL籾山がインゴールでグラウンディングに成功する。結果オーライだが、陸上競技場でインゴールが狭い中、リスキーなプレーは避けて欲しいところ。GKは失敗するが立正大が5点を返す。

試合は、積極的に攻める日大のペースで進む。21分には立正大のゴール前でのスクラムのチャンスを掴むがフェイズを重ねてオーバー・ザ・トップ。この日の日大は攻め込んではオーバー・ザ・トップの反則が多く、修正できずにチャンスを潰すシーンが散見されたのが残念。22分には立正大がHWL付近のラインアウトを起点としてモールからSHのボックスキックで前進を図るがダイレクトタッチ。しかし、日大も同じくラインアウト起点のSOのキックがダイレクトタッチと仲良くミスまでお付き合いでは試合も盛り上がらない。「流石はサバイバルマッチ!」などと笑っているわけには行かないのだ。

しばらくゲームは膠着状態となるが、27分に日大は立正大陣でのラインアウトを起点としたアタックからゴール前まで攻め上がる。立正大の粘り強いディフェンスに遭うものの、最後はNo.8キテがようやく強さを発揮してボールをインゴールにねじ込む。GKはまたしても外れるが12-5と日大がリードを7点に拡げる。しかし、立正大もFWのシェイプを主体としたアタックで攻め上がり、日大ゴール前で反則を誘う。ここはアライアサがPGを確実に決めて12-8と日大のリードは4点に縮まる。終盤は日大陣で押し気味に試合を進めた立正大だったが、肝心なところでミスが多かったこともあり決めきれずに前半が終了した。



◆後半の戦い/決め手を欠く日大に対し優勢に試合を進めた立正大だったが...

前半はポッドでワイドにボールを動かした日大。マイケルも(ターゲットにはなっても)WTBやFBよりもFWに近いインサイドCTBに位置した方がボールを持つチャンスも多く強さが活かせることがわかった。しかし、きれいにボールが動くアタックであることに間違いはないが、突破役が少ないことはさておき、何かが足りない。結果として有効な突破が少ないからそう言える訳だが、その理由は後半も14分を過ぎたあたりではっきりと分かることになる。

一方の立正大は、得点こそ日大を下回っているが、チームのまとまりの点では日大を上回っている。FWのシェイプで確実にボールを前に運ぶラグビーができている。しかしながら、立正大の場合はミスが多い、それも「もったいない系」の避けられるものが多い。緒戦の中央大戦を落としたのは致命的なミスを重ねたことに原因があったわけだし、東海大戦での1点差負けもある意味プレーの選択ミスが原因。後半は風下に立つとは言え、丁寧に確実に攻めれば日大の得点を上回り勝利を掴むことは十分に可能なはずだ。

立正大のキックオフで始まった後半戦、日大の自陣奥深くからのタッチキックがダイレクトとなり、ここで立正大が日大陣22mでのラインアウトという絶好にチャンスを掴む。立正大はモールを形成して前進を図るが、ここで日大FWが一瞬エアポケットに落ちたような状態となる。塊から抜け出した立正大のNo.8千葉が本人もびっくりと言った感じで一気にゴールラインまでボールを運んだ。GKも成功して15-12と立正大が逆転に成功する。一気に盛り上がりを見せる立正大応援席だったが、またしても痛過ぎるミスが出てしまう。

リスタートのキックオフで立正大の選手がノックオン。これは普通にあるプレーだが、何と前に居た味方選手がそのボールに触ってしまうと言う画に描いたようなノックオンオフサイド。それも相手がゴールキックを狙える位置(左中間22m)ということで、日大は労せずして3点を返し試合を振り出しに戻す。ノックオンは仕方ないとして、後ろにも選手が居たわけだし、ピンチではあっても一気にボールをインゴールに運ばれるような状況でもない。毎試合こんなプレーが出てしまうのは本当に残念。ミーティングで指導するようなことでもなく、コーチは頭を抱えるしかないだろう。

立正大の手痛いミスが劣勢に陥りかけていた日大を救う。7分に立正大陣10m付近のラインアウトからBK展開でフェイズを重ねゴールラインを脅かすが惜しくもオブストラクション。立正大は命拾いした格好。さらに10分、日大は立正大陣10m/22mのラインアウトからFWで前進を図るもノックオンでチャンスを逃す。ここから立正大がFW主体でフェイズを重ねて日大陣22m手前まで前進し、日大がまたしてもオーバー・ザ・トップ。立正大はゴール前でのラインアウトを起点としてFWで攻め、No.8千葉がトライを奪う。GKも成功し22-15と立正大が再逆転に成功。立正大のアタックに日大の対応も遅れがちとなり、このままの勢いで行けば立正が勝利が掴めそうな流れとなる。

しかし、ラグビーは分からない。一人の選手がピッチに入ることでチームのムードが一気に変わることはままあるが、果たして本日の日大にも救世主が現れた。14分にSH谷口に替わって起用された有久(3年生)がその人。ここまでの日大のアタックに欠けていたのはアタックのリズム感。ホンの僅かのことなのだが、SHからの球出しのテンポがよくなるだけで、それまで半ば死んでいたようなBKラインに生命が吹き込まれた様になるから不思議。上で書いたこと(日大には何かが足りない)はこのことだったのだ。時間が経つにつれてそのことは明確になっていく。

ちょっと古い話になるが、かつての日大で強く印象に残っている選手としてトップリーグのヤマハやトヨタで活躍し日本代表にも上り詰めた松下のことを思い出した。アレレ?のプレーも多かった選手ではあるが、歴代の(といっても1997年以降だが)日大のSOでもラインを動かすことにかけてはピカイチだった記憶がある。口で説明するのは難しいが、前に出る間合いが絶妙だったことを思い出す。ポジションは違うが有久も同様で、身振りや手振りに声を駆使してワンテンポ早くボールをSOに供給するだけでBK全体のアタックが活性化されるように感じられた。日大がリードされている状況だが、逆転は時間の問題と思わせるある種ワクワク感すら抱かせたことは事実だ。

さて、形勢が逆転しつつある中、依然として立正大ペースで時計は進む。16分にはラックでのターンオーバーから逆襲に転じて日大ゴールまでボールを運びドロップゴールで追加点を狙うも失敗。う~ん、ここは積極的にFW主体で攻めるべきではなかったか。そうでなくても、潮目が変わりつつあることに気づいて欲しかった。崖っぷちに立たされている日大からすれば、FWでゴリゴリやられる方がダメージが大きいはずだから、余裕で?ドロップゴールを狙ってくれた方が助かったはず。立正大は21分にPGで3点を加点しリードを10点に拡げるものの、ここから有久投入による日大アタックの活性化が顕著になってくる。

日大アタックの起爆剤となった感がある21番を付けた有久がペナルティからも速攻でチームを引っ張る。立正は日大の怒涛のアタックの前に防戦一方となり、29分にはPGを決められてリードを再び7点に縮められる。日大はさらにリスタートのキックオフから連続攻撃で16分にFL山田に替わって登場したばかりの佐々木がトライを奪いGKも成功。日大は遂に25-25の同点に追い付いてしまった。残り時間は負傷者対応のロスタイムがあった関係で10分あまり。事の重大性(形勢逆転)にようやく気づいた立正大が反撃に転じる。入替戦回避のためにも同点ではダメで勝たなければならない。

時計が44分を示したところで日大が自陣で反則を犯し、立正大はタップキックからゴールを目指す。そしてFWのラックからボールが出たところでドロップゴールを狙うが外れる。やっぱりここは攻め続けるべきではなかったのだろうか。日大が反則を犯せばPGでの3点は約束されたような位置なのだ。日大はドロップアウトからマイボール確保に成功して攻めるもノックオン。立正大はスクラムから左オープンにボールを展開し左サイドのWTBにボールが渡る。フォロワーも居るので「ココは勝負!」と思ったらまたしてもウラに蹴ってしまった。繰り返しになるが、ここは陸上競技場。今回はラッキーバウンドもなく無情にもボールはデッドボールラインを越える。

残り時間がどんどんなくなっていく中で、日大はドロップアウトから最後の反撃を試みる。ここでも光ったのが21番を付けた途中出場の選手。ボール確保に成功した有久がボールを前に持ちだして大きく前進しフォローした14番の選手(4年生の南波)にすべてを託す。南波は渾身の力を振り絞ってゴールラインに迫っていき最後のディフェンダーを振り切ったところで日大の選手達が大きなガッツポーズ。劇的な逆転勝利がここで決まった。おそらく今シーズンの日大でももっとも関係者が熱くなったシーンではなかっただろうか。そして、それはチーム全体が待ち望んでいた場面でもある。もし、有久がベンチに居なかったり、居たとしても投入が遅れていたらどうなっていたのだろうか。劇的だが、それと同時に何とも複雑な心境を抱かせた幕切れだった。



◆勝っても喜べない日大/茨の道が続くが一筋の光明も

結果は逆(敗戦と勝利)になったが、前節の山梨学院戦と印象はまったく変わらない。「なぜ(勝利を掴む上で)最初からベストの陣容で試合に臨まないのか?」ということ。僅か1分あまりの出場でもトライを奪うという結果を出した有久が、この日は勝利を掴む上での立役者となったことは間違いない。短い時間でもしっかり結果を出せる選手が居ることを思うと、昨シーズン、ルーキー同士でSHの正位置を競わせたのは何だったのだろうかと思わざるを得ない。本日の勝利で最下位からは脱することができたが、依然として入替戦に限りなく近い位置にいることは間違いない。この日の喜びとそこに至った原因がはっきりしたことは最良の薬になると信じたい。最終戦だけでもベストの布陣で悔いのない戦いを見せてくれることを切に願う。

◆立正大の課題/簡単そうで実は克服が難しい

この試合は勝たなければならない試合だし、勝つ可能性は十分あった。過去の2戦の感想(中央大戦と山梨学院戦)でも書いたとおり、この試合も防げるはずのミスが命取りになってしまった形。消極的に見えてしまうプレーの選択といい、何度も同じことが繰り返されるということは偶然ではなく、構造的な要因があると考えざるを得ない。十分に練習を積んでいることはよく分かる。でも何かが足りない。簡単に克服できそうな課題ほど、実は克服が難しいと言えなくはないだろうか。残念すぎる敗戦を2つも続けてみてしまうと、そんなことを考えざるを得ない。
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山梨学院大学 vs 日本大学(関東大学ラグビーリーグ戦G-2014.11.03)の感想

2014-11-09 22:00:19 | 関東大学ラグビー・リーグ戦


いよいよ後半戦に入ったリーグ戦。毎シーズン、混戦模様となるが当たり前のような状況になっているが、今年は上下位が入り乱れた乱戦状態と言った方が正しいのかも知れない。そんな中、第5節を迎えて1勝3敗の日大と4戦全敗の山梨学院の戦いは入替戦回避に向けたサバイバルマッチであることは間違いない。しかし、日大は東海大に大敗したあと中央大に勝利したのに対し、前節に必勝を期して中央大に挑んだはずの山梨学院は返り討ちにあうような形で大敗を喫した。常識的に見れば、日大が優位のはずだし、そもそも1部リーグで未勝利のチームなら与しやすいはず。上位チームに食い下がってきた山梨学院とはいえ、ここは日大が貫禄を見せてくれるはずと誰もが思う。劣勢が予想される中で山梨学院の悲願達成なるか?がこの試合の見どころだった。



◆キックオフ前の雑感

日大は戦列復帰を果たした4年生のNo.8高橋優一やWTB南波らをふくむメンバーでこれが3試合目となる。東海大に昨年の悪夢を思い出させるような大敗を喫した1年生を多く含むメンバー構成には疑問を感じずにはいられないが、中央大に勝利し、流経大ともスコアの上ではそこそこ戦えていたようなので結果オーライといったところか。マイケルは結局FBに落ち着いたが、頼みのキテのポジションがなかなか決まらない。また、SHもスタメンは谷口だが、柏原と併用の形が去年から続いていた。そしてSHの控えには3年生の有久が入っており、この試合で3試合目となる。チーム状態が安定しないのはそんなところに原因がありそう。ここは上級生が纏めるしかないのだろうか。

翻って、山梨学院はほぼ不動のメンバーで5戦目を迎える。ただ、SHに起用された前原(2年生)は初スタメン。トコキオや大石主将を軸としてFW戦主体で戦う山梨学院にとって、SHはキーポジションと言えるだけに負傷が癒えたためなのか抜擢なのかが気になるところ。アタックではどうしてもトキオコにマークが集中するため、BKに展開する形も増えてくるはず。中央の覚醒もあって過去4試合は厳しい戦いとなったが、今度こそ1部復帰にあたっての悲願となっている1勝を果たしたいところ。



◆前半の戦い/戦術不変で臨んだ山梨学院に対し、意図不明でちぐはぐな日大

無風でやや気温が高めのコンディションの中、山梨学院のキックオフで試合開始。開始早々から山梨学院がプレッシャーをかけて日大陣10m/22mの位置で日大の反則を誘う。立ち上がりと言うこともありここは慎重にショットかと思われたが、山梨学院は日大陣ゴール前からのラインアウトを選択。しかし、山梨学院はモールを形成して押し込み、開始2分にしてあっさり先制点(GKも成功して7点)を奪う。相手が得意としているプレーとは言え、日大FWのディフェンスに粘りが見られないことが気になった。

リスタートのキックオフから山梨学院はハイパント攻撃。これも今まで通りの形だが、確保を狙ったWTBの選手が惜しくもノックオン。日大はHWL付近のスクラムからオープンに展開するものの、ラックでのミスから逆襲を許しオフサイドの反則。山梨学院は再び22m付近でラインアウトのチャンスを掴むが日大に反則が続く。しかし、山梨学院はいつもに比べてラインアウトが安定しない。ゴール前でのラインアウトのチャンスもオーバースローになってしまい日大がボールをタッチに蹴りだす。10m付近のラインアウトからのアタックもミスで日大のボールを渡す形となり、日大は(蹴らずに)オープン展開で攻めるがパスミスでチャンスを潰しなかなか敵陣に入ることができない。

ここで山梨学院はスクラムからオープン展開で攻めるが、パスミスを拾われてカウンターアタックを許す。しかし、日大は山梨学院のディフェンスに捕まってノットリリースの反則。ゴール正面やや左25mのPGを小川が慎重に決めて山梨学院が開始10分でリードを10点に拡げた。ミスが多い中にも手堅さを見せる山梨学院に対し、日大は自陣から積極的に攻めるものの反則を重ねて波にの乗れない。去年は2部で戦っていたとは思えないくらいに山梨学院の落ち着いた試合運びが印象に残る序盤戦の戦いだった。

敵陣にまったく行けなかった日大だが、12分、山梨学院陣10m/22mでのラインアウトを起点としてオープン展開で攻める。しかし、ラックでターンオーバーされて山梨学院の逆襲を許しを、ボールを一気に自陣22m付近まで運ばれる。ここは山梨学院のオフサイドに救われたものの、ブレイクダウンの攻防でも劣勢に立たされる日大に対し、ファンは不安を抱かざるを得ない。しかし、日大は19分にようやく一矢報いる。山梨学院10m付近のラインアウトからオープン順目にボールを展開して山梨学院ゴール前までボールを運びラック。ここからHO庵奥が抜け出してゴールラインを越えた。マイケルのGKも決まり、日大が7点を返してビハインドを3点に縮める。

ここで日大に落ち着きが出たと思ったのも束の間、24分に再び自陣での反則からPGを決められてリードを6点に拡げられる。日大は自陣からも蹴らずにオープン展開で攻撃するのに対し、山梨学院はキックでエリア獲得を目指す慎重なゲーム運び。日大のFBはマイケルなので、カウンターアタックのことを考えるとキックは控えめにしたいところ。しかし、山梨学院はむしろマイケルにボールを持たせることを狙っていた感がある。というのも、マイケルが常に2~3人にマークされており、タックルに遭った時点でボールが止まってしまっていた場面が多かったから。マイケルにスペースを走らせるなど日大には工夫が欲しかったところ。No.8の高橋がその辺りを意識した動きを見せていたが、セットプレーからだと限界がある。オープン展開でもライン参加して奮闘する8番の姿があっただけに、彼が春から本シーズンの2戦目までAチームから離れていたことに疑問符を付けざるを得ない。

日大のアタックにキレが見られない中で、山梨学院も完璧なはずのラインアウトでミスが目立つなど過去4試合と比べると精彩を欠く内容。32分には、日大が山梨学院ゴール前のラインアウトからモールを形成して前進し、ゴールに迫るものの危険なプレーの反則を取られて山梨学院が命拾いする。得点板が13-7(山梨学院リード)でなかなか動かない膠着状態の中、前半終了間際の39分に日大に得点が生まれる。山梨学院陣22m付近のラインアウトからのオープン展開により中央付近でラックとなったところからLO小川が抜け出してトライ。GKも成功して14-13と日大が1点差ながら逆転に成功する。

このまま1点リードで前半を終えたかった日大だが、山梨学院が粘りを見せる。日大陣10m付近でのラインアウトからFWでサイドを攻めたところで日大にオフサイド。山梨学院の小川が右中間32mのPGを決めて16-14と再逆転に成功した。日大に勢いが出かけた直後だっただけに、後半に向けて山梨学院にとっては貴重な得点、逆に日大にとっては不必要な失点だったと言える。



◆後半の戦い/確実にエリアを取り加点する山梨学院に対し、終了間際までチグハグだった日大

点差から見れば拮抗した展開になったものの、山梨学院のミスに助けられた感のある日大だった。後半こそは地力を発揮したいところだが、前半のアタックを観る限りはマイケルの突破意外に決め手に欠ける内容。そのマイケルも徹底マークに遭って持ち味を発揮出来ているとは言い難い。翻って山梨学院は調子が出ない中でも過去のラグビーで通している。シーズン当初はスペシャルプレーを用意していることも考えられたが、最後までこのまま(FW主体の手堅いラグビー)で行くようだ。また、そのことにより、ゲームが崩れない。やや不調の中でも山梨学院ファンは安心して試合を観ることができている。

日大のキックオフで始まった後半だが、山梨学院の蹴り返しに対するかカウンターアタックの局面でマイケルがチョークに遭いモールアンプレアブルで攻撃権は山梨学院に。意図があったかどうかは分からないが、マイケルにボールを持たせることで逆にを孤立化させることに成功しているように見えてしまう。やっぱり日大には策がないと考えざるを得ない展開。後半は日大が山梨学院陣に殆ど入ることができない一方的な展開となる。山梨学院に得点力があれば、そのことが得点差という形ではっきり現れたと思う。

5分、山梨学院は日大陣10m/22m(右サイド)で得たPKのチャンスで狙わずに日大G前へタッチキック。そして、ラインアウトからモールを形成し、FWで攻めて大石主将がゴールラインを越えた。GKも成功して23-14とリードを拡げる。山梨学院はFWで行けるという感触を得ていたと思うが、FWが踏ん張りきれない日大ファンはもどかしかったはず。しかし、後半16分、山梨学院にピンチが訪れる。FWの中心で得点源のトコキオが負傷によりピッチを去る。が、ここからの山梨学院の危機感をバネにしたような結束力が見事だった。日大は自陣22m内からもなかなか脱出できないピンチの連続となる。

23分、小川のドロップゴールは外れるが、27分にはPGを決めて26-14と山梨学院はリードをさらに拡げる。エース退場をものともせず、エリアを支配し、着実に加点して試合を進める当たり、昨年2部に居たのはどちらなのかと言いたくなるくらいに山梨学院は手堅い試合運びを見せる。そして33分、日大が自陣22m内のラインアウトからオープン展開で反撃を試みたところで山梨学院がボールをもぎ取って逆襲。モールを形成して大石主将がゴールラインを越えてグラウンディングに成功し33-14(GK成功)となる。チームの勢いから見ても、ここで勝敗は決した。

残り時間が僅かとなる中で、このまま試合終了になれば大石主将を中心として山梨学院の選手達による歓喜の輪が築かれるはずだった。しかしながら、38分に大石主将が危険なプレー(ノーバインドタックル)によりシンビンを適用されて一時退場となる。ここから日大が怒涛のアタックを見せて途中出場のCTB金とSH有久が2連続トライで気を吐く。有久に至っては39分にピッチに出場したばかりで、GKは二人ともドロップキック。皮肉にも途中出場の選手達が意地を見せた形で日大はあっと言う間(僅か2分あまりの間)に14点を返す。スコアは28-33と拮抗するものの、いかんせん遅かった。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間に大石主将がピッチの中に居ないというやや盛り上がりを欠く状態ではあったが、山梨学院サイドから1部初勝利の喜びの声が上がった。最初に1部昇格した時からこのチームを観ているが、入替戦も含めてとにかく勝利が遠かっただけに、喜びもひとしおだろうと思った。



◆祝1部初勝利/本調子ではなかったものの「継続は力なり」を感じさせた山梨学院

ここまで山梨学院の戦いはすべて観ている。そんな中で、実は今日の出来が一番よくなかったように思う。前節で初勝利を目指したはずの中央大戦、相手の出来が予想以上によく返り討ちに遭ってしまったような形でダメージが大きかったのかも知れない。また、上位校との戦いを重ねていく上で疲労が蓄積していったとしても不思議はない。さらにこの日は頼みのトコキオもピッチを去る形になってしまった。そんな中でも初勝利を掴めた要因として、「継続は力なり」が最適な言葉のように思う。

BKに決め手となる選手が居ない中で、緒戦の流経大戦から山梨学院はFW中心の手堅いラグビーに徹してきた感がある。FWで2ユニットを組んでジグサグで前進した後判で押したようにハイパント。徐々にBKへ展開する形は増えてきたものの、5戦目のこの日も基本的には同じ戦い方だ。当初は後半戦に向けた秘密のオプションがあるのではとも思っていたが、バランスを少しずつBKにシフトしつつも同じ形で通してきている。考えてみれば、普段やっていること以上のことはなかなかできないのはどのスポーツにも共通する。むしろ「普段着」の戦いを続けることがチームに安心感をもたらすことになる。だから、FWでのボールキープも含めて「継続は力なり」と感じた。

1勝を挙げたとは言え、山梨学院の前途は茨の道であることに変わりはない。法政が難敵であることはもちろんのこと、立正大も東海大を苦しめる力を持っている。また、今シーズンの入替戦は例年にもまして厳しいものとなるだろう。仮に2部に戻ることになってしまったら、今シーズンの努力は水泡に帰してしまいかねない。この1勝に満足することなく頑張って欲しい。

◆どうした!日大

試合を観ながらずっと感じていた。日大は「どうしてしまったのか」、そして「どうしたいのか」ということを。山梨学院は前にも書いたようにずっと同じラグビーで通してきているし、戦力も殆ど変わらない。だから対策は立てやすいはず。しかし、日大に「自陣からでもキックは使わずに継続」以上の意図は見えなかった。また、カウンターアタックでマイケルがボールを持つ機会も多かったが、それをうまく活かせず、反則などで逆に山梨学院にチャンスを与える結果となっていたように思う。

しかし、それ以上に気になることは、日大はそもそもどんなラグビーがやりたくて、そのためにどのようにチームを作っているのかが見えてこないこと。ここが最大の問題点のように感じる。首脳陣の選手選びは「同じ力を持つなら下級生を使う」という方針とも伝え聞くが、チーム作りを考えるなら「同じ力を持つなら経験のある上級生を使う」べきではないのだろうか。そうでなければ、いつまで経ってもチームの骨格が出来上がらず、(ファンや選手達が期待する)勝利という結果もなかなか出せないように思う。

今シーズンで6シーズン目を迎えた加藤HC体制だが、一番印象に残っていることは初年度の緒戦直前での一コマ。試合会場の最寄り駅である西葛西駅に着いたときに、身体の大きな選手達の集団があった。見覚えのある留学生の選手が居たのですぐに日大の選手達と分かったのだが、とてもシーズンの1試合目を戦う集団のようには見えなかった。普通の感覚なら、「いよいよシーズンが始まる」といった緊張感はあってもどこか浮ついた状態になっているはずと思う。しかし、日大の選手達が醸し出す雰囲気は、これからあたかも苦行難行が待ち受けているかのようだった。

しかし、流経大が相手の試合では健闘し15-17の惜敗。勝てるチャンスも十分にあった試合で、パス回しの巧みさなど、過去の日大にはなかった要素が加わり「新体制」に期待を抱かせる内容だった。ここで勝っていればその後の展開は違っていたかも知れない。ちなみに流経大は4位でシーズンを終えている。

第2戦の中央大戦は内容的には勝ち試合だったが、インゴールノックオンなどの凡ミスの連発が響き12-18で敗戦。中央大の宇野選手のキック力が光った試合でもあった。

そして第3戦(前橋)。ここでSOとしてデビューしたのがルーキーの小川だった。(小川は緒戦でも後半の途中から出場しているがWTBの選手との交代)。相手は大東大で強力な向かい風の影響もあり僅か15分余りで5トライを奪われ35失点を喫するという悪夢のような試合となる。小川は非凡なプレーを見せたものの、ここからチームの方針ががらりと変わる。

第4戦からは、キックを封印された無謀とも言える継続ラグビーが始まった。FW、BKともパワー不足でこのラグビーをやったらどうなるか。せっかく継続してもボールをどんどん後ろに下げられ、ターンオーバーでトライを献上。失点ばかりが増えていく、今まで観た中でももっとも悲壮感が漂うラグビーがシーズン終了まで続行された。

しかし新体制2年目で日大は飛躍を遂げる。SO小川の個人能力頼みの部分があったとは言え、得点力が大幅にアップし前年度の悲惨な状態から脱した。さらに3年目は小川がSHに転向して攻撃力はさらに向上。単独でも他の選手を使っても取れるラグビーで日大のラグビーに華が出てくる。そして4年目。小川が主将としてチームをさらに飛躍させる。主将になると選手としての持ち味が薄くなってしまう選手が多いが、小川は逆に自身の突出を抑えて選手を使いチーム全体を活性化させるような役割に徹していた感があった。4年間で自身のプレーだけでなくチームをここまで変えた選手は記憶にない。

そんな流れで見ると、5シーズン目は(小川は抜けても遺産としての)チームとしての熟成があるはずだった。が、そんな期待も東海大戦や流経大戦などの大敗で消えてしまう。6シーズン目の今シーズンもしかり。東海大戦を見る限りは、昨シーズンからの上澄みがまったく感じられない。選手起用法がすべてではないのかも知れないが、下級生がスタメンで、リザーブ登録の上級生が途中出場で試合を落ち着かせたような状況を観ると、選手起用の順番に疑問を呈さざるをえなかった。

チーム作りに関して迷走状態が続いているように見える日大は何処に行ってしまうのだろうか。
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