第一試合で関東学院が専修を下して1部復帰を果たした。が、もう誰も驚かない。過去に1度しか起こらなかったこと(1部7位チームが2部2位チームに敗れて降格)が2年連続で起こる確率は自乗で効いてくるから低い。でも、それは統計学上でのこと。昨シーズンよりもさらに1部下位チームと2部上位チームの間の力が接近し、しかも1部チームに挑むのは申し分ない実績を持つチーム。日大のチャレンジを受ける山梨学院の関係者は第一試合の結果如何に関わらず、覚悟を持ってこの試合に臨んでいるはず。
第一試合ではより強力な応援を得たチーム(関東学院)が勝利を勝ち取った訳だが、果たして第二試合もメインスタンドの右側には大挙して押し寄せた日大の応援団が陣取る。昨シーズンの日大の応援席はスカスカの状態でとても寂しかったことを思うと、信じられないくらいの熱気が感じられる。リーグ戦Gでもどちらかと言えば日大ファンは大人しいという印象があるだけに、ピッチで戦う選手達も心強いに違いない。それと、おそらく昨シーズンは危機意識が薄かったのだと思う。チームの戦いぶりにも「落ちるはずがない」というムードが漂っていたように感じられた。
小降りながらも雨が降り続く中で、第一試合と同様に観客席の前方での観戦は諦め、屋根の下でメンバー表を眺める。山梨学院は当然のことながらベストメンバー。問題はベストのパフォーマンスを見せることができるかどうかになる。サッカー日本代表の本田選手が言うところの「点が取れるときはケチャップみたいにドバドバ」とは逆をいくような大量失点試合を複数経験しているチームだけにどうしてもそんなことが頭をよぎる。昨シーズンはリーグ戦でも随一と言っていいくらいに統制が取れたラグビーが出来ていたチームだったはず。初心に返ってここは踏ん張って欲しいところ。そうでないと密かに応援メッセージを送り続けた1ファンの立場がなくなる。
一方の日大もおそらくベストの陣容。4年生もスタメンに6人、リザーブに2人しっかり入っている。メンバー表を一瞥しただけでも、日大が正常な状態になったことを実感できる。ただ、ひとつ気になったのは、日大きっての熱血漢と信じて疑わないSHの有久(4年)がこの日もベンチスタートとなること。昨シーズン後半の活躍、そして春のセブンズでの決定的な仕事ぶりから考えれば、レギュラーシーズンでもスーパーサブ的な起用が続いたのは意外だった。隠れ有久ファンとしてはどうしても彼の勇姿を瞼に焼き付けておきたい。だが、有久を必要とするような試合であっては困るというのが日大首脳陣の偽らざる気持ちだろう。第一試合で関東学院が勝利したことで、日大優位の見方がさらに補強された形だが、そう簡単にいくのだろうか。
◆前半の戦い/優位に試合を進めながらも波に乗れない日大
メインスタンドから見て、左から右に攻める日大のキックオフで試合が始まった。第1試合とは打って変わって蹴り合いとなる場面が支配的となるが、雨の中での入替戦ということで両チームとも慎重になったのかも知れない。開始早々の1分、日大は山梨学院陣10mラインの手前で得たPKでショットを選択。距離にして42mのPGは外れる。3点を確実にと言うよりも、SOの鈴木が長い距離をひとつ蹴っておきたかったという意図が見えるようなゴールキックではあった。
蹴り合いが続く中で、BK展開を交えて攻めたのは日大。どちらが1部所属チームなのか分からない位にアタックのスタイルが整っていて格の違いを見せつける形になっている。肉体面も精神面も優位に立つ日大という印象を強く持たせるような序盤戦だった。日大のプレッシャーを受ける形で山梨学院が反則を重ねる。8分、日大は山梨学院陣ゴール前でのラインアウトからモールを形成して前進。ゴール前のラックからショートパスがFB富樫に繋がりトライ。比較的易しい位置からのGKは外れるが日大が幸先よく5点を先制する。ちなみにこのキック失敗がこの試合で日大が苦戦することになる予告編だったことはもちろんまだ分からない。
山梨学院が自陣で反則を犯す悪い流れが止まらない。14分にも日大が山梨学院陣ゴール前でのラインアウトを起点としてFWで攻めHO塚本がトライ。ここもGKが外れるがまだご愛敬といったところ。着実に加点して10点をリードしたところで日大は安心モードに入る。続くリスタートのキックオフで山梨学院はダイレクトタッチ。春シーズンから散見されたシーンにファンはため息をつく他ない。蹴り合いで陣地を取られて自陣で反則の連続という悪い流れも止まらず、山梨学院は防戦一方となる。しかし日大も畳みかけることができない。何となくだがすっきりしない展開にファンもヤキモキと言った感じ。27分にPGが決まって日大のリードは13点に拡がるが、不思議なことにここから日大サイドの得点板の動きがピタリと止まる。
キックオフから30分が過ぎるまで、試合は9割以上山梨学院陣で行われる一方的な展開ながら、日大の得点は13点。GKが2つ決まっていても17点というのはちょっと信じがたい。山梨学院がしっかり止めていると言うよりも、日大が攻めきれないという印象が強い。32分には蹴り合いで日大がダイレクトタッチのミスを犯したところから試合の流れは山梨学院に傾き始める。山梨学院は日大陣10m/22mの位置からのラインアウトを起点としてオープンに展開したところで日大に反則。山梨学院はタッチキックから日大ゴール前でのラインアウトを選択し、FWがサイドを攻めてFL渡邉がトライ。GKも成功し日大のリードは6点に縮まる。
ここから山梨学院のアタックが一気に活性化。39分には自陣22m付近でのラインアウトを起点として怒涛のアタックを見せ、日大陣22mまでボールを持ち込んだところで日大にホールディングの反則。SO前原が左中間18mのPGを決めて10-13となる。山梨学院がビハインドを3点に縮め、反撃体制を整えたところで前半が終了した。前半は殆ど時間帯でエリアもボールも支配した日大だったが、内容は全くと言っていいくらいに得点に反映されない。ただ、まだ日大は余裕モードだったことも確か。転びそうで転ばない山梨学院も不思議なチームだ。
◆後半の戦い/一時逆転を許すも最後に決めたのはやっぱりこの選手
いったん心のネジが緩むと締め直すのが大変なのが大学生のラグビー難しいところであり悪いところ。後半開始早々の2分、山梨学院のPKがノータッチとなるが日大もノックオンでミスに付き合ってしまう。そして6分、山梨学院は日大の反則で日大陣22m内でのラインアウトのチャンスを掴む。ロングスローに帯するピールオフからボールを受け取ったLOトコキオが、持ち前の突破力が活かして一気にゴールラインまで到達。GKも成功し、山梨学院は17-13と遂に逆転に成功。このまま勢いに乗って攻め続ければ山梨学院は2部転落を免れる。
しかし、誰もがそう思うというような展開にはなかなかならない。10分、日大は山梨学院陣でのゴール前のラインアウトを起点としてFWでサイドを攻め、LO小川がトライ。しかし、またしてもGKが今度はポストに当たると言った形で追加は5点に留まる。確かに再逆転に成功した日大ではあるが、18-17とリードは僅かに1点でまったく安心できない。また、山梨学院もせっかく自分達に吹き始めたフォローの風を掴むことができない。
18分、日大は山梨学院のミスにつけ込む形で加点に成功する。山梨学院の選手がノックオンしたボールをすれ違いのような形で拾った日大のWTB早川が一気にゴールラインまで到達する。しかし、GKが今度はクロスバーに当たるという形で不成功。ここまでゴールに嫌われてしまうのも珍しい。23-17と日大がリードを拡げるものの、6点差は1T1Gで逆転されてしまうのでまったく安心できない。だが、1部残留に望みが繋がっているはずの山梨学院もピリッとしない。お互いに決め手を欠く中での一進一退の攻防が繰り広げられる。
29分、山梨学院はCTBアピレイの自陣からのカウンターアタックから一気に日大ゴール前まで攻め上がる。直後のラインアウトで日大に危険なタックルの反則がありラインアウトからゴールを目指す。はずだったが痛恨のターンオーバーを許し得点できず。アピレイはルーキーながらトコキオとの2枚看板で活躍が期待されていた逸材だが、レギュラーシーズンでは不完全燃焼に終わった感が強い。トコキオをサイズで上回るパウロ・バレリもベンチを温めたままという状況に山梨学院のチーム作りの失敗を感じずには居られない。
さて、試合も残すところ10分あまりとなり、まったく安心できない日大にはやはり「この人が必要」という展開になってしまった。ランニングタイムで33分(公式記録では30分)にSH李(3年生)に代わって4年生の有久が投入。同時にSOも先発の鈴木陸から金に交替して日大はラストスパートに入る。SHが有久に代わっただけで日大のアタックのテンポが一気に上がる。だが、日大も決定的なチャンスを掴めないまま時計は進む。
しかし、「そのとき」はやって来た。37分、日大は山梨学院の反則により山梨学院陣10m/22mの位置でラインアウトのチャンスを掴む。FWからボールを受け取った有久が脇目も振らずに一気に前を向いて加速。前方には3人(だったと思う)のディフェンダーが立ち塞がる状態だったが、有久は火花が散るような鬼気迫るランニングで3人とも振り切ってしまった。個人で取るトライはあまり好みではないのだが、こんなに気持ちの入ったトライは何回でも観たいと思う。またしてもGKは外れるが28-17の11点差は残り時間から考えてもセーフティーリード。
ここで勝負ありとなり、そのまま時計が進んで試合終了のホイッスルが吹かれた。2年目の飛躍を期待された山梨学院だったが、来シーズンは2部からの再チャレンジが決まった。もちろん日大関係者から大歓声が上がったことは言うまでもない。最後を締めた有久を含め、4年生が3トライを挙げた。やはりここ一番で上級生の力は必要だということがよく分かる幕切れだった。それと有久がなぜスーパーサブ的な起用になったかも何となく分かった。指揮官は気持ちが入りすぎての空回りを畏れていたのかも知れない。それはさておいても、シーズン最後に今季最高のトライを観ることができて大満足だったことは間違いない。
◆悔やんでも悔やみきれない山梨学院
昨シーズンに手堅いラグビーで2勝を挙げ、1部昇格から大学選手権まであと1歩のところまで上り詰めた山梨学院。期待のルーキー(アピレイ)も加わり、さらなる飛躍を期待したが結果はまったく逆になってしまった。春シーズンから内部に何か問題を抱えていたとしか思えないくらいにチームは規律に欠けバラバラだった。この入替戦では何とかチームも纏まり、戦前の予想(日大優位)を翻す可能性を見せるところまではきた。せめて9月の段階でこの状態になっていればと思う。無念さを晴らしての再チャレンジに期待したい。
◆「日大ラグビー」の復活はあるか
試合終了後のアナウンスで「川松ヘッドコーチ」の名が告げられたときに場内が一瞬どよめいた。風の便りには聞いていたが、やはりそうだったのかと。ちなみに川松氏はFWながら「大学生では日本一速いLO」と自負していたことを思い出す。残念ながらケガに泣いてフルパワーの活躍には至らなかったが、WTBも顔負けのスピードランナーだったことは間違いない。その川松氏がチームを率いていたのなら上級生中心の選手起用も頷ける。
見事に1シーズンで1部に復帰することになった日大だが、来シーズンからの戦いは厳しいものになりそうだ。戦力的には関東学院より日大が上回っているものの、チームの基礎ができているのは関東学院の方だと思う。日大は「新体制」での指導方針が下級生偏重のように見え、本来積み上げられるべきものがなかったように感じられることがその理由。果たして「日大ラグビー」の復活はあるのか?
この「日大ラグビー」はあくまでも私感。思い起こせばラグビー観戦を関東リーグ戦Gに完全にシフトした1997シーズンの日大は阿多監督指導の下で黄金期を迎えていた。流経大で「開眼」した私だが、実は過去の選手のことを振り返ってみると、頭の中を駆け巡っているのは圧倒的に「黒ピンジャージー」を身に纏った選手達。それも、スクラムの強さを持ち味とした「FWの日大」だったが、なぜかBKの選手達ばかり。
センス溢れるCTBだった沢木啓介、闘志溢れるSOの日原大介、切れ味抜群のWTB北條純一、タックラーを引きずる泥臭いトライが一際印象に残るCTB今利貞政、抜群の瞬発力が持ち味のWTB窪田幸一郎、強気で攻めまくったSO/FB武井敬司、初登場からキラリと光るものを見せたSO/CTB河野義光、ラインを動かすことに長けていたSO松下馨、地道な仕事人のCTB金川禎臣、風を切るようなスケールの大きなランが一際強く印象に残るWTB藤原丈嗣、スーパーブーツとしてチームのピンチを救ったCTB三友良平、香港のセブンズ大会での優勝を決めた起死回生の100mランが忘れられないピエイ・マフィレオ、球捌きの良さで定評のあったSH中村正寿と個性派がズラリと揃う陣容は、大学時代は無名でも卒業後に花を開かせてキャップホルダーになった選手も居る豪華な顔ぶれだと思う。
しかし、加藤氏がチームを率いるようになってからは、SH小川高廣、CTB/WTB/FBマイケル・バートロケに続く選手の姿が思い浮かばない。記憶に残る選手達の名前を並べてみると、「個性派」がひとつにまとまることで強力なチームができあがる(逆の目が出るとバラバラになる)可能性を秘めていることが「日大ラグビー」だと気づく。組織的で規律を重んじることが重視される時代になってもそのことは変わらないと思う。逆に言うと、そうだからこそ個性が求められる。それはさておいても、少なくとも、日大のチームのバックグラウンドに対する理解がないと選手は戸惑うだけだったのではなかったかと邪推する。
毎年選手の入れ替わりのある大学ラグビーだが、チームの体質を変えることは思いの外時間がかかる。来シーズン以降の日大のラグビーがどのように変わっていくのかに注目していきたい。