第1試合の日大の劇的な逆転勝利の興奮冷めやらぬ中で第2試合のキックオフを待つ。しばらくしてこの試合がラグビー初観戦という甥っ子が弟に連れられてスタジアムに到着した。部活では野球をやっているのだが、高校でラグビーのことが話題になったらしく、実際に試合を観てみたいと思ったのだとか。学校が終わってからなので第1試合には間に合わなかったが、結論から言うと優勝争いに絡む第2試合を観てもらえてよかったと思う。カウントダウンが始まっているはずの2019年のことを考えたら、ラグビーはもっともっと若いファンを増やさなければならない。友が友を呼ぶといった形でファンが増えていけばラグビー観戦者の平均年齢もぐっと下がっていくのではないだろうか。
◆キックオフ前の雑感
第1試合がサバイバルマッチなら第2試合もサバイバルマッチ。ただし、第1試合は入替戦回避のためであったのに対し、第2試合は優勝争いのため。しかし、シーズン6戦目ともなると負傷者が少なからず出てくることは避けられない。とくに、大東大はFB大道に続き、CTBのクルーガーも戦線離脱。もちろん、過去数シーズンのことを思ったら負傷者は画期的に減っているのだが、昨シーズン躍進の立役者と今シーズン期待を一身に集める選手の欠場は痛い。事実、前節では覚醒した中央大の前にいいところなく敗れているので、ここは結束力で乗り切りたいところ。サウマキのCTB起用は春にテスト済みだが、負傷者対策かどうかが気になるところ。また、碓井のSOは川向の負傷対策としての一時的なものだったようだ。アタックの組立やキック力など大東に必要な武器を持っているだけにベンチに置いておくのはもったいないような気がする。
翻って流経大はリリダム・ジョセファの欠場(リザーブにも不在)が気になるが、基本的にはベストの陣容と言ってよさそう。合谷はFBで出場だが、攻守や状況に応じて自由にポジションチェンジしてくるものと思われる。昨シーズンは局面局面で戸惑いが感じられ、一昨年のような奔放な動きができなかった感がある。はたして、今シーズンは再び相手を混乱に陥れるようなランができるかどうか。学生最強のFWジョージ・リサレを中心としたFWの強さはおそらくリーグ戦Gで東海大と双璧と思われるだけに、BKに活きたボールを供給し、合谷らの奔放なランを引き出したい。不安材料は、昨シーズンから目に付くようになってきたプレーが雑になりがちなところ。ミスでボールを失うことは、決定力がある選手が揃う大東大に対しては致命傷になりかねないだけに注意したいところ。
◆前半の戦い/キックオフからエンジン全開の流経大にタジタジの大東大
風下に立つ流経大のキックオフで試合開始。と同時にボールをチェイスする流経大のFWの選手達が猛然と大東大選手達に襲いかかる。2ヶ月前の緒戦で山梨学院にゲームをコントロールされる時間帯が多かった、消極的にも見えた流経大の面影はここで完全に払拭された感がある。個々の突破力が高い大東大も応戦して激しい攻防となるが、組織的に固まっている流経大の方により迫力が感じられる。第1試合は大接戦で劇的な幕切れとなったが、スピーディーかつパワフルなラグビーが展開されている。リーグ戦Gは乱戦模様で上下間格差が小さいとは言っても、ラグビーの内容に明確な差があることは否定できない。
前半、風上に立った大東大だが、基本的にはキックを使わずにパスとランで攻めるラグビーのようだ。流経大の強力なプレッシャーに立ち向かう形で突破を試みるが、際どくボールが繋がっているようなスリリングな印象を受ける。サウマキのCTB起用は少しでもボールを触る機会を増やすという意図があったのかも知れない。2分には大東大のSO川向がウラに抜けてビッグゲインのチャンスを掴むものの、流経大陣22m付近でアタックを止められる。
キックを控えめにした大東大に対し、流経大はキック主体でエリア獲得を目指す。8分、流経大は大東大ゴール前で相手ボールラインアウトでのスローイングミスを見逃さず、鋭く反応したFL大塚がボールを一気に大東大ゴールまで運ぶ。合谷のゴールキックも決まり、流経大が幸先よく7点を先制した。相手のミスによる「タナボタ」の感もあるが、前に出る強い気持ちが生んだトライとも言える。
最初にも書いたとおり、この試合は優勝決定ラウンドの1回戦でもあるサバイバルマッチ。流経大の気迫に押され気味だった大東大もスイッチが入った状態となる。キックオフからプレッシャーをかけたところで流経大にノックオンがあり、22mライン手前でスクラムもチャンスを掴む。大東大はここから右オープンに展開して右WTB戸室がゴールを目指すものの、惜しくも直前でタッチに押し出される。大東大のチャンスは潰えたかに思えたが、今度は流経大がラインアウトでミス。投入されたボールがオーバースローとなったところを大東大のFL篠原主将が拾ってゴールラインを越えた。相馬のGKは失敗するが、大東大が5点を返す。
大東大は畳みかける。リスタートのキックオフで流経大に反則があり、大東大はHWL付近でのラインアウトから攻める。ボールがオープンに2回展開され、左WTB岡から絶妙のリターンパスを受けたCTBサウマキがトライ。GKも成功し大東大が12-7と逆転に成功した。序盤から激しいボールの争奪戦をまじえたダイナミックなラグビーが展開され、第1試合を戦った選手達には申し訳ないがビデオの再生速度を1.3倍速にしたような感じ。隣に座っている甥っ子は、予習もばっちりのようで初観戦ながらゲームを楽しめているようだ。
大東大の得意な形でのトライが生まれたことで、試合はシーソーゲーム(点の取り合い)の様相を見せる。17分、流経大は大東大陣10m付近のスクラムからオープンに展開するが22m手前までボールを運んだところで惜しくもスローフォワード。しかし、流経大はスクラムで強力なプレッシャーをかけてターンオーバーに成功し、左WTB八文字がトライ。合谷のGKは今日も安定しており、14-12と流経大が再逆転に成功。ここからしばらくゲームは膠着状態となる。
しかし前半も終盤に近づいた30分、大東大は流経大ゴール前でのラインアウトからFWでボールをゴールライン手前まで運ぶ。ここからFL長谷川がインゴールにボールを運びトライ。GKも成功し、大東大が19-14とゲームを再度ひっくり返す。バックスタンドから見ていると、メインスタンドの左サイドに大東大、右サイドに流経大の部員達がそれぞれ陣取っているわけだが、交互に盛り上がりを見せる状況になっていて実に賑やか。前半の終了間際の37分、大東大は再び流経大ゴール前でのラインアウトのチャンスからSH小山が抜け出し、パスを受け取ったSO川向がゴールラインを越えた。GKは失敗するものの大東大は24-14とリードをさらに拡げる。
リーグ戦Gナンバー1のSH小山は当然のことながらマークされており、相手の強力なプレッシャーを受ける。しかしながら、そんな状況をものともせずボールを際どいタイミングで正確に捌き続ける。もちろん、中央大戦の序盤で見せたタッチラインギリギリのゼロスペースをかいくぐって走りきったトライのように、独自の感覚で(幅は関係なく)スペースを見つけて突破を図るサーカスのようなアタックも健在。また、昨シーズンはディフェンス力を買われてレギュラーを掴んだ川向は、今シーズンはアタックでの成長が著しい。もしかしたら、首脳陣に碓井の起用をためらわせている部分はここにあるのかも知れない。
このまま前半を終えたい大東大だったが、流経大も粘りを見せる。大東大が自陣22m内で反則を犯したところで、流経大のSH黒木が間髪入れずにタップキックから一気にゴールラインを越えた。ここも合谷がGKを成功させ21-24と流経大はビハインドを3点に縮める。リードを許してはいるものの、ペースを掴んでいるのはいつになく纏まりのよい流経大。後半のことを考えれば、終了間際に得点できたことは大きかったに違いない。
◆後半の戦い/さらに増す流経大のプレッシャーで持ち味を消された大東大
リードしているとは言え、チームの勢いは流経大の方にある。流経大には超強力なリサレが居るとは言え、FWの個々の力を見ると、No.8テビタ、FL長谷川、LO鈴木といった突破力のある選手が居る大東大の方がむしろ強力に見えてくる。しかし、「FWは塊で勝負」と考えると、伝統的にユニットを組んで戦うことに長けている流経大に軍配が挙がる。そんなことを感じさせた前半の両チームの戦いぶりだった。
大東大で気になった点はもうひとつ。局面局面で個の力が活きるラグビーとは言え、昨シーズンからパスの配球など組立を意識したアタックで「復活」を果たしたのが昨シーズンだった。今シーズンも春の戦いではさらにアタックのオプションを増やした感がある。戦術用語で言えばシェイプからポッドへの転換で、春はSH小山が中心だったが、SOに碓井が起用された山梨学院戦のように10番を中心としたアタックへとバリエーションを拡げているようにも見えた。一方で、前半は相手の速い展開について行けなかった法政戦のように、伝統と言ったらいいのか(悪い意味での)個人頼みラグビーが顔を出すような状況も見られた。
ともかく一度は完成に向かっていた個の強さや巧さを活かした全員ラグビーを大東大は思い出して欲しいところ。しかし、大東大のキックオフで始まった後半も流経大のFWの強固な塊に揺るぎはない。序盤から大東大は自陣からなかなか脱出できないピンチの連続となる。風下に立つとは言え、やはり局面を一蹴りで打開できるロングキッカーの不在は痛い。大東大陣22m内での攻防が続く中での5分、流経大はゴール前ラインアウトからモールで前進。ラックからSH黒木のパスを受けたFL大塚がゴールラインを越える。合谷のGKは完璧で28-24と流経大が再々々逆転に成功。
流経大の勢いは止まらない。全般的にFW戦で優位に立っている流経大だが、この日とくに威力を発揮したのはスクラム。10分、流経大はゴール前での5mスクラムからリサレが8単でトライを奪いリードをさらに拡げる。何とかトライを奪い返して流れを自分達に引き戻したい大東大だったが、逆にそれが焦りに繋がる。リスタートの12分、大東大は長短織り交ぜたパスによりアタックを試みるが、繋ぎを意識したパスが流れて流経大のWTB八文字の前に転がる。場所はHWL付近だったが、大東大が前掛かりになっていたこともあり、八文字は真っ直ぐにゴールポスト直下に向かうだけでよかった。ミス絡みとは言え、大東大にとってはキックオフからの強烈なトリプルパンチは想像以上に効いたものと思われる。その後も得点板こそ動かないものの、大東大がなかなか敵陣に行けない劣勢を強いられる状況の中で時計がどんどん進んでいく。流経大は攻め疲れで大東大は守り疲れという面もあったのかも知れないが、18点リードの流経大は無理をする必要がない。
後半は得点ゼロが続く中で38分、大東大がようやく一矢報いる。流経大のミスからボールを確保したサウマキが豪脚を飛ばしてインゴールへ。GK失敗で29-42となるが、残り時間とチームの勢いから考えても逆転は難しい状況。終了間際の42分、流経大が大東大ゴール前での相手ボールのラインアウトで途中出場の18小倉がこぼれ球を拾いトライを奪う。ここまでGK成功率100%の合谷がここも難なく決めて49-29と流経大の圧勝で試合は終わった。前半は競った展開になったものの、必ず勝利を掴み取るという強い意志のもと、一貫して15人が結束して戦うことができた流経大が順当に勝利を収めたと言えそうだ。
◆連覇に向けて大きく前進した流経大/勝因は?
緒戦の山梨学院戦は不安を抱かせる立ち上がりとなり、法政戦で大きく躓いた流経大。だが、連覇に立ちはだかる東海大との接戦を制し、大きな壁として立ちはだかると予想された大東大を撃破したことで連覇に大きく近づいた。本日の勝因はここ数シーズンでもおそらく最高レベルではないかと思わせるチームとしての一体感にあったとみてよさそうだ。中でも光っていたのは、塊となって戦ったFWが中心となって、最後まで大東大に強力なプレッシャーをかけ続けたことだと思う。このことが、大東大の選手個々のパワーや巧さを分散させることに成功し、焦りからミスを誘う形で勝利をもぎ取ることができた。
また、この試合では去年の日大戦(結果は圧勝)や緒戦の山梨学院戦でも気になっていた結果オーライの無理なオフロードパスなどの雑なプレーが最後まで殆ど見られなかったことも印象に残る。流経大はどうしても相手を見てしまうようなところがあり、そのことが安定したパフォーマンスを示すことができないでいる原因のようにも思われるのだ。そう考えると、ここで引き締まったことをプラス材料として。そのままシーズンを乗り切って欲しいところ。だが、手負いの状態でも中央大が難敵であることは(流経大の1部昇格時からずっと)変わらなし、何度かそんな場面を目撃している。近い例では先日の大東大を撃破した試合がそうだった。ムラは多くても固まったときに中央大はリーグ戦Gで一番の強さを発揮する力を秘めている。今年こそは選手権で結果を出すためにもテンションを緩めることなく頑張って欲しい。
◆4連勝のあとの2連敗で顕著になった大東大の課題
前節で中央大に敗れたものの、この試合に勝てば優勝に大きく近づく大東大だったが、またしても返り討ちに遭うような形で敗れてしまった。流経大の強力なプレッシャーに苦しみながらも、何とかリードして前半を折り返したところまではよかったが、後半はFW戦での消耗がボディブローのように効いたのかも知れない。FB大道に続き、期待を一身に集めたクルーガーも戦線離脱の状況でなかなかCTBとFBを固定できないのが戦術面でも痛い。しかし、大東大は現有戦力でもリーグ戦Gでは十分以上に戦える戦力のはずだ。この試合の敗因は別の所にあると思う。一言で言えば、「組織」をベースにずっとチームを作り上げてきている流経大との差が顕著に表れたのではないかということ。流経大も強力な選手達の台頭でバラバラになったりプレーが雑になったりする面があるが、「組織」の積み上げがあるからチームの建て直しがすぐにできる。
翻って大東大は元来個々の強さ、速さ、巧さで勝負するチームだった。選手達がうまくかみ合えば最高に面白いラグビーになるし、バラバラになれば精彩を欠くラグビーにもなってしまう。そんなチームに個の力で勝負させて選手に自信を持たせることで復活を成し遂げたのが昨シーズンの大東大だったと思う。WTBが1対1の状況でも勝負せずにウラに蹴ってしまうような消極性が一掃されたことで大東大の得点力は飛躍的にアップした。しかしながら、個々の力を束ねるラグビーは相手のプレッシャーを受けると個人個人が無理してしまうラグビーと表裏一体とも言える。法政戦でも感じたことだが、2年目の今シーズンはそのような悪い面が少しずつ散見されるようになってきた感がある。組織的な攻撃の組み立てでも、ほぼ完璧に見えた春の慶應戦とは別のチームを見ているような感じだった。
といった感じで反省材料は多々あると思うが、去年の東海大戦のように大ピンチを15人のまとまりで乗り切ったことを今一度思い出して欲しい。個人個人での頑張りは必要だが、逆に頑張りすぎて廻りのプレーヤーとうまくかみ合わないとせっかくのパワーが分散されてしまう。今の大東大に必要なものは、ひとつ前の中央大の戦い方であり、そして今日の流経大の戦い方ということになる。今一度全員ラグビーでリーグ戦最後の戦いを乗り切って欲しい。
◆2019年に向けて/若きファンを増やすために
2019年に向けてようやくいろいろな動きが見えてきた日本のラグビー界だが、代表チームの強化はもちろんのこと、いかにして各スタジアムに足を運ぶ観客数を増やすかがとくに重要な課題になっている。世界に向けて日本でのラグビー不人気を発信してしまわないためにも、新たなファン獲得が喫緊の課題になっていると思う。
そんなわけで、野球をやっていて駅伝を見るのも大好きな高校2年生の甥っ子がラグビーに関心を持ってくれたことがすごく嬉しかった。この試合も最後までじっくり楽しむことができたようで、終わった後「今度は社会人の試合も観てみたい。」と言ってくれた。やっている種目は違っても、スポーツに打ち込んでいると他のスポーツの楽しみを理解できるのはいいことだと思う。それがラグビーになって欲しいというのがオールドラグビーファンの願いでもある。
ラグビーの人気拡大を妨げている要因として、「ルールが難しいから。」という感想がよく聞かれる。確かにルールブック自体が文庫本みたいに厚くて、それも毎年変わるとなればそう思われても仕方がない。しかし、ラグビーの細かいルールは分からなくても、選手同士の激しいぶつかり合いや華麗なパス回し、そして巧みなステップワークを活かしたランニングは十分に楽しめるはずだ。まずは「ラグビーは面白い。」が先に来るべきだろう。そう思えば、ルールだって自分で勉強しようとする気持ちが出てくる。事実、甥っ子は参考書を持って競技場の現れ、予習も十分に行っている状況で初心者的な質問はしてこなかった。願わくば、友が友を呼ぶ形で高校生や大学生が競技場に詰めかけるような状況になったらラグビーの観戦モードも随分と変わってくるだろう。
あとひとつ気になることは、スポーツに興味を持っている若い世代の人達は自身でも何らかのスポーツをしており、週末には競技を観る立場ではなくプレーする立場にある場合が多いこと。秋のラグビーシーズンは野球は終わっているとしても、球技などのレギュラーシーズンであり、土日はどこかで試合というヤングアスリートは多いと思う。オールブラックス来日時のように関西では協会を挙げて観客を集めるようなことは難しいかも知れないが、せめてラグビーがスポーツファンにとって身近な存在になるような努力をすべきではないかと思った。
年末に向けて、部活に塾と忙しい甥っ子からの連絡を心待ちにしている。