「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

「なの花薬局ジャパンセブンズ2016」(2016.7.10)の感想

2016-07-18 18:03:18 | 関東大学ラグビー・リーグ戦



サンウルブズのスーパーラグビー参戦により春シーズンも例年とは比べものにならないくらいに充実したものとなった。短いオフを前に私的生観戦の締めはジャパンセブンズとなった。この大会、「セブンズ日本一決定戦」と銘打ってあり、日本のセブンズナンバーワンチームを決める大会になるはずだった。しかしながら、出場チームの中にトップリーグのチームは神戸製鋼1チームのみ。当初はもう1チーム参戦予定だったが出場辞退となり、参加チームを当初の12から11に減ると言った具合に看板に偽りありのような状況になってしまった。

だが、この大会、酷暑の中で行われることはさておいても、魅力がないかというとそんなことはない。留学生が主体となるが、大学生でも日本代表に今すぐにでも抜擢できそうな逸材がズラリと名を連ねている。U20大会で世界に存在を知らしめたテビタ・タタフとアタアタ・モエアキオラ(東海大)を始めとして、ホセア・サウマキ、アマトとタラウのファカタヴァ兄弟(大東大)、ジンバブエからNZを経由してやって来たタナカ・ブランドン・ムネケニエジ(流経大)、ブロディ・マッカラン(帝京大)と並べてみただけでもここに来て決定力不足が顕在化しているサンウルブズの状況が信じられないような状況になっている。

魅力的なランナーは留学生達だけではない。竹山、尾崎、重(帝京大)、湯本、野口、藤崎(東海大)、梶村、尾又、山村(明治)、小山、川向、中川、大道(大東大)といった具合に2019年のW杯日本大会に活躍が期待される逸材が集っている。クラブチームに目を転じると、PSIスーパーソニックスには(なぜか)ジェイミー・ヘンリーの名前があるし、北海道バーバリアンズには七戸や平川といったYC&ACセブンズでもトライの山を築いたスピードスター達が居る。「日本一決定」の看板があるので難しいかも知れないが、来年度からは大学とクラブに参加を絞った大会にした方がすっきりするような気もする。多くの熱心な観客がスタンドを埋める中で9時20分に熱戦の火蓋が切って落とされた。

■プール戦の戦い

午前中は4プール(各3チーム)に分かれたリーグ戦を行い、各プールの1、2位までがカップ(勝者)/プレート(敗者)トーナメントに進むシステム。ただし、今回は11チームの変則参加となったため、プールDは1,2位決定戦となった。

[プールA]

○同志社大学 49-5 ●JR九州サンダーズ
○大東文化大学 46-0 ●JR九州サンダーズ
○大東文化大学 14-12 ●同志社大学
※1位:大東文化大学、2位:同志社大学、3位:JR九州サンダーズ



JR九州サンダーズは「第53回木元杯九州セブンズ」の優勝チームとしての参加。大学勢に社会人の貫禄を示したいところだが、大学屈指のBK選手達を擁する才能集団2チームと当たったのが不幸だったのかも知れない。同志社と大東大に個人能力の差を見せつけられてあえなく撃沈となってしまった。大東大の爆発は豪華出場メンバーから十分に予想できたことだが、とくに活躍が目立ったのは菊地だった。小山、川向、サウマキ、大道、戸室の同期生で1年生のときに彼らと同時デビューを果たしているが、その後はなかなかスタメンで出場する機会がなかっただけに復活は心強い。

同志社も松井は不在でもいい選手が揃っている。それは単に私が関西学生リーグの選手達を知らなかっただけなのだが、大東大との1位争いは手に汗握る接戦となった。先制したのは大東大で、大道からパスを受けた小山が快走を見せる。しかし同志社も1トライを返して前半は7-7。後半は先に同志社が先制して12-7とリードを奪うものの大東大は本日のキーマン菊地が起死回生のトライを奪いGK成功で辛くも逆転に成功。小山のゴールキックが終始安定していたこともチームを勝利に導いた。

[プールB]

○明治大学 24-17 ●流通経済大学
○流通経済大学 35-19 ●PSIスーパーソニックス
○明治大学 14-10 ●PSIスーパーソニックス
※1位:明治大学、2位:流通経済大学、3位:PSIスーパーソニックス



プールBは3チームの力が拮抗した言わば今大会の「死のグループ」。期待はYC&ACセブンズで鮮烈なデビューをかざった新人のタナカ・ブランドンで、ここでも身体能力の高さを見せた。ただ、明治も春シーズンでタナカのランは経験済みのためか、徹底マークで封じ込める。緒戦では流経大が先に2本取って10-0でリードを奪うものの、明治も2本返して前半は10-10。後半、先に明治が1本取ってリードを奪うが流経大が1本返して追い付く。17-17となり終盤を迎えたところで明治が1本取って逃げ切りに成功した。流経大は核となるシオネ・テアウパの欠場が響いた格好だが、ミスが目立ち、また明治に1対1の勝負を挑まれる格好になったのが敗因のように見えた。



PSIと明治の戦いも手に汗握る熱戦となった。先制は尾又の強力なランでトライを奪った明治で前半は7-0。後半に入ってPSIが2連続トライで10-7と逆転に成功する。2つめのトライを奪ったのはジェイミー・ヘンリーで貫禄を見せた格好。しかし明治も期待のルーキー山村がトライを取って14-10と逆転に成功してそのまま逃げ切った。トライ数なら2本対2本でゴールキックの成功不成功が明暗を分けた形となった。

[プールC]

○東海大学 43-5 ●釜石シーウェイブズ
○東海大学 12-10 ●北海道バーバリアンズ
○北海道バーバリアンズ 45-7 ●釜石シーウェイブズ
※1位:東海大学、2位:北海道バーバリアンズ、3位:釜石シーウェイブズ



東海大は緒戦から豪華メンバーのランが炸裂して釜石SWを圧倒。釜石SWがエースを欠く陣容とは言え、トップリーガーにも対抗できそうな陣容が揃う東海大は、中でもここまでケガ無く順調に来ている湯本が絶好調。春にYC&AC、東日本大学、リーグ戦セブンズの3連覇を達成したときはセブンズを意識した戦いぶりだったが、秋のシーズンを控え考え方を15人制モードに切り替えた模様。ひとりでいけるところはどんどん勝負していくというようなスタイルに見えた。注目ランナーは春のセブンズ大会で存在感を示した藤崎だったが、期待に違わぬ活躍。野口も安定感を示し、あとは池田と村松が復帰すれば万全になるはず。モリキ・リードなど楽しみな新人も多い。



北海道バーバリアンズも今大会の期待チームのひとつ。セブンズ日本代表の中核を成すロテ・トゥキリが所属したチームとしても名高いが、2m、100kgで大きさがひときわ目立つジョセ・セルなど強力な選手が揃っている。君島や櫻場といった流経大で活躍した選手も頑張っている。しかし、私的注目選手はなんと言ってもYC&ACセブンズではスピードスターとして定着している平川(流経大OB)。七戸(国士舘OB)もスピードランナーで、大型の選手と高速ランナーがバランスよく纏まった強力チームだ。

果たして東海大との戦いは手に汗握るシーソーゲームとなった。先制したのはテビタとアタアタの2枚看板で強力にボールを前に運んだ東海大。前半は7-0の東海大リードで終わる。後半は北海道バーバリアンズが背番号23を付けたディアミアン・ダーリントンのトライでまず5点を返す。しかし、東海大もテビタが1トライ奪って12-5とリードを拡げる。時間が無くなってきたところで追いすがる北海度バーバリアンズは何とか追い付きたいところ。終了間際にヨサン・レビエンが1トライ返しGKが決まっていれば引き分けとなる熱戦は見応えがあった。

[プールD]

○帝京大学 29-19 ●神戸製鋼コベルコスティーラーズ
※1位:帝京大学、2位:神戸製鋼コベルコスティーラーズ



プールDだけが2チームとなり残念ではあったが、大学王者として君臨する帝京大とトップリーグ代表の形での参加となった神戸製鋼コベルコスティーラーズ(KS)の戦いは、意地と意地のぶつかり合い。マット・バンリーベン、トニシオ・バイフ、イーリ・ニコラス、南橋、中濱、山下楽平と名前を見ただけでも大学チームなら身が引き締まるはず。日大OBの下地の名前を見つけたのも嬉しい。大学時代は持てる能力を十分に発揮出来ていたとは言い難かったので。ということで、まずは山下楽平が社会人の貫禄を見せて先制トライを奪う。

しかし、帝京大にも日本代表としての活躍が期待されるエースの竹山が居て名刺代わりに1トライ。神戸製鋼KSも先輩の南橋が1トライを奪い前半は12-7と神戸製鋼KSのリードで終了。後半も開始早々に神戸製鋼KSが1トライを先制したところでトップリーガーの面目が保たれたかに見えた。しかしながら、その後神戸製鋼KSがまさかの失速、というよりも竹山やマッカラン他レギュラー陣を揃えた帝京大が猛攻に転じ4連続トライを奪い終わってみれば29-19の圧勝を収めた。

■カップ/プレートトーナメント

○大東文化大学 38-7 ●流通経済大学
○神戸製鋼コベルコスティーラーズ 37-7 ●東海大学
○同志社大学 31-17 ●明治大学
○帝京大学 26-19 ●北海道バーバリアンズ
※勝者はカップトーナメント、敗者はプレートトーナメントへ



午後は優勝争いが絡むカップトーナメント。第1試合は大東大のアマトとホセアのパワーが全開となり、まずアマトが2トライ挙げた後にホセアが1トライを追加。前半の終了間際に1トライを挙げて反撃を期す。しかし、後半も大東大の勢いは止まらない。菊地、アマト、小山が連続トライを挙げて38-7の圧勝となった。流経大は頼みのタナカが前半に負傷で退いたのが痛かった。シオネやタムエラ・ナエアタの不在で負担が大きくなったことと、フィジカル面の強化が追い付いていないように感じられる。

帝京戦では失速してしまった神戸製鋼KSも意地を見せる。マット・バンリーベン、張碩漢、バイフといったパワフルな選手達の突破を止めきれず、前半に3つ、後半に4つのトライを奪われる。東海大は後半に藤崎が一矢報いるが7-37の敗戦は、帝京が29-19で勝っている事を思うとショックだったに違いない。



オールドファンにとっては大学選手権では黄金カードだった頃の記憶が蘇る同志社と明治の対戦も、両チームの持ち味が発揮された白熱したゲームとなった。ちなみにこの対戦、大学選手権では両チームの1stジャージーが似かよっているということで当初は「紅白対決」だった。その後同志社がワインレッドが基調のセカンドジャージーを新調したため、1st同士(紫紺vs紺グレ)での対戦を観るのは実は初めて。似ているとは言っても、もっと見分けが付かない対戦もあるわけだし、この形でもまったく問題ないように見える。それに、お互いに1stの方が力が出せるかも知れないし。

そんなノスタルジックな思い出はさておき、先制したのは同志社で決めた選手はこの日ひときわ高い存在感を示した安田。明治も1トライ返して5-5となるが、安田がすぐに2トライを重ねてハットトリックを達成し前半は17-5と同志社のリードで終了。後半は逆に明治が尾又らのランで2トライを重ねて17-17とゲームを一気に振り出しに戻す。しかし、ここで同志社が底力を見せる。明治は組織よりも個人でここまで来ている感が強い。翻って同志社は、当初こそ個人能力で勝負するスタイルに見えたものの、試合を重ねるごとに組織的な動きが整備されてきた感がある。終盤に挙げた2トライはまさにそんな形で、個々の能力を活かしつつ最後は組織的な動きで難敵を打ち破った

■ボウルリーグ

○PSIスーパーソニックス 33-24 ●JR九州サンダーズ
○釜石シーウェイブズ 21-19 ●PSIスーパーソニックス
○JR九州サンダーズ 36-14 ●釜石シーウェイブズ
※優勝:JR九州サンダーズ、2位:PSI、3位:釜石SW(トライ数による)



各プール3位の3チームによるボールリーグは3つ巴の接戦となった。せっかく出たからには負けて帰るわけには行かないという気持ちもあったに違いない。メンバーを揃えたPSIが連勝で優勝を飾るかと思われたが、2戦目は釜石SWも意地を見せてこの日の初勝利を挙げる。しかし、最後はここまで冴えなかったJR九州サンダーズがトライの山を築いて圧勝して3チームが勝ち点4で並んだ。結局、最終戦で6トライを奪ったJR九州サンダーズがトライ数を10とし、同8個のPSI、同5個の釜石SWを上回って優勝を決めた。

■プレートトーナメント

[準決勝]
○東海大学 39-5 ●流通経済大学
○北海道バーバリアンズ 31-7 ●明治大学



神戸製鋼にいいところなく敗れた東海大が奮起して流経大を圧倒。テビタ、アタアタ、藤崎等のエースランナーらの活躍で前後半3トライずつを挙げて予想以上の圧勝を収めた。流経大は後半に1トライを返すのがやっとで決勝を前にして力尽きた。結局タナカもケガのため出場できず、活躍の場は秋のリーグ戦に持ち越しとなった。



同志社に敗れて歯車が狂ったのか、明治は北海道バーバリアンズのパワーと巧さの前に完敗。前半に3トライ、後半に2トライを奪った北海道バーバリアンズに対し、明治は後半1トライを返すがやっとだった。北海道バーバリアンズではNZ出身のアイザック・テ・タマキがハットトリックを達成する活躍を見せた。179cm、83kgとけして大きな選手ではないが決定的な仕事ができる。平川もスピードランナーぶりを存分に発揮した。あと1トライはジョセ・セルで2mの巨体を揺らしながらのトライには場内も(笑いを誘うような形で)揺れた。

[決勝]
○東海大学 28-26 北海道バーバリアンズ

準決勝の快勝で勢いを取り戻した東海大と明治を破って波に乗る北海道バーバリアンズの戦いは決勝戦に相応しい白熱した好ゲームとなった。先制トライは東海大のテビタで、北海道バーバリアンズもすぐに1トライを返して7-7となる。その後、東海大が藤崎の突破からパスを受けた鹿屋、湯本が連続トライを挙げて21-7のリードで前半が終了。

後半は北海道バーバリアンズが2トライを連取して19-21と追いすがる。圧巻は平川が藤崎のスピードスター王座決定戦のような形で決めたトライ。平川がボールを持った段階で前には藤崎他数名の選手がいた。単独突破は無理とみた藤崎がウラにキックしたところで藤崎との追いかけっこになったが、平川が藤崎を振り切ってボールを拾いそのままゴールへ。この大会での見せ場のひとつとなった。その後、藤崎がトライを奪って28-19となって残り時間も僅かとなる。北海道バーバリアンズはアイザックが1トライを返したものの無念のタイムアップでGK1本の差で涙を呑んだ。

■カップトーナメント

[準決勝]
○大東文化大学 33-19 ●神戸製鋼コベルコスティーラーズ
○帝京大学 26-21 ●同志社大学(サドンデス)



強力なメンバーを揃える大東大とはいえ、トップリーグチームの壁は厚いかと思われた。先制したのは大東大。アマトからパスを受けたこの日絶好調の菊地がトライを奪い7点をリードする。神戸製鋼も張がトライを返して7-7。しかしながら、大東大が前半に1トライを追加して12-7。後半も先に2トライを連取して26-7とリードを拡げる。大東大はアマトやサウマキを突破役として、菊地や小山といったスピードランナーにボールを渡す形で効果的にトライを重ねていけるのが強み。神戸製鋼もタジタジといった感じで後半に1トライ返すのがやっと。最後の1本を大東大に追加されて決勝を前に敗退した。



組織を整備する形で尻上がりに調子を上げてきた同志社。強力な選手を揃えた帝京を相手にしてもかっぷり4つに組んだ戦いを見せて観客席を沸かせる。先制したのは帝京だったが、同志社もすかさず1トライを返して7-7。帝京が竹山のランでトライを奪うと同志社も高井がトライを返すと言った形で前半は14-14の同点。後半も先制したのは帝京。ここで見せた竹山の逆襲トライが圧巻だった。同志社が攻め上がり帝京ゴールに迫ったところでタックルを決めた竹山がそのままボールを拾ってタッチ際を快走。そのまま同志社のディフェンダーを振り切って走りきりトライ。この大会でもっとも印象に残るプレーのひとつ。

残り時間も少なくなり敗色濃厚となった同志社だったが粘りを見せる。何とかボールをキープし最後に鶴田がゴールラインを越えたときは残り時間ゼロ。観客席からこの日一番の大歓声が沸き起こり、勝敗の決着はサドンデス方式の延長戦に持ち越された。キックオフは帝京で、同志社がボールを処理をもたついたところをボール確保に成功しそのままゴールへ。決着こそ呆気なかったがこの日一番の好ゲームとなった。それにしても、好選手を揃えているだけでなく、1日を通じて成長を見せた同志社が俄然注目チームとなった。大学選手権の方式変更で厳しい戦いを強いられることになった関西Aリーグだけに、雪辱に向けた拳闘を祈りたい。

[決勝]
○大東文化大学 33-28 ●帝京大学



朝から始まった大会も照明灯に日が点る中でついにファイナルを迎えた。大東大の進出は予想通りだったが、帝京大もこの試合に期すところがあったのかほぼベストの陣容でここまで勝ち上がってきた。先制したのは帝京大。まずはエースの竹山が決めた。帝京はさらに小畑がトライを追加して14-0となる。どうしても竹山に注目が集まってしまう帝京大だが、実はスピードランナーとしては小畑も負けていない。この大会でも竹山顔負けのランで魅せていた。前半も半ばが過ぎたところで大東大がサウマキのトライで一矢報いる。ちょっと足を引きずるような状態だったが何とか走りきった。

大東大はさらに湯川がトライを奪って14-14と追い付く。湯川はFWの選手だが、なかなか器用だ。残り僅かになって帝京の小畑がトライを奪うと大東大の小山も負けじとトライを返す。前半は21-21のまったくの5分となった。後半に先制したのは東海大。ほぼフル出場を続ける小山は疲れ知らずのランを見せる。まさに小さな巨人。大東大はさらに5点を追加し、帝京の反撃を1トライに抑えて見事優勝に輝いた。最後に締めたのがアマトやサウマキではなく小山だったことがこの日の戦いを象徴していた。

■大会全般を通じての感想/とても楽しい1日ではあったが...

先週のサンウルブズの試合とは比べるまでもないが、酷暑のなかでも多くの観客が最後まで残って声援を送り盛り上りを見せた大会だった。トップリーグチームの参加が当初予定2チームから1チームに減ったこともあり、「日本一決定戦」の看板には疑問ありとなったが大会としては成功といっていいのではないだろうか。W杯2015の快挙からスーパーラグビー参入を経てファン層に変化が生じている日本のラグビー界。もし今の状況で東京セブンズが開催されたら、観客席で閑古鳥が啼くような状態にはなっていなかったかもしれない。出場選手も概ね期待通りの活躍を示し、また、サプライズの選手やチームをあったことで1日楽しむことができた。

しかし、率直な感想として、不思議なくらいにセブンズの試合を観たという印象が薄いことも事実。少なくとも、セブンズの楽しみの点ではYC&ACセブンズを凌ぐことはできていないように感じられるのだ。パス回しのコンビネーションよりも、個人の力がどのくらい通用するかのチェックの用にも見えたのだ。そう考えると、YC&ACセブンズの歴史の重みを痛感せざるを得ない。現状をもってしても日本一のセブンズの戦いを見せてくれる大会という地位に揺るぎはないことを強く感じる。招待チームのセレクトの妙もあるだろうし、招待されたチームの心得もおそらく違うと思う。YC&ACセブンズは歴史の重みに裏付けたセブンズ文化の醸成に欠かせない存在となっていると改めて感じた。

もちろん、この点について出場した選手達やチームを責めることはできない。秋のレギュラーシーズンを控えて、各チームは15人のチームを完成させる段階に達している現状での開催が疑問の第1点。春の段階ならチーム全体のウォーミングアップを兼ねる形でセブンズに取り組むこともできるから、春の大会に備えたセブンズ仕様のチームを作ることができる。しかし、今の段階なら時間をかけてチームを作るのは難しいはず。だから組織より個人といった形の印象を受けたのかも知れない。

クラブチームでとくにセブンズに特化あるいは積極的に取り組んでいるPSIや北海道バーバリアンズのようなチームにしても、相手がセブンズの流儀で戦ってくれないことに対してはストレスが溜まる部分があるのではと邪推する。オリンピック種目になったことで脚光を浴び、セブンズに特化して強化を図るチームが多く出てくることが期待されたものの、実態はトップリーグや有力大学から多くのセブンズ向きの選手がセレクトされているのが現状。クラブチーム側にしてもサーキットのような形でセブンズ大会の開催回数が増えない限り強化の機会が限られるのが歯がゆいところかも知れない。むしろ、大学生チームとセブンズに積極的に取り組んでいくクラブチームをセレクトして日本一を決める大会にした方がまだすっきりするような気がしてならない。

■セブンズ文化醸成のために

結論から言うと、日本でのセブンズに対する考え方が変わらない限りセブンズが「文化」として定着することは難しいと思う。五輪種目となったことはさておき、セブンズへの取り組みも「あくまで15人制ありき」である限り「別の種目」としてプロ化して取り組んでいる国々との実力差は拡がる一方であり、再昇格を果たしたコアチームで戦い続けることも難しくなっていくように思われる。本当にセブンズを強くしようとするなら、国内サーキット、それもワールドシリーズの様な2日間開催を基本とする方式の大会を行っていく必要があると思う。なぜなら、ワールドセブンズで定着しているセブンズの戦い方と15人制の戦い方には大きな違いがあり、それを理解した上で専門のプロを養成していく必要があると考えているから。

例えば16チームが参加した2日間の大会。1日目はリーグ戦3試合で、いわば陸上競技のスプリントが3本。1日の中で短時間の間に体力を回復できるようなトレーニングが必要になる。当然、次の日の戦いのことも考えなければならないから体力を使い切ることはできない。また、アクシデントがつきもののセブンズだから、失敗してもすぐに気持ちを切り替えるメンタルコントロールも重要なはず。そして、2日目。リーグ戦とは違い、失敗は許されないから試合ごとにいかに集中力を高め、体調をベストに持っていくか。このような戦いの経験を積み上げることで世界はどんどんプロがレベルアップしていることを思うと、とても15人制の片手間で取り組むような競技ではない。

セブンズを観てきてひとつ気がついた事は、防御の網が敗れて追いかけっこになった時点でそのセットは終了しセブンズではなくなること。そうなる前のアタック側とディフェンス側による組織的な駆け引きこそがセブンズの醍醐味だと教えてくれたのが、セブンズワールドシリーズで鎬を削るトップチーム同士のプロとプロとの戦い。4年ごとのオリンピックのためにセブンズチームを育成するというスタンスから一歩前に行けないものかと思う。

AERA 2016年 7/25 号 [雑誌]
クリエーター情報なし
朝日新聞出版
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ありがとう!サンウルブズ/日本での最終戦、大敗も感謝の気持ちでいっぱい

2016-07-07 01:39:43 | 頑張れ!サンウルブズ


2月末に始まったサンウルブズのスーパーラグビーへのチャレンジも残すところ3戦。最後の南アフリカ遠征を前にしたこの試合は日本での今季最終戦となる。相手のワラターズは好調なうえにベストメンバーで来日と、サンウルブズにとっての2勝目へのチャレンジは今まで以上に厳しい戦いとなることは必至。味方に付けられるのはラグビーの試合では考えられないような酷暑くらいか。

いやいや、ホームチームのサンウルブズには、酷暑よりも熱いサポーターという強い味方も居る。熱中症が心配される状況でも、これまで以上に多くのサポーターが訪れた秩父宮ラグビー場の周辺は試合前から人波でごった返している。ハブで既に「いい感じ」になっている外国人の姿も目立つ華やかさは、国際プロリーグたるスーパーラグビーならではのもの。いつもの年ならこの時期はラグビーが消えてしまっていたことを考えれば、酷暑もなんのその。



キックオフの凡そ30分前に観客席へ。暑さをものともせず、両チームの選手達がアップに励んでいるなか、メインスタンドから順番に観客席が埋まっていく。そして、試合開始前のセレモニーでは高円寺のひょっとこ連による阿波おどりが披露された。夏のお祭りに欠かせない太鼓だが、なぜか一服の清涼感をもたらしてくれる。やっぱり日本の夏はこれに限ると感じたが、すぐにここはラグビー場だということを思い出した。



■前半の戦い/くい下がりを見せるも決定力不足に泣く

両チームの選手達が登場していよいよキックオフ。猛暑をものともせず、すぐに試合はヒートアップするところは流石だ。個々の強さ(それも尋常ではない)と組織のバランスが絶妙なワラターズに対し、サンウルブズの生命線は組織的なパス回し。個々の強さが足りない部分をカバーするが如く、人数をかけて地道にボールをキープしていき、相手のディフェンスに綻びが出たところで勝負に出る。

戦績は最下位でもトライの取り方では十分に存在感を示すことができているのは、他のチームには真似ができないような繋ぎがあるから。序盤から果敢に攻めて敵陣22m内までボールを運ぶ場面があるものの、要といえるテンポアップができないところが歯がゆい。デュルタロと山田がそれぞれ米国と日本の五輪セブンズチームに行ってしまった影響は確かに大きいが、ワラターズの要所を押さえたディフェンスは流石。逆にワラターズは10分に強力なタテ突破連発を武器に1トライを先制する。

なかなかあと一歩のブレイクができないサンウルブズだが、20分と22分に連続でPGを成功させて6-7と食い下がる。とくに22分のフィルヨーンが決めた60m近い超ロングPGは距離を全然感じさせないくらいで、素晴らしいライナー性の弾道はずっと記憶に残るだろう。直後にエースのナイヤラポロがシンビンとなったところでサンウルブズはさらに1PGを追加して遂に逆転に成功する。27分にワラターズに再びトライを奪われるものの31分にPGを返して12-14。ここで1つ取れれば「祭りだ、わっしょい!」になるところ。



しかし、ワラターズは残り10分ないところで2トライを奪いサンウルブズファンのかすかな希望を打ち砕く。個々のプレーの力強さもさることながら、それだけではない。とくに感心したのがイーブンボールに対する反応の速さと正確な処理。イーブンボールというよりも、むしろ先に確保出来そうな感じだったが、あと一歩で確保という瞬間にボールを奪い取られてしまうシーンが散見された。マイボール!と思った時でも慌ててしまってボールを逃してしまう場面は大学生の試合でも散々観ている。

あたかもミスが起こることを想定しているかのような無駄のない動きは、普段プレーしているラグビーの質の違いを感じさせる部分でもある。思うにミスが出るのは、想定していないことが起こると一瞬頭と身体がどう反応していいか食い違ってしまうことに原因があるような気がする。日常の練習でいかにいいイメージトレーニングが出来ているか。とはいえ、12-26の折り返しならまだ望みはある。ワラターズも戦術を変えてくることは当然として、サンウルブズの修正能力も試される。そのために後半は先に1トライが欲しい。



■後半の戦い/失速どころかむしろ加速したワラターズの勢いに感服

得点は4PGのみでワラターズ陣22mに入ってからゴールラインまでの距離がとにかく長く感じられた前半のサンウルブズ。攻めることが出来ていた分だけ思っていたほどは力の差がないように思われる。しかしながら、アタックのテンポアップをさせてくれなかったことや、ボールを奪ったら一瞬でゴールラインまで運んでしまう切れ味の鋭いアタックを見てしまうとやっぱり力の差は大きいと感じざるを得ない。逆襲体制を整えるために必要なのはやはりトライ。

しかし、酷暑をもろともせず後半のワラターズはさらに勢いを増す。消耗戦を乗り切るためには早めの選手交替がポイントになる。メンバーが替わってもパフォーマンスが落ちないという意味で、選手層が厚いワラターズの優位性がより明らかになる。サンウルブズは、後半開始早々の44分、47分に2連続トライを許し12-33と点差はどんどん開いていく。結局サンウルブズは反撃の糸口を掴めないままその後3トライを奪われて12-57で試合終了。終了間際に一矢報いるべく見せた渾身のアタックもゴールラインまで届かず日本でのラストゲームを勝利で飾ることが出来なかった。



試合後のインタビューで46分から出場し気を吐いた稲垣が語った言葉が印象に残る。「相手FWが想定外の戦い方をしてきたことは判ったが対応出来なかった。」と。わかってはいても、個別に対応したのではチームが壊れてしまう。しかし、ここが日本からサンウルブズがスーパーラグビーに参入したことの大きな成果だと思う。今までなら、相手チームのいろいろな引き出しを開けさせるような戦いは出来なかっただろうし、仮に開けさせても対応を考えるところまで行ったかどうか。試合中に劣勢のスクラムの建て直しに成功するなど、勝利に結びつかなくても修正する能力や意思は持てるようになった。

この日は日本でのラストゲームということもあって、様々なファンサービスが用意された。ラグビー場の雰囲気を明るくする力を持っているファンが大勢訪れたのだから、1トライでも挙げていれば盛り上がっただろう。私的には、意思統一の面での物足りなさからくるモヤモヤ感が消えない状況。しかし、今までに知らなかったことの数々を体験させてくれ、しかもそれらは明日に繋がるものばかりだったことを考えれば、困難な状況で戦ったハメットHCを始めとするスタッフ、そして身体を張って戦った選手達に感謝しないわけにはいかない。挨拶に訪れた選手達に力一杯拍手を贈って秩父宮を後にした。



■サンウルブズに感謝の気持ちを込めて/日本代表強化「3段ロケット構想」

改めて。サンウルブズがあったお陰で日本のラグビーファンはどれだけ楽しませてもらったか。春シーズンの空白を埋めただけでなく、世界への道程の厳しさを「可能性」とともに示してくれたことの効果は計り知れない。そして、新たなファンを獲得することができたことも特筆すべきだろう。この日、客席を埋めた2万人弱の観客の大多数は大学ラグビーの試合では見ることのなかった人達だからよけいにそう思う。

「サンウルブズは日本代表強化のためにある。」というのは尤もなこと。しかし、大事な初年度で思いの外日本代表選手を集められなかったことも事実。プロチームである以上、選手もそれに見合うだけのものを求めることは当然と言える。チームの側も勝利を求めることはもちろんのこと、ファンに夢を与えることを考えなければならないはず。メンバー構成は「日本代表強化」のかけ声に反して、多くの外国人選手を含む形のものとなった。

しかし、結果的にそうなったとは言え、カークやモリやデュルタロといった地味だが堅実で屈強なプレーヤー達と契約できたことはプラスに作用したと思う。彼らが居たことでサンウルブズは世界を驚かせるようなトライをいくつも取ることが出来たから。また、サンウルブズで活躍することで日本代表キャップを獲得した選手がいた。ことを考えれば、十分に役割(体技名文)を果たしたと言っていいのではないだろうか。そして、おそらく最高の効果と考えられるのが、試合中にピッチに立った選手達で修正ができるようになったこと。エディ・ジョーンズの果たした役割は確かに大きい。しかし、サンウルブズのHCを引き受けることで日本代表を後退の危機から救い、飛躍に向けての方向性を示したと言う意味でハメット氏の果たした役割も評価すべきだと思う。

エディ・ジョーンズありきの結果論が混じるが、日本代表の強化を3段式のロケットに例えてみたい。ロケット1段目(エディ)の強力な推進力は改めて書く必要はないだろう。問題は2段目(ハメット)の性能だった。1段目のような推力は不要でも姿勢制御の難しさは1段目以上のはず。スーパーラグビー終了後に日本代表監督就任が決まっているジェイミー・ジョセフ(3段目)にいかにいい形でバトンを引き継ぐかもミッションになる。首脳陣とともに、ごく短期間の間に与えられた選手をどのように纏めてチームとして仕上げるかに日々頭を悩ませていたであろうことは想像に難くない。

模索を続ける中でえた結論は、多くの試合でWTB山田がフィニッシャーとなった形でトライを取ることだったと推察される。基本は、セットプレーからFW主体で確実にボールをキープしながら前進させBKにボールを渡してさらに前進を図る。ここで重要なことは、(孤立→ターンオーバーを招きかねない)ビッグゲインを稼ぐことではなく、テンポを落とさずにボールを動かし続けること。強力な突破役が居ないことによる苦肉の策とも言えるが、あくまでも選手間の緊密な連携で孤立せずにパスを駆使して組織的な突破を図る。

トライに繋がった場面を振り返ってみると、最後は独走状態になっても常に3~4人の選手間でパス交換をして相手を崩しきっている。サンウルブズは危険なチームとの警戒心を抱かせたトライは世界に誇れるものだったと思う。勝利と引き分けがひとつずつでも息切れせずに応援できたのはこんなトライをひとつでも多く観たかったから。足りなかったものは足りなかったものとして、ハメットHCは来シーズンに繋がるものを示せたと思う。将来的に「2段目の姿勢制御が素晴らしかった」という評価になったら嬉しい。

あと2戦、負傷者が相次ぐ中、前回の遠征の結果からも南アフリカでの戦いは厳しいものとなることは必至だが、いいイメージを残してシーズンの締めくくりとして欲しい。


女子7人制ラグビー日本代表「サクラセブンズ」の絆 楕円球は努力をした者の方へ転がる
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講談社
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